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首都内乱編
地球救済党本部放火事件
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地球救済党の本部の存在する永田町のビルが燃えた原因はいまだに不明である。火に包まれたビルから助けを求める手が見える。それだけではない、何人もの党員たちの助けを求める声が聞こえてくる。レスキュー隊のサイレンの音が鳴り響く。慌てて、レスキュー隊員達はビルに存在する人間を助けに向かわせようとしたが、彼らには無意味とも言えた。何故ならば、レスキュー隊の梯子車の梯子が届く前に、ビルが崩れていったのだから。
レスキュー隊員たちの唖然とした態度を永田町の人間たちは忘れはしないだろう。
「地球救済党は火災のために壊滅だな、これで明美の言う有力候補者は松中聡と神楽坂伸彦の両名に絞られたって訳か……」
孝太郎は携帯端末から映し出された新聞記事を見ながら呟く。目の前に表示されるディスプレイには大きなビルが燃えている写真とその詳細を鮮明に伝えた記事が書かれている。孝太郎はタバコにライターを火につけると、その記事を険しい視線で睨む。
「あーあー、残る候補は危ない奴らばっかりかよ。拍子抜けだな」
聡子は首の後ろに手枕を作りながら呆れたような口調で言う。
だが、絵里子は忌々しいと言う雰囲気を全身から伝せているらしい。絵里子は新たに空中に表示されたキーボードを押し、新たな人間像を空中に映し出す。
「ここにきて、彼が急浮上していたわ、自由共和党の推薦を受けた、えっと……」
「黒岩宗次郎さんですね。彼は他の有力候補に押されて、今回の選挙では大した票を得られないと予測されていたんですが、ここに来て有力候補が殺されたために、急浮上しましたね」
「漁夫の利と言う事か……ここにきて、政権与党が一番良い思いをするとはね」
孝太郎は呆れたような表情を浮かべ、人差し指と中指の間にタバコを挟みながら言う。
「このまま、究明党と日本結集党が潰し合えば、東京都知事選挙に一気に有利になるのは、自由共和党ですよね」
明美の指摘に孝太郎は首肯する。だが、聡子は突然何かに気付いたように、あっと叫んでから、明美の瞳を真っ直ぐと見つめ、
「自由三つ葉葵党はどうなるんだ?最大野党だろ?今回の東京都知事選挙には何もアクションを起こさないのかい?」
「うーん、自由三つ葉葵党は一応立候補者を出しているんですが、彼が選挙の少し前に暴力団との癒着が判明したとかしたないとかで、大騒動になりましたよね?お陰で選挙前から大した票を得る事はできないと、ネット上でも大きな噂になってます」
明美の指摘に聡子は白い肌から犬歯を見せ、
「成る程ねぇ~納得だぜぇ~それよりも、地球救済党の火災の有力な容疑者は誰が検討は付いているの?」
聡子の指摘に孝太郎は首を横に振る。
「今の所はな、警察全体の考えとしては、日本結集党か、究明党の過激派が行ったと推測しているが……」
孝太郎の言葉には迷いがある。彼の視線もどことなく上の空。聡子は孝太郎にも今の所は犯人が分からないのだろうと推測した。
すると、自分たちの部屋の扉が開き、制服を着た警察官が血相を変え、部屋の中に入って来て、
「大変です!繁華街で刈谷組所属の暴力団員の男が殺されましたッ!」
刈谷組所属と言う言葉に全員が顔を見合わせる。と、同時に聡子の上着のポケットから電子音が鳴り響く。
聡子は慌てた様子で端末を開く。孝太郎は警察官に扉の前に待機するように指示を出し、聡子が電話の向こうの相手との会話が終わるのを待った。
聡子が電話を切り終えると、険しい顔付きを震わせながら、
「大変だよ。孝太郎さん戦争が始まるぜ、この白籠市を舞台にした新たな戦争がな……」
聡子の台詞に孝太郎の顔が青ざめる。
「相手は誰だ?白籠市の暗黒街を牛耳る刈谷組に今更、対抗できる組織なんて……」
聡子は声を恐怖の音色で震わせながら、
「敵はヤクザ同士とは限らねぇよ……究明党の信者だよ。究明党のクルタ服を着た頭のおかしな連中が刈谷組の事務所の一室に単身で銃を振り回して、何人もの組員を殺したんだってよ。当然、代行を務める村上晴信は大激怒……」
「ヤクザとしての皆目が立たない……そう言う事か?」
孝太郎は腕を組みながら、見下ろす形で額を左手で抑える彼女に問う。
「刈谷組と究明党の過激派との抗争は何がなんでも阻止しなけりゃあならん。刈谷組が壊滅した後の事はどんな組織が後釜に座るか分からんからな」
