上 下
144 / 365
第四部『キャンドール・コーブ』

パート4 竜騎兵隊への指示

しおりを挟む
絵里子は掛けてきた相手の電話を受信したが、相手は絵里子の対応が遅い事に苛立ったのか電話を切ってしまう。
二人の仲間達から誰から掛けてきたのかと尋ねられたが、絵里子は微笑を浮かべて、
「間違い電話だったわ、それよりも孝ちゃんを迎える時のための用意はいいかしら?」
聡子は満面の笑みで、
「勿論!よくぞ戻って来てくれた!お帰り!ですよね!」
絵里子ははしゃぐ聡子の頭を優しく撫でて、
「その通りよ。正解……あなたもちゃんと台詞を覚えられるようになったのね?」
絵里子の皮肉めいた問い掛けとニヤニヤと笑う姿が聡子の感に触ったらしい。
「ちくしょー。ムカつくゥゥゥゥ~!!あたしだってやれば覚えられるよッ!腹立つなァ~本当に」
プゥと頬を膨らませる聡子を絵里子と明美は苦笑いで眺めていた。
やがて、扉が開き中村孝太郎が一日ぶりに白籠署公安部の部屋に顔を出した。
聡子は先程の台詞を叫び、孝太郎が帰ってきた事を大きな声で祝う。
涙ぐみながら再開を喜ぶ聡子と共に絵里子は弟の無事を喜び、姉弟の間での抱擁を行う。
そして再会を終えると、その後には仕事を終える事にしたらしく、孝太郎は自分の席に着いて仕事を始める。
溜まっていた仕事を片付ける孝太郎、そして、今日の業務に集中している聡子の姿を見てから、明美はトイレと言う名目で席から立ち上がり、絵里子の手を取ってトイレへと向かう。
少し乱暴な手付きで引っ張られ、外に連れ出された絵里子はいつもと違う明美の様子に違和感を感じたようだ。
明美は部屋から離れた場所で絵里子に向かってさっきの電話の相手は誰かを問う。
「別にそんなのじゃないわよ。本当に間違いの電話で……」
「なら、そんなに慌てた様子を浮かべたりはしませんよね?どうして、先程あんなに慌てたりしたんですか?」
明美の質問に絵里子は答えようとはしない。視線を逸らしている。
「絵里子さん……答えになっていませんよ。数学の世界においては答えが重視されます。どんなに優れた公式や方程式を作り出したとしても、その式で弾き出された数字が一つでも間違っていたら、その式は間違いで、また別の式で解決していかなければいけないんです」
「つまり、答えになっていなかったと言いたいの?」
絵里子の問いに明美は真剣な顔で首を縦に動かす。
「答えてください。さっきの電話は何処からだったんですか?あの電話を見た時の絵里子さんの表情はちょっと普通じゃ無かったような気がします」
絵里子は返答に困ったらしく、仕切りに視線を右往左右させていた。視線をあてもなく宇宙を漂う小惑星のように彷徨わせている絵里子に明美は強い声で名前を呼ぶ。
それで決心が付いたのだろう。絵里子は口元をハッキリと結んで言った。
「聞いて驚かないでちょうだいよ。あのチクバテレビからの電話よ。しかも、ただの相手じゃあないわ、社長からの電話よ。途中で切れちゃったから、どんな内容だったのかは推し量られるけれど……」
絵里子の視線には何処かハッキリとしたものがあったような気がした。
明美はそんな事を考えながら、テレビ局の社長からの電話の内容を考えたが、専門外の分野に手を出すのは頭の中で憚れるらしく、彼女の頭の中には適当な推理が浮かんでこなかった。




