魔法刑事たちの事件簿R(リターンズ)

アンジェロ岩井

文字の大きさ
上 下
139 / 365
フレンチ・ファンタジア編

フランス幻想をめぐる争いーその⑥

しおりを挟む
ダニーは右手を空中に掲げ、自身の分身とも言えるキノコを生やしていくが、エミリオはダニーの形をしたキノコを次々に別の物質へと変えていく。
ダニーの姿をした形の物は全て大きな丸太に変わっていき、虚しく数台の車しか停まっていない駐車場の中を転がっていく。
エミリオは口元を大きく歪めながら、
「あなたはジャンケンの法則を知ってますか?」
エミリオの問い掛けにダニーは首を傾げる。
「おや、お分かりにならないと?ならば、簡潔に説明致しますとね。ジャンケンのパーはグーに強いですよね?ですが、パーはチョキに負けてしまいます。そのパーに買ったチョキはグーに負けます。つまり、ぼくが言いたいのはどの魔法にも相性の善し悪しがあると言いたいんです。例えば、あなたの魔法とぼくの魔法のようにねッ!」
エミリオは自分に生えたキノコを一丁の包丁に変えて、ダニーに向かって投げつける。
エミリオの放った包丁がダニーの肩を貫く。
エミリオは肩に直撃するダニーを見ながら、悲鳴を上げる。
「どうでしょう?ぼくの変換魔法の威力は……三年前は同じ形の物を変化させるだけでしたが、三年間の間でも進化を遂げ、同じ物質以外の物にも変換できるようになったんですよ」
エミリオは体のあちこちかに生えていたキノコを包丁に変えて、次々とダニーに投げ付けていく。
ダニーは目の前から発せられる包丁を間髪入れずに避けていたが、やがてもう一度膝にナイフが突き刺さった時には痛みが我慢できずに崩れ落ちていく。
エミリオは笑い続けながら、自分の体の中に生やされていた最後のキノコを包丁に変えた。
包丁はエミリオの体から落ちて、エミリオの足元に転がっていく。
エミリオは最後の一本をダニーに右手に向かって投げ付ける。
右手を包丁に貫かれたダニーは唸り声を上げて地面に転がっていく。
言葉にならない悲鳴と言うのはこう言う場合に使うのかと言う事を頭の片隅で考えながら、エミリオはナイフを携えてダニーの元に向かっていく。
エミリオの足元で転がるダニーを冷たい視線で見下ろしながら、エミリオは自身の武器保存ウェポン・セーブから二丁の拳銃を出し、相手に渡す。
ダニーに渡された拳銃は六連発式のリボルバー拳銃。エミリオの手に持っていたのも同じ銃だ。
ダニーが首を傾げていると、エミリオは彼の元にしゃがみ込み、これから先に起こるルールを説明していく。
「あなたは西部劇をご覧になった事がありますか?これは西部劇で例えるのなら、『抜け、どっちの腕が優れているか決闘だ』と言う所ですね。試してみませんか?勝負は五部と五分と言った所でしょうか?いいや、ハンデはないので、ぼくの方が大分有利な関係ですが」
ダニーは震える左手でリボルバーを持ち上げた。そして、右手を抑えながら立ち上がっていく。
エミリオはそれを見遣ると、細めた目を送って、
「今から、行いますよ。泣いても笑ってもこれで最後ですよ」
ダニーは震える左手を向けて、エミリオを狙ったが、エミリオはダニーが銃口を向けた時点で相手を撃ち殺す。
ダニーは額から小さな赤い蛇を流して倒れていく。額を撃ち抜かれたため、即死だろう。
エミリオは西部劇のガンマンのように銃をクルクルと回しながら、異空間の武器庫にリボルバーを仕舞う。
そして、ダニーの死体の元に戻り、ダニーの持っていたリボルバーを自分の武器庫の中に仕舞う。
それから、倒れている聡子を見て、携帯端末を操作して救急車を呼んだ。
エミリオの通報により、救急車が大慌てで駆け付け、血に塗れて倒れていた孝太郎と聡子の二人を担架で運んでいく。
エミリオは心配そうな演技を顔全体に表しながら、二人に付き添っていく。
病院では二人の輸血手術が行われている所であった。手術の間、エミリオに対する取り調べが行われたが、エミリオは一貫して無罪を主張していた。
結局、エミリオの主張は認められ、その日のうちに釈放となった。だが、エミリオは釈放後も病院に留まり、二人の刑事を見守ると主張した事から、エミリオの人気はうなぎ登りの要領で上がっていく。エミリオは今、ヒマラヤ山脈よりも大きな山の上に立っているに違いない。



