魔法刑事たちの事件簿R(リターンズ)

アンジェロ岩井

文字の大きさ
上 下
122 / 365
満月の夜の殺人鬼編

困難に敷き詰められし道ーその⑩

しおりを挟む
二階堂は無防備にも廊下の中で転がる聡子に擬似惑星を作り出し、小さな惑星を聡子に向かって行くように指示を出す。
孝太郎は慌てて聡子の元に駆け寄るが、間に合いそうにもない。孝太郎は後に続くであろう惨劇を予想し、咄嗟に目を瞑ったが、大きな電気の音が聞こえ、その場から立ち去っていく音が聞こえる。
孝太郎が恐る恐る目を開くと、そこには刈谷浩輔が荒い息を弾ませながら、雷撃を放っていたのだった。
二階堂の視線が聡子から浩輔に映っていく。
「キミは勇敢な少年だ。私は勇敢な子供が好きでね。以前、コーサ・ノストラの男から少年を愛する気持ちを教わった事がある。坊や、キミは可愛らしい少年だ。まるで、人を癒すために生まれてきた子猫のようだ。少年、ロンバルディア王国に行きたくはないか?落ち目の公爵家ボルジア家と対立する家が日本進出を狙っていてね。その時に献金を我が党が受け取る話はもうしたよね?」
浩輔は冷たい視線を向け、二階堂の問い掛けに対し無言を貫く。
二階堂は少年のささやかな抵抗も意に返す事はなく、得意気な顔で不愉快な演説を続けていく。
「その際の手土産にキミのような美しい少年を向こうの合唱団に売り渡すんだよ。キミは本とかで読んで知らないか?声変わり前ばかりの少年で構成された少年団の事を。進出先の日本からも是非とも美少年を入れたと言う願望が得意先の方からあってね、それを行えば、我が党に関する献金を増やしてくれると仰られているんだよ。だから、この場でロンバルディア王国に行くと答えてくれたら、キミとキミの美しい親友だけは助けてやるよ。悪く無い条件だろ?」
浩輔は自身の頭の中でかつて読んだ娯楽小説の中にあった美しい少年と皇帝が純愛の末に駆け落ちをしたと言う話を思い出す。
浩輔は頭の中で考え、見知らぬ王国の合唱団に入団し、自由と友達との楽しい時間が奪われる事は嫌だと二階堂に向かって叫び返す。
「そうか……なら、しょうがないな、ここで友人と一緒に死ぬといいッ!」
二階堂は擬似惑星を浩輔に向かって繰り出していく。
浩輔は自分の体の周りに小さな雷撃を次々に作り出し、二階堂の作り出した擬似惑星を壊していく。
二階堂はフンと鼻を鳴らし、浩輔に向かって刃を作り出し、浩輔の体を貫くように命令を出す。
浩輔の着ていた黒色の学ランの腕や腹に無数の切り傷が付着していく。
浩輔は両腕を顔の前に組み、自分の顔と胸に当たる事だけは阻止した。
浩輔は自分の体を見つめ直す。顔も心臓も無事であったが、浩輔の服と腕はボロボロだ。特に両腕の服は多くの切り傷が付き、彼の皮膚が露出している事に気付く。
浩輔は小さな雷撃を次々と放っていくが、二階堂は小さな擬似惑星を作り出したり、例の突風を操ったりして浩輔の雷撃を弾いていく。
浩輔の雷が校舎のあちこちに当たっていく。
顔を冷や汗で全身を濡らしている浩輔に対し、二階堂は上着のポケットに手を突っ込んだまま微動だにしない。
二階堂は両手を大きく広げて、浩輔に向かって人差し指を左右に動かしながら、囁くような優しい声で言う。
「少年……キミにはもう無理だろうね。冷や汗で顔を濡らしていちゃあ、勝ち目はないよ。大人しく合唱団に入ると言えばいいのに」
「……お断りだ。ぼくはおもちゃになるつもりもなければ、お前の献金のためにロンバルディア王国に行くつもりもないッ!お前を倒し、仲間と一緒に家に帰るんだッ!」
ギュッと唇を結ぶ浩輔の言葉に二階堂は僅かに片眉を動かす。
二階堂はもう一度一階全体に刃を振らせようと両手を天井に掲げた時に、孝太郎が動き、右手の拳を二階堂の右頬に振るう。
二階堂は孝太郎の不意打ちのために強く頬を打たれ、暗い廊下の中に倒れ込む。
二階堂がよろめきながら立ち上がると、孝太郎が武器保存ウェポン・セーブから取り出したと思われる6連発式のリボルバーを取り出し、倒れる幹事長に向かって銃口を突き付けていた。
「二階堂俊博……お前を殺人の容疑で逮捕する……」
二階堂は孝太郎の逮捕宣告にも従わず、孝太郎が眉を動かすよりも早く、擬似惑星を作り出し、孝太郎にそれを向けていく。
孝太郎は僅かに片眉を動かしたが、迷う事なくそれを拳銃で撃ち抜く。
銃弾の衝撃を受けた惑星を基準にした刃は勢いを失い地面に落下していく。
孝太郎は改めて二階堂に銃を構え直したが、一瞬の隙が生じたのが間違っていたのだろう。
二階堂は武器保存ウェポン・セーブから取り出したと思われる携帯用のショットガンを右手に持ち、鋭く光る銃口を孝太郎に向ける。
「銃を持っての睨み合いに変貌するとは……こんな事なら、最初から銃を使うんだったな」
「……。過ぎた事を悔いても仕方がないだろ?どちらが先に撃つかで勝敗は決するだろう」
二階堂は孝太郎の言葉に対し、口元を右端に大きく吊り上げた。
彼からすれば、当たろうが当たるまいがこの先の結末は変わらないと見たのだ。
二階堂は狂気染みた顔で大きく笑い、孝太郎に向けてショットガンを放つ。
二階堂がショットガンの引き金を引く際に、よろけてしまったために僅かに軌道が逸れてしまった事が功を奏したのだろう。
二階堂の弾丸は孝太郎の背後の地面をえぐっただけで済んだのだった。
対して孝太郎の弾丸も事態の進展に大きく影響したとは言えないだろう。
殆ど同時に発砲したと思われる銃弾は二階堂の脚をを僅かにかすめ、地面に直撃しただけで済んだのだから。
刑事と殺人鬼が互いに銃を構えて睨み合う。
孝太郎は歯を噛み締めている事に対し、二階堂は余裕の笑みを崩そうとはしない。
二階堂がもう一発の弾丸を放とうとした時にだ、浩輔が二階堂に向けて小さな雷撃を放つ。
二階堂は咄嗟に刃の放たれる突風を出す事によって浩輔の魔法を弾く。
二階堂は気を抜いたのか、ここで突風を解除する。
と、ここで孝太郎は二階堂の体が無防備になった事に気付く。
孝太郎は予想した。二階堂が例の防御壁を一旦解除すると、即座には同じような防御壁を張れないのではないかと。
孝太郎は弱点を狙い、二階堂の脚に向けて狙いを定める。
孝太郎は躊躇う事なく引き金を引く。
二階堂の脚から一匹の赤い蛇が姿を見せ、二階堂は小さな悲鳴を上げて地面に倒れる。手に持っていた携帯型のショットガンが地面に落ちる音が聞こえる。
孝太郎は脚を抑えて小さな息を吐く、二階堂に向けてもう一度銃口を向ける。
孝太郎は顔を顰める二階堂を冷たい視線で見下ろしていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愛されない花嫁は初夜を一人で過ごす

