魔法刑事たちの事件簿R(リターンズ)

アンジェロ岩井

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第四部Ⅱ 『入江の中の海賊』

エアポートでの対決

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刈谷浩輔と四人の仲間は若槻葉子にホテルから白籠市を離れて、スモークガラスが全身に貼られたワゴン車の中で揺られながらビッグ・トーキョー最大の空港に到着していく。
空港の中に居たのは大勢の人間であった。様々な人種がスーツケースを携えたり、キャリーケースを引いたりして大きな通路の中を歩いていた。
黒色のスカートスーツの女性に先導された五人の幼い顔立ちの男女の姿は側から見ると、若い女教師に引率された修学旅行の生徒のようにも見えなくはない。
ただ、修学旅行と違うのは彼ら全員の視線が険しくなっていると言う事だろう。
スーツ姿の女性が引き連れている五人の男女の誰にも浮ついた顔は無い。
誰もが唇を結び、強気な姿勢を全身から放っていた。
五人の顔を見て、他の乗客達が思わずたじろいでしまった程だ。
それを見たのか、スーツ姿の女性は背後を振り返り、五人中学生の男女に向かって微笑んでみせた。
「あまり、殺気は放っておかないようにね、一般人に疑われたら、本末転倒よ」
「分かりました。今後は気を付けておきます」
浩輔は五人を代表して若槻葉子に答える。
「良いわ、じゃあ、向こうのお店で休息を取りましょうか?丁度、朝だしね。ホテルで食べたご飯は少なかったでしょ?わたしが奢ってあげるわ」
葉子はそう言って空港の端にある小さなカフェを指差す。カフェは空港に併設されているカフェとしては大きい方であり、カフェの中にはバータイプのカウンター席と長椅子と椅子で構成されるボックス席の二箇所があった。
葉子は躊躇うこと無く、ボックス席を指名し、中学生の男女をボックス席の中に座らせていく。
葉子はコーヒーを、浩輔と淳太は紅茶を、孝弘と陽子はジュースを、宏子はアイスの載ったグリーンソーダを注文した。
「あら、そんな物で良いの?どうせ、戦うんだったら、もっと高い物を頼んでも良いのに」
「いいんです。この戦いを終えたって家には帰れないんでしょう?」
浩輔の不貞腐れた態度は全員の意思を表していたのだろう。
浩輔がカフェのテーブルの上に頬杖を付いていると、他の少年少女達も葉子に向かって不満そうな表情を見せていた。
葉子は届いたコーヒーの香りを楽しみ、そのコーヒーに少しだけ口を付けて、コーヒーの味を味わってから、五人の前に自分自身の使っている携帯端末を滑らて、目的の物をある人物の来訪歴の記された情報をホログラフとして少年少女達の目の前に映し出す。
「あなた方にはこれから、わたし達が捕らえなければならない男を捕らえてもらいます」
そう言って葉子はもう一度携帯端末を弄る手を滑らせて、少年少女の前に一人の男の姿を映し出す。
「この男は誰なの?」
「ユニオン帝国の諜報機関、CIAに所属する腕利きの魔法師、ジョン・マクドナルドと言う男です。言っておきますが、世界的に有名なファーストフード店とは全くの無関係だと初めに告げておきましょう」
葉子は天然のボケのような言葉を口にしたのが恥ずかしいと感じたのか、耳を真っ赤にしながら、自分自身の携帯端末を操作し、ホログラフを携帯端末の中に仕舞う。
葉子はもう一度携帯端末を動かして、男の情報の描かれた情報を少年少女達に伝えていく。
「ジョン・マクドナルドはCIAのエリートとして全世界で暗躍を続けてきました。ロマノフ帝国を出し抜き、北京人民解放連盟の勇士、劉四兄弟を各国の工作員が合同で動いた際に、長男と次男を誰の手を借りる事なく、その手で撃ち殺した2330年の事件は国際的にも有名な事実ですね」
葉子は淡々として声で言った。
「もしかして、その事件って一年前に世界を騒がせたあの劉電子タワー爆破事件ですか?」
「その通り、ちゃんと世間の事を知ってるらしいわね。浩輔くん」
「別に……桃屋さんにニュースを見ろって言われて、ご飯を食べながら、何気無しに見ていたから覚えただけですよ」
浩輔の素っ気ない態度に葉子も素っ気なく返していく。
「そう……じゃあ、また解説に戻りますね。彼はCIAの優秀な工作員であり、現在も皇帝の懐刀としてあちこちの国に打撃を与えていますね。そのカウンターとしてJIOのスパイ、竹宮慎太郎をこちらから送り出した事もありますが、その時の被害でさえ尋常な物ではありませんでした。その男は現在、日本にキャンドール・コーブ計画の新たな責任者兼シリウス・A・ペンドラゴンとその一味の抹殺に向かっております」
「それは本当に確かな情報なんですか?ガセって事はありませんか?」
小川宏子は心配そうな声で葉子に向かって尋ねる。
「問題はありません。向こうに潜入しているJIOのスパイからの確かな情報です。断言しておきましょう」
葉子はそう言い終えると、携帯端末をもう一度押して、端末の中にホログラフを仕舞う。
葉子は説明の間に温くなったコーヒーを啜っていく。彼女がコーヒーを飲む様子は一種の絵画に描かれた芸術品のように美しかった。
淳太が堪らずに見惚れていると、葉子は彼に向かって慇懃な表情を見せて、
「あの何か用でしょうか?そんな風にジロジロと見つめられると飲みにくいのですが……」
「あ、ごめんなさい!なんか綺麗だなって思って……」
「綺麗だ」と言う言葉を聞いて葉子のいや、正確には「片桐雛子」の頭の中にかつての恋人との記憶が蘇っていく。
片桐雛子は昔は弱気で臆病な性格の女性であった。彼女は遥か昔に同い年の同級生に恋をした記憶があった。
眼鏡をかけた優等生面の自分と彼では吊り合わないだろうと彼女は考えていたが、その時に手助けをしてくれたのは女子バスケットボール部の部長である少女であった。
少女は勝気な性格であり、そして成績は悪いが、運動神経は抜群と言う彼女とはおおよそ正反対の性格をした少女であった。
彼女は自分を自分の恋していた男に紹介して、彼女の恋を応援するつもりだったらしい。
だが、雛子はそんな事は嘘であると後になって悟った。少女は自分の恋していた少年を奪ったのだ。詐欺師のような手口に雛子は抗議の言葉を送ったが、彼女はその主張を一蹴し、あろう事か女子バスケットボール部の部員を集め、雛子を苛め始めたのだ。
陰湿な苛めを受ける中で、雛子は自分はただ恋をしただけなのにと考えて、追い詰められていった。
彼女の最後のまともな精神を破ったのは女子バスケットボール部の部長、愛美が自分の両親の経営していた喫茶店を閉店に追い込み、太一と呼ばれる男に指示を出し、家族の目の前で自分を襲わせた事だった。
雛子はそれが引き金となり、翌朝に学校に乗り込み、練習中の愛美を襲ったのだった。
雛子は自分を抑えようとするバスケットボールの部員達を手に持っていた凶器で襲い、あてもなく都内を逃亡していた所を偶然、二階堂俊博に見染められ、彼の弟子として魔法を応用した殺人術と政治の知識を彼から教えられていく。
その成果のため、彼女は何とか二階堂の後釜になる事ができたのだった。
片桐雛子がいや、若槻葉子がかつての思い出を思い出していると、もう一度淳太の顔に向き直り、頬を赤く染めながらお礼の言葉を述べた。
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