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首都内乱編

新たなる東京都知事

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松中聡の死亡ならびに神楽坂伸彦の逮捕により、彼らは東京都知事の有力候補者の地位から追い出され、漁夫の利を得る形で自由共和党推薦候補である宮本宗次郎候補が東京都知事に就任した。宮本宗次郎は額から溢れた汗を拭いながら、テレビ局のインタビューに答えていた。
「勿論です。我々は白骨機動団のような過激な排外主義者どもは取り締まり、松中聡のような危険な連中から皆様方をお守りするように心掛けます!皆様、宮本都政にご期待ください!」
照れ臭そうに頬をかきながら、宮本都知事は都庁の会見室の中で頭を下げる。頭を下げる宮本の姿をカメラが捉えていた。
就任記者会見の気持ちが終わり、宮本はえんじ色のネクタイを改めて結び直す。それから、懐から手鏡を取り出し、彼自身の生涯最大の晴れ舞台に酔っていた。自分に酔う事が彼は好きだった。自己陶酔という酔いはある意味アルコールよりも体に効く。宮本は十分に「新・東京都知事」の姿を眺めてから、都知事室に入室する。都庁の都知事室の十六階の部屋の窓際に置かれた黒色の革張りの椅子。
これに座る事が宮本の長年の夢であった。宮本は子供のようにはしゃぐ気持ちを抑えきれずに、一気に革張りの椅子に体を埋める。これから、四年間はここが自分の仕事場なのだ。宮本が期待に目を輝かせていると、都知事室の扉が開く。
そこから、サメのように鋭い目を備えた怪しげな雰囲気を纏った黒いのスーツの男が入室した。彼はいつもの特徴らしく、公の場所以外ではネクタイを締めていない。彼は怪しげな雰囲気を身に纏ってはいたが、同時に町を歩けば十分に何人かの女性が振り向く程の美男子であるので、ノーネクタイのスーツ姿というは様になっていたとも言えるだろう。
同時に彼は若々しい顔立ちであったが、年齢は既に40代を超えている。誕生年から割り出していけば、今年で彼は48歳になっていた筈だ。宮本が慇懃な様子で男を眺めていると、男が口元を歪めて、
「さてと、きみだな?新しく東京都知事に就任したのは?」
美男子の言葉に宮本は思わずに席から立ち上がり、大きな声で返事を返す。
美男子は顎の下をさすりながら、相手を一瞥する。一通りの人間観察をすると、彼は宮本都知事から目を離し、小さく口元を吊り上げる。
その様子に宮本は不快に感じたのだろう。片眉を微かに動かし、
「あの、二階堂幹事長……幾らなんでも失礼でありませんか?私を見て、クスクスと笑うなんて……」
二階堂はその言葉に笑顔を引っ込め、氷のように冷たい顔を浮かべて、
「それは失礼したな、宮本都知事……だが、言っておくぞ、あの有力候補どもがどうして互いに争ったのか、そして、究明党と日本結集党の二党が急いで、狂った計画を立案したのかは、何故なのか分かっているんだろうな?」
二階堂の言葉に宮本は堪らずに肩を強張らせてしまう。加えて、首筋の後ろを汗が流れていく。全てを察したらしい宮本に二階堂は笑顔を見せ、
「何故かは分かっているらしいな?その通りだ。私の部下が奴らに情報を流し、互いが互いを憎み合わせたのだよ。特に神楽坂と松中はオレの意図しない所で十分に働いてくれたよ。まさか、奴らとて自分達のやっている事が落ち目の宮本宗次郎を東京都知事に押し上げる事だったなんて、考えもしなかっただろうなッ!」
そう言って二階堂は再び大きな声で笑い出す。つまり、この不利と思われた東京都知事選挙自体を彼は覆し得たのだろう。彼は「漁夫の利」を得る作戦に取って出たのだ。操りやすい悪党を意図せぬ所で手駒にとって……。
宮本宗次郎は二階堂の視線を改めて見つめた。彼の瞳に映るのは東京都知事の椅子。つまり、自分は自由共和党の操り人形でしか無いのだ。宮本宗次郎は何もかも諦めたかのような虚な視線を浮かべながら、自分の憧れであった都知事の椅子を眺めた。あれ程、嬉しかった椅子が今では自分というマリオネットを上手く見せるための劇場にしか見えない。
宮本はこれまでの考えを思い返しながら、大きく溜息を吐く。




神楽坂伸彦と松中聡の両名が起こした事件から三日ほどの時間が経ってから、彼らは改めて事件を再検証していたのだが、何処かに変な所があったのは分かっていたのだろう。彼らは熱心に空中に表示されたキーボードを押していた。再検証を始めてから、二時間ほどの時間が経過してから、チームの計算係の倉本明美がいきなり席から立ち上がり、
「やっぱり、何か変ですよ!」
倉本明美は署のパソコンを操作しながら叫ぶ。
「捜査後に彼らの党本部から党主体のパソコンを押収したんですけれど、そのどちらにも怪しげなメールを開けた後があったんです」
明美は空中に表示されたディスプレイを押し、究明党と日本結集党のオフィスに備え付けられた手紙を映し出す。
どちらのパソコンにも謎の送り主から送られた思われる手紙を開封した後があった。
孝太郎は口に付けていた缶コーヒーを口から離し、目の前に表示されたデータに目をやる。
確かに、データには匿名の誰かが手紙を送った後はあった。だが、誰なのかは不明らしい。
孝太郎は真剣な顔つきでデータを眺める明美に強張らせた肩を落とすように指示を出す。
それから、姉が代わりに明美の触っていたディスプレイを動かし、目の前のデータの情報を更に出していく。
だが、どの情報にも彼らが求める匿名の情報提供者の情報は出てこない。
考えが思い浮かばずに、溜息を吐いていると、突然、オフィスのデスクに体を埋めていた明美が起き上がり、
「分かりましたよ!いいですか、よく聞いてください……これは恐らく、宇宙究明学会ならびに究明党の自己工作なのでは……」
「自己工作?しかも、なんで究明党が?」
「聡子ちゃん、わたしの考えを一応話すとね、まず、松中聡が色々な政党に嫌がらせをした後に、最後に残った有力候補の日本結集党を潰すために、あんなテロを唆す手紙を送ったんじゃないかな?それで、自分達はその隙を突いて、伊勢皇国を襲うテロに出る……どうかな?わたしの推理?」
明美の推理に聡子は目を輝かせていた。
「すげぇよ!あんたシャーロック・ホームズみたいだなッ!」
聡子が更なる推理を聞こうとした時に、孝太郎ははしゃぐ二人に険しい視線を向け、
「……違うな、オレが考えるにあたって、この二党にテロを唆す手紙を送ったのは、恐らく、二階堂俊博だろう、あの狡猾な男の事だ。大方、自分達の手を汚さずに、敵同士を争わせようとしたんだ。で、神楽坂と松中の二人はまんまとそれに乗せられた……そういう所だろう」
孝太郎の推理に明美は反論しない。確かに、自分の推理よりも余程、筋が通っている。この一連の事件で何処よりも得をしたのは、自分達の推薦候補を東京都知事に押し出した自由共和党なのだから……。四人はこの事件の黒幕が誰かの確信を得ていた。
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