魔法刑事たちの事件簿R(リターンズ)

アンジェロ岩井

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第四部Ⅱ 『入江の中の海賊』

砂漠の狐ーその①

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女は二人が真剣な顔つきで睨む姿を見て、ニヤニヤと笑っている。
陰湿な笑みだ。孝太郎と淳一は不快感のために両マン顰めてしまう。
その様子を見て、彼女は更に笑顔を強めていく。
奇妙な砂の魔法を使用するイーディス・フローレンスはこうして二人の人間が焦る様子が楽しくて仕方が無いのだろう。
彼女はずっとそうだった。シリウスの下に初めて付いた時から、戦いを楽しんでいた。自分の魔法に慌てる相手の反応が楽しくて仕方が無かったのだ。
今回の件だって例外では無い。イーディスはからかい目的で二人に向かって砂粒を飛ばす。
孝太郎は二人の顔に砂粒が直撃するよりも前に、右手を使用して自分に砂が当たるのを防ぐ。
イーディスはもう一度からかう目的で長浜城の広場に広がっている砂を魔法で浮き上がらせて、何度も孝太郎に向けて飛ばしていく。
孝太郎はその魔法を右手で破壊して自分に砂粒が当たるのを防ぐ。
孝太郎は一か八かの賭けに出たのか、はたまた自分の『破壊』の右手があれば、イーディスの魔法なんて恐るるに足りんと思ったのか、彼は大きく右手をかざしてイーディスに向かっていく。
孝太郎の右手が当たるよりも前に、彼女は自分と目の前に迫る男との間に砂の壁を築いて一瞬の目眩しを試みた。
勿論、本当にその効果は「一瞬」でしかなく、迫りくる刑事は即座に砂を右手で破壊した。
だが、イーディスはその「一瞬」の隙を突いて彼の元から離れていく。
イーディスは両手の掌を広げて、もう一度砂粒による風塵を起こして、孝太郎を襲う。
孝太郎は右手の『破壊』を使用して、凄まじい勢いの砂を防いでいくが、それでも僅かに飛んでいったのだろう。
孝太郎は右頬に小さな痛みが走ったのを感じた。その直後に体に倦怠感のような感覚を味わったのは偶然では無いだろう。
孝太郎は自分が目の前の女の魔法の手に落ちてしまったのだと考えた。
孝太郎のひざが崩れ落ちる様を見て、彼女は相変わらずのニヤニヤとした笑顔を浮かべて、
「大丈夫かな?やっぱり、血を少し抜かれても人間って直ぐに倒れちゃうんだねー」
真っ赤な舌を見せていたずらっ子のように笑うイーディスは自分はいたずらっ子のように無邪気で純粋だと言うアピールのためか、自分の頭を軽く叩く。
本当に彼女の姿は小さないたずらっ子のようだった。
だが、孝太郎は「いたずら」と言う言葉では済ませない事態に陥っているのだ。
皮肉の一言も言いたくなるだろう。孝太郎は倦怠感とフラフラとした感覚をやっとの思いで皮肉を言い放つ。
「そうかな?なら、あんたが抜いた血をオレに返してくれよ。最も、お前のような頭の軽そうな奴には血を返すなんて発想は思い付かなかっただろうけどな」
孝太郎が体中の血液が足りないと言う状態にも関わらず笑って自分に向かって「生意気」な言葉を喋っている姿に苛立ったのだろう。
彼女は顔にの血管をピクピクと動かしながら、それでも口元には必死に薄ら笑いの痕跡を残そうと試みていた。
だが、無駄だろう。今の彼女は怒りの感情一色に支配されている。
鼻の穴が膨らんでいる姿も丸くて青い宝石を思わせるような瞳を細めて、険しい視線を向けている事も孝太郎はとっくの昔に見抜いていた。
「やるじゃん、まさか、この状態で……こんながいるなんてさ……」
イーディスはもう一度砂粒を巻き起こして、孝太郎と自分との間に風塵を巻き起こしていく。
孝太郎は右手を構えて、風塵を消していく。
イーディスは目の前の男が現れた突発的な嵐を思わせるような勢いを保つ風塵の相手をしている隙を狙って、彼女は武器保存ウェポン・セーブを利用し、銀色の自動拳銃を取り出す。
彼女はその銃口で孝太郎の心臓を狙う。
砂埃によって阻まれてはいるが、彼女はユニオン帝国内で特殊な訓練を受けていた。
彼女は常にあらゆる状態を想定しての射撃訓練だ。
彼女達ユニオン帝国竜騎兵隊の隊員は目の前に様々な困難な物を設置されて、訓練に臨む事になった。
目の前に火を設置され、視界を奪われた状態で的を撃てと命じられる事例ケースもあれば、目の前の水を設置されて視界を奪われた状態で的を撃てと命令される例もある。
そして、砂を設置される事も多くあった。
だから、彼女はその状態で銃を発砲する事に自信を持っていた。
彼女が満面の笑みで孝太郎に銃口を向けた時だった。
彼女の銃口に何かが突き刺さり、引き金が引けなくなってしまう。
イーディスが目の前を睨むと、そこには左手で手刀を作り上げた柿谷淳一が向かって来ていた。
彼はイーディスの十八番オハコを真似してニヤニヤと陰湿な笑いを浮かべながら尋ねた。
「どうだい?オレの魔法の威力は?オレの魔法は相手に向かって見えない刃を飛ばす魔法でね。こいつを利用すれば、お前の砂なんぞ怖く無いと思ってここまで来たんだよ」
イーディスは左手に作り上げた手刀と右手に日本刀を携えてこちらに向かって来ていた。
どうやら、彼の準備は万端らしい。
左手で遠距離の攻撃に右手で近距離の攻撃に備えているらしい。
イーディスがいつもの陰湿な笑顔を引っ込めて、歯をギリギリと鳴らしていると、右側面から彼女の足元に銃弾が撃ち込まれた。
砂の下にリボルバーの銃弾がねじ込まれているのを彼女は確認した。
彼女が右側面を眺めると、砂埃を全て消し去ったと思われる孝太郎が武器保存ウェポン・セーブから取り出したと思われるリボルバーを構えながら彼女の目の前に現れた。
「さてと、随分と舐めた真似をしてくれたじゃあないか……お前は逮捕する予定ではいるが、このままとっ捕まえたっていいんだぜ」
孝太郎の言葉にイーディスは全身を震わせていく。
彼女はもう一度武器保存ウェポン・セーブから黒色に施された自動拳銃を取り出して、その銃口を孝太郎に構えた。
「へん、今から断言しておくけれど、元ユニオン帝国竜騎兵隊の隊員のあたしにただの刑事が勝てるもんか」
「試してみるか?古い言葉で『勝負は時の運』とも言うぜ、じゃあ、どっちが先に撃てるかどうかを試してみないか?時代劇の敵討ちの前に仇の相手と仇を討とうと試みる主人公がやる奴だ『抜け、どっちが早いか』と言うな……」
イーディスは孝太郎のきな臭い比喩表現に苛立ちながら、彼に向かって銃口を構えた。
イーディスは自分の両手の中に生じた震えを抑えて、彼に向かって銃口を構える。だが、彼女は両手で握っている拳銃が震えている事に気が付く。目の前の男が怖いのだろうか。
イーディスは必死に自分の心を落ち着かせて、シリウスの敵を討とうと試みた。
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