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第四部Ⅱ 『入江の中の海賊』

入江の中の海賊ーその④

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浩輔と葉子の二名は肩を並べ合って、目の前の海賊に向かって挑もうと試みていた。
浩輔は右手の掌いっぱいに雷を溜めて行く。浩輔の右手の掌からバチバチと雷が鳴る音が響いていく。
葉子は武器保存ウェポン…セーブから取り出したと思われる一本の大きな刀の剣先を真上から迫り寄る巨大なガレオン船に向けていた。
葉子は真っ先にガレオン船目掛けて飛び上がり、船の中に飛び乗っていく。
葉子は日本刀を振り回し、自身の魔法七神の乱舞セブン・ラップスルを使用して船のあちこちに傷を付けていく。
その様子を見て不味いと感じ取ったのだろうか。海賊の格好をした醜悪な体付きの人形達が彼女に向かって来ていた。
若槻葉子は目の前の敵に向けて正面に日本刀を構えていた。
彼女は手に持っていた刀を大きく振って、目の前の敵に対して対処していく。
葉子の手に持っていた刀から七つの斬撃が分かれ出て、醜悪な体付きの人形を襲っていく
醜悪な体の人形は葉子の刀から放たれた斬撃によって斬られていくが、真っ二つになっても尚、醜悪な人形達は這いずって葉子に向かっていく。
醜悪な人形達はその体から想像できるようなおぞましい声で言った。
「キミは……キミは……入らなければならないんだ。キミは入らなければならないんだァァァァァ~!!!」
「わたしは……か、海賊……この大海原を駆ける海賊……だ、誰よりも自由な存在……」
葉子は這い寄る人形を侮蔑するために作られたような鋭い眼光を向けて、
(何ですか?あなた方が自由?冗談じゃありませんよ。あなたが撒き散らしているのは“害”でしょう!?)
葉子の体全体から溢れ出る嫌悪感を感じ取ったのか、見張り台から降りて来た海宮は口元の右端を吊り上げながら言った。
「フッフッ、『キャンドール・コーブ』は誰の手にも止められないんだ。この人形達はいや、彼らはずっと昔から様々な子供達の命を奪って、生きながらえて来たんだ。キミの浅ましい刀で何とかできる相手じゃあないよ」
海宮は腕を組み、彼女を見下ろしていたが、葉子は反対に海宮に向かって勝者の笑みを見せていた。
「なら、あなたはそのおぞましい怪物いや、この場合には古来より受け継がれて来た呪いとでも言った方が適切かでしょうか?そんな事はどうでも良いとして、それを自分の故国に流してあなたは良心の呵責というものを感じなかったんでしょうか?」
葉子の指摘に海宮は言葉に詰まったのか、彼は黙って葉子を睨んでいた。
葉子はもう一度自分に迫って来る人形に向かって剣を振るう。
葉子の七神の乱舞セブン・ラップスルによって人形達は今度は真っ二つの形からサイコロステーキのような細切れの形になっていく。
葉子は得体の知れない人形の排除に成功して、肩の力を抜いて一息を吐いていたが、その隙を狙い、海宮は急速に自分と葉子の乗るガレオン船を地面へと向けていく。
ガレオン船の下には刈谷浩輔の姿。
葉子は正面のマストの見張り台にもたれかかっている海宮秀幸に向かって叫ぶ。
「こんな事は辞めなさい!あなたは必ず後悔するわ!」
「いいや、後悔しないねッ!私はある秘策を用いて落下の衝撃に備えるんだッ!そして、ここまで計画が失敗したとあってはもう警察の追及を逃れる術は無いだろう!私はこの後にはユニオン帝国へと亡命する!!私にはロザルゼルス伯スティールがおられる!彼を頼って逃げれば、私の身は完全に保障される!」
海宮はけたたましく笑っていく。葉子は落下するガレオン船の中で地面を見つめた。
元々、地面からはほんの少しと表現できる程しか離れていなかった距離だったので、巨大ガレオン船がコンクリートと大きくぶつかった後には彼女は身を投げ出されてしまう。
負け犬倶楽部イレギュラーズの面々が悲鳴を叫ぶ中で、その中で一番可愛らしい顔立ちの華奢な少年が誰よりも早く彼女の元へと向かって行く。
落下時に半ば反射的に目を閉じた若槻葉子は地面に思いっきり叩き付けられ痛い思いをするかと思ったその瞬間に、彼女は優しい腕に支えられて優しく地面に下されていた。
彼女が自分を抱きしめた相手を見つめると、そこには雷使いの少年の仲間である可愛らしい顔の少年が彼女に向かって優しい笑顔を向けていた。
少年は例の優しい声で、
「大丈夫?葉子さん?」
葉子は二十歳以上も年下の少年に向かって両頬を売り立ての林檎のように赤く染めながら、少年に向かって笑ってみせた。
「あ、ありがとう……」
「どう致しまして、若槻さん」
その様子を見て仲間達は微笑ましい笑顔で二人を見つめていたが、葉子と淳太が支え合っている姿の先で大きな雷撃が起こった瞬間に、彼らはもう一度目を見遣っていく。
少年少女達の視線が浩輔と海宮秀幸との戦いに集中していく。
浩輔はガレオン船の落下跡から現れた胞子類を体全体に身に纏った海宮秀幸と睨み合いを続けていた。
見た人間に思わず嫌悪感やら吐き気やらを催すようなグロテスクな白色の胞子類を身に纏った彼の姿を見ても浩輔は動じる事なく、掌から雷をバチバチと鳴らしていた。
浩輔はこの戦いで決着を付けるつもりなのだろう。
目の前から思わず目を閉じたくなってしまような嫌悪感を感じられるグロテスクな外見の人間が体全体から胞子類を吐き出しながら、彼に向かってゆく姿にも彼は決して視線を逸らさない。
彼は目の前の事態をしっかりと受け止め、雷撃を繰り出す。
浩輔は履いていたスニーカーで目の前の地面を蹴って彼に向かって右手の掌を向けて雷を放出する。
それでも目の前の胞子類を全身に纏わせた男は構う事なく、彼に向かって行く。
浩輔は掌を大きく広げて、それから顔全体に採れたての果物のように水々しい笑顔を向けて、
「来いッ!ぼくの友達には絶対に手を出させはしないぞ!!」
「フン、そんな一丁前のこと言うのは大人になってから言いやがれ!小僧!」
海宮は全速を上げて彼の周囲に湧いた帽子類と共に彼に向かって行く。
彼は右手の掌を広げて大きな雷を放出していく。
海宮は胞子類を大量に向かわせて先に浩輔をキャンドール・コーブのウィルスに感染しようと試みていたらしいが、それは敵わなかったらしい。
何故なら、彼は大きな雷によって包み込まれて大小の火傷を負って地面に大の字になって倒れてしまったのだから。
彼が倒れるのと同時に浩輔の目前に迫っていたウィルスも姿を消していく。
浩輔は海宮が倒れた瞬間をもって日本列島を半年も騒がせていたキャンドール・コーブがここに集結したのだと考えて大きく息を吐いて膝から崩れ落ちていく。
そんな浩輔を仲間達は優しい瞳で見守っていた。
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