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首都内乱編

松中聡の手の中で

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究明党の演説者の周りを刈谷組のヤクザ達が囲む。その様子を見て、肩を強張らせたのは演説者の上で演説を繰り返す究明党の候補者。
彼は足を竦ませ、演説者の中に潜り込もうとするも、隣に立っている松中聡がそれを許さない。逃げようとする彼の襟首を掴み、殺意を向ける刈谷組の構成員とは対照的な穏やかな視線で相手を迎えた。
「これは、これは、何の御用ですか?ヤクザさん?」
聡の柔和な顔がしゃくに触ったのだろう。ヤクザの男はたまたま落ちていた空き缶を大きな足で蹴飛ばし、ドスの効いた声で問い詰める。
「ふざけんじゃねぇや!テメェらがやったんだろ?先の事件は刈谷組を潰すために、お前が指示を出したんだろうがッ!え?」
ヤクザの気迫と声が演説を聴きに集まっていた聴衆達を蹴散らす。
その様子に聡は眉を顰め、
「やれやれ、あなたは誰に我が党の妨害を試みたんですか?」
「誰でもねぇ!テメェをぶん殴るためにオレ達が独断で動いたんだッ!昨日のあの事件を忘れたとは言わせんぞ!」
ヤクザの剣幕に聡以外の信者は大きく怯えていたが、聡だけは眉一つ動かさない。それどころか、彼は腕を組みながら、見下ろすような笑みを浮かべていた。
「そうですか、それはお気の毒でした。うちの信者があんな事件を起こしてしまう前に、私が止めるべきでした」
聡の言葉にヤクザ達は激昂し、演説車に向かおうとしたが、ヤクザ達が足を踏み出す前に、商店街の入り口の前から別の声が飛び交う。
「待て!それ以上、街宣車の前に進むのはオレが許さんッ!」
その声に究明党とヤクザ達が振り向くと、そこにはこの街の守護者達が姿を見せていた。
ヤクザ達はその姿を見て、歯を軋め、街宣車の上の松中聡は先程以上の柔和な笑顔を向けていた。
「お巡りさん、聞いてくださいよ!このヤクザどもが、ぼくの首を狙っているんですよ!危険な人物です。早く逮捕してくださいよぉ~」
だが、聡の言葉に孝太郎は耳を貸さずに、仲間達を引き連れ、無言で目の前のヤクザ達を追い散らす。
ヤクザ達は蜘蛛の巣を散らすように、その場から去っていき、人の居なくなった商店街に究明党の街宣車と松中聡の姿だけが残されていた。
孝太郎は街宣車の上の松中聡を睨む。聡は相変わらずのニヤケ面を見せながら、孝太郎をその笑顔で牽制していた。
「もしかして、ぼくらを逮捕しに来たんですか?まさか、お巡りさんがヤクザに肩入れをして、一方的な言い掛かりを情報源にぼくらを逮捕したりしませんよね?」
聡の顔は相変わらずのニヤついた笑顔。それが腹正しくさえある。孝太郎は余裕を誇るこの男に侮蔑の言葉を投げ掛けてやろうとしたが、代わりに別の言葉を喉の奥から絞り出す。
「いいや、そんなつもりはない。お前が刈谷組の事務所を襲ったと言う証拠は何もないからな……」
聡はその言葉に胸を剃り返させ、
「そうでしょうとも、ぼくらはヤクザでも何でもない単なるなんですから」
聡は顔から白い歯を覗かせて『一般市民』と言う単語を強調する。
彼の顔から歯磨き粉のCMにでも使われそうな真っ白な歯が溢れるたびに孝太郎は眉を顰めた。
「我々には何の証拠もないんですから、早くお帰りくださいな、それともあなた方が新しい証拠を見つけたとでも?」
聡の指摘に孝太郎は相手を睨みつけるばかり。具体的な反論が思い浮かばないために、彼は沈黙を余儀されてしまう。
押し黙った様子の孝太郎に聡は勝利を確信したらしい。彼は孝太郎に煽るように、
「では、さっさとお帰りください。我が党は清楚潔白な党なのですから、白籠署の公安部にマークされる筋合いはありませんよ」
追い払うように手を振る聡の態度に堪忍袋の尾が切れたのは、聡子だった。彼女は聡に向かって大きく指を指し、
「テメェ、すっとぼけたって桜田門はいつだって、犯人ホシを上げてやるんだからなッ!」
聡は見下すような笑顔を浮かべ、
「じゃあさっさと証拠を掴めよ。それとも何です?ぼくがあの松中鈴雄の息子だからって理由で、ぼくを逮捕するんですか?違いますよね?ここは石器時代の日本じゃあないんだ。ちゃんと法の整備が整えられた23世紀の日本共和国だ。あなた方にぼくを裁く法的証拠は何も無い。そうでしょう?」
聡の言葉に聡子は肩を震わせて、犬歯を剥き出しに相手を睨んでいたが、彼女の肩に孝太郎の手が置かれた事によって、ようやく聡子は踵を返す。
孝太郎は部下の非礼を詫びると、仲間達を引き連れ、その場から立ち去っていく。
聡は顔をニヤつかせながら、去っていくかつての両親の仇敵たちを眺めていた。





