魔法刑事たちの事件簿R(リターンズ)

アンジェロ岩井

文字の大きさ
上 下
153 / 365
第四部Ⅱ 『入江の中の海賊』

ヘラクレスとアトラースの協奏曲

しおりを挟む
ソフィアは二人を見つめるなり、武器保存ウェポン・セーブから一本のナイフを取り出す。
ソフィアは手でナイフを弄りながら、目の前の二人を見つめる。
彼女はそれから見せ付けるように手に持っていたナイフを舐め回す。
「どうよ?ここでわたしの魔法の威力を二人に見せるって言うのは?」
「面白い案だがな、ソフィア……我らがご主人様マイ・マイスターは一刻も早くドブネズミ共を始末しろとの仰せだ。キャンドール・コーブ計画を邪魔させないためにな……」
エリヤは着ていた軍服の袖をめくり、両腕を二人に向ける。
エリヤは大きな声で叫ぶと、彼の両腕が更に剛腕になっていくのを孝太郎は目撃した。彼の腕の中の筋肉はお伽話に登場する怪物のように盛り上がっていく。
両腕の筋肉を吐出させ、孝太郎に向かっていく。
孝太郎は武器保存ウェポン・セーブから拳銃を取り出し、彼の肩に向けて銃を放っていく。
だが、孝太郎の拳銃は彼の肩にめり込んだものの彼は倒れようとはしない。
それどころかエリヤ・エドワーズは真っ直ぐに孝太郎の元に向かい、孝太郎の腹に強烈な一撃を喰らわせた。
孝太郎は血反吐を吐いて地面に倒れ込む。
聡子は孝太郎が倒れたの見て彼の元へと駆け寄ろうとしたが、逆にソフィアの元に強い力で引っ張られ、彼女の前に到着するなり、逆に物凄く強力な力によって地面に倒された。
聡子は頭上のソフィアを険しい目付きで睨んだが、ソフィアは聡子の狂犬のような睨みにも動じる事なく、更にけたたましい笑い声を上げていく。
「無駄無駄無駄だよ。あたしの魔法の特性は引力と重力を意のままに操る事が出来る事なの、だから、あんたじゃあどうあがいても勝てっこないよ。あの男がエリヤに殺されるまで大人しく見物してな」
ソフィアはもう一度大きな声で笑う。聡子は険しい目で彼女を睨んだが、彼女の目に迷いはない。
聡子はその場所から動こうと懸命に体をバタつかせたが、体は鉛が詰まっているかのように重く、体が自分の指示通りに機能しない。
ソフィアは聡子がもがく様を見て、まだ足りないのかと彼女の元にかかる重力を更に重くしていく。
聡子は体の上に鉛が乗っているかのような重りに耐えきれずに血反吐を吐く。
ソフィアはそんな聡子を見ながら、けたたましく笑う。
彼女の笑顔は嫌らし過ぎると言っても良いだろう。残酷な笑顔が聡子の体を見つめている。
聡子は彼女の意のままに動こうとしている自分の姿が腹正しくて仕方がない。