リオール
恋愛
「俺はお前を妻と思わないし愛する事もない」  夫となったバジルはそう言って部屋を出て行った。妻となったアルビナは、初夜を一人で過ごすこととなる。  後に夫から聞かされた衝撃の事実。  アルビナは夫への復讐に、静かに心を燃やすのだった。 ※シリアスです。 ※ざまあが行き過ぎ・過剰だといったご意見を頂戴しております。年齢制限は設定しておりませんが、お読みになる場合は自己責任でお願い致します。

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

子宮筋腫と診断されまして。《12/23 完結》

アーエル
エッセイ・ノンフィクション
徐々に悪くなる体調 気付いたら大変なことに!? 貴方ならどうしますか? ハッピーエンドで終われるといいですねー。 ❄12月23日完結しました 閲覧ありがとうございました ☆ここに出てくる病院は実在します。 病院名と個人名は伏せていますが、すべて実際に現在進行形で起きていることです。 (だから「ノンフィクション」のジャンルです) 特定するのはご自由ですが、言い回るのはおやめください。 問い合わせもお断りします。

ニンジャマスター・ダイヤ

竹井ゴールド
キャラ文芸
 沖縄県の手塚島で育った母子家庭の手塚大也は実母の死によって、東京の遠縁の大鳥家に引き取られる事となった。  大鳥家は大鳥コンツェルンの創業一族で、裏では日本を陰から守る政府機関・大鳥忍軍を率いる忍者一族だった。  沖縄県の手塚島で忍者の修行をして育った大也は東京に出て、忍者の争いに否応なく巻き込まれるのだった。

【完結】側妃は愛されるのをやめました

なか
恋愛
「君ではなく、彼女を正妃とする」  私は、貴方のためにこの国へと貢献してきた自負がある。  なのに……彼は。 「だが僕は、ラテシアを見捨てはしない。これから君には側妃になってもらうよ」  私のため。  そんな建前で……側妃へと下げる宣言をするのだ。    このような侮辱、恥を受けてなお……正妃を求めて抗議するか?  否。  そのような恥を晒す気は無い。 「承知いたしました。セリム陛下……私は側妃を受け入れます」  側妃を受けいれた私は、呼吸を挟まずに言葉を続ける。  今しがた決めた、たった一つの決意を込めて。 「ですが陛下。私はもう貴方を支える気はありません」  これから私は、『捨てられた妃』という汚名でなく、彼を『捨てた妃』となるために。  華々しく、私の人生を謳歌しよう。  全ては、廃妃となるために。    ◇◇◇  設定はゆるめです。  読んでくださると嬉しいです!

鋼月の軌跡

チョコレ
SF
月が目覚め、地球が揺れる─廃機で挑む熱狂のロボットバトル! 未知の鉱物ルナリウムがもたらした月面開発とムーンギアバトル。廃棄された機体を修復した少年が、謎の少女ルナと出会い、世界を揺るがす戦いへと挑む近未来SFロボットアクション!

Koruseit world online〜魔力特化した私は体力10しかありません。なので幻術使ってどうにかしたいと思います〜

ゆうらしあ
SF
それは、あらゆる生物と心通わせるVRゲーム。その名もKoruseit world online。 都内に住む29歳OLの四月一日 春(わたぬき はる)は、ブラック企業で仕事をしており、彼氏も出来ず、不毛な毎日を送っていた。 ある時電話で弟から、面白そうなゲームがある!癒しとか求めてるねーちゃんにぴったり!と言われ電話をぶち切った私は、そのゲームを衝動買い。 後悔したものの、『生きる為に何をする?限定された時間で何をする?癒しと刺激を貴方に。』というパッケージに気持ちはぶち上がり! よし、やってみるか。 私の退屈な日常に少しでも癒しと刺激をくれ。 やがて『幻想姫』と呼ばれる様になり、敬われ、恐れられる、そんなゲームライフが今始まる。

処理中です...