絵里子は弟の手術が行われている部屋の前の長椅子の上で消沈した様子で両手を額覆っていたが、明美は唇をギュッと結んで屋上へと向かっていく。
屋上には柵にもたれかかりながら、エミリオ・デニーロが愛のテーマを口ずさんでいた。
明美は鋭い視線を浮かべながら、エミリオに向かって問い掛ける。
「エミリオさん……あなたは全て計算したんじゃないですか?あなたは自分自身の車と『フレンチ・ファンタジア』がコーサ・ノストラに盗まれたのは予想外でしたが、その後の展開は容易に予想できたのでは?あなたは駐車場周辺の林の中に身を潜ませ、二人の戦いを見守り、二人が不利になったのを見計らってから、証拠の積まれた車を爆破し、助けに現れた……大方はこんな所でしょう?」
エミリオは明美の強い視線にも動じる事なく、同じように強い目で睨み返していたが、彼は次第に微笑を浮かべて次にまた大きな声で笑っていく。
「ハッハッハッハッ、お嬢さん証拠はありますか?」
明美は「ありません」とキッパリと唇を結んで言い放つ。
「ならば、話にもなりませんね。今のあなたの話は全て推測でしかありません。お帰りください。お嬢さん。ぼくはここでもう少し夜風に当たってから、気の毒な刑事さんのお見舞いにお伺いしますから」
エミリオの微笑に明美は視線を逸らして黙って屋上を後にした。
エミリオは明美が屋上から退出するのを見届けてから、携帯端末を操作し、時間を確認した。現在の時刻は0時丁度。
時刻はあの日から、丁度三日が経った頃だ。エミリオはニヤリと大きく口元を緩めた。






「もうお昼なのか?」
ドン・ファルコーニエーリは眠い目を擦りながら呟く。
「ええ、そうらしいですな、現在の時刻はお昼丁度であります」
「そうか……ならば、朝のメニューを頼まんとな、確か、出前が取れた筈だな?」
ファルコーニエーリが腹心のマルコーニから携帯端末を受け取り、出前を予防とした時だ。目の前の扉が開き、二人の目の前にスキンヘッドのノーネクタイの黒の背広を着た男が現れた。
手にM16と言う突撃銃を構えた男は二人の男を目の前にすると、酷く落ち着いた口調で言った。
「お初にお目にかかります。男爵閣下……私の名前はトニー・クレメンテ。殺し屋を勤めております。本日はお二人方の命を狙いに受け取りに伺いました」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

樹海暮らしの薬屋リヒト

高崎閏
ファンタジー
人里離れた広大な樹海でひっそりと暮らすリヒトは薬の知識がある。 薬草や薬木などを育てて薬を精製したり、はたまた貴重な草花などを採取しては商人に卸し、隠居生活を満喫していた。そんなある日、樹海の中で竜人族の子どもと出会う。 そこからリヒトの生活は一変してしまった。 ※他投稿サイトにも掲載済みです

【完結】マギアアームド・ファンタジア

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
ハイファンタジーの広大な世界を、魔法装具『マギアアームド』で自由自在に駆け巡る、世界的アクションVRゲーム『マギアアームド・ファンタジア』。  高校に入学し、ゲーム解禁を許された織原徹矢は、中学時代からの友人の水城菜々花と共に、マギアアームド・ファンタジアの世界へと冒険する。  待ち受けるは圧倒的な自然、強大なエネミー、予期せぬハーレム、そして――この世界に花咲く、小さな奇跡。  王道を以て王道を征す、近未来風VRMMOファンタジー、ここに開幕!