孝太郎は目の前の男の対処に苦戦していた。彼の攻撃は実に奇想天外にして強力な物だ。体が鎧よりも硬くなったかと思うと、次はゴム毬やらトランポリンのように柔らかくなっていく。
つまり、エリヤ・エドワーズと言う男の次の動作が読めないのだ。
エリヤはそんな孝太郎の焦りを知ってから知らずか口元の右端を吊り上げて得意気に自分の魔法の特性を話していく。
「驚いたか?これがオレの魔法だよ。自分の体をゴムのように伸ばしたり、鎧のように硬くしたりする事の出来る強力な魔法なんだよ。魔法の名前は我らがご主人様マイ・マイスターから授けていただいた名前でな、気に入っておる。聞きたいか?」
お前など大した事ないとでも言わんばかりの馬鹿にした口調に孝太郎は眉間に皺を寄せたが、自分の不快感を押し殺し、彼を険しい視線で睨む。
エリヤはそんな孝太郎の視線など気にする事なく、相変わらずのニヤニヤとした笑顔で話を続けていく。
「『剛強と柔軟の王ヘラクレス』と呼称しておる。良い名前だろ?」
胸を張ってエリヤに対して、孝太郎は危機的に陥っている状態であるのにも関わらず、反対に彼に向かって笑ってみせる。
そして、得意そうな笑顔を見せながら、
「成る程、ご主人様から自分の遊び道具に名前を入れてもらって、それを使っているって事か、シリウスの犬と言うのはつくづく哀れだな」
エリヤの眉間に数本の青筋が立っていくのを孝太郎は目撃した。エリヤは声を荒げて、
「ふざけるなよ!国家の犬がッ!お前なんぞにあのお方の何が分かるッ!」
エリヤはそう言って孝太郎に向かって突進していく。
孝太郎はエリヤの攻撃を紙一重の所で交わす。彼はエリヤの目と鼻の先で左に自分の体を飛ばし、エリヤの衝突を回避した。
孝太郎はそれから、自分に向かって猪のようにもう一度突進を繰り返そうとするエリヤに向かって自分の右手を向ける。
エリヤは孝太郎が自分に向けてしている意味を悟った。彼は自分など右手で十分だと主張しているのだ。
エリヤは地面のアスファルトを蹴って、孝太郎の元に向かっていく。
エリヤは孝太郎の顎骨を砕くべく、彼の頬に向かって大きな一撃を放とうとしたが、孝太郎はエリヤの一撃を自らの右手の掌を広げて頬に彼の右手が当たろうとするのを防ごうと試みた。
エリヤは自分の右手が目の前の無防備な刑事に向かって当たろうとした瞬間に勝利を確信し、風をも切る勢いで左ストレートを放つ。
孝太郎の右手とエリヤのストレートがぶつかったその瞬間に、彼の右手に大きな衝撃が走った。
彼の小手とも言えるような固さを秘めた右手が通常の手になり、彼の掌に左手を掴まれてしまう。
孝太郎は彼の左手を受け取るのと同時に、彼自身の左手でエリヤの右頬を思いっきり殴り付けた。
エリヤは後方に倒れ、自分の魔法が通じていない事に気が付く。
そして、自分の頬に拳のダメージが残っている事に対し、彼は「信じられない!」と叫ぶ。
彼が殴られた頬を抑えていると、目の前に孝太郎が歩いて来た。
「殴られるのは初めてだって言いたそうな顔だな?安心しろ、お前はこの後にももっといっぱい殴られるからな……」
孝太郎は関節を鳴らしながら、エリヤの元に迫っていく。
エリヤが思わず生唾を飲み込もうとした時だ。途端に彼の体が地面に沈んでしまう。
エリヤが正面に目を遣ると、そこには右手を孝太郎に向かって突き出していたソフィアの姿が見えていた。
ソフィアは歯を剥き出しにして相棒に向かって叫ぶ。
「早くやっちゃいなさい!この状態なら、あの刑事も手出しが出来ないはずよ!」
ソフィアの言う通りにエリヤがもう一度『剛強と柔軟の王ヘラクレス』を使用して地面に倒れている彼の頭を砕こうとしようとするのと、孝太郎が自分自身に向かって右手を向けるのは殆ど同時であった。
エリヤは恐怖のために、孝太郎の気が狂ったのかと解釈したが、地面を転がり、自分の小手を交わした事でその解釈がようやく間違いであったと気付く。
エリヤが呆然としていると、
「知りたいか?オレは自分自身の体にかかっていた重力の魔法を自らの魔法でして突破したんだ」
孝太郎は鋭い視線でエリヤを睨みながら言った。
エリヤはこの後には柔軟の魔法を使用して孝太郎に立ち向かっていく事を考えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

火星

ニタマゴ
SF
2074年、人類は初めて火星という星に立つ。 全人類が喜ぶ中、火星人は現れた。 そして、やつはやってくる!地球へと・・・ 全人類VS一人の火星人の戦いが始まったのであった・・・

