魔法刑事たちの事件簿R(リターンズ)

アンジェロ岩井

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首都内乱編

亡霊による亡霊のための幻想ーその②

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伸彦の運転する車に大きな振動が覆い被さる。車が大きく揺れていく。伸彦はハンドルを切り、車が横転したり、止まってしまうと言う最悪の事態を防ぐ。伸彦は自分たちを追い掛けられない警察たちを嘲笑う。
「奴らも我々の力を思い知ったであろう!白骨機動団の力は永遠であるッ!行くぞ!我々の目的は大統領官邸だッ!」
伸彦の言葉に白骨機動団の同志たちが銃を掲げ、団長に向かって忠誠を叫ぶ。
「神楽坂団長万歳!あなたこそが真の愛国者だッ!」
伸彦に向かって最も大きな忠誠を叫ぶ男こそが奴隷幸福論を唱える菅谷正人であった。正人は鼻の穴を見せ、歯を剥き出しにし、熱烈な忠誠を叫ぶ。
「今こそ、我々の手で政権を握り、日本に奴隷制度を導入し、忌まわしきアニメやマンガを一掃するのです!そのために、私はあなたに付いていきます!万歳!万歳!」
護送されていた囚人たちや看守は正人の言葉に眉を顰めていた。気分が悪くなった人間もいたかもしれない。それだけ、彼の主張は白骨機動団の主張は世間とズレていたのだ。
その時に年老いた囚人が喉をかきむしり、その場に倒れ込む。
白骨機動団の団員に銃を突きつけられていた若い看守はその様子を見て、顔を真っ青にして叫ぶ。
「その人は心臓に持病を持っているんだッ!薬を呑ませてくれ!頼む、命に関わるんだッ!」
その言葉に骸骨の仮面を被った男は相手の頬を強く叩く。
「馬鹿者がッ!何故、我々が犯罪者を助けなければならん!日本と言う国に犯罪者は不要だッ!」
若い看守は両手をすり合わせて懇願する。
「頼む!あの人を追い詰めたのは、貧困なんだッ!追い詰められた年寄りは僅か宿と食事を得るために、ワザと罪を犯してしまうんだッ!オレは看守の仕事をして、分かったんだッ!頼む!どうか、どうか……」
だが、男の懇願は熱烈な侍には伝わらなかったらしい。弱者を守るべき侍は若い看守の男の額に銃を突き付け、
「黙らないかッ!それ以上、犯罪者を擁護するようならば、オレの手で貴様の口を永遠に閉ざしてやるぞ!」
「……。構うもんかッ!だが、どうしても撃つのなら、条件を提示するぞ、その人を助けてやってくれ!頼む!」
と、ここで護送車が一度停止する。白骨機動団の団員と若い看守の男が背後を振り向くと、そこにはこの事件の中心人物である神楽坂伸彦が立っていた。
伸彦は口元を右端に吊り上げ、
「気に入ったぞ、そこまで人を庇い守り、死を恐れない姿勢はまさに『武士』に相応しい。どうだ?貴様さえ良ければ、白骨機動団に入団せんか?」
若い看守の男は澄んだ瞳を険しく向け、
「誰が貴様らのような狂った集団なんぞに入るものか……」
若い看守の男は伸彦を睨み続けていたが、伸彦は笑顔を浮かべ続けまま会話を続けていく。
「そう言うな、貴様のような男こそオレがこれから築く新たなる国家に相応しい……汚らわしいマンガやアニメを規制し、奴隷を持った強い国を築くためのな……」
「馬鹿なッ!イカれてる!」
だが、伸彦は激昂したりはしない。むしろ、他の団員が殴り掛かろうとするのを必死に止める。
彼は口元を歪めながら、
「オレはイカれているとは思わんがね、汚らわしい物を排除し、良い物を導入して、国家を発展させる、それこそが白骨機動団成立の真の目的たらんものなのだよ!」
若い看守は伸彦の主張に惑わされる事なく、必死に自分の言葉を紡ぐ。
「亡霊だ……お前は亡霊だ「昭和」と言う300年も昔の時代から現れた亡霊だ……表現の自由を無くし、かつて、世界の覇権を握っていた自由国家が犯した過ちを23世紀の時代にこの時代に導入させようとする「亡霊」なんだッ!貴様のやろうとしている事は三年前の昌原道明が行おうとした事とーー」
若い勇者の演説を繰り広げようとした際に、彼の額は撃ち抜かれてしまう。と、同時に彼が助けようとした老齢の男も凶弾に倒れてしまう。老人を守ろうとした勇者とその勇者を撃ち抜いた悪魔の手先こそが、神楽坂の部下にして狂信者の菅谷正人だった。
正人は荒い息を弾ませながら、自分の殿様に無礼を働いた男を見下ろしていた。
「ハァハァ、この馬鹿者が……貴様に奴隷の素晴らしさの何が分かるッ!そもそも、アメリカの黒人が優秀なのは、奴隷だったからだ。彼らが奴隷であったからこそ、彼らは優秀なアスリートとして存在しているのだ。貴様のような洗脳された馬鹿者に分かってたまるものか……」
正人が息を弾ませていると、突然、護送車の背後が開き、リボルバーを手にした赤銅色の肌を持つ端正な顔立ちの青年が現れた。伸彦は咄嗟に穴の開いた方角を垣間見る。そこには、一台のパトカーが停車していた。どうやら、そのパトカーから護送車に乗り込んだらしい。パトカーは護送車の背後を離れていく。
端正な青年は表情を変える事なく、
「動くな、警察だ……お前達を逮捕する」
伸彦は武器保存ウェポン・セーブから黒色のコルト式オート拳銃を取り出し、背後から移ってきた刑事に向けて構える。
だが、伸彦の前に正人が立ち塞がり、護送車に乗り込んだ刑事に向けて銃を構える。
「黙れッ!貴様のような金権主義の奴隷なんぞに我々の思想を理解されてたまるものかッ!腰抜けの国家の犬めッ!貴様なんぞに、神楽坂様の理想が分かってたまるものかッ!」
「……分かりたくもないし、分かるつもりもないな、むしろ、オレはお前達のような頭の先から爪先にまで連中に似合うのは、外じゃなくて、精神病院だと思うぜ」
孝太郎の挑発に激昂したらしい。正人は孝太郎に向かって握っていたリボルバーを放つ。だが、銃を放つよりも前に車が大きく揺れ、銃口が逸れてしまう。
正人の弾丸は空を突き抜け、護送車の下に落ちていく。
正人の弾丸は地面を転がっていく。
青年は反撃の大義名分を得たとばかりに、正人に向けて銃を撃ち込む。
正人の左肩に青年の銃弾が食い込む。正人は肩を押さえて、その場に崩れ落ちる。
伸彦は目の前に現れた刑事を見定め、銃口を構えて、尋ねる。
「素晴らしいな、お前のような勇敢な刑事は初めて見た。金権主義に侵された警察の犬にしては上出来だ。良ければ、部下にーー」
「ならん」
青年は直ぐに相手の言葉を否定した。
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