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フレンチ・ファンタジア編

フランス幻想をめぐる争いーその③

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朝の光が優しく世界を包み込む。
エミリオは詩的な文章を考えながら、白籠市のオフィスビルディングで快楽に貪りを食っている男爵とその付き人に電話を掛けた。
だが、電話は留守番メッセージを告げ、切れていく。エミリオはもう一度大きな溜息を吐き、昨晩のうちに電話を掛けたある相手に許可を求める。
エミリオの言葉に電話の向こうの相手は流暢なイタリア語で答えた。
『勿論よ。怠惰を貪り、日本における利益を半減させた罪は重いわ。ファルコーニエーリ男爵とその付き人には毒を飲ませましょうか?鉛の入ったね……』
「では、レディ・ボルジア……トニー・クレメンテへの代金はお支払い頂けると?」
『無論だわ、彼が休暇を終える最後の日にあなたはこちらに戻って来なさいな、あなたに置いていかれたあの二人はさぞ驚くでしょうね。そこにトニー・クレメンテの姿が……とっても魅力的だわ』
ボルジア家の新たなる当主はそう言って通話を打ち切った。
エミリオはこの成果を喜びながら、昼間にあのバーに電話を掛ける事を考えた。
と、ここで窓の外を眺めると、一人の男がホテルの駐車場に停めてある自分の車を盗んでいる事に気が付く。
エミリオは武器保存ウェポン・セーブから自分特製の武器を取り出し、駐車場へと向かっていく。
彼はエレベーターを使う事なく、階段で十三階から降りていく。
十五階建てのホテルなのに、何故こんな高い場所に部屋を取ったのか後悔の念を抱えながら、外へと向かっていく。
エミリオがやっとの思いで外へと出ると、彼の車は風が蜘蛛の子を散らすように消え去っていた。
どうやら、あの例の男に奪われたに違いない。エミリオは悔やみながら、昨夜の運転手をホテルの部屋へ上げずに、車の中で寝させるべきだと悔い改めたが、時既に遅しと言うべきだろう。
車はとっくの昔に走り去っていた。エミリオは自室へと戻り、荷物をまとめてフロントをチェックアウトしてタクシーを拾いに向かう。
車は長浜の名物、長浜城の方角へと走って行ったのをエミリオは確認していた。
そこで、彼らは自分の車の中に用意されているフレンチ・ファンタジアを処分したのだろうか。
エミリオは自分の推理に自信を持っていた訳ではないが、それでも無いよりはマシだと言い聞かせ、タクシーの運転手に長浜城に向かうように指示を出し、車を飛ばさせた。




「ダニー。これです。こいつがエミリオの奴がこの国で流行らせるためにわざわざロンバルディア王国から運んだ『フレンチ・ファンタジア』ですよ!」
部下の男二人は車の底に隠してあった透明の袋に入った錠剤類を掲げながら言った。
「よし、麻薬を運び出したのなら、後はこうだッ!」
ダニーは武器保存ウェポン・セーブから手榴弾を取り出し、バラバラに解体された一台の車へと投げ込む。
車は大きな爆発音を立てて、粉々になってしまう。
ダニーは懐からタバコを吸いながら、手元の麻薬類を見つめる。
自らの皇帝に回収を指示された『フレンチ・ファンタジア』は全て手中に収まっていたとも言えるだろう。
後はエミリオを始末すれば、ボルジア家に大きな損害を与える事が可能だろう。
ダニーは勝利の葉巻を吸いながら、エミリオが駆けつけた時の事を思案する。
長浜城へと向かう観光客のために用意された駐車場の中に用意された広いスペースには粉々になったエミリオの車と自分達の乗ってきたベンツしか残っていない。
ダニーはいずれ来るであろうエミリオを今か今かと待ちわびていた。その時だ。彼らの目の前に一台の車が停まる。
目の前に停まった車はこの国で生産されている可も無く不可も無い一般的なデザインの乗用車。
その車から、降り立ったのは赤銅色の肌を持つ端正な顔立ちの美男子。
運転手の彼を筆頭にこの国の平均の顔よりは上の女性達が次々と駐車場に降り立っていく。
ダニーが警戒する視線を浮かべていた時だ。男が懐から一冊の手帳を取り出す。
手帳に描かれていたのは警察を表す菊の門のマーク。
男は手帳を見せるのと同時に大きな声で、
「警察だッ!お前達を窃盗の現行犯で逮捕させてもらうッ!」
孝太郎の言葉に二人の部下がたじろぐが、慌てふためく部下を五大ファミリーの幹部は幹部らしい風格と威厳に満ちた声で一喝する。
彼らは雷が落ちた後のように静まり返った。
ダニーは葉巻を味わいながら、相手に何の用なのかを問う。
「何の用なのかはお前が一番分かっている筈だろう?『フレンチ・ファンタジア』の件だよ」
ダニーはワザと翻訳機をオフにして相手の会話を聞こえないように遮断したが、向こうがその機械をオンにしていれば意味がない。
23世紀の技術は凄いもんだと思いながら、ダニーは相手の問答を一蹴する。
「そんな麻薬は知りませんな、あなた方警察がオレ達のような人間を目の敵にしているのはよ~く分かってますよ。そりゃあ、蛇蝎の如く嫌われているのも知ってますよ。ですがね、証拠がなけりゃあ逮捕なんてできないでしょう?まさか、証拠も無いのに無実の人間を引っ張るなんてできないですよね?」
「確かにな、だが、お前達の乗っていたと思われる車の横で大破している車の存在はどう弁明するんだ?」
「オレ達が来た時には、既に大破してましたよ。それともオレらがあの車を破壊したとでも?」
「……。武器保存ウェポン・セーブから爆弾を取り出したんじゃあ無いのか?」
「持ってませんよ。それとも、無い物を無いと証明させようって魂胆ですかい?そりゃあ、悪魔の証明って言いましてな、現実の世界じゃあ、ふざけた理論だと一蹴される馬鹿げた理論ですよ」
ダニーの言葉の端には明らかに悪意が含まれていた。
彼は追い払うように手を振って、
「さぁ、早く帰んなさいよ。それとも、オレら無実の市民を証拠をでっち上げて逮捕する気ですかい?」
男にすごまれては孝太郎としても引き下がるを得ない。
孝太郎は仲間達を連れ、引き返そうとした時だ。
黒い服の男がダニーに無断で武器保存ウェポン・セーブからマシンガンを取り出し、孝太郎達に向ける。
孝太郎は窓ガラスに反射し、自分達にマシンガンを向ける男の姿を見て、咄嗟に近くの聡子と共にその場に伏せ、他の仲間達にも伏せるように指示を出す。
他の仲間達は孝太郎の指示に従ったために、九死に一生を得たらしい。
全員が床に伏せ、マシンガンの銃弾を避けていた。
孝太郎は弾の切れたマシンガンの男に武器保存ウェポン・セーブから取り出した男にコルト式の拳銃を向け、男の左腕を撃ち抜く。
男は腕を撃たれ、その場に蹲る。
ダニーは舌を打つと、武器保存ウェポン・セーブからマシンガンを取り出す。
「このクソ野郎が……」
「それは、お前の部下に言うべき台詞だろうな?あそこで邪な考えを浮かべなけりゃあ、少なくともあそこでオレは引き下がっていたからな」
孝太郎の言葉に苛立ったのか、ダニーはマシンガンを構え直し、孝太郎を牽制する。
孝太郎は歯をギシギシと鳴らしながら自分を睨むダニーを見て笑っていた。
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