魔法刑事たちの事件簿R(リターンズ)

アンジェロ岩井

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第四部Ⅱ 『入江の中の海賊』

ソウル・オブ・プロジェクトーその②

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「孝太郎さんよぉ~オレさぁ~あんたの大ファンだから特別に教えておいてやるよ。オレの魔法の名前は『魂の浄化措置ソウル・オブ・プロジェクト』って言うんだッ!カッコ良いだろ?マンガとかアニメのヒーローが使う能力みたいだよな?」
孝太郎は黙って男の言葉を聞き流していた。彼がユニオン帝国でも名高い竜騎兵隊の一員なのだろうか。それにしてはあまりにも幼稚過ぎると言う事だろう。
孝太郎がそう考えていると、彼は自らの右手と左手を彼らの背後に存在する木に向けた。
二人は何をするのかと思って咄嗟に視界を右腕で覆ったのだが、特に二人の体に異常は見られない。
二人が拍子抜けしたように顔を見合わせていると、背後の木が意思を持っているかのように動き出す。
いや、実際に「意思を持っている」と表現するべきだろう。
何故なら、二人の背後に聳えていた一本の木は木の根さえ出しながら、彼らに襲い掛かったのだから。
険しい視線を向ける二人を見て、彼は大きな声で笑いながら、
「どうだい!?これがぼくの魔法さッ!ぼくの魔法なんだよ!刑事さん!」
彼は重度の興奮に襲われているのだろうか。大きく両手を広げながら歌舞伎の役者のように体を背後に逸らしながら叫ぶ。
「ぼくはあんたのファンだから教えてあげるけれど、ぼくの魔法の特徴は相手の魂を奪って自分の物にする事なんだッ!そして奪った魂を自由自在に扱って、他の物に入れて操る事も可能!凄い魔法だろうッ!」
「テンメェ!このゲス野郎がッ!」
聡子は武器保存ウェポン・セーブから軽機関銃を取り出し、彼に向かって撃っていく。
「話にも聞いていたようだけれど、聡子さんは言葉が悪いね。それじゃあ、ヒロインと言うよりヴィランの少女だよ」
「うるせぇ!テメェのような人の魂を奪って自分の下僕に使うようなゲス野郎にアタシの口癖を注意されてたまるもんかッ!」
聡子は取り出したスコーピオンを撃つために引き金を引こうとするが、彼女が引き金を引くよりも前に先程の木が勝手に暴走して聡子の体を大きく突き飛ばす。
「どうだい?聡子さん。その木には魂が入っているから攻撃できないよね?正義のヒロインなら絶対に殺人は出来ないよね?そうでしょ?」
赤い髪の青年はジーンズのポケットの中に手を突っ込みながら倒れる彼女の顔を覗き込む。
孝太郎は激昂し、引き金を引こうとしたが、青年の前に一本の木が現れ、彼の銃弾を真っ直ぐに受け止めた。
「言っただろう?孝太郎さん……彼らは新たに自分に与えられた体を使い切るまで生きるんだ。ぼくがその体が腐る前に魂を引き寄せたら、魂を奪われた人は……素晴らしい話だろう!?」
赤い髪の青年は面白い話を話すかのようにけたたましく笑いながら言った。
「イカれてる……イカれてる。お前はこんな酷い事をするのが、ヒーローのする事だと思っているのか?」
「思っているよッ!ぼくが正しいと思った事は絶対に正しいんだッ!ぼくが正義だと思った事は絶対に正しい!そうに決まっているんだ?それに、ぼくは困っている人を見たら、放っておけない性質なんだよね。だから、十分にヒーローとして呼ばれる資質はあると思うんだけどなぁ~」
彼は胸に手を置きながら、同情するかのように足元で寝転ぶ孝太郎を見下ろす。
孝太郎は小田原の雑木林の中で反撃する機会を伺っていた。





同時刻、ビッグ・トーキョー。白籠市。
白籠署は朝から晩に至るまで三つの重大事件に追われて、他の事件に対処し切れていない事があったのは確かだ。
そのために人々は警察が頼りにならないとあって彼は刈谷組に治安維持を頼むようになった。刈谷組の代行、村上晴信は市民の安全を守るために暴力団員による巡回を増やしていく。
混乱の中でビッグ・トーキョーの中で白籠市だけが混沌に至るのを免れたかのように思われたが、村上晴信と組の顧問弁護士を務める桃屋総一郎はある重要な事実に気が付き、互いをなじり合っていく。
やがて、そんな事をしている場合では無いと悟り、二人はこの事実を隠して治安維持活動を継続する事にした。
重要な事実、それは刈谷組の次期組長刈谷浩輔の行方不明だった。
彼の部屋の電子メールの中に彼は書き置きを残し、友達と『キャンドール・コーブ』の事を調べると出掛けて行方を晦ませていたのだ。
桃屋弁護士がどうしようかと途方に暮れていると、事務所の中を忙しなく歩き回っていると、彼の携帯端末の電子音が鳴り響く。
電話の相手は柿谷淳一。となると……。
桃屋弁護士は嫌な予感を頭の中に漂わせながら、電話の向こうの相手の電話を取る。
「もしもし、刈谷商事ですが……」
『テメェ!ウチの弟を何処にやりやがった!?あのガキがオレの弟を連れ去ったんだろう!?昨晩から姿を見せたねーんだよ!どう言う事だ!?』
電話の向こうのカッコ良いと思わせるような声に対し、桃屋は素っ気ない調子で返す。
「私に言われても困るね。そもそも、刈谷組は浩輔くんが大きく方向を変えたんだ。今のウチは麻薬はやらないし、ウチの組長に尊敬を払うのなら、治安を守り、街の顔役となっている。キミらにとって難しい事件の対処は誰がしていると思うんだ?ウチの組長は来年の正月には餅つき大会をして小さな子供と遊びたいと交流を深めたいと考えているくらいだぞ、そんなウチをーー」
『ンな中坊組長の御託を聞きたくて、電話したんじゃあねぇ!ウチの弟を何処に連れ去ったのかって聞いてんだッ!いいから、あの中坊に電話を代われ!またウチの弟を連れまわしているんだったら、あの頬に往復ビンタを喰らわせてやるからなッ!』
「こちらだって朝から浩輔くんが姿を見せていなくて困っているんだ。昨晩に何か困った事が無かったか?」
『そう言えば……』
淳一は昨晩に弟が帰って来ない事を告げた。
「成る程、どうやら彼らはまた困った事に巻き込まれているらしいな」
『どう言う事だよ。そりゃあ……』
桃屋弁護士は「あくまでも私の推測だが」と前置きの言葉を述べてから話を続けていく。
「また彼らは事件に巻き込まれているな、それも相当に深い事件だ。下手をすれば、遊園地の迷路よりも深い場所よりも深い事件にな……」
桃屋弁護士はそう言って淳一からの電話を切った。そして、もう一度事件に巻き込まれた中学生組長に同情の念を送った。
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