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第四部Ⅱ 『入江の中の海賊』

エアポートでの対決ーその④

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ジョンはこの場から逃れようと頭を巡らせたが、いかせん足に大きな怪我を負っている身としては大きく体を動かさない事は確かだろう。
体も思うように動かない。全体に鉛を付けられているかのような感覚だ。
ジョンは自分の魔法を完膚なきまでに撃破されるとは思ってもみなかった。
ジョンがあれやこれやと思考を巡らせる中で、彼は自分の真上で弓矢を携えてジョンを射殺そうしている男の正体を掴む。
ジョンは必死に首を上げて、男に向かって悪魔の喋る言葉のように甘い誘惑を彼に投げ付けていく。
「待て、確かお前ユニオン帝国竜騎兵隊に居たな?」
「オレかい?」
指名された男はヘラヘラと笑いながら自分自身を指差す。
ジョンは男の態度に苛立ったのは事実であるが、幸いにして眉間に皺も寄っていないし、青筋も立てていない。
上手く感情を誤魔化す事ができている事を確認し、ジョンは大きく口を歪めていく。
彼は満面の笑顔で男に向かって交換条件を投げかけた。
「ユニオン帝国竜騎兵隊の部隊なら、シリウスの奴がオレをどうしたいのかは既に検討が付いている。オレはもう本国に帰還する。オレが本国に帰還した後には、皇帝陛下にオレから直訴し、今後は竜騎兵隊から一切手を引くと約束しよう!」
だが、男は大袈裟に両手を水平に構えてヘラヘラ笑うばかり。
男の口から磨き立ての歯磨き粉の成果をアピールする俳優のような真っ白な歯が零れ落ちていく姿が男の目には映る。
「皇帝に直訴か……それも面白いけれど、オレはシリウス隊長からあんたを直々に始末しろと命じられているんだよ。それを見逃す事はできないな」
ジョンは心の中で予想通りだと勝手に首を縦に動かす。
ジョンは目の前の男が恐怖のために、シリウスに従うが、その恐怖心が自分の現在の利益を上回った場合には覆るタイプだろうと予測した。
ジョンは大きな声で四桁の数字を叫ぶ。
全員が首を傾げる中で、ジョンは大きく口元を歪めて解説を始めていく。
「ユニオン帝国の銀行におけるオレの暗証番号の一つだよ。世界を駆け回るエージェントのオレには複数の口座を持つ事に皇帝からの直々の許可をもらっていてね。他の番号を知りたくないのか?」
その言葉に男の両眼が新しいおもちゃを貰った子供のようにキラキラと輝かせながら自分の足元に転がっている男を見つめていた。
「本当かよ?」
「ああ、オレは嘘は言わない。オレを生かしてくれたのなら、お前に口座の番号を教えてやるよ」
男がそう言って地面に伏せている男と目線を合わせるために、しゃがむと、それを待っていたかのように男は武器保存ウェポン・セーブから自動拳銃を取り出す。
ジョンは撃鉄を鳴らし、安全装置を解除して男の額を狙う。
男はジョンからの攻撃を逃れるために、慌てて立ち上がったが、彼が引き金を引く方が早かった。
銃声の乾いた音が空港の中に鳴り響いていく。男の急所は幸い無事であったが、その代償として男が支払ったのは男の左脚だったのだ。
男が一気に立ち上がったのと同時にジョンが拳銃を発砲したために、男の右脚に銃弾がめり込んだのだった。
男は狂気の悲鳴を上げて、やけを起こしたのか、両手に持った弓矢をめちゃくちゃに放っていき、空港のあちこちに矢が刺さっていくのを感じた。
「足を撃たれるとはな……オレは諸事情のために病院には行く事ができん……だから、ここでお前ごと死んでやるよ!勿論、お前達もなッ!」
男が周辺に向かって怒鳴り散らしていたために、浩輔達は「お前達」と言う言葉に自分達が含まれている事に気が付く。
浩輔は全身から電撃を纏わせながら、電気がビリビリと蛇のように纏わり付く人差し指を突き付けながら、
「まさか、お前……初めから、ぼく達を巻き込むつもりで!?」
「その通りだ。ジョン・マクドナルドを始末した後に、オレはシリウス隊長から聞いていた刑事とその仲間の中学生のマフィアのボスを始末する予定だったんだよ!最初からなッ!」
男は狂ったように大きな声で笑いながら、周辺の人物達に叫ぶ。
「お前達はここで終わりだッ!オレの矢にくっ付いた時限爆弾は三分後に爆破されるッ!終わりなんだよォォォ~!!」
浩輔は雷と怒りのために髪を尖らせて男に向かって気絶する程度の電量を浴びせていく。
男は油断し切っていたのもあって、浩輔の電撃に巻き込まれて倒れていく。
問題は男が雷撃に倒れる前に放った爆弾付きの矢であった。
浩輔は天井に刺さった矢を見つめた。思った通りだ。矢の刺さった場所からアナログ時計の針のような音が聞こえてくる。
浩輔は天井に向かって大きく右手の掌を広げていく。
それを見た若槻葉子が思わず小さな悲鳴を上げる。
「ダメよ!その爆弾は少しでもショックを与えれば、直ぐに爆発するようになっているわ!闇雲に攻撃を仕掛けるのは危険だわ!」
「なら、今から逃げれば、ぼく達は助かるんですか!?三分じゃあ無理ですよ!天井一面にくっ付いた爆弾じゃあ、逃げている間に爆発に巻き込まれるのが関の山ですよ!」
「……その坊主の言う通りだぜ、オレ達は一環の終わりだ。逃げる暇も解除する暇もない。オレ達はお終いだ」
ジョンの言葉に全員が沈んでいくが、浩輔だけは唯一勝気な瞳を浮かべて唇をギュッと結ぶ。
それから、仲間達に向けて大きく手を広げて演説を繰り出す。
「生きるか死ぬかの可能性が1%でも残っているんだったら、ぼくはその1%に賭けるよ!」
浩輔は集中して天井全体に高性能の機械をショートさせるだけの雷を放つイメージを持った。
浩輔はそれから満面の笑みでこの場にいる全員に向かって叫ぶ。
「ぼくは組長だッ!白籠市の守護者なんだッ!皆んなを守る義務はぼくには存在するッ!だから、この義務は絶対にやり遂げてみせるんだァァァァァ~!!」
浩輔はそう言って右手の掌から眩いばかりの雷を放っていく。
その場にいた全員が堪らずに生唾を飲み込む。
天井全体に雷が響いていく中で、天井に突き刺さった雷がバチバチという音を立てて今にも壊れそうな音を立てたのを全員は聞いたが、不思議な事に爆弾は爆発しなかった。全てを破壊する白い光は何処にも現れない。
全員が顔を見合わせて互いの生存を喜ぶ。阿久津孝弘と火野陽子の二人は互いの掌を合わせてハイタッチさえしていた。
浩輔は仲間達に向かって満面の笑顔を見せた。
浩輔は満面の笑みを浮かべながら、親指を立てた。
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