魔法刑事たちの事件簿R(リターンズ)

アンジェロ岩井

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第四部『キャンドール・コーブ』

パート6 キャンドール・コーブ計画の集大成

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スティール・P・オールディスンはユニオン帝国でも随一のテレビ会社、プラネット・ニュースの社長であった。
彼が本日ヒマラヤ山脈よりも高いと噂される帝国内の高層ビルにて日本からの通信を受け取っていたのは日本に派遣している部下との連絡を取るためである。
チクバテレビが使えないとなってから、彼が目をかけたのはチクバテレビのライバル会社であるミツトモ放送局であった。
彼はミツトモ放送局を買収し、新たなキャンドール・コーブ放映のための会社として流したのだった。
更にこの『キャンドール・コーブ』計画は彼の尊敬するユニオン帝国皇帝からの直々の命令でもあった。
そのために、皇帝は帝国内でも指折りの実力者として名高いシリウス・A・ペンドラゴン並びに帝国竜騎兵隊を派遣したのだろう。
その上、出資者は皇帝の支持を受け、トマホーク・コープから始まる帝国内の大企業も資金を出資したのであった。
スティールは陽が傾く姿を映す背後の一面に貼られた窓ガラス越しに映った自分の顔を眺める。30代であったが、彼の顔は一切の老を見せない。自分と同じ大学で同じ時期に机を並べて学んだジュリオ・カヴァリエーレ同様に不思議だと言われている。
勿論、マフィアの彼と全米的に認められた大企業の自分とでは金の掛け方も違うだろうが、それでもハンサムでモデルのように輝く彼と並べられているのは彼以上に顔の維持に金を掛けているからだろうか。
スティールがそんな事を考えていると、机の下の通信ディスプレイが動き、目の前にシリウスの顔が映し出された。
「こんにちは、社長」
「細かい事を言わせてもらうと、こちらはもう夜だがな、だが、時差は気にせん。話を続けろ」
シリウスはキャンドール・コーブ計画が最後まで進んでいる事を強い口調で話していく。
「はい、大樹寺雫の奪還に成功しました。付きましては彼女はこちらでどのような立場に立たせましょうか?」
「他の社長方と話して決めたんだがね、彼女はこちらの方で宗教関係の敵の牽制のために使えそうだ。皇帝陛下を愚弄する無礼な自称敬虔なクリスチャン共を黙らせるためにな」
スティールはキャンドール・コーブの状態を尋ね、口元を大きく歪ませる。
「不穏分子を呼び出したのは大きかったな、中村という刑事はどう処分するつもりだ?」
「ご心配には及びません。社長……いえ、ロサンゼルス伯よ」
スティールはシリウスの言葉に大きく腹を鳴らして笑い、大きく手を左右に振ってから、
「やめてくれ、ロサンゼルス伯スティールなんて称号は全てお飾りに過ぎんよ。私の祖父は皇帝の力を借りること無く、会社を大きくしたのだから、実際は社長だ。社長でいい。シリウス」
シリウスはスティールの言葉に丁寧に頭を下げる。
「それでいい、では今後も計画の遂行を祈ろう。キャンドール・コーブ計画が成功するようにな」
シリウスはそう言って機械の電源を消し、モニターを目の前から消す。
スティールは座っていた黒色の革張りの
椅子に改めて大きく腰掛け、一息を吐く。
「これからの計画にはあの二人が上手くやってくれるだろう。そのための投資をオレは担当させてもらおうか……」
スティールは椅子に大きく腰を掛けながら言った。





中村孝太郎は大樹寺雫の言われた事が気になり、この一ヶ月の調査の末に掴んだミツトモ放送局の本社へと向けて車を急がせていた。
孝太郎は覆面パトカーをミツトモ放送局の駐車場へと停め、その後にミツトモ放送局の本社へと足を踏み入れた。
無論、慌てて踏み入れる真似はしない。彼は一般の社長への訪問客を装って、テレビ局の社長室にて社長を詰問する予定であった。
キャンドール・コーブと言う単語を口に出せば、あの男は必ず尻尾を見せさせるだろう。
孝太郎がそんな事を考えながら、携帯端末の時計を眺めていると、端末の時間はお昼に差し掛かろうとしていた。
社長との面会はいつになるのだろうかと孝太郎が端末を眺めながら、考えていると突如、ミツトモ放送局の中が慌ただしく動き始める。
孝太郎が何事かと受付嬢の女性に尋ねると、若い受付嬢の女性は困惑しながら、何も知らないと答えた。
「そんな、何も知らないって事はない筈ですッ!必ず何か起こっている筈で……」
「お客様!本当なんです!わたしもこんなに慌てているから、全然分からなくて……ご迷惑をお掛けするとは思いますが……」
孝太郎は受付嬢が肩を竦めている姿を見て、これ以上追求する程鬼にはなれなかった。
孝太郎はやむを得ずに引き下がり、待合室の長椅子にて引き続き詳しい情報を求める事にした。
10分と言う時間が経過してから、二人組の警察官がドタドタと忙しない様子でミツトモ放送局の門をくぐり、社長室は何処かと受付嬢に尋ねる。
受付嬢は警察官二人のあまりの剣幕に怯んでしまったのだろう。すっかり怯えた様子で社長室のある階を口に出す。
警察官達二人が社長室の階段に向かう前に、孝太郎は長椅子から立ち上がり、警察官二人に何があったのかを問う。
「オレは白籠署の刑事だ。キャンドール・コーブ事件を長年追っているのは知っているよな?何があったのか教えてくれないか?」
二人の警察官は顔を見合わせて、
「実はですね。中村刑事……このミツトモ放送局の鞍馬光良社長の御子息鞍馬光範君が死亡したんですよ。キャンドール・コーブと呟いて」
「キャンドール・コーブ?本当か?それは?」
孝太郎は両肩を掴み、事情を説明した巡査の両肩を揺さぶりながら尋ねる。
「ええ、本当です……確かあなたはキャンドール・コーブの件についてチクバテレビ社長射殺事件以来からこのテレビ局がキャンドール・コーブを流しているとマークしていましたよね?」
孝太郎は巡査の問いを首肯する。
「そのキャンドール・コーブを流していた社長の御子息が亡くなられたんですよ。あなたの目論見は外れたと言っても良いでしょうね」
孝太郎は巡査から言い放たれた言葉が一本の尖った氷柱のように胸に刺さっていく。自分自身のこれまでの捜査が否定されたのと同じ事であったから。
意気消沈する孝太郎を残して、二人の巡査は社長室へと向かって行く。
孝太郎も巡査二人に続いて、社長室へと上がっていく。
エレベーターの乗り、着いた社長室を開けると、敷き詰められた赤い色の絨毯の上で血を流して死んでいたミツトモ放送局の社長の姿があった。
三人が息を呑んでいると、二人の巡査の首から大きな血柱が拭き手で倒れていく。
孝太郎が右手を振るい、巡査の倒れた方向を攻撃するが効果はない。
孝太郎が首を傾げていると、目の前に一人の男が立っていた。男は何処かで見た事がある顔だ。いや、彼の均整の取れたハンサムな顔は忘れられるものではないだろう。孝太郎があっと反射的に叫ぶのと同時に目の前の男は両手を大きく広げて、
「中村孝太郎だな?白籠署公安部の?」
「お前は何者だ?いや、お前のその顔には見覚えがある。オレを一ヶ月前に監禁し、少し前にオレに釘を刺しに来た……」
男は大きく口元を歪めて、
「その通り、おっと、自己紹介がまだだったな、オレの名前はシリウス・ペンドラゴン。ユニオン帝国竜騎兵隊の隊長だ」
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