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満月の夜の殺人鬼編

ゲームの始まり

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「やっぱり、おかしいよ!だって、あの人、昨日までわたしと話してたんだよ!ケーキだって買ったんだし……その人がなんでッ!」
涙声で声と顔を曇らせながら、小川宏子は放課後の校門の前で、周りの仲間達に向かって演説を繰り返す。だが、イレギュラーズの面々は顔を背けるばかり。宏子がもう一度ヒステリーを起こそうとした時だ。暴れようとする彼女の右腕を浩輔の右手が抑える。
「やめなよ、分かっているんでしょ?そんな事件に首を突っ込む事なんてないんだよ。きみが無念を晴らしたい気持ちはよく分かるよ。よく、その人の店で洋菓子を買っていたんでしょ?きみのお父さんとも知り合いなんだよね?でも、ぼくらが捜査に首を突っ込んだとしても、何になるのさ、警察に厄介払いされるだけだよ」
宏子は周りの仲間達を見つめる。彼らの目は全員の目に諦めの色が浮かんでいた。
宏子はそんな様子に苛立ちを覚えたのか、拳を握り締めながら校門へと向かって行く。浩輔が静止の声を上げようとした所に彼の鞄の中に入ってあった携帯端末の電子音が鳴り響く。この電子音のために、小川宏子は校門を出ずに済んだのだが、この一本の電子音は彼らにとってのより一層多くの不幸を呼び込む事になったのである。浩輔はそんな事実など知る由もない。黙って端末を操作し、自身の端末に送られた内容を読む。
端末に送られたメールを読むうちに、浩輔の顔の筋肉が強張っていくのを負け組倶楽部イレギュラーズの面々にも理解できた。言い換えれば、浩輔の顔色が変わるくらい衝撃的なメールであったと言う事であろう。
メンバーの中で、淳太が代表して手を挙げて、自分達のリーダーに質問をする。
淳太は眉を顰めながら尋ねる。
「一体、どんなメールが送られてきたの?」
淳太の質問に我らがリーダーは甲高い声で答える。
「殺人鬼からのメールだよッ!あいつは昨日の事件で殺された優奈さんの結婚指輪を預かっているから、それをぼくらに取りに来いって言ったんだッ!」
浩輔は体全体に極度の震えを起こしながら叫ぶ。浩輔の発した声は学校全体を震わせかねない程の大きな声であった。それだけ、彼は怒りの感情に心を支配されていたと言う事だろう。
小川宏子の中の血流が極限まで増加していくのが感じられた。
「許せないッ!殺人鬼は絶対にあたしの手で捕まえる!だって、優奈さんは……」
「キミのお父さんの友達なんでしょ?さっきはあんな事を言ったけれど、もし、キミの立場がぼくの立場だったら、理性なんて下らない足枷に縛られる事なく、事件の報告を聞いた時に、キミと同じ行動を取ってたと思うよ」
浩輔の言葉には重みがあった。彼は真っ直ぐに全員の視線を見つめ、
「今回の事件はぼくを挑発するために、送られて来たんだッ!この卑劣な殺人鬼をぼくは許しはしないッ!」
浩輔の言葉に夕陽の中で明るく光る少年の魔法師達は首を縦に動かす。
「ぼくらの街で勝手な事をし、あまつさえ、あの様な行動を取る異常者にこんな事をする奴らを放っておける訳がないッ!ぼくは行くよ……頭のおかしな殺人鬼を絶対に捕らえるためにッ!」
浩輔の言葉に負け犬倶楽部イレギュラーズの面々も戦意を鼓舞させられたらしく、拳を握り締め、自分達にとってのリーダーである浩輔に付いて、校門を堂々と出て行く。





