魔法刑事たちの事件簿R(リターンズ)

アンジェロ岩井

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第四部Ⅱ 『入江の中の海賊』

ソウル・オブ・プロジェクトーその④

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浩輔達が携帯端末のメールアプリに送られたメールを互いに見つめ合っていると、追加の連絡が入っていく。
「おいおい、嘘だろ……正式に二階堂の野郎から、ぶっ壊された白籠中学校に来いとお達しが来ているぞ」
阿久津孝弘は自分の携帯端末の中に届いた電子メールを読み上げていく。
彼の顔がみるみる青ざめていくのを浩輔は眺めていた。
「白籠中学校にどうして?また?」
宏子の問いには誰も答えようとはしない。当然だろう。誰もその意味が分からなかったのだから。
浩輔は白籠中学校に行こうと全員に提案する。
「とにかく行こう!これはぼくたち全員に大きく関わる事態なんだッ!」
浩輔の言葉に全員が真剣な顔を浮かべながら首肯する。
浩輔達は一度学校を出てから、真っ直ぐに白籠中学へと向かう。
爆破された後のかつての自分達の学び舎には当たり前だろうが、人っ子一人いない。
大きく焼け焦げた後の残る校舎と大きな校庭が広がっているだけ。
浩輔達は一刻も早く到着するために、タクシーを利用してここまでやって来たために、時間はそれ程経っていない。
まだ、彼らの上空には沈みかけの夕陽が浮かんでいた。
浩輔達がキョロキョロと辺りを見渡していると、彼らの後ろからハイヒールの音らしき音が聞こえた。
二人が背後を振り向くと、そこには一人の黒い背広と黒のタイトスカート、そしてヨーグルト製品を思わせるような真っ白なブラウスに身を包んだ長い黒髪の女性が立っていた。
女性は浩輔達を眺め、一瞥すると丁寧に頭を下げて、彼女自身の自慢の胸であろう果物のメロンを思わせるような大きな胸に手を当てながら自己紹介を始めていく。
「初めまして、わたしの名前は若槻葉子と申します。かつては二階堂先生の秘書を務めておりまして、現在は自由共和党の秘書を務めております。以後、お見知り置きを」
女性は自分達よりも20歳は年下であろう少年少女に向かって丁寧過ぎる程の紹介を終えると、彼女は顔にかかった長い黒髪をかき上げながら、
「本日は二階堂先生を倒した皆様方にお願いがあってここに参りました」
「何なのそのお願いって言うのは?」
浩輔は日本刀のように鋭く両目を光らせて、彼女の目を睨む。
だが、彼女は動じる事なく話を続けていく。
「決まっておりますわ、あなた方にこの国を救って欲しいんです」
浩輔はその言葉を聞いて両眉を上げる。
「そのお願いって言うのは何のなのかな?ぼくらにしか出来ない事があるって言うのは……」
浩輔は敢えて敬語や丁寧語を会話に混ぜたりはしない。彼女が自分よりも20歳以上年上であろうが、それは浩輔にとって関係無い事だった。
彼女はかつて倒した筈の連続殺人鬼の名を語り、自分達をこの場所に呼び出し、その上彼の秘書であった事も隠さずに、自分達に何か用事を押し付けようとしている。それに加えて、彼自身の思春期特有の大人への反発心のような物もあった。
そんな浩輔の軟化しない態度に痺れを切らしたのか、若槻葉子は首を捻りながら、
「困りましたね。ねぇ、お坊ちゃん……大人にはそれ相応の態度で接しろと学校で習いませんでしたか?」
若槻葉子はまるで聞き分けの無い幼稚園児を嗜めるかのような口調で彼に向かって問い掛ける。
「……ッ!分かりました。あなたがそう言う態度に慣れていないのなら、こちらもそれに合わせましょう」
浩輔は自分が折れる事を決めたのか、はたまた彼女の言う「学校で習いませんでしたか」と言う言葉が尺に触ったのか、彼はせめてもの抵抗と言わんばかりの小さな声で話を続けていく。
「それで、ぼくらに何の用ですか?」
葉子は真っ直ぐに彼の瞳を見つめながら言った。
「単刀直入に申し上げます。あなた方にはキャンドール・コーブを打ち砕くために、我々に手を貸して欲しいです。我々はキャンドール・コーブの発信源が東京のテレビ局にある事を突き止めました。その上ではっきりと申し上げます。そのテレビ局は今や、ユニオン帝国の巨大放送会社に買収されています。そのテレビ局を潰すのに、政府の人間を使えば、万が一の場合に、ユニオン帝国と我が国との外交関係にヒビが入りかねません。そこで、政府に関係の無い強力な魔法師をビッグ・トーキョー付近で探した所、あなた方に目処が立ったと言う訳です」
葉子の言葉に浩輔はハッと大きく息を飲んでから、口元を両手でで覆う。
「ようやくお分かり頂けましたか?では、わたし達に手を貸して頂けますか?」
「……。待ってッ!」
小川宏子が彼らの背後で大きな声で叫ぶ。
「あなたに一つ問いたいんです!その仕事にかかる前に確認させてくれませんか?」
葉子は言葉を発した小川宏子に対し、鋭い瞳を光らせたが、冷徹な声で許可を出す。
「良いでしょう?何ですか?」
「あなたの正体は片桐雛子なんでしょう?優奈さんの話に出てきた」
葉子は彼女を黙って睨んでいたが、静かに首を振って彼女の考えを否定する。
「いいえ、人違いでしょう。行きますよ……と言っても、皆様方にも保護者がいるでしょうから、一時帰宅を一度許可しましょう。最後に書き置きなり何なりを残してから、もう一度翌朝にここに来てください。勿論、許可だけですから、わたしと直ぐに来てくださっても構いません。宿舎は用意していますから……」
葉子はそう言って白籠中学校の外へと出ていく。
その後を淳太と宏子が追っていく。
浩輔は葉子を追い掛ける二人に向かって大きな声で叫ぶ。
「待ってよ!暫くは帰れなくなるんでしょう!?それなのに、家族に挨拶もせずに向かうの!?」
淳太と宏子はその言葉を聞いて、目に涙を浮かべながら浩輔に向かって叫ぶ。
「ぼくだって本当は戻りたいよ!だけど、兄さんの顔を見たら、もうここには戻れなくなりそうだから、彼女に付いて行くんだよ!」
「わたしも淳太くんと同じ理由……お父さんとお母さんの顔見たら、絶対にまたここに来れなくなっちゃうもん。だから……」
宏子は悲しげな表情を浮かべながら言った。
浩輔はその二人を見届けると、すっかり暗くなった校庭の中を歩き、自分の屋敷へと戻っていく。
「……。それで、キミは一度帰宅し、書き置きを残してから、旅立ったという事だな?」
『うん、ごめんね、桃屋さん』
電話の向こうから掠れそうな程に小さい浩輔の声が聞こえる。
「謝らなくても良い、キミは今、何処にいるんだ?」
『ホテルの中……でも、心配しないで、キャンドール・コーブを解決したら、絶対に帰ってくるからッ!皆んなにもそう伝えておいて!』
浩輔は半ば乱暴に電話を切る。桃屋弁護士は組員に号令をかけ、白籠市中のホテルを探すように指示を飛ばす。
少なくとも負け犬倶楽部イレギュラーズの面々が無事なのを知って彼は胸を撫で下ろしたのだった。
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