日本が日露戦争後大陸利権を売却していたら? ~ノートが繋ぐ歴史改変~

うみ
SF
ロシアと戦争がはじまる。 突如、現代日本の少年のノートにこのような落書きが成された。少年はいたずらと思いつつ、ノートに冗談で返信を書き込むと、また相手から書き込みが成される。 なんとノートに書き込んだ人物は日露戦争中だということだったのだ! ずっと冗談と思っている少年は、日露戦争の経緯を書き込んだ結果、相手から今後の日本について助言を求められる。こうして少年による思わぬ歴史改変がはじまったのだった。 ※地名、話し方など全て現代基準で記載しています。違和感があることと思いますが、なるべく分かりやすくをテーマとしているため、ご了承ください。 ※この小説はなろうとカクヨムへも投稿しております。

日本国転生

北乃大空
SF
 女神ガイアは神族と呼ばれる宇宙管理者であり、地球を含む太陽系を管理して人類の歴史を見守ってきた。  或る日、ガイアは地球上の人類未来についてのシミュレーションを実施し、その結果は22世紀まで確実に人類が滅亡するシナリオで、何度実施しても滅亡する確率は99.999%であった。  ガイアは人類滅亡シミュレーション結果を中央管理局に提出、事態を重くみた中央管理局はガイアに人類滅亡の回避指令を出した。  その指令内容は地球人類の歴史改変で、現代地球とは別のパラレルワールド上に存在するもう一つの地球に干渉して歴史改変するものであった。  ガイアが取った歴史改変方法は、国家丸ごと転移するもので転移する国家は何と現代日本であり、その転移先は太平洋戦争開戦1年前の日本で、そこに国土ごと上書きするというものであった。  その転移先で日本が世界各国と開戦し、そこで起こる様々な出来事を超人的な能力を持つ女神と天使達の手助けで日本が覇権国家になり、人類滅亡を回避させて行くのであった。

それなりに怖い話。

只野誠
ホラー
これは創作です。 実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。 本当に、実際に起きた話ではございません。 なので、安心して読むことができます。 オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。 不定期に章を追加していきます。 2025/3/11:『まぐかっぷ』の章を追加。2025/3/18の朝4時頃より公開開始予定。 2025/3/10:『ころがるゆび』の章を追加。2025/3/17の朝4時頃より公開開始予定。 2025/3/9:『かおのなるき』の章を追加。2025/3/16の朝8時頃より公開開始予定。 2025/3/8:『いま』の章を追加。2025/3/15の朝8時頃より公開開始予定。 2025/3/7:『しんれいしゃしん』の章を追加。2025/3/14の朝4時頃より公開開始予定。 2025/3/6:『よふかし』の章を追加。2025/3/13の朝4時頃より公開開始予定。 2025/3/5:『つくえのしたのて』の章を追加。2025/3/12の朝4時頃より公開開始予定。

【完結】フェリシアの誤算

伽羅
恋愛
前世の記憶を持つフェリシアはルームメイトのジェシカと細々と暮らしていた。流行り病でジェシカを亡くしたフェリシアは、彼女を探しに来た人物に彼女と間違えられたのをいい事にジェシカになりすましてついて行くが、なんと彼女は公爵家の孫だった。 正体を明かして迷惑料としてお金をせびろうと考えていたフェリシアだったが、それを言い出す事も出来ないままズルズルと公爵家で暮らしていく事になり…。

底辺エンジニア、転生したら敵国側だった上に隠しボスのご令嬢にロックオンされる。~モブ×悪女のドール戦記~

阿澄飛鳥
SF
俺ことグレン・ハワードは転生者だ。 転生した先は俺がやっていたゲームの世界。 前世では機械エンジニアをやっていたので、こっちでも祝福の【情報解析】を駆使してゴーレムの技師をやっているモブである。 だがある日、工房に忍び込んできた女――セレスティアを問い詰めたところ、そいつはなんとゲームの隠しボスだった……! そんなとき、街が魔獣に襲撃される。 迫りくる魔獣、吹き飛ばされるゴーレム、絶体絶命のとき、俺は何とかセレスティアを助けようとする。 だが、俺はセレスティアに誘われ、少女の形をした魔導兵器、ドール【ペルラネラ】に乗ってしまった。 平民で魔法の才能がない俺が乗ったところでドールは動くはずがない。 だが、予想に反して【ペルラネラ】は起動する。 隠しボスとモブ――縁のないはずの男女二人は精神を一つにして【ペルラネラ】での戦いに挑む。

処理中です...