「困りますな、鞍馬社長。まさか、あなたが御親友の御令嬢に警告の言葉を問い掛けようとなさるとは思いもしませんでしたよ」
ユニオン帝国竜騎兵隊参謀、アンソニー・フォックスは手元のリボルバーを西部劇に登場するガンマンのように振り回しながら言った。社長室の社長が座る椅子の下にはアンソニーが撃ち抜いた携帯端末が転がっていた。
アンソニーは舌を舐めまわしながら、消音器サプレッサー付きのリボルバーを弄っていた。
「か、構うもんかッ!私はもうお前達の悪魔のような計画に協力するのはもう沢山なんだッ!」
「それは無いですよ。社長さん。キャンドール・コーブ計画の中に多くの犠牲者が出るのはあなたも覚悟済みの筈ですよね?それを今更……」
「中止するッ!チクバテレビは今後は一切キャンドール・コーブ計画から手を引くッ!やるのなら、お前達の国でやれ!皇帝の飼い犬めッ!」
チクバテレビの社長はその後も勇敢なる発言を続けようとしたが、彼の口からそれ以上言葉が発せられる事は無かった。
社長が引き続いて言葉を口から引き出すよりも先に、アンソニーの銃弾が彼の額を撃ち抜いていたのだから。
アンソニーは狂気じみた笑い顔を出しながら、社長室の机の引き出しからキャンドール・コーブ計画の書を取り出す。
クリップに留められた紙には大樹寺雫の考えた計画に微量な修正を加えた計画が綿密に記されていた。
「これがありゃあ、我々ユニオン帝国竜騎兵隊の力は増していく一方だぜ、そして隊長の野望が成就される日が来るんだろうな……」
アンソニーは社長室に備え付けられていた煎餅を溢しながら呟く。
バラバラと煎餅をこぼしながら、彼は部屋を退出していく。
と、目の前にその竜騎兵隊の隊長と副隊長が立っていた。
彼は煎餅と計画書を持った部下を見下ろしながら言った。
「我々の目的を忘れた訳ではないだろう。フォックス?」
「ええ、勿論ですよ。隊長……キャンドール・コーブ計画の邪魔をする人間を潰し、時を支配する伝説の聖杯をこの手に収めるッ!そうでしょう?」
満面の笑顔で両手の拳を握り締めながら叫ぶアンソニーの言葉をシリウスは首肯した。
「キャンドール・コーブの本格的な計画に移るのはもう二、三週間はかかるらしいな、大惨事を起こさせるのは日本を一番驚かせた大樹寺雫の初公判の日だと聞いている」
「つまり、日本人にとっての一番の敵を裁く日に我々が大樹寺雫から思案していた計画以上の計画を発動させるのです。これは軍会議の幹部が全会一致で可決した事ですよ」
シャーロットの言葉にアンソニーは口元を歪ませながら、
「成る程、我が軍の上官方も意地が悪いようだ。それで、あんたは約束を守るんですか?」
「約束?」
シャーロットは両眉を上げる。何の用かと問いたげに。
「惚けないでくださいよぉ~あんた確か教祖の親友と約束したんじゃないんですか?」
シャーロットは長い金髪を弄りながら言った。
「ああ、そう言えばそんな約束もしていたわね。なら、逃した方が面白そうだわ、大樹寺雫は駒として使えそうだもの」
怪しく笑うシャーロットにシリウスもアンソニーも同調して笑っていた。
暗い灯に照らされた中で笑う三人の姿は見る者には深い嫌悪感を与えたに違いない。それくらい、彼らは不気味に笑っていたのだ。地獄の底にいた妖怪が現世に上がって笑っているかのように。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ブラック王国軍から脱退した召喚士、前世の記憶が蘇り現代兵器も召喚出来るようになりました

登龍乃月
ファンタジー
「もううんざりだ。俺は軍を抜ける。王国なぞ知ったことか!」 「ふん、無駄飯食らいの給料泥棒なぞこっちから願い下げだ! さっさと出て行け!」  ブラックすぎる王国軍の対応に嫌気が差した俺は軍部トップや、貴族のお歴々の面々に中指を立てて自主脱退を申し出た。  ラスト家は親子三代にわたり召喚士としてテイル王国軍を支えてきた一家であり、クロード・ラストは三代目である。  テイル王国はモンスターを軍に導入する事で、世界でも比類なき軍事力を手に入れていた。  軍部で使役されているモンスターはラスト家が召喚してきたモンスター。  その事実は長い年月の中で隠匿され、真実を知るものはごく少数であり、お偉方はそれを知らない。   「本当にいいんですね? 俺がいなくなったら、王国は終わりですが」 「虚勢はそれだけかね召喚士君。今やテイル王国は大陸一、軍を抜けるとなればむろん爵位も剥奪させてもらう」  最後通告を無視されたクロードは全ての仕事をほっぽり出し、魔界との境界近くにある田舎で暮らす事に決めた。  しかし軍部の機密保持のため、暗殺者に狙われて瀕死の重症を負ってしまう。  その時、一命を取り留めたクロードに前世の記憶が蘇り、前世もまたブラック企業に在籍し過労で命を落とした経緯を思い出す。 「貴様、ウチで働かんか」 「はい?」  魔界の境界で魔王軍にスカウトされたクロードは、ホワイトな環境に驚きながらも着々と地位を築き上げていく。  一方、クロードが抜けた穴は大きく、軍部にいたモンスター達が全て消失、兵士達が相次いで脱退するという事態になったテイル王国はクロードを探し、帰ってきてくれと懇願するが--。 「俺もう魔王軍と契約してるんで無理」  クロードは自業自得な王国を身限り、自分を正しく評価してくれる魔王軍を選び、魔王の覇道に手を貸すのだった。  これは虐げられ続けた影の大黒柱の転職活動記録と、世界を巻き込んだ騒乱の物語である。

