魔法刑事たちの事件簿R(リターンズ)

アンジェロ岩井

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フレンチ・ファンタジア編

フランス幻想をめぐる争いーその②

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インタビューアーのフラッシュに焚かれながら、エミリオは別のホテルへと移動するための高級車へと乗り込む。
車の中に乗り込み、エミリオは運転手に次のホテルへと向かうように指示を出す。
人の良さそうな日本人の運転手は恐縮した様子でエミリオの指示に従い、車を走らせていく。車はマスコミ達を振り切り、人通りの少ない長浜と言う都市へと向かっていた。滋賀の競馬場に近い場所であり、マスコミとコーサ・ノストラ対策のための一時的な潜伏場所としてエミリオが選んだのであった。
運転手に滋賀の長浜へ向けて、車を走らせていると、突如として走っていた高級車が停まってしまう。
エミリオは鋭い声を出し、運転手に何があったのかを問う。
運転手は困惑した様子で、
「わ、分かりません……急に前と後ろに二台の車が停まってしまって……」
運転手の言葉を信じ、エミリオが車を降りると、目の前にショットガンとマシンガンを構えた黒い服の男二人がエミリオを睨み付けていた。
男は懐から携帯翻訳機ポータブル・トランスレーダーを取り出し、通訳言語を日本語からイタリア語に変換したのだろうか。彼らは機械越しでありながら、流暢なイタリア語で問い掛ける。
「お前が運んでいた筈の薬はどこだ?」
エミリオは翻訳機は日本語のままにしておき、自らのイタリア語で喋っていく。
そのための、彼の口には機械の混じる音が聞こえない。
「そんな物をぼくが持っているとでも?ぼくがそんなヘマを犯すような人間に見えますか?」
エミリオの言い方には彼らの心臓を貫く程の鋭いトゲが含まれていたに違いない。マシンガンやらショットガンやらを持つ男達二人が銃を持つ手を震わせながら、エミリオを睨む。
「惚けるんじゃあねぇよ!お前が隠し持っていなけりゃあ、誰にこの国の暴力団に薬を売り渡すんだッ!」
マシンガンを持った黒色のハッシュ帽を被った男がエミリオの胸元を掴み上げる。
エミリオは不快な様子で眉を顰めてから、無礼な男の腹を思いっきり殴り付け、男の呻く隙を狙いマシンガンを奪い取り、そのまま引き金を引く。
エミリオのマシンガンの前に銃を持っていた筈の男達はバタバタと地面に倒れていく。
なす術もなくあの世へと旅立った男達をエミリオは南極の氷よりも冷ややかな視線で見下ろし、
「悪いですね。でも、お互いにこうなる事は覚悟していましたよね?あなた達は銃を握っていた……だから、ぼくに撃ち殺される覚悟もあった?そうですよね?」
エミリオは足元で転がる死体達に向かって問い掛けるが返事はない。
エミリオは不満そうに両頬を膨らませながら、死体達を蹴り付ける。
エミリオに足で蹴り付けられても、死体達は身動き一つ立てない。夜の街に虚しくエミリオの蹴る音が響くばかりであった。
エミリオは怯える運転手に優しい笑顔を見せ、彼の手の中に無言で二枚の一万円札をねじ込む。
それから、自分のファンだと言う彼の娘にサインを与え、目的地に着いた後には写真も一緒に撮る事も約束した。
苦笑いを浮かべ、死体のあった場所から離れ、長浜へと向かう運転手に自分自身の携帯端末のアドレスの書かれたメモを手渡す。
ホテルの余り紙に書かれたメモを運転手は薄ら笑いを浮かべながらポケットの中に仕舞う。
エミリオは運転手とは対照的に心の底からの笑顔を浮かべて、運転手に向かって話し掛ける。
「所で……あなたの娘さんは何歳ですか?少し気になりましてね。いや、これからお付き合いをする訳ですから、それくらいの情報は教えておいていただければありがたいかと?」
翻訳機は機能している。言語が通じていないと言う言い訳は通じない。
運転手は震える声で二人の娘の正確な年齢を告げた。
エミリオは運転手の回答に満面の笑みを浮かべて、
「成る程、6歳と4歳ですか!そんな小さい子からも好かれているなんて、光栄だなぁ~」
エミリオは綺麗に整った白色の歯を溢れさせながら笑う。
運転手は相変わらず唇を震わせながら、相槌を打っていく。
エミリオはこの気弱な運転手との会話を楽しんでいれば、この先の道中は退屈しないだろうと考えた。






「何?あいつらがやられただと?」
ダニー・ジョーンズは長浜へと向かわせていた十人の部下が殺された事を耳にし、思わず自分の座るベンツの助手席に座る男を怒鳴り付けた。
そればかりではないエミリオの泊まるホテルの襲撃に向かわせた三人とも連絡が取れないらしいのだ。
ダニーは残る二人の部下と共に長浜と言う街で決着を付ける事に決めた。
恐らく、エミリオ・デニーロの電撃訪問の日程は滋賀県の大型競馬場の訪問で終えるだろう。
関西の多くの競馬場には彼自身が昨日のうちに殆ど回ってしまったのだ。だとすれば、残る関西の大手競馬場は滋賀だけなのだ。
だからこそ、滋賀県には先に部下に向かうように指示を出していたのだが。
ダニーは自分の拳を何処かに殴り付けたい気分だった。
ダニーは部下の死亡の責任を取るために、長浜にてエミリオ・デニーロを討ち取る事に決めた。
ダニーは残る部下に長浜に向かうように檄を飛ばす。
部下達は追い立てられるように深夜の道路を飛ばしていく。





「エミリオ・デニーロの次の行き着く場所は滋賀県の競馬場で合っているな?」
孝太郎の問い掛けに他の仲間達は首を縦に動かす。
倉本明美は携帯端末から統計を集めたデータを浮かび上がらせ、自分達が合っているかどうかを説明し始めた。
「天才ジョッキーのエミリオ・デニーロは僅か一日の間に関西のあちこちの大型競馬場を訪問しており、そこで記念写真を撮ったりしていますよね?」
全員が明美の問い掛けに応じて首を縦に振る。
明美は全員が首を縦に動かすのと同時にもう一度携帯端末を動かし、新たなる統計を浮かび上がらせる。
「同時に昨日、関西全体の警察官が発表したフレンチ・ファンタジアならびに麻薬所持の売人の逮捕率と麻薬を扱っていたと思われる組の潰された数です。彼が関西に現れるのと同時に、麻薬を回らせないとばかりにボルジア家と連帯した組織が潰されています」
「……。明美の言いたい事を纏めると、何者かが迷惑なジョッキーと一緒に現れて、関西全体を戦場に変えてるって事だろ?」
明美の結論を同じようにソファーに座っていた聡子が引き継ぐ。
聡子は得意そうに歯の犬歯を見せながら、話を続けていく。
「要するに、クソ迷惑なジョッキー様は麻薬と一緒に何処かの強力な組織も持ち込み、自分の国でやればいい戦争をここでおっ始めてる訳だろ?」
聡子の言い分に全員が肯定の言葉を述べて、その後は重い沈黙が車の中を支配する。
孝太郎の運転する覆面のパトカーは長浜へと向けて走っていた。
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