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満月の夜の殺人鬼編

容疑者達の反撃!

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「間違いない!同志は警察によって殺されたんだッ!」
大きな声で小さなアパートの中で叫ぶのはパーマをかけた牛乳瓶の底のように太い眼鏡をかけた男性だ。彼はワザとらしい身振り手振りで、仲間に向かって自身の演説を振るう。
「同志は立派な男であった。警察の……権力の手によって殺されても尚、彼は我々の居場所を吐こうとはしなかったッ!痺れを切らした警察の手によって、彼は裁判無しに斬り殺されたのだッ!間違いないッ!或いは同志を拷問するための手段として日本刀を用いた所、彼が死んでしまったのかもしれないッ!我々は彼の意思を継ぎ、この国に革命の風をもたらさなければならないッ!」
パーマの男の言葉に同調し、部屋の中に集まる二人ばかりの男が拳を振り上げる。
「となれば、我々のやる事はたった一つだッ!彼にあのような死をもたらした警察に報復を行わなければならない!私はこの男こそが、同志を斬り殺したと睨んでいる!」
男は目の前に表示されたディスプレイを押し、中村孝太郎のボログラフを空中に映し出す。孝太郎の立体像を眺め、2人の同志が鼻息を荒くし、空中に出された立体像にありとあらゆる罵声を飛ばす。
彼らの罵声が最高潮に達した時に、彼が二人の仲間に手を出して、静止を命ずると、砂浜に押し寄せた波が戻っていくかのように興奮が引いていく。
「諸君!今夜は満月だッ!満月の夜程、報復にお誂え向きの夜はないだろう!何せ、携帯用の電気が不要なのだからなッ!月の光に紛れて、中村孝太郎を殺す!」
仲間達は歓声を上げていく。彼らは武器保存ウェポン・セーブからナイフやら違法に製造した爆弾やらを取り出し、空中に掲げていく。
「我々の当面の目的は中村孝太郎の抹殺だッ!行くぞ!同時諸君!」
パーマの男に導かれるままに、男達はアパートを後にし、白籠署に向かう。




真夜中の白籠市。そして、真夜中の道。多少、明かりが灯っているとはいえ、首都の郊外だと言うせいもあるのだろうか、いさかか暗い。そんな光と闇が半分ずつ支配しているような寂しい道に男の激昂した声が響き渡る。
「おかしいのは絶対に上司達の方だろう?どうして、小田切さんが悪い事になっちまうんだ。分かんねーよ」
柿谷淳一は頭をかきむしりながら、夜食を買いに行く孝太郎に同行していた。孝太郎は苦笑しながら、淳一の愚痴に答えた。淳一がもう一度頭をかきむしりながら、もう一度呪詛の言葉を叫ぼうとしている時だ。目の前に三人の男が現れた。
男達のリーダー格と思われるパーマの男は声を震わせながら、孝太郎をなじっていく。
「キミだな?我々の仲間を追い詰めた刑事と言うのは?警察の特権を悪用し、同志を殺すとは許せない……」
「確かに、お前達とは対立する間柄ではあるが、誓って言うが、殺したのは警察じゃあない、本当だ」
孝太郎の言葉は真実を物語っていたのだが、彼れらは聞く耳をもたないらしい。彼らは右手を向けて、それぞれの得意な魔法を放っていく。
まず、パーマの男の手から火の魔法が放出された。孝太郎は右手の魔法を使い、男の魔法を破壊していく。パーマの男はそれでは敵わないと踏んだのだろう、今度は両手にナイフを構えて孝太郎に向かって突っ込んでいく。
だが、男のナイフが孝太郎の体を貫くよりも前に、淳一の見えない刃が男の左脚を斬り、男に傷を負わせる。
淳一は得意そうな顔を浮かべて、
「一丁上がりー!それで、お前達はどうしたい?」
淳一はニヤついた笑顔を浮かべながら、他の二人を挑発する。二人は挑発に乗ってしまい、武器保存ウェポン・セーブから取り出したと思われる鉄パイプを振り回しながら、二人に向かっていく。
孝太郎は自分に振り下ろされようとしていた鉄パイプを頭を下げて回避し、男の腹にカウンターのパンチを喰らわせる。
男は悶絶し地面に蹲っていく。
もう一人の男が淳一に飛び掛かろうとする前に、彼は武器保存ウェポン・セーブから手作りの爆弾を取り出し、その場で爆破しようと目論む。
淳一は男が爆弾の安全ピンを抜かりよりも前に、自身の魔法である見えない刃をぶつける。右手に攻撃を喰らった男は悲鳴を上げて、その場で手を抑えて叫ぶ。
「なんでなんだよォォォォ~!!!ふざけるんじゃあないッ!オレは同志を殺した人間を同じ様に殺してやろうと思っていただけなのに……」
淳一は自分の異空間の武器庫の中に、爆弾を入れ、その場で不平不満を叫ぶテロリストに手錠を掛ける。
手錠を掛けられた男はその場で肩を落とし、自分自身の末路を悟る。
孝太郎は自分を襲った男ともう片方のリーダー格の男に手錠を掛け、満面の笑みを浮かべながら、
「ようやく、あいつの仲間を捕らえられたか……悪いが、署の方までご同行願うぜ」
孝太郎に連れ行かれる間、リーダー格の男は項垂れ続けていた。





「もう、お客さん来ないよね?太一?」
洋菓子店の店主にして夫である太一に優奈は問い掛ける。太一の返事は「ああ」と義務的な言葉を呟き、どうでも良さげな顔を浮かべながら、携帯端末の番組に神経を集中させていた。
それに不満を感じたのは、妻にして店員の優奈。優奈は夫の太一をなじり、罵倒し、ヒスリテリックに喚き散らしながら、大きく扉を開け、店を後にする。
優奈は真夜中の誰もいない閑静な住宅街の中を歩いていく。店の存在する閑静な住宅街は昼間もカラスのねぐらのような静かな場所であるため、夜に通るとなると、不気味さが増していく。まるで、絵画の中の怪しげな世界に巻き込まれたかのようだ。
優奈は太一との事を考えながら、街の中を歩く。少し歩けば気分も落ち着くと思われたが、気分は悪くなっていくばかり。最悪な気分を味わいながら、暗い街の中を歩いていると、背後から気配を感じ、優奈は動物的な本能に従い背後を振り向く。
そこには一人の男が立っていた。男は手に刃物のような物を持っていた。真夜中、月の光のみが支配する夜の闇の中で、彼女に身を防ぐ術はない。
優奈は慌ててその場から離れようと試みたが、男は優奈が駆け出すよりも早く、ナイフを構え、優奈に何度も執拗にナイフを突き刺す。男は血を浴びるたびにどうしようもない高揚感に満たされた。
やがて、全てが終わった際に、彼は血塗れの口元を歪めて、優奈の指から結婚指輪を奪い取り、着ていた背広のポケットにしまう。
男はニヤニヤと笑いながら、その場を去っていく。夜と静けさのみが支配する街の中に優奈の死体だけが取り残されていた。
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