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第四部Ⅱ 『入江の中の海賊』

白衣を着た悪魔達ーその④

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淳一が体をのぞけると、毒を持つ猿はもう一度淳一に向かって爪を引っ掻こうと試みた。
淳一は毒を持つ猿の爪を自分の刀を斜めに構えて防ぐ。
馬面の剣士の刀と猿の爪とが混じり合って、火花を散らしていく。
馬面の剣士は唇を噛み締めながら、この事態を乗り切ろうと試みた。
だが、歯を噛んでも噛んでも彼には容赦の無い毒のある爪による攻撃が浴びせられ続けた。
掠めるだけでも命に関わるとなると、淳一は懸命に刀を盾の代わりとして使用して、猿の爪が自分に当たる事を防ぐ。
淳一は小さく息を吸って吐く。彼にとって迷いは無い。
彼は呼吸を落ち着ける事によって、猿を真っ二つに叩き斬ろうとしたのだった。
そして、頭の中にたった一つの確かな考えを植え付けていく。
自分が死ねば必ずこの場にいる全員も始末されるだろうと。
淳一は呼吸を集中させ、目の前の猿の動作を見極めていく。
淳一は古代からの武士になったつもりで、大きく刀を左斜め下に構えて、目の前から猿が飛び掛かるのを待った。
猿は中々動こうとはしないが、それでも一匹の猿が自分に向かっていずれ爪を振るおうとするのは火を見るのよりも確かな事であった。
彼はチャンスを待った。そして、猿が自分の目の前から飛び掛かるのを待って、素早く彼方を振るう。
淳一の刀は猿とすれ違うその瞬間に、瞬時に弧を描いて弧を描き終わるのと同時に、空中でピタリと止まった。
そして、数秒の差を経て猿の毛が一斉に地面に落ちていく。
淳一は地面に落ちた猿に剣先を突き付けながら言った。
「どうだ?日本の剣道も捨てたんもんじゃあねぇだろ?どうする?」
全身の毛を刈られた猿は人間の姿に体を戻していた。
毛を刈られた猿は人間の姿に形を戻して、目の前で刀を突きつける相手を険しい視線で睨む。
彼女は淳一に猿に変貌した時に全身に生えていた毛を刈られはしたが、その結果は彼女自身の羞恥心を刺激するような事態には至らなかったらしい。
「一つだけ教えてくれ?そんな、日本のニンジャマンガに出てくるような剣術を何処で学んだ?」
「あーこれね。実はおれの魔法を応用して編み出したんだぜ、おれの魔法はあらゆる場所に見えない刃を飛ばす魔法でな、おれが刀を振るう際にその小さな無数の刃を一緒に飛ばすように改良したんだ。休みの日には署の剣道場を毎晩遅くまで利用して、編み出したんだぜ、すごいだろ?」
「だから、あれ程の毛を一瞬で刈れた訳ね。理解できたわ……でも、あなたはこう思っているでしょ?“こいつはもうここで終わりだ”と、おあいにく様、そんな風にはならないわよッ!」
女は今度は自分自身の体をゴリラへと変貌させて、淳一の刀に丸太のように太くて重い拳を突き上げていく。
淳一はその拳を刀で防いだが、あまりにも強い衝撃に刀自身が折れそうな勢いであった。
「クソッタレ!なんてパワーだッ!お前が変身しているのはゴリラの筈だろ!?なら、どうして作業用の運搬ロボットと同じようなパワーを持っていやがれる!?」
淳一が目の前に現れた地面に存在すれば、押し潰されそうな程の重い衝撃が彼の予想を超えていたのだろう。
淳一は自分の刀が持ち堪えている事にも奇跡を感じていた程だ。
だが、肝心の女はクスクスと笑いながら、
「分からないわ、だってわたしの魔法は魔法だもん。その正確なパワーや威力なんて実際に接した事なんて殆ど無いから分からないんだってば」
