魔法刑事たちの事件簿R(リターンズ)

アンジェロ岩井

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満月の夜の殺人鬼編

困難に敷き詰められし道ーその⑨

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二階堂は起爆装置を取り出した全員の反応を面白おかしく感じたのだろう。甲高い声で爆弾の説明を始めていく。
「フフフフフフフフ、こいつは高性能でね。私の指がこいつのスイッチを押すだけで、キミ達は全員あの世送りだッ!」
二階堂の虚勢を張った声にも明らかに怯んでいると思われる様子にも何人かは足が竦んでいる。余程、その爆弾が恐ろしいらしい。
二階堂は自分の周りを包囲する刑事や中学生達に爆弾の起爆装置を見せ、隙を作っていく。
「どうだ……?キミ達だってまだ死にたくはないだろう?私を通せば、キミたちは死なずに済むんだぞ……道を開けろ」
二階堂は浩輔と聡子を乱暴に突き飛ばしてから、階段に向かおうとする。二階堂の靴の足音が徐々に階段に向かい、仕舞いには階段へと足を踏み入れようとしていた。二階堂が階段に足を踏み入れたその時だった。小さな鎧を着た兵士達が飛び出し、二階堂の起爆装置を持っていた右手を襲う。
二階堂は咄嗟の攻撃のために防ぐ暇もなかったのだろう。悪名高き殺人鬼の手から起爆装置が廊下に落ちていく。
全員が慌てて起爆装置に手を伸ばす。誰もが間に合わないだろうと思っていた矢先に老いたと思われる嗄れた手が起爆装置を掴み取る。
寸前の所で起爆装置を手に掴んだのは小田切士郎。二階堂追及の証拠と証言を提示したベテランの刑事であった。
二階堂は再び窮地に追いやられてしまう。周りには敵ばかり、万事休すかと思われたその時だ。二階堂の頭脳の中に咄嗟に魔法のような閃きが走った。
彼の使用する魔法は無数の刃である、当然その刃の中には大小様々な刃が存在している。
二階堂は星の特徴を思い浮かべる。惑星と衛星の関係だ。大抵の大きな惑星の周りには衛星が回っている事が確認されている筈だ。地球にしろ土星に木星にしろ例外はない。
ならば、自分自身の魔法を惑星のように見立てれば、。二階堂はこの悪魔のような考えに取り憑かれ、試す事にした。
二階堂は両手を上げ、降伏する真似をした。
階段から孝太郎の元へと向かって行く。
孝太郎の周りには白籠市のアンタッチャブルの面々と刈谷浩輔。
二階堂はこの忌々しい面々を吹き飛ばす最大のチャンスを得たと言えるだろう。
二階堂は孝太郎の慢心を作り出させるために、ワザとらしい言葉を口から発する。
「刑事さん……どうやら、私が間違っていたようだ……さぁ、辛いけれど一刻も早く私を逮捕してくれ」
孝太郎は二階堂のあまりの変貌ぶりに驚いたのだろう。彼はいぶしげに両眉を上げている。彼は手錠を取り出しながらも、こちらには寄って来ない。
二階堂は内心で歯軋りしながらも白々しい演技を続けていく。
「本当なんだよ!私は今までの自分が間違っていた事にようやく気付かされたんだッ!ここまで私を追い詰めたキミ達の手によってね!頼むよ!私に改心するチャンスを与えてくれ!」
二階堂は曇りのない眼差しで孝太郎を見つめる。孝太郎は刑事としての責務に駆られたのか、はたまたこんな風に反省する人間には情けをかけるべきだと判断したのだろうか。
手錠をかける寄るべく、近付いたが、孝太郎が手錠をかけるようとした時に聡子が大きな声で叫ぶ。
同時に二階堂は両手を空中に掲げ、孝太郎と自分の目の前に周りに日本刀のような刃と小型のナイフの刃のような小さな刃によって構成された塊を作り出す。
二階堂は好機とばかりに次々に塊を作り出していく。
自分は暗い廊下の中心にいた。自分から右側の位置には孝太郎と二人の女刑事の姿。左側には刈谷浩輔と勝気な青い髪の女刑事の姿。更にその背後には浩輔のお友達やらと小田切士郎の姿。
二階堂はこの場で全員を皆殺しにするチャンスを得られたとばかりに次々に塊を作り出していく。
孝太郎は目の前の塊を駆除してはいくが、その度に自身の右手を振るわなければならない。
二階堂はその間中も塊を作り出している。とても追い付くものではないだろう。
孝太郎は背後で姉が計算係の手を引っ張って廊下を駆け、階段を目指している事に気付く。
孝太郎は左側を見遣る。聡子は軽機関銃で大きな刃を撃ち抜く事によって破壊していき、浩輔は多くの塊を自身の雷撃を放つ事によって破壊していっている。
二階堂は塊を作り出すのと同時並行し、一階全体に刃を飛ばしていく。
幸にして二階堂の刃は誰の急所に当たる事も無かったのだが、全員が階段の前に足止めされてしまう。
孝太郎は意を結し、二階堂へと立ち向かって行くが、二階堂は自分が出るまでもないとばかりに例の擬似惑星を作り出し、孝太郎を足止めする。
それから、ワイヤーのような糸から剣を精製し、その剣を赤くて長い蛇のような舌で舐め回してから、聡子を見つめる。
「さてと……勝気なお嬢さんマドモアゼル……キミに選択を与えよう」
日本刀を異空間の武器庫に仕舞い、代わりに軽機関銃で二階堂の新たな技術に対抗していた聡子に対し、二階堂は自らの作り出した剣を聡子の目の前に放り投げ、冷静な声で呟く。
「もし、私に従うのなら、私はキミの命だけは助けてやろう。竜堂寺京子はこの校舎で爆死したと証言してやる。そして、キミのお父上に迷惑の関わらないように、だと告げておこうか……だが、あくまでも戦うと言うのなら、その剣を手に取りたまえ、お嬢さんマドモアゼル……私はどちらでも構わないんだよ。早く選びたまえ」
二階堂に問われた聡子の手が震えるている事に気付く。孝太郎は聡子の動向を固唾を呑んで見守る。
孝太郎が何度目かの冷や汗をかいた時に、聡子は目をカッと見開き、剣を手に二階堂へと立ち向かっていく。
二階堂は細い目を向けながら、聡子の検討結果に微笑で答えた。
「ハッハッ、やはり、そっちの道を選んだのかね?お嬢さんマドモアゼル!!面白いッ!」
二階堂は聡子が上段から放つ剣を自らの剣を盾に防ぐ。
大振りの剣と大振りの剣が激しい音を立てながら、火花を散らし合う。
聡子は唸り声を上げ、左右に大きく剣を振り上げていくが、二階堂はその剣を冷静に突き合わせ、回避していく。
二階堂はこんな状況にも関わらず、満面の笑みを浮かべながら、
「いいぞ!まるで中世における決闘裁判時の騎士のような気迫だッ!私は実際に見た事はないが、彼らが感じたのも私と同じ気持ちを味わったんだろうなッ!」
二階堂は最後の言葉を吐くのと同時に、大きく剣を振り上げ、聡子ごと聡子の剣劇を押し返す。
聡子は勢いのために黒い廊下の中に体をぶつけてしまう。
二階堂はその様子を見て唇を舐め回す。まるで、アダムとイブを唆す蛇のように邪悪な笑顔で。
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