魔法刑事たちの事件簿R(リターンズ)

アンジェロ岩井

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首都内乱編

亡霊による亡霊のための幻想

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神楽坂伸彦は短時間で帰還した部下を慇懃な目で見つめる。
「白籠市のアンタッチャブルの連中はどう対処した?貴様は既に奴らを片付けたのか?」
派遣された部下ーー吉山勝郎は細々とした小さな声で、
「いえ、失敗しました……」
その言葉に伸彦は両手で机を叩き、椅子の上から立ち上がり、勝郎の胸元を掴む。
「貴様ァァァァァ~!!!それでも、侍か?侍は目の前の相手に怯まないものだろうがッ!?
伸彦は目を開き、勝郎を殴り付けようとしたが、勝郎は伸彦の拳を自分の掌で受け止める。
勝郎は顔を見て、笑いながら、
「もうね、オレは疲れたんです。あなたの理想に付き合いながら、やれ、侍だの武士だの言われて、あんたの鉄砲玉をさせられるのがね。私は初め、自分の信念に従い、白骨機動団に入団しました。ですが、あなたの頭にあるのは東京都知事になり、ゆくゆくは自分が大統領になると言う陰謀だけだ。我々はあんたの捨て駒だった。だが、もう違う。私は……いや、オレは松中聡様に尽くす!」
神楽坂伸彦はかつての部下を見下ろす。それはまるで、豚を見るかのような冷めた視線であった。
勝郎が伸彦に魔法を発生させるよりも前に、伸彦は右手を突き出し、反乱を起こした吉山勝郎の体を鎖で拘束した。
「愚か者めがッ!貴様は侍の誇りを忘れたのかッ!?まさか、敵に寝返り、私の首を狙うとは……侍の恥ら晒しだッ!貴様はこのまま愚かな姿であの世に行くが良いッ!」
伸彦の言葉と共に勝郎の体を縛っていた鎖が自分の意思を持っているかのように、首に伸びていき、彼の息を奪っていき、勝郎は助けを求めながら喘いでいく。
助けを求める言葉にも伸彦は側の机で座っている若者に酒を注ぐように指示を出す。恐怖の色を浮かべ、非難の顔色を浮かべる裏切り者を眺めながら、伸彦は澄ました顔で酒を飲む。
アルコールの香りが鼻を刺激し、伸彦のその日の機嫌を良くしていった。




「昨日から、吉山勝郎が姿を見せないな、少し前まであいつが応援演説に駆け付けて来ていたんだが、どうしちまったんだ?」
孝太郎は目の前で大きな声で演説を繰り広げる白骨機動団の代表者を尻目に隣で同様に護衛を務める絵里子に向かって問い掛ける。
「分からないわ、神楽坂の指示に従って、何か暗躍しているのか、それとも……」
「殺されたと言いたいのか?」 
「ええ、そうよ」
孝太郎の問い掛けを姉は肯定した。つまり、姉自身も男の失踪を不自然に思っていたのだろう。孝太郎は顔をしかめながら、
「とにかくだ。あの野郎に逃げられないように証拠を先に掴んでおかなけりゃあならないよな、そして、気になるのは暗黒街の方だ。あれ以来、の宇宙の過激派と刈谷組の組員による睨み合いや小競り合いが続いているらしい。そっちの方でも妙な動きが起きなけりゃあいいんだがな」
『一部』と言う言葉を強調しなければならないのは、刈谷組と敵対している組織があくまでも合法的な組織であるからだろう。孝太郎は非合法組織なのに配慮をしなければならない孝太郎の心中を察し、胸を抑えた。弟は悔しくて堪らないのだろう。再びこの街の暗黒街に大きな抗争が起きてしまうと言う事実が。
絵里子が孝太郎の肩に手を置こうとした、まさにその時だ。孝太郎の上着のポケットから電子音が鳴り響く。
孝太郎は慌てて携帯端末を操作し、電話の向こうの相手に答える。孝太郎は何やら大きな声で話し合っていたが、電話を話し終えると、孝太郎は突然顔色を変えて駆け出していく。
駆け出す弟に姉は問う。孝太郎は姉の方に振り返り、とんでもない事が起きたと叫ぶ。
絵里子は駆け出していく弟の側に駆け寄り、彼の後について行く。





「刑務官諸君!この護送車は我々白骨機動団が占領したッ!早速で悪いが、護送車を大統領官邸にまで突っ込ませてもらおうッ!」
神楽坂伸彦はアサルトライフルで乗車していた運転手の元共和国軍兵士に突き付けながら言う。
元軍人の運転手は最初こそ抵抗を試みたが、彼が銃や魔法に手をかける前に、伸彦の放った鎖による左手首を締め付けられたのだ。その上、護送する筈の囚人たちや他の刑務官を伸彦の手下に抑えられているとすれば、彼は逆らう事はできない。
嫌々ながらも運転手の男はハンドルを切りながら、大統領官邸への道を走って行く。
いささか危険な運転を試みる運転手を眺めながら、伸彦は吉山勝郎を始末した直後に匿名の情報提供者から、この日に未決囚たちを載せた護送車が通る事をリサーチしてもらった。その上、護送車の囚人は軽犯罪を犯した人間ばかりで、白骨機動団に逆らえるような腕っ節を持った人間はいないらしい。骸骨の仮面を被った侍を自称する人間たちは自分たちが占領した護送車の中を見渡す。
護送車には拘置所への移送の前なのか私服を着ている人間ばかりで、全員が白骨機動団に怯えている。伸彦はその様子を見て、ニンマリと笑う。
勝ち誇ったような笑み。彼自身が滅多に見せる事のない笑みだ。
満面の笑顔を浮かべる伸彦を眺めながら、周りの団員たちも銃を振り回しながら、微笑む。
この事件に加わった人間たちが笑ったのは、この事件はあくまでも、伸彦と白骨機動団が起こしたものであり、日本結集党が起こしたものではないと言う理由からだ。既にこの事件を起こす前に神楽坂伸彦は日本結集党の党首を辞退している。つまり、これは白骨機動団が起こした事件であり、日本結集党には関係の無い事件なのだ。万が一の事態にまで手を加え、手ぬかりのない伸彦の手腕は流石と言えただろう。
全員が顔を見合わせて笑っていると、突然、ブレーキが止まる。伸彦がどうしたのかと問うと、運転手は小さな声で、
「前にパトカーが止まったんだ。強行突破をすると、護送している人に負担がかかり……」
その言葉に伸彦の眉間にシワが寄る。彼からすれば、犯罪者は擁護のしようのないクズであり、彼らに負担がかかろうがどうでも良い事なのだ。伸彦は運転手を強引に押し除け、乱暴に運転を進めていく。元来、この護送車は囚人の逃亡防止と奪還を目的に22世紀から開発された護送車であり、全身が銃で蜂の巣にされても無傷と言う恐るべき装甲と全身を炎に包まれても、中には何の影響もないと言う耐熱性。加えて、タイヤにも特殊装甲を施しており、パンクの可能性は海の中で淡水魚を釣れる可能性よりも低いと言っていいだろう。
伸彦はこの車の情報を教えてくれた匿名の情報提供者に感謝をしながら、目の前の警察の車を跳ね飛ばす。
彼にとって警察の車など蚊に刺されたようにも感じなかったに違いない。
車から弾き出された警察官たちが悔しそうに護送車を睨む。
伸彦は大きな笑い声を上げながら、車を進めて行く。彼にとって怖いものなど何も存在しなかった。

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