「今こそ、我ら白骨機動団の力を合わせ、中村孝太郎をこの世から消し去るべきでしょう!」
かつて、彼から妨害を受けた吉山勝郎は究明党の事件で、疲弊している白籠市のアンタッチャブルを襲撃するべきだと提言した。
神楽坂伸彦は疲弊している相手を背後から突き、殺してしまうと言う武士にあらざる手段を取ると言う考えを了承する。
吉山勝郎は党首であり神である伸彦からの『勅命』を受け、敵の討伐に向かう。
人の少ない夕焼けの商店街に着いた彼を待ち受けていたのは、自身の対立候補である究明党の街宣車であった。
街宣車の上で松中聡は白骨の仮面を被った男を黙って見下ろしていた。
勝郎は余裕をぶった態度を浮かべていた松中聡に向かって大きな人差し指を刺す。
「お前は我々の憎むべき敵であるッ!貴様の両親である松中鈴雄ならびに松中梓は、三年程前にこの白籠市を中心に日本を乗っ取りかねない大きな事件を起こしたではないかッ!貴様はその原因たる主犯の息子だッ!貴様は恥を感じないのか!?」
「我々の住むこの社会は法律でまかり通っていますから……それよりも、白籠市のアンタッチャブルとやらを始末しなくてもよろしいので?」
澄ました態度の聡に腹が立ったのだろう。勝郎は右手の掌を掲げ、聡にその掌を見せて、牽制しようと試みたが、聡は彼が魔法を放つよりも前に彼の前に魔法を放つ。
たちまちのうちに、勝郎の頬に白い斑点が浮かび上がっていく。
勝郎は悶え苦しみ、その場にのたうち回る。聡は嘲笑うような視線を浮かべながら、
「どうだ?そいつがぼくの魔法死神の角笛デス・ホーンだよ、能力はウィルスを操る事ッ!しかも、ぼくの魔法でしか扱えない特殊なウィルスだッ!」
街宣車の上から、勝郎は見下す視線を向けて叫ぶ。
それから、右手に緑色の液体を作り出し、勝郎に向かって飛ばす。
液体が当たるなり、たちまちのうちに彼の頬は元の色に戻っていく。
「これが、ぼくの魔法さ、お前の魔法はまだ見ていないが、それ程弱いと言う事はないだろう?そこで、提案だ。お前がぼくに恩を感じるのなら、お前は今から、神楽坂を始末してこい。逆スパイとしてな」
聡の「裁き」に勝郎は平伏し、反対に神楽坂を始末しに向かう。その様子を聡は腕を組みながら、眺めていた。
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