上 下
129 / 365
フレンチ・ファンタジア編

取り引きの現場を確保して

しおりを挟む
孝太郎は銃を構えながら、二人の会話に耳を済ませる。孝太郎の耳には互いの人間の会話が耳に入っていく。
ヒソヒソと話す声には明らかに「麻薬」だの「フレンチ・ファンタジア」だよと言う怪しげな単語が混じっていた。
孝太郎は最後まで判断を誤ってはならないと耳を済ませ続けたが、どうやら間違いはないらしい。
スーツ姿の男にチンピラ風の男がクリップで束ねられた札束を受け取っていた。
孝太郎は現場を抑えられたと判断し、拳銃を構えて二人に向かって叫ぶ。
「動くなッ!警察だッ!手を挙げろ!」
孝太郎の言葉に取り引きをしていた男二人が顔を見合わせ、次に孝太郎に向けて憎悪に燃えた瞳を向けた。
チンピラ風の男が先に孝太郎に突っかかっていく。
「何だよ。兄ちゃん……ちょっとこっちまで来て確認してもらえないかな?オレらが麻薬を取り引きしていたと言いたいのか?」
「ああ、最初はお前が体の調子が悪いから、路地裏でそいつが薬を飲ませてやろうとしたのかと考えたが、よく考えたら、酔い止めの薬はお前さんが渡した札束以下の値段だぜ、それはあり得ねぇ」
江戸弁を使いながら、相手を追求していくと、孝太郎は『銭形平次捕物帖』の主人公の銭形平次になったような気がした。
孝太郎は十手の代わりに拳銃を携えながら、追及の手を強めていく。
「それに、薬を渡すだけなら、道の真ん中でもできるしな、こいつは怪しいと感じてみて、ここに来たら、二日前に捕まえた岡山ってチンピラが言ってたのと全く同じ取り引きが繰り広げられているからな、全く笑っちまうぜ」
「岡山」と言う言葉に二人の男の顔色が青くなっていく事に気が付く。
孝太郎は拳銃を構えながら、二人に反論を促す。
だが、二人の男は顔を合わせたまま沈黙を保っている。孝太郎は拳銃を構えて、男二人に銃口を向ける。
「さてと、反論が無い事からお前達二人はこのまま逮捕させてもらうぞ」
「ちくしょう!捕まってたまるもんかッ!」
チンピラ風の男は武器保存ウェポン・セーブからジャックナイフを取り出して抵抗を試みた。
孝太郎はチンピラ風の男が向かって来るのを見定め、男の両腕をねじ伏せ、そのまま地面に組み伏せる。
地面にねじ伏せられた男は呻き声を上げながら、孝太郎に手錠をかけられる。
スーツ姿の男は何処から手に入れたのか分からない軽機関銃を武器保存ウェポン・セーブから取り出し、孝太郎に向けて次々と銃弾を放っていくが、孝太郎は全ての魔法を鋼鉄の将軍ジェネラル・オブ・スティールで弾丸を弾いていく。
孝太郎は自分の身を守る小さな幕に体を守らせながら、相手の銃弾を弾いていく最中に黙って空中に向かって銃を発砲する。次に近くの段ボールを撃ち抜き、拳銃の恐ろしさと素早さを理解させてから、もう一度スーツ姿の男に向けて銃を構える。
男は手に持っていた軽機関銃を地面に落とし、尻餅を付き、大きな声で降参の言葉を叫ぶ。
「悪かったッ!私が悪かった……強制的にやらされたんだッ!借金の型に!!」
「お前に麻薬を売るように指示を出したのは、何処の金融会社だ?」
「最近できたばっかりのサラリアート金融だよ!イタリアから進出してきた新手の金融会社らしくて……」
孝太郎は男に近付き、礼を述べてから、男に手錠をかけ、チンピラ風の男と共に警察署へと連れて行く。
孝太郎は『サラリアート』に捜査令状を取れないかを依頼しようと運転をしながら考えた。





「『サラリアート』が襲われた?嘘でしょう!?」
波越警部から返ってきた言葉に孝太郎は思わず両眉を上げてしまう。
「悪いが、既に調べられる状態ではないね。今朝の事だ。何者か知らないが、先程、襲撃が起きてね。客も従業員も殆どが殺され、息のある人も虫の息や重傷と言った具合なんだ」
孝太郎は警部の言葉を到底信じられなかった。これで、自分達がロンバルディア王国のボルジア家に繋がる手がかりが減ってしまったと言う事になった。