中村孝太郎は刈谷浩輔からのメールを受け取り、自分の拳を強く握り締める。
自分に怒りが溢れてくる。同時に、自分のみならず自分の大切な友人を狙う正体不明の殺人鬼にも……。
孝太郎は浩輔からのメールに関わるなとメールを打ち、それから、自分が呼び出された筈の白籠中央図書館を眺める。
孝太郎は警察手帳を取り出し、受付の機械にそれを照合させてから、メールに書いてある本を探す。メールが指定していたのは印刷書籍のコーナー。
一冊一冊の本を手にし、次々にページをめくっていく。ページをパラパラと言う音を立てる程、早くめくる中、聡子が本の中に隠されていたと思われるルビーのネックレスと一枚のメモを手にしていた。孝太郎は聡子からルビーのネックレスとメモを受け取る。メモの内容はここからは指定する場所に手掛かりとヒントを置くと言う物であった。
孝太郎はノートやら本やらに載っている遊び紙の切れ端のような小さなメモを読む。メモの内容は次の行き先を告げる物であった。メモの内容はかつての東海林会の屋敷の地下に広がっていた地下水道に行けと記されていた。
孝太郎はメモを背広の上ポケットに仕舞うと、仲間に行き先を告げ、孝太郎が三年間の昏睡の後に初めて捕らえた大物、岡田武人のかつての屋敷へと向かう。
車の中で、運転のために神経を尖らせている孝太郎を除く全員で今回の事件について意見を交わし合う。
「やっぱり、今回の事件の犯人は異常者だよ。ひょっとしたら、頭から足の爪先まで『イカれ』って言う言葉に支配されてんのかもな」
「いいえ、違うと思うわ、犯人は自分を頭の良い男だと思い込んでいるんでしょうね、この手の異常者にはよくある事だわ、昔の事件にも警察を挑発して、殺人を続けるなんて言うおかしな事件があったけれど、事件を起こしたのは単なる精神障害者、ちっとも頭の良い人じゃないわ」
「そうですか?アメリカ合衆国の時代から、現在のユニオン帝国に至るまでに北アメリカ大陸で暴れたシリアルキラーの殆どは頭の良い人だと言われてますよ。よく、物語でもありますけれど、一見愛想の良くて素晴らしいと思える人が犯人だったりしますよね。わたしの考える限りでは、犯人も例に漏れず頭の良い人ですよ。きっと……」
白籠市のアンタッチャブルの中の計算係は自身のプロファイリングに絶対の自信を持っているらしい。きっと彼女は二人が話している間に、人差し指を顎の下に置いて、自分の考えを纏め上げていたのだろう。そんな事を考えながら、絵里子は明美に反対意見をぶつけていく。
「確かに、ユニオンじゃあそうかもしれないけれど、ここは日本よ!日本にそんな頭の良い異常者がいたかしら?」
「日本の犯罪史でも例外はきっと存在しますよ!今回がそうだと思います。この事件は恐らく俗に言う劇場型犯罪という奴でして、この事件を主導している人は絶対に頭の良い人に決まってます!そうでなければーー」
「そうでなければ、あんな手の込んだ場所に宝石とメモを隠したり、オレ達だけを巻き込んだりしない?そうだろ?」
赤信号のために一時停車した孝太郎が背後を振り向きながら問う。
そして、再び車の前を向き、車を発進させていく。孝太郎はハンドルを切りながら、
「恐らく、異常者の目的はオレ達の抹殺だろうな……何処かでオレ達を殺すつもりなのは間違いだろう」
「でも、さっきの場所ではーー」
「さっきの場所では何事もなかった?そう言いたいんだろ?姉貴?」
助手席の絵里子は首肯する。孝太郎は特に表情も見せずに、次の目的地に向かうための車を操作しながら言う。
「最初だけは特別と言う事かもしれん……テレビゲームでも最初の課題は優しかったりするだろ?犯人はそんな事を意識したのかもしれんな?」
孝太郎の推測に全員が目を閉じる。反対意見を思い浮かべるが、口から出てこない。そんな状況なのだろうか。
孝太郎は構う事なく、アクセルを踏み車を動かす。車は白籠市のかつてのボスの屋敷に向かって進んでいく。
孝太郎は皮肉めいたものを感じながら、車のハンドルを切っていく。もしかすれば、自分達は『運命』によって引き寄せられているのかもしれない。孝太郎は頭に浮かんだくだらない運命論をかなぐり捨て、運転に集中した。
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