魔法刑事たちの事件簿R(リターンズ)

アンジェロ岩井

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首都内乱編

亡霊による亡霊のための幻想ーその③

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伸彦は目の前の相手を睨み付けたが、寛大な笑顔を向け、
「そう言うな、我々がこれから作る強い日本にお前のような人間は必要なんだ。お前がどうやって、我々に追い付いたのかは知らんが、オレはお前が必要だ」
赤銅色の肌を持つ端正な顔立ちの青年は伸彦の言葉に顔を背け、伸彦の顔を睨み付けながら、
「くどいな、白籠市をひいては日本の治安を守る人間でありながら、そんな取り引きには乗れないな、それに何処の世界に暴力団と手を組んで、銃を貰うような組織に入れるんだ?」
自分達を追ってきた刑事を睨み付ける。伸彦の怒りに燃える視線が孝太郎に突き刺さる。だが、孝太郎はそんな中で無言の表情を貫く。
伸彦はその様子に苛立ったのか、手に持っていた拳銃を肩を撃たれて、その場に蹲る正人に向かって放つ。奴隷幸福論者は皮肉な事にあれだけ尽くした自らの主人の手によって処刑されたのだった。
孝太郎は菅谷正人を拘置所に引っ張る手間を省いてくれた事に感謝を示したい気分だった。だが、伸彦は次に孝太郎に向かって銃を構える。孝太郎も銃を構え直し、殆ど同時に撃ち合う。銃声と銃声が響き合う。同時に護送車の囚人や看守達の悲鳴が上がる。この決闘の結果はどちらの銃弾も相手を撃ち抜いてはいない。互いの銃弾が護送車の床を互いに食い込む。要するに、二人が放った銃弾は互いに身を交わしたことによって、二人の足元を撃ち抜いたのだった。
この事実を見た、伸彦は銃の勝負では拉致があかないと考えたのか、銃を左手に持ち替え、右手の掌から鎖を出し、孝太郎に向かって放つ。
孝太郎も銃を左手に持ち替え、魔法を使用するために右手の掌を開き、伸彦の鎖を壊す。鎖の先端が壊された伸彦は鎖を引っ込め、もう一度孝太郎に向かって銃を構え直す。孝太郎は銃口が自分自身の目の前に下げられると、伸彦の目の前に駆け出し、伸彦の動揺を誘う事によって、彼の引き金を引くタイミングを奪う。孝太郎は右手の掌を拳に変えて、伸彦の頬を殴り付けた。伸彦の体が最前列の運転席にまで飛んでいく。
運転席に体が飛んでいった伸彦に向かって孝太郎は銃を突き付けた。
「お前の狂った野望も終わりだ。後は拘置所や刑務所の臭い飯でも食べながら、日本を軍事国家にする妄想でもしてるんだな」
孝太郎の言葉に伸彦は狂ったように笑い出す。まるで、理性という名の鎖が外れたかのように。伸彦は孝太郎が止めるよりも前に、運転席の看守を撃ち殺す。頭部の側面から血を流した男の体が側に倒れている伸彦の元へと落ちていく。
そして、突然の事実にコントロールを失った護送車は電柱に衝突してしまう。凄まじい衝撃が孝太郎を、いや、この護送車に同乗していた人々を襲う。大きな地震が訪れたかのような揺れは孝太郎のみならず、他の人々にもダメージを与えたのだろう。護送車の長椅子に座っていた未決囚達が一斉に項垂れていた。それだけではない、彼らを脅していた白骨起動団の団員達も同じように地面に倒れていた。
だが、目の前の伸彦だけは平然と立ち上がり、衝撃のために倒れていた孝太郎の頬を強く叩く。
「これはさっきの分のお返しだ。小僧……よくも、オレを殴りやがったな、未来の日本大統領を」
孝太郎は口から出た血を右手で拭き取りながら、目の前の相手に尋ねる。
「何故だ、お前はどうしてあれ程の事があって、無事なんだッ!」
孝太郎の問い掛けに伸彦は先程まで自分が孝太郎に殴り飛ばされ、もたれかかっていた運転席の近くを親指で指差す。
孝太郎が運転席の近くを見ると、目を見開いてしまう。何故ならば、伸彦の倒れていた部分に運転手の死体がもたれかかっていたから。
孝太郎はこの瞬間に理解した。神楽坂伸彦が運転手の死体をクッションに事故の衝撃を防いだのだと。
伸彦は呆気に取られてしまったらしい、孝太郎の体を鎖で縛り付けた。
孝太郎は必死に腕を解こうとするが、鎖は孝太郎の右腕を拘束したまま離さない。
「どうだ?白骨機動団は今や壊滅に近い状態になったが、必ずやオレは成し遂げる。日本の大統領になってみせると」
孝太郎は怒りの炎に燃えた瞳を伸彦に向けながら、
「ふざけるんじゃあない!お前はこんな事態になっても、まだ大統領の地位を求め続けるのか!?」
「そうだよ!そうでなけりゃあ、ここに倒れている鹿が報われんだろ?」
伸彦の口調には遥か下の人間を見下すような侮蔑の意が込められていた。
彼らが事故の衝撃で護送車の角で頭をぶつけ、気絶しているのがせめてもの救いと言うべきだろうか。孝太郎は銃を構え直えながら考えた。
伸彦は孝太郎の驚いた顔を見て悦に浸ったのだろうか、得意そうに笑いながら、
「そうだッ!お前に白骨機動団の名前の由来を教えていなかったな?白骨の名前の由来はオレの骨として髄を尽くして働けと言う意味から取ったと思ってるんだ。この侍気取り共には日本人の骨と言う意味だと教えたがな、機動団は機動隊のように迅速にオレの足として動くようにと言う意味から名付けんだぜ、もっとも、侍を自称するアホ共は自分達が機動隊のように素早く動けると言う意味だと教えたがな」
「世間でもそう認識しているのは、あんたの教えを団員達が必死こいてアピールさせていたからか?」
伸彦は首肯する。
「お前が団員に厳しかった理由は維新の国士を気取りたかったからじゃない、手足……いや、自分の命じるままに動く骨が、ヘマをやらかして、自分の保身を危うくするのが嫌だったからなんだろ?」
「流石は多くの凶悪犯に法の裁きを受けさせた名刑事さんだッ!その通り、その通りさッ!誰だってゲームのキャラが思うように動かなけりゃあ、コントローラーを殴り付けたりするだろ?」
孝太郎は自覚した。この男が部下を何とも思っていないと言う事を。そして、彼が大統領になろうとするのも、単に自分がいい思いをしたいと言う思いでしかないのだ。孝太郎は両手で銃を構えて伸彦に尋ねる。
「成る程な、白骨機動団を名乗るは自分が利用されている事も知らずに、神楽坂を王様にするために、牛馬のように働いていたのか……なんとも、馬鹿な連中だ」
「全くだ。『赤ずきんちゃん』で狼に騙されて、飲み込まれる赤ずきんちゃんみたいだよな?」
伸彦は舌を出して笑ってみせる。その顔には彼が口を酸っぱくして主張する侍やら武士やらの威厳ある顔とは最も遠かった。
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