「問題はだ……この金融会社の中に『フレンチ・ファンタジア』の手掛かりがあるんだ。お前らが見落とさない限りは確実に見つかる筈だ」
ジュリオ・カヴァリエーレの代行として派遣されたダニー・ジョーンズは腹立ち紛れに死亡した中年の金融会社の社員を蹴りながら、怒鳴り散らす。
彼が金融会社の社員を腹立ち紛れに蹴る様をカヴァリエーレ・ファミリーの構成員達は恐れながら眺めていた。
ダニーは懐からタバコを吸いながら、辺りを見渡す。
白籠市のオフィス街の外れに立っていた郊外とも言える程の寂れた場所に聳え立つ五階建てのビルの五階に構えていた事務所には事務所の所長のための机と顧客の情報が全て載ったリスト。それに山程の日本円。
だが、ダニーは金などどうでも良かった。ダニーはボスのために日本に来日したのであった。多くの部下を連れ、『フレンチ・ファンタジア』の製造元を潰し、ボルジア家に打撃を与えるために。
ダニーは死体蹴りに飽きたのだろう。顧客情報の載ったファイルをおもむろにめくり始めた。
ダニーがここから金を借りた世間知らずの男の写真を舌舐めずりしながら眺めていると、部下の緑色のハッシュ帽を被った男が一枚のメモを取り出す。
メモの末端に『読後焼却すべし』と書かれたメモ帳を拾い上げ、ダニーはメモの書かれた場所を眺める。
メモの書かれた場所は白籠市の安アパートの一室。
ダニーは事務所を荒らし回った十五人の男達を引き連れ、白籠市の安アパートへと向かう。
黒塗りのベンツが隊列を組んで白籠市の安アパートに繰り出す様をオフィス街の住民達は不安そうな様子で眺めていたと言う。
目的の赤い屋根のアパートに着くなり、ダニーはメモに書かれた部屋の扉を大きく蹴破り、相手に魔法や銃を使う暇を与える事なく皆殺しにしていく。
安アパートの部屋の中に似つかわしい機材が揃っていたり、倒れている死体が拳銃を握っていた事から、彼らが一般人ではないのを確認すると、ダニーは手下にアパートに入り、フレンチ・ファンタジアを回収する様に指示を出す。
十五人の部下達はフレンチ・ファンタジアを手早く袋の中に回収し、目的を果たして直ぐに車の中へと乗り込む。
後にアパートの住人達から話を得ると、彼らは警察が来るや否や蜘蛛の子を散らすように姿を消していたと言う。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

海道一の弓取り~昨日なし明日またしらぬ、人はただ今日のうちこそ命なりけれ~

海野 入鹿
SF
高校2年生の相場源太は暴走した車によって突如として人生に終止符を打たれた、はずだった。 再び目覚めた時、源太はあの桶狭間の戦いで有名な今川義元に転生していた― これは現代っ子の高校生が突き進む戦国物語。 史実に沿って進みますが、作者の創作なので架空の人物や設定が入っております。 不定期更新です。 SFとなっていますが、歴史物です。 小説家になろうでも掲載しています。

テルと地球

アフ郎
SF
2023年1月26日。 地球温暖化により世界の99.9%が海に沈んだ。 2025年2月2日。 海中に1㎞を超える影を見たという証言が出回る。 2025年10月26日。 海中にて未確認巨大非動物をネパールが確認。 2025年11月3日。 8国サミット開催。未確認非動物を「テル」と命名。海中捜索隊「ダイバー」を各国協力のもと育成する方針で一致した。 2028年4月12日。 海中捜索隊「ダイバー」が海の調査を開始した。 他サイトにも掲載しています。

正義のミカタ

永久保セツナ
大衆娯楽
警視庁・捜査一課のヒラ刑事、月下氷人(つきした ひょうと)が『正義のミカタ』を自称するセーラー服姿の少女、角柱寺六花(かくちゅうじ りか)とともに事件を解決していくミステリーではないなにか。

100秒で読めるSFショートショート

川上 真
SF
超短編SFストーリー集。

【アルファポリスで稼ぐ】新社会人が1年間で会社を辞めるために収益UPを目指してみた。

紫蘭
エッセイ・ノンフィクション
アルファポリスでの収益報告、どうやったら収益を上げられるのかの試行錯誤を日々アップします。 アルファポリスのインセンティブの仕組み。 ど素人がどの程度のポイントを貰えるのか。 どの新人賞に応募すればいいのか、各新人賞の詳細と傾向。 実際に新人賞に応募していくまでの過程。 春から新社会人。それなりに希望を持って入社式に向かったはずなのに、そうそうに向いてないことを自覚しました。学生時代から書くことが好きだったこともあり、いつでも仕事を辞められるように、まずはインセンティブのあるアルファポリスで小説とエッセイの投稿を始めて見ました。(そんなに甘いわけが無い)

時の果ての朝~異説太平記~

マット岸田
SF
南北朝時代、あるいは太平記の時代と言った方が通りがいいかもしれない時代。 日本がその歴史の中で初めて遭遇した大転換の時代に現代の大学生、建速勇人(たてはやはやと)がタイムスリップした。 秀でた知識も無ければ力も無く、何より自分が何を為すべきかを知らない生きて行く事に疲れた一人の若者。 だが、大きな志と小さな秘密を抱える一人の若き公家将軍、北畠顕家(きたばたけあきいえ)との出会いが彼を、数奇な、そして過酷な戦いの運命へと導いて行く。 少女との出会いを通して己の生きる意味を見詰め直し、孤高にして最強の師と出会い、そしてついには出会った仲間達と共に戦場へと身を投じる勇人。 …歴史の中に存在しないはずの異物が混ざった太平記の物語はどう形作られていくのだろうか。そして奇妙に歪んだその時の果ては… "もっとも彼や彼女が真に自身の幸福だけを願ったのであれば、運命を擲っていただろうが…"

(仮)裏クリーンレンジャー

やなぎかゔき
SF
孤独だった少年少女がある大きな組織に立ち向かう

流行りの異世界――転生先が修羅場で阿鼻叫喚だった件について説明と謝罪を求めたい。

されど電波おやぢは妄想を騙る
ファンタジー
【改稿版】  目が覚めると意味不明な状況だった――。  この世の終わりと言っても良いほどの、地獄絵図に等しい場所。  そこは、凄惨で酷い場所だった――。  そんな有り得ない状況下で理由も解らず、不意に目覚めた私にしても、有り得ない状態だった――。  正直に言おう……これは悪い夢だと――。  しかし、そんな現実逃避を敢行する間もなく、私は――。

処理中です...