魔法刑事たちの事件簿R(リターンズ)

アンジェロ岩井

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満月の夜の殺人鬼編

困難に敷き詰められし道ーその⑩

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二階堂は無防備にも廊下の中で転がる聡子に擬似惑星を作り出し、小さな惑星を聡子に向かって行くように指示を出す。
孝太郎は慌てて聡子の元に駆け寄るが、間に合いそうにもない。孝太郎は後に続くであろう惨劇を予想し、咄嗟に目を瞑ったが、大きな電気の音が聞こえ、その場から立ち去っていく音が聞こえる。
孝太郎が恐る恐る目を開くと、そこには刈谷浩輔が荒い息を弾ませながら、雷撃を放っていたのだった。
二階堂の視線が聡子から浩輔に映っていく。
「キミは勇敢な少年だ。私は勇敢な子供が好きでね。以前、コーサ・ノストラの男から少年を愛する気持ちを教わった事がある。坊や、キミは可愛らしい少年だ。まるで、人を癒すために生まれてきた子猫のようだ。少年、ロンバルディア王国に行きたくはないか?落ち目の公爵家ボルジア家と対立する家が日本進出を狙っていてね。その時に献金を我が党が受け取る話はもうしたよね?」
浩輔は冷たい視線を向け、二階堂の問い掛けに対し無言を貫く。
二階堂は少年のささやかな抵抗も意に返す事はなく、得意気な顔で不愉快な演説を続けていく。
「その際の手土産にキミのような美しい少年を向こうの合唱団に売り渡すんだよ。キミは本とかで読んで知らないか?声変わり前ばかりの少年で構成された少年団の事を。進出先の日本からも是非とも美少年を入れたと言う願望が得意先の方からあってね、それを行えば、我が党に関する献金を増やしてくれると仰られているんだよ。だから、この場でロンバルディア王国に行くと答えてくれたら、キミとキミの美しい親友だけは助けてやるよ。悪く無い条件だろ?」
浩輔は自身の頭の中でかつて読んだ娯楽小説の中にあった美しい少年と皇帝が純愛の末に駆け落ちをしたと言う話を思い出す。
浩輔は頭の中で考え、見知らぬ王国の合唱団に入団し、自由と友達との楽しい時間が奪われる事は嫌だと二階堂に向かって叫び返す。
「そうか……なら、しょうがないな、ここで友人と一緒に死ぬといいッ!」
二階堂は擬似惑星を浩輔に向かって繰り出していく。
浩輔は自分の体の周りに小さな雷撃を次々に作り出し、二階堂の作り出した擬似惑星を壊していく。
二階堂はフンと鼻を鳴らし、浩輔に向かって刃を作り出し、浩輔の体を貫くように命令を出す。
浩輔の着ていた黒色の学ランの腕や腹に無数の切り傷が付着していく。
浩輔は両腕を顔の前に組み、自分の顔と胸に当たる事だけは阻止した。
浩輔は自分の体を見つめ直す。顔も心臓も無事であったが、浩輔の服と腕はボロボロだ。特に両腕の服は多くの切り傷が付き、彼の皮膚が露出している事に気付く。
浩輔は小さな雷撃を次々と放っていくが、二階堂は小さな擬似惑星を作り出したり、例の突風を操ったりして浩輔の雷撃を弾いていく。
浩輔の雷が校舎のあちこちに当たっていく。
顔を冷や汗で全身を濡らしている浩輔に対し、二階堂は上着のポケットに手を突っ込んだまま微動だにしない。
二階堂は両手を大きく広げて、浩輔に向かって人差し指を左右に動かしながら、囁くような優しい声で言う。
「少年……キミにはもう無理だろうね。冷や汗で顔を濡らしていちゃあ、勝ち目はないよ。大人しく合唱団に入ると言えばいいのに」
「……お断りだ。ぼくはおもちゃになるつもりもなければ、お前の献金のためにロンバルディア王国に行くつもりもないッ!お前を倒し、仲間と一緒に家に帰るんだッ!」
ギュッと唇を結ぶ浩輔の言葉に二階堂は僅かに片眉を動かす。
二階堂はもう一度一階全体に刃を振らせようと両手を天井に掲げた時に、孝太郎が動き、右手の拳を二階堂の右頬に振るう。
二階堂は孝太郎の不意打ちのために強く頬を打たれ、暗い廊下の中に倒れ込む。
二階堂がよろめきながら立ち上がると、孝太郎が武器保存ウェポン・セーブから取り出したと思われる6連発式のリボルバーを取り出し、倒れる幹事長に向かって銃口を突き付けていた。
「二階堂俊博……お前を殺人の容疑で逮捕する……」
二階堂は孝太郎の逮捕宣告にも従わず、孝太郎が眉を動かすよりも早く、擬似惑星を作り出し、孝太郎にそれを向けていく。
孝太郎は僅かに片眉を動かしたが、迷う事なくそれを拳銃で撃ち抜く。
銃弾の衝撃を受けた惑星を基準にした刃は勢いを失い地面に落下していく。
孝太郎は改めて二階堂に銃を構え直したが、一瞬の隙が生じたのが間違っていたのだろう。
二階堂は武器保存ウェポン・セーブから取り出したと思われる携帯用のショットガンを右手に持ち、鋭く光る銃口を孝太郎に向ける。
「銃を持っての睨み合いに変貌するとは……こんな事なら、最初から銃を使うんだったな」
「……。過ぎた事を悔いても仕方がないだろ?どちらが先に撃つかで勝敗は決するだろう」
二階堂は孝太郎の言葉に対し、口元を右端に大きく吊り上げた。
彼からすれば、当たろうが当たるまいがこの先の結末は変わらないと見たのだ。
二階堂は狂気染みた顔で大きく笑い、孝太郎に向けてショットガンを放つ。
二階堂がショットガンの引き金を引く際に、よろけてしまったために僅かに軌道が逸れてしまった事が功を奏したのだろう。
二階堂の弾丸は孝太郎の背後の地面をえぐっただけで済んだのだった。
対して孝太郎の弾丸も事態の進展に大きく影響したとは言えないだろう。
殆ど同時に発砲したと思われる銃弾は二階堂の脚をを僅かにかすめ、地面に直撃しただけで済んだのだから。
刑事と殺人鬼が互いに銃を構えて睨み合う。
孝太郎は歯を噛み締めている事に対し、二階堂は余裕の笑みを崩そうとはしない。
二階堂がもう一発の弾丸を放とうとした時にだ、浩輔が二階堂に向けて小さな雷撃を放つ。
二階堂は咄嗟に刃の放たれる突風を出す事によって浩輔の魔法を弾く。
二階堂は気を抜いたのか、ここで突風を解除する。
と、ここで孝太郎は二階堂の体が無防備になった事に気付く。
孝太郎は予想した。二階堂が例の防御壁を一旦解除すると、即座には同じような防御壁を張れないのではないかと。
孝太郎は弱点を狙い、二階堂の脚に向けて狙いを定める。
孝太郎は躊躇う事なく引き金を引く。
二階堂の脚から一匹の赤い蛇が姿を見せ、二階堂は小さな悲鳴を上げて地面に倒れる。手に持っていた携帯型のショットガンが地面に落ちる音が聞こえる。
孝太郎は脚を抑えて小さな息を吐く、二階堂に向けてもう一度銃口を向ける。
孝太郎は顔を顰める二階堂を冷たい視線で見下ろしていた。
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