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

本当の仲間ではないと勇者パーティから追放されたので、銀髪ケモミミ美少女と異世界でスローライフします。

なつめ猫
ファンタジー
田中一馬は、40歳のIT会社の社員として働いていた。 しかし、異世界ガルドランドに魔王を倒す勇者として召喚されてしまい容姿が17歳まで若返ってしまう。 探しにきた兵士に連れられ王城で、同郷の人間とパーティを組むことになる。 だが【勇者】の称号を持っていなかった一馬は、お荷物扱いにされてしまう。 ――ただアイテムボックスのスキルを持っていた事もあり勇者パーティの荷物持ちでパーティに参加することになるが……。 Sランク冒険者となった事で、田中一馬は仲間に殺されかける。 Sランク冒険者に与えられるアイテムボックスの袋。 それを手に入れるまで田中一馬は利用されていたのだった。 失意の内に意識を失った一馬の脳裏に ――チュートリアルが完了しました。 と、いうシステムメッセージが流れる。 それは、田中一馬が40歳まで独身のまま人生の半分を注ぎこんで鍛え上げたアルドガルド・オンラインの最強セーブデータを手に入れた瞬間であった!

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

ダンジョン配信スタッフやります!〜ぼっちだった俺だけど、二次覚醒したのでカリスマ配信者を陰ながら支える黒子的な存在になろうと思います〜

KeyBow
ファンタジー
舞台は20xx年の日本。 突如として発生したダンジョンにより世界は混乱に陥る。ダンジョンに涌く魔物を倒して得られる素材や魔石、貴重な鉱物資源を回収する探索者が活躍するようになる。 主人公であるドボルは探索者になった。将来有望とされていたが、初めての探索で仲間のミスから勝てない相手と遭遇し囮にされる。なんとか他の者に助けられるも大怪我を負い、その後は強いられてぼっちでの探索を続けることになる。そんな彼がひょんなことからダンジョン配信のスタッフに採用される。 ドボルはカリスマ配信者を陰ながら支えようと決意するが、早々に陰謀に巻き込まれ危険な状況に陥る。絶体絶命のピンチの中で、ドボルは自分に眠る力を覚醒させる。この新たな力を得て、彼の生活は一変し、カリスマ配信者を陰から支え、奮闘する決意をする。果たして、ドボルはこの困難を乗り越え、配信を成功させることができるのか?

異世界召喚されたら無能と言われ追い出されました。~この世界は俺にとってイージーモードでした~

WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
 1~8巻好評発売中です!  ※2022年7月12日に本編は完結しました。  ◇ ◇ ◇  ある日突然、クラスまるごと異世界に勇者召喚された高校生、結城晴人。  ステータスを確認したところ、勇者に与えられる特典のギフトどころか、勇者の称号すらも無いことが判明する。  晴人たちを召喚した王女は「無能がいては足手纏いになる」と、彼のことを追い出してしまった。  しかも街を出て早々、王女が差し向けた騎士によって、晴人は殺されかける。  胸を刺され意識を失った彼は、気がつくと神様の前にいた。  そしてギフトを与え忘れたお詫びとして、望むスキルを作れるスキルをはじめとしたチート能力を手に入れるのであった──  ハードモードな異世界生活も、やりすぎなくらいスキルを作って一発逆転イージーモード!?  前代未聞の難易度激甘ファンタジー、開幕!

八百長試合を引き受けていたが、もう必要ないと言われたので圧勝させてもらいます

海夏世もみじ
ファンタジー
 月一に開催されるリーヴェ王国最強決定大会。そこに毎回登場するアッシュという少年は、金をもらう代わりに対戦相手にわざと負けるという、いわゆる「八百長試合」をしていた。  だが次の大会が目前となったある日、もうお前は必要ないと言われてしまう。八百長が必要ないなら本気を出してもいい。  彼は手加減をやめ、“本当の力”を解放する。

処理中です...