彼女はそう言って笑いながら、ストレートの連打を続けていく。
彼女はまるでボクシングジムで素人が苛立ち紛れにサンドバッグを殴るかのように躊躇なく淳一の顔にストレートを打ち付けようとしていた。
淳一は刀で彼女の拳を防ぎながら、この事態の打開策を考えた。
直前までは同じ猿でもこのような直接的な攻撃ではなく、毒と言う相手を始末するためには少々まどろっこしい方法を使用していたのに、彼女は方向転換が早いらしい。
淳一はもう一度剣を構えて、目の前の相手の攻撃を防いでいく。
そして、今度は両手に握っていた日本刀を縦に構えて、目の前のゴリラに向かって対峙する。
淳一が手に持つ刀の鋭さと淳一自身が持つ日本刀のような鋭い視線に怯えたのだろうか、彼に向けていた何発ものストレートの雨が止んでいく。
淳一は刀を構えて、たじろいでいく刺客に問い掛ける。
「何を恐れている?」
刺客は答えない。後退りして彼から逃げ出そうとしていた。
淳一は刀の剣先を突き付けて、刺客の女に向かってもう一度問い掛ける。
「何を恐れているのかって聞いているんだぜ、お前は百万ドルの変身ミリオン・トランスフォームなんて大層な魔法を持ちながら、どうしておれのような人間を恐れようとしているんだ?」
刺客の女は淳一の挑発を聞いて、いても立ってもいられなくなったのか、彼に向かって右手の拳を振り上げて殴り掛かっていく。
淳一は刀を両手で構えて、刺客の女に斬りかかっていく。
ゴリラに姿を変えた女性は淳一は自分の頭から斬りかかってくると思われたが、淳一が実際に刀を振った時に彼女はその考えを改めた。
何故なら、淳一は彼女が注意を向けていなかった右水平から斬りかかってきてきたのだから。
女は体を捻れさせて、淳一の刀を交わそうとしたが、時既に遅しと言う事なのだろう。
女の右の腹に淳一の刀が直撃した。女は口から涎と短い悲鳴を上げて地面に倒れた。
彼女の体から血は出ていない。淳一の放った刀が峰打ちだった事は言うまでも無いだろう。
淳一は脱力したらしく、その場に膝から崩れ落ちていく。
病室の無機質な地面から生じる冷たさが膝を通して淳一の体全体から感じられたしまったために、彼は慌ててその場から立ち上がる。
持っていた日本刀を異空間の武器庫に仕舞ってある鞘の中に収めて、その刀をもう一度異空間の武器庫の中へと仕舞う。
淳一は病院のベッドの上で戦いを見ていた孝太郎に向かって人差し指を掲げて、
「一つ貸しだからな、覚えておけよ。それから、もう一つ貸し付けるぞ、おれはこのままお前が退院する日までこの部屋で見張っておくぜ、映画『ゴッドファーザー』でもドンが退院するまで、部下が見張ってただろ?それと同じ事をおれがお前にしてやるよ」
淳一は病室に備え付けてあるパイプ椅子を病室の扉の前に設置して、その上に腰を下ろす。
孝太郎は淳一を見て、お礼の言葉を述べた。
淳一は大きく右手の拳を振り上げながら、
「それだけじゃあ足りん!この恩はこの後にお前の友達の中坊組長に説教する事とおれと弟に美味い飯を奢ってやる事で勘弁してやるよ!」
「分かったよ!」
孝太郎は淳一の言葉に笑顔で返した。互いに笑い合う孝太郎と淳一の姿が明美には学校時代の数学仲間と自分とで難しい問題を解き明かした時の姿を重ね合わせてしまう。
明美は二人の間にゴルディアスの結び目(アレキサンダー大王にまつわる伝説の一つで、誰も解けない糸とされていたが、伝説に伝わるアレキサンダー大王が剣でその結び目を断ち切ったと言う伝説)よりも深い絆で結ばれているだろうと考えた。
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