底辺エンジニア、転生したら敵国側だった上に隠しボスのご令嬢にロックオンされる。~モブ×悪女のドール戦記~

阿澄飛鳥
SF
俺ことグレン・ハワードは転生者だ。 転生した先は俺がやっていたゲームの世界。 前世では機械エンジニアをやっていたので、こっちでも祝福の【情報解析】を駆使してゴーレムの技師をやっているモブである。 だがある日、工房に忍び込んできた女――セレスティアを問い詰めたところ、そいつはなんとゲームの隠しボスだった……! そんなとき、街が魔獣に襲撃される。 迫りくる魔獣、吹き飛ばされるゴーレム、絶体絶命のとき、俺は何とかセレスティアを助けようとする。 だが、俺はセレスティアに誘われ、少女の形をした魔導兵器、ドール【ペルラネラ】に乗ってしまった。 平民で魔法の才能がない俺が乗ったところでドールは動くはずがない。 だが、予想に反して【ペルラネラ】は起動する。 隠しボスとモブ――縁のないはずの男女二人は精神を一つにして【ペルラネラ】での戦いに挑む。

40代(男)アバターで無双する少女

かのよ
SF
同年代の子達と放課後寄り道するよりも、VRMMOでおじさんになってるほうが幸せだ。オープンフィールドの狩りゲーで大剣使いをしているガルドこと佐野みずき。女子高生であることを完璧に隠しながら、親父どもが集まるギルドにいい感じに馴染んでいる…! ひたすらクエストをやりこみ、酒場で仲間と談笑しているおじさんの皮を被った17歳。しかし平穏だった非日常を、唐突なギルドのオフ会とログアウト不可能の文字が破壊する! 序盤はVRMMO+日常系、中盤から転移系の物語に移行していきます。 表紙は茶二三様から頂きました!ありがとうございます!! 校正を加え同人誌版を出しています! https://00kanoyooo.booth.pm/ こちらにて通販しています。 更新は定期日程で毎月4回行います(2・9・17・23日です) 小説家になろうにも「40代(男)アバターで無双するJK」という名前で投稿しています。 この作品はフィクションです。作中における犯罪行為を真似すると犯罪になります。それらを認可・奨励するものではありません。

創世樹

mk-2
SF
 それは、生命の在り方。創世の大樹の物語。  はるか遠く、遠くの宇宙にある星。その星に生命をもたらした一本の大樹があった。  冒険者エリーたちが道中で出逢う神秘に満ちた少年、世界制覇を目論む軍事国家、そして世界の何処かにある『大樹』をめぐる壮大な闘争と錯綜する思惑。  この星の生命は何処から来たのか? 星に住む種の存続は?  『鬼』の力を宿す女・エリー一行が果てなき闘いへ身を投じていく冒険活劇!

福来博士の憂鬱

九条秋来
SF
福来博士は福来友吉博士をモデルにして。かってにSF的に展開しています。

お兄ちゃんのいない宇宙には住めません!~男装ブラコン少女の宇宙冒険記~

黴男
SF
お兄ちゃんの事が大・大・大好きな少女、黒川流歌’(くろかわるか)は、ある日突然、自分のやっていたゲームの船と共に見知らぬ宇宙へ放り出されてしまう! だけど大丈夫!船はお兄ちゃんがくれた最強の船、「アドアステラ」! 『苦難を乗り越え星々へ』の名の通り、お兄ちゃんがくれた船を守って、必ずお兄ちゃんに会って見せるんだから! 最強無敵のお兄ちゃんに会うために、流歌はカルと名を変えて、お兄ちゃんの脳内エミュレーターを起動する。 そんなブラコン男装少女が、異世界宇宙を舞う物語! ※小説家になろう/カクヨムでも連載しています

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

銀河皇帝のいない八月

沙月Q
SF
女子高生が銀河皇帝に? 一夏の宇宙冒険を描く青春スペースオペラ。 宇宙を支配する銀河帝国が地球に襲来。 軍団を率いる銀河皇帝は堅固なシールドに守られていたが、何故か弓道部員の女子高生、遠藤アサトが放った一本の矢により射殺いころされてしまう。 しかも〈法典〉の定めによってアサトが皇位継承者たる権利を得たことで帝国は騒然となる。 皇帝を守る〈メタトルーパー〉の少年ネープと共に、即位のため銀河帝国へ向かったアサトは、皇帝一族の本拠地である惑星〈鏡夢カガム〉に辿り着く。 そこにはアサトの即位を阻まんとする皇帝の姉、レディ・ユリイラが待ち受けていた。 果たしてアサトは銀河皇帝の座に着くことが出来るのか? そして、全ての鍵を握る謎の鉱物生命体〈星百合スター・リリィ〉とは?

処理中です...