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第四部『キャンドール・コーブ』

パート7 それは突然現れて

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孝太郎は目の前に現れたシリウスに向かって拳銃を向けるが、彼にとって効果は無いらしい。孝太郎の持つ手が震えているが、彼からすればどうと言う事はないだろう。
孝太郎は間髪を入れずに拳銃を放つ。孝太郎の手から放たれた銃弾がシリウスの肩を貫く。
肩を撃ち抜かれそうになったが、シリウスは動じない。
彼が足を踏み出すのと同時に弾丸は勝手に移動し、彼の背後の窓ガラスを撃ち抜く。
ガラスを撃ち抜いたピストルの弾丸が窓ガラスを撃ち抜いていくのを孝太郎は確認した。
孝太郎はそのまま拳銃で続け撃っていくが、彼にとって効果は無いらしい。
シリウスは動じる事なく、孝太郎に向けて攻撃を繰り出す。
シリウスの手から放たれた銃弾を孝太郎は寸前の所で避けていく。
咄嗟に体を左に転がしたのが功を奏したのだろう。いずれにしろ、運が良いというべきだろう。
孝太郎が一息を吐いた所に突然、彼の右膝に激痛が走る。
孝太郎は悲鳴を上げて倒れる。
足を抑えて蠢く孝太郎を見下ろしながら、シリウスは呟く。
「分かったか?これがオレの魔法の成果だよ。最もお前がオレの魔法に対峙するのは二度目の筈だがな……」
孝太郎は激痛を喰らい一ヶ月前の敗北を思い出す。苦い薬を噛み締めた時のように広がる激痛が孝太郎の口の中に広がっていく気がした。
孝太郎は歯を噛み締めながら、自分を見下ろすシリウスを強く睨む。
「何だ?その目は気に入らんな、さてと、中村とやら、これ以上オレ達の邪魔をするつもりならば、この場でお前を処刑しよう」
シリウスの一言に孝太郎の体全体が凍り付くような感覚に襲われた。
今の孝太郎の頭の中に考える余裕はない。彼は唇を出血が出るまで噛み締めながら、シリウスを睨む。
が、シリウスは横たわる孝太郎を尻目に社長室を退室していく。
彼の瞳に「迷い」と言う言葉が無かったのが恐ろしかった。
孝太郎は横たわりながら、去っていくシリウスと言う男の背中を見つめていた。彼からすれば、幾ら何でも大き過ぎる背中。そして、届きそうにない程の大きな背中であった。






「それで、わたしを逃す手筈は整えているんだよね?」
大樹寺雫はホテルの部屋の中に用意された机の上で上等の食事を取りながら、姫カットの女性に問いかける。
「ええ、間違いないわよ。この後にユニオン帝国竜騎兵隊と連帯して、あなたを逃す手筈になっているわ、そのための交換条件として、彼らはあたし達に協力をして欲しいって言ったのよ?」
「協力って何を?」
雫は用意されたチョコレートショートケーキを頬張りながら言った。モゴモゴとケーキを頬張る姿が葵の目からすれば微笑ましく感じてしまう。
その上、彼女は教祖でありながら、昌原道明とは対照的に自分の罪を全面的に肯定し、国家と対決した女性だ。
昌原に洗脳されていた頃ならばいざ知れず、今の葵は彼女に好感を抱いていた。
葵は朗らかな声で、
「簡単な事よ。キャンドール・コーブ計画に手を貸して欲しいらしいわ。捜査の目を逸らすための大掛かりなテロを起こすために必要な事があるらしいわ」
葵の一言を聞き流す形で雫はケーキを音を立てながら飲み込む。
彼女はレトルトの紅茶を啜ってから、葵に向かって言った。
「乗った。わたしを逃がし、あの計画を助けてくれるんだったら、誰にでもわたしは魂を売るよ」
「商談成立と言った所かしら?取り敢えず何処を襲撃する?」
「決まってる。大統領官邸」
雫の一言を葵は満面の笑みで肯定した。
「決まりね!竹部恒三をこの世から吹き飛ばしてやりましょう!」
葵につられて彼女はホテルの部屋で彼女のお手製の爆弾を見つめた。
「大統領官邸にあたしがこの爆弾を仕掛けるから、あなたはあたし達の動きに気が付いた奴を殺して欲しいわ、ここまでの工程は分かるかしら?」
雫は小さな頭を動かして首肯する。





大統領官邸の爆破事件は日本全国を震撼させたと言っても良いだろう。
大統領官邸は日本共和国の顔とも言うべき場所であり、国会議事堂に次ぐ国としての趣を現す観光スポットでもあったのだ。
その大統領官邸が何者かの手によって爆破されたとあっては驚くのも当然と言えるだろう。
幸いにして竹部恒三は予定がずれ込み、官邸ではなく国会に出席していたために難を逃れたが、この日に大統領官邸を訪れ、政策に関する相談を伺おうとしていた法相が死亡すると言う事態が起こった。
これを知った竹部恒三は非常事態宣言を発令し、大統領官邸爆破の犯人を探すようにビッグ・トーキョー中の警察に指示を出す。
大統領の指示を受け、殆どの警察は大統領官邸爆破事件の犯人を探す事に集中する事にした。
孝太郎もミツトモ放送局での傷を姉に治してもらってから、ビッグ・トーキョー中を他の仲間と共にパトカーを駆けずり回っていたが、彼の脳裏に大統領官邸の爆破事件はそれ程重点的には置かれていない。
むしろ、孝太郎の頭の中に存在するのはキャンドール・コーブと例の男であった。
孝太郎は犯人の手掛かりを逃さないための聞き込みを行なっていたが、半ば無意味だとも悟っていた。
孝太郎は真夜中になったのを確認し、ビッグ・トーキョーの少し外れの街にある小さなホテルの前の道路の端にパトカーを止めて一息を吐く。
「よし、ここらで休憩でもするか……」
「おっし、賛成!孝太郎さん、あたしブドウジュースね」
「あたしはブラックコーヒーがいいです~」
「あたしは明美のと同じのでいいわよ」
孝太郎の提案に聡子、明美、絵里子が順番に口を出していく。
孝太郎は覆面パトカーから出て、道路の端に止めてある自動販売機にてそれぞれのリクエストした飲み物を買いにボタンを押そうとした時だ。
彼の背後から冷たい物が当たっている事に気がつく。彼が恐る恐る背後を振り向くと、そこには満面の石川葵が立っていた。
彼女は満面の笑みで笑いながら、
「一ヶ月ぶりね。孝太郎……」
「図々しくオレの名前を呼ぶのは辞めてもらおうか、テロリストめ」
「あら、つれないわね。まぁ、いいわ、それよりもあなたに伝えておく事があってね、なんだと思う?」
「知らん」
孝太郎は唇を一文字に結んで否定の言葉を吐いたが、彼女は緑色の丘の上で歌っているかのような朗らかなソプラノ声で、
「大統領官邸を爆破したのはあたしよ。今回は前のように未遂になら無かったみたいね。良かったわ」
満面の笑みで告げる葵が今の孝太郎にはとてつもなくおぞましい物に感じられたような気がした。
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