魔法刑事たちの事件簿R(リターンズ)

アンジェロ岩井

文字の大きさ
上 下
174 / 365
第四部Ⅱ 『入江の中の海賊』

砂漠の狐ーその①

しおりを挟む
女は二人が真剣な顔つきで睨む姿を見て、ニヤニヤと笑っている。
陰湿な笑みだ。孝太郎と淳一は不快感のために両マン顰めてしまう。
その様子を見て、彼女は更に笑顔を強めていく。
奇妙な砂の魔法を使用するイーディス・フローレンスはこうして二人の人間が焦る様子が楽しくて仕方が無いのだろう。
彼女はずっとそうだった。シリウスの下に初めて付いた時から、戦いを楽しんでいた。自分の魔法に慌てる相手の反応が楽しくて仕方が無かったのだ。
今回の件だって例外では無い。イーディスはからかい目的で二人に向かって砂粒を飛ばす。
孝太郎は二人の顔に砂粒が直撃するよりも前に、右手を使用して自分に砂が当たるのを防ぐ。
イーディスはもう一度からかう目的で長浜城の広場に広がっている砂を魔法で浮き上がらせて、何度も孝太郎に向けて飛ばしていく。
孝太郎はその魔法を右手で破壊して自分に砂粒が当たるのを防ぐ。
孝太郎は一か八かの賭けに出たのか、はたまた自分の『破壊』の右手があれば、イーディスの魔法なんて恐るるに足りんと思ったのか、彼は大きく右手をかざしてイーディスに向かっていく。
孝太郎の右手が当たるよりも前に、彼女は自分と目の前に迫る男との間に砂の壁を築いて一瞬の目眩しを試みた。
勿論、本当にその効果は「一瞬」でしかなく、迫りくる刑事は即座に砂を右手で破壊した。
だが、イーディスはその「一瞬」の隙を突いて彼の元から離れていく。
イーディスは両手の掌を広げて、もう一度砂粒による風塵を起こして、孝太郎を襲う。
孝太郎は右手の『破壊』を使用して、凄まじい勢いの砂を防いでいくが、それでも僅かに飛んでいったのだろう。
孝太郎は右頬に小さな痛みが走ったのを感じた。その直後に体に倦怠感のような感覚を味わったのは偶然では無いだろう。
孝太郎は自分が目の前の女の魔法の手に落ちてしまったのだと考えた。
孝太郎のひざが崩れ落ちる様を見て、彼女は相変わらずのニヤニヤとした笑顔を浮かべて、
「大丈夫かな?やっぱり、血を少し抜かれても人間って直ぐに倒れちゃうんだねー」
真っ赤な舌を見せていたずらっ子のように笑うイーディスは自分はいたずらっ子のように無邪気で純粋だと言うアピールのためか、自分の頭を軽く叩く。
本当に彼女の姿は小さないたずらっ子のようだった。
だが、孝太郎は「いたずら」と言う言葉では済ませない事態に陥っているのだ。
皮肉の一言も言いたくなるだろう。孝太郎は倦怠感とフラフラとした感覚をやっとの思いで皮肉を言い放つ。
「そうかな?なら、あんたが抜いた血をオレに返してくれよ。最も、お前のような頭の軽そうな奴には血を返すなんて発想は思い付かなかっただろうけどな」
孝太郎が体中の血液が足りないと言う状態にも関わらず笑って自分に向かって「生意気」な言葉を喋っている姿に苛立ったのだろう。
彼女は顔にの血管をピクピクと動かしながら、それでも口元には必死に薄ら笑いの痕跡を残そうと試みていた。
だが、無駄だろう。今の彼女は怒りの感情一色に支配されている。
鼻の穴が膨らんでいる姿も丸くて青い宝石を思わせるような瞳を細めて、険しい視線を向けている事も孝太郎はとっくの昔に見抜いていた。
「やるじゃん、まさか、この状態で……こんながいるなんてさ……」
イーディスはもう一度砂粒を巻き起こして、孝太郎と自分との間に風塵を巻き起こしていく。
孝太郎は右手を構えて、風塵を消していく。
イーディスは目の前の男が現れた突発的な嵐を思わせるような勢いを保つ風塵の相手をしている隙を狙って、彼女は武器保存ウェポン・セーブを利用し、銀色の自動拳銃を取り出す。
彼女はその銃口で孝太郎の心臓を狙う。
砂埃によって阻まれてはいるが、彼女はユニオン帝国内で特殊な訓練を受けていた。
