魔法刑事たちの事件簿R(リターンズ)

アンジェロ岩井

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第四部Ⅱ 『入江の中の海賊』

白衣を着た悪魔達ーその②

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孝太郎は腕を組みながら、出口を防がれたユニオン帝国竜騎兵隊の出身だと思われる女性兵士を見つめる。ニヤニヤとした笑顔と冷やかすような視線が自分自身の優位性を裏付けていた。
女性兵士は体の震えを起こしながらも、唇を噛み締めて武器保存ウェポン・セーブから自動拳銃を取り出す。
そして、両手でしっかりと銃のグリップを握り締めながら、彼に向かって怪しく光る銃口を構える。
「動くなッ!動くと即座にお前を殺すぞ!」
「やはりな、オレの睨んだ通りだ。髪の黒い白人だったからな、パッと見て分からなかったのも無理はない。じゃあ、次の質問だ。あんたは一体何処の所属の組織なのか教えてもらえると嬉しいな、どうして、オレを狙っているかも教えてもらえるとありがたい」
孝太郎の柔らかい物腰に対して、黒い髪の女性は歯を剥き出しにして叫ぶ。
「私が言う訳ないだろう!言えばそれこそ殺されかねないッ!」
孝太郎は口に出さないでも、彼女がシリアスから雇われた刺客である事は容易に推測できた。
彼女が銃を握る手を震わせている所に、淳一が彼女の両腕の手首を握り締め、彼女を拘束した。
「これでも話さないつもりなのか?話してもらおうか、シリウスから頼まれたんじゃあないのか?」
「ち、違う!」
女性は強い口調で淳一に向かって言葉を返したが、淳一は彼女が唾を飲み込む姿から、容易に嘘を吐いている事を見抜く。
「なぁ、あんまり桜田門を舐めるなよ。お前の正体を吐かせるためにわざわざ警察署まで連れて行ってもいいんだぜ、それとも、ここでオレに酷い目に遭わされたいか?」
淳一は手首を縛っていた右手を今度は彼女の首元を掴む事によって彼女を逃さないようにしていく。
加えて、病室の扉の前には倉本明美の姿。
彼女は病院の窓に目をやったが、それ相応の高さがある事に気が付く。
女性は相応の高さを覚悟で飛び降りようとしたが、飛び降りようとした女性の服を淳一が強く掴んだ事によって彼女は逃亡自殺さえ許されなかったと言っても良いだろう。
淳一はもう一度女性の顔を覗き込む。
「早く話してくれよ、オレはちょいとばかり虫の居所が悪いんだ。中坊のガキにオレの大切な弟を誘拐されちまったからな……弟の事を考えていると、オレはいても立っても居られないんだ。だから、乱暴しないとも限らないんだぜッ!」
淳一は強い拳を近くの壁に叩き付けた。
病室の白い壁が大きく揺れる音が響き渡っていく。
女性は震える声で自供を始めていく。
「わかったわ、話すわよぉ~あたしはユニオン帝国竜騎兵隊所属の兵士よ。名前はリリー・フランシスって言うの、これで満足かしら?」
「上等だ。あんたの名前も所属部隊もちゃんと控えたからな、今後はあんたの目的を聞きたいな、あんたは何をしにこの場所に現れたんだ?」
「中村孝太郎と石井聡子の両名の始末よ。命令したのはあたし達の隊長、シリウスーー」
その言葉と共に彼女は事切れてしまう。額から一匹の赤い蛇を出しながら、彼女はゆっくりと地面に落ちていく。
一瞬で倒れなかったのは直前まで淳一が彼女の腕を掴んでいたからだろう。
淳一は目を丸くしながら、死体から自分の目前に視線をやっていく。
目の前には何処から現れたのか、軍人用の緑色のジャケットの下に白いロングスカートと白いワイシャツを着た短い金髪の青い瞳の女性が立っていた。
「やはり、ダメね。リリー。私はあなたの先程の情けなさを聞くと、シリウス隊長はあなたのような人から始末するべきだったと思うわ、可哀想な、チェリー。幼い妹を故郷に置いて死ぬなんてね」
淳一は目の前に現れた女性に向かって武器保存ウェポン・セーブから取り出したと思われる日本刀の剣先を突き付ける。
「あんたが殺した女が臆病者だっつー事はすっごく良く分かった。だから、オレに教えてくれないか?あんたはどうしてその女を始末した?」
淳一の問い掛けに女はクスクスと笑いながら、
「簡単よ。そこに倒れている女が隊長が現在何処に向かっているかまで喋りかねないと危惧したから、殺したのよ。彼女、恐怖に負けてペラペラと喋りそうだから……」
「そんな理由のためにあんたはこいつの命を奪ったのか?」
「“口封じ“……動機としては最もだと思わない?少なくとも、理由もなく人を殺すような危ない人間よりも数倍まともでしょ?」
女はそう言うと淳一に向かって右手に握っていたオート拳銃を発砲していく。
淳一は銃口が向けられるのと同時に、地面を蹴って滑ったために、彼は何を逃れた。
歯磨き粉のチューブから残った歯磨き粉を絞り出す音よりも小さな音で発砲された銃弾は淳一の死体の代わりに、撃ち抜いたのは病院の白い壁であった。
女は舌を打つと、もう一度銃口を構え直す。
女の前に淳一は現れて、彼女の目の前で剣を振るう。
淳一はこんなに峰打ちを喰らわせられたかと考えたが、淳一の刀が斬ったのは女ではなく、病室に備え付けられた大きな窓とその周辺だった。
淳一の居合による効果のためだろうか、窓の周辺が刀傷で凹んでいる事に気が付く。
淳一が舌を鳴らしていると、不意に彼の背後に冷たい物が突き付けられている事に気が付く。
淳一が恐る恐る振り向くと、そこには右手に自動拳銃を握った女の姿があった。
女は口元を大きく歪ませながら、
「どうした、これで終わりなのかしら?詰まらないわね」
(ちくしょう……見えなかったッ!一体こいつはどうやって、背後に回り込めたんだ!?)
淳一がそんな事を考えながら、背後を振り向こうとしていると、自動拳銃を構えた女はニヤニヤとした顔を浮かべながら淳一の心の中の疑問に答えた。
「驚いたでしょ?これがあたしの魔法『百万ドルの変身ミリオン・トランスフォーム』って言う魔法よ。魔法の特徴は見た事のある生物なら、どんな生物にでも変身できる最強の魔法よ。あのお方以外は誰も私のこの魔法は攻略できないと自負しているわ」
淳一は冷や汗をかきながら、先程は何に変化して何を逃れたのかを問う。
彼女はクスクスと笑いながら、
「そうねぇ~あの時にあなたの刀が当たる前に蠅になって逃げたと言った方が良いかしら、ついでに銃も服もあたしが身に付けているものも一緒に変身できるから、戻った時に即座に反撃できる点をあたしは気に入っているわ」
女の声に淳一は背筋を凍らせていく。ならば、この女と対峙するのは不可能ではないのかと考え始めていく。
それ程、あらゆる生物に変身できる魔法というのは恐ろしかったのだ。
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