彼女は常にあらゆる状態を想定しての射撃訓練だ。
彼女達ユニオン帝国竜騎兵隊の隊員は目の前に様々な困難な物を設置されて、訓練に臨む事になった。
目の前に火を設置され、視界を奪われた状態で的を撃てと命じられる事例ケースもあれば、目の前の水を設置されて視界を奪われた状態で的を撃てと命令される例もある。
そして、砂を設置される事も多くあった。
だから、彼女はその状態で銃を発砲する事に自信を持っていた。
彼女が満面の笑みで孝太郎に銃口を向けた時だった。
彼女の銃口に何かが突き刺さり、引き金が引けなくなってしまう。
イーディスが目の前を睨むと、そこには左手で手刀を作り上げた柿谷淳一が向かって来ていた。
彼はイーディスの十八番オハコを真似してニヤニヤと陰湿な笑いを浮かべながら尋ねた。
「どうだい?オレの魔法の威力は?オレの魔法は相手に向かって見えない刃を飛ばす魔法でね。こいつを利用すれば、お前の砂なんぞ怖く無いと思ってここまで来たんだよ」
イーディスは左手に作り上げた手刀と右手に日本刀を携えてこちらに向かって来ていた。
どうやら、彼の準備は万端らしい。
左手で遠距離の攻撃に右手で近距離の攻撃に備えているらしい。
イーディスがいつもの陰湿な笑顔を引っ込めて、歯をギリギリと鳴らしていると、右側面から彼女の足元に銃弾が撃ち込まれた。
砂の下にリボルバーの銃弾がねじ込まれているのを彼女は確認した。
彼女が右側面を眺めると、砂埃を全て消し去ったと思われる孝太郎が武器保存ウェポン・セーブから取り出したと思われるリボルバーを構えながら彼女の目の前に現れた。
「さてと、随分と舐めた真似をしてくれたじゃあないか……お前は逮捕する予定ではいるが、このままとっ捕まえたっていいんだぜ」
孝太郎の言葉にイーディスは全身を震わせていく。
彼女はもう一度武器保存ウェポン・セーブから黒色に施された自動拳銃を取り出して、その銃口を孝太郎に構えた。
「へん、今から断言しておくけれど、元ユニオン帝国竜騎兵隊の隊員のあたしにただの刑事が勝てるもんか」
「試してみるか?古い言葉で『勝負は時の運』とも言うぜ、じゃあ、どっちが先に撃てるかどうかを試してみないか?時代劇の敵討ちの前に仇の相手と仇を討とうと試みる主人公がやる奴だ『抜け、どっちが早いか』と言うな……」
イーディスは孝太郎のきな臭い比喩表現に苛立ちながら、彼に向かって銃口を構えた。
イーディスは自分の両手の中に生じた震えを抑えて、彼に向かって銃口を構える。だが、彼女は両手で握っている拳銃が震えている事に気が付く。目の前の男が怖いのだろうか。
イーディスは必死に自分の心を落ち着かせて、シリウスの敵を討とうと試みた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

ミッシング・ムーン・キング

和本明子
SF
月が消失してから百年後の地球で出逢った、青年“ライト”と月の化身“ルナ”の物語。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

バレー部入部物語〜それぞれの断髪

S.H.L
青春
バレーボール強豪校に入学した女の子たちの断髪物語

改造空母機動艦隊

蒼 飛雲
歴史・時代
 兵棋演習の結果、洋上航空戦における空母の大量損耗は避け得ないと悟った帝国海軍は高価な正規空母の新造をあきらめ、旧式戦艦や特務艦を改造することで数を揃える方向に舵を切る。  そして、昭和一六年一二月。  日本の前途に暗雲が立ち込める中、祖国防衛のために改造空母艦隊は出撃する。  「瑞鳳」「祥鳳」「龍鳳」が、さらに「千歳」「千代田」「瑞穂」がその数を頼みに太平洋艦隊を迎え撃つ。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...