孝太郎の言葉には重みがある。長年、この街の地下組織と対峙してきた彼だからこそ分かるのだろう。
聡子は黙って携帯端末の友人の名前を押そうとするが、その手を孝太郎が止める。聡子が不思議そうな視線を向けるも、孝太郎は首を横に振るばかり。
孝太郎は鬼を見るかのような険しい目で見つめる聡子に自分の考えを話す。
「奴らにとっての隙を突いてやるんだ。究明党の過激派は刈谷組の殲滅に全てを注ぎ込もうとしているから、オレ達に刺客を差し向ける余裕はないだろう。そこを突く」
孝太郎の言葉に聡子はようやく、ニンマリとした笑顔を浮かべ、
「成る程、奴らの居場所を突く気なんだな?」
「その通り、松中聡をブタ箱に送り込む。あの野郎にはお袋同様に臭い飯を食ってもらう羽目になるな」
孝太郎は自分の決意を口にすると、一目散に扉に向かって行く。
松中聡は部下の報告を聞き、鼻を高くしていた。自分たちの支援を断った刈谷組に痛い一撃を喰らわせてやったのだ。聡は自分にとっての有利な報告を聞くと、絶対王政時代の国王になったような気分になるのだ。いや、この調子で究明党の力を増していくと、いずれは自分がこの国の「王」になれるのだ。国会を牛耳り、皇居を国王宮殿に換え、絶対的な力を振るう。父親や母親でさえ成し遂げられたなかった野望が現実味を帯びてきているのだ。
聡は刈谷組から拉致してきたヤクザの構成員を椅子の上で胡座をかきながら、見つめている。
「さて、刈谷組の急所は他にいくつある?教えてもらおうか」
爽やかな声。聞く人によれば、好感を持つような美しい声。だが、今の刈谷組の構成員の男にはそれさえも悪魔の響きに聞こえてならない。
「……。ヤクザを舐めるんじゃねぇよ。ガキが……一度交わした兄弟杯を裏切れるもんか」
「……。そうか、ならば、もうお前に用はない。この者を宇宙に返せ!」
聡の一言により、周りで待機をしていた信者達が構成員の首に縄を掛けた。薄暗い部屋の中で構成員は喘ぎ声を上げ、地面に横たわる。
薄暗い部屋の中で、信者達はヤクザの構成員だった男の息絶えていく姿を見つめたていた。
レスキュー隊員たちの唖然とした態度を永田町の人間たちは忘れはしないだろう。
「地球救済党は火災のために壊滅だな、これで明美の言う有力候補者は松中聡と神楽坂伸彦の両名に絞られたって訳か……」
孝太郎は携帯端末から映し出された新聞記事を見ながら呟く。目の前に表示されるディスプレイには大きなビルが燃えている写真とその詳細を鮮明に伝えた記事が書かれている。孝太郎はタバコにライターを火につけると、その記事を険しい視線で睨む。
「あーあー、残る候補は危ない奴らばっかりかよ。拍子抜けだな」
聡子は首の後ろに手枕を作りながら呆れたような口調で言う。
だが、絵里子は忌々しいと言う雰囲気を全身から伝せているらしい。絵里子は新たに空中に表示されたキーボードを押し、新たな人間像を空中に映し出す。
「ここにきて、彼が急浮上していたわ、自由共和党の推薦を受けた、えっと……」
「黒岩宗次郎さんですね。彼は他の有力候補に押されて、今回の選挙では大した票を得られないと予測されていたんですが、ここに来て有力候補が殺されたために、急浮上しましたね」
「漁夫の利と言う事か……ここにきて、政権与党が一番良い思いをするとはね」
孝太郎は呆れたような表情を浮かべ、人差し指と中指の間にタバコを挟みながら言う。
「このまま、究明党と日本結集党が潰し合えば、東京都知事選挙に一気に有利になるのは、自由共和党ですよね」
明美の指摘に孝太郎は首肯する。だが、聡子は突然何かに気付いたように、あっと叫んでから、明美の瞳を真っ直ぐと見つめ、
「自由三つ葉葵党はどうなるんだ?最大野党だろ?今回の東京都知事選挙には何もアクションを起こさないのかい?」
「うーん、自由三つ葉葵党は一応立候補者を出しているんですが、彼が選挙の少し前に暴力団との癒着が判明したとかしたないとかで、大騒動になりましたよね?お陰で選挙前から大した票を得る事はできないと、ネット上でも大きな噂になってます」
明美の指摘に聡子は白い肌から犬歯を見せ、
「成る程ねぇ~納得だぜぇ~それよりも、地球救済党の火災の有力な容疑者は誰が検討は付いているの?」
聡子の指摘に孝太郎は首を横に振る。
「今の所はな、警察全体の考えとしては、日本結集党か、究明党の過激派が行ったと推測しているが……」
孝太郎の言葉には迷いがある。彼の視線もどことなく上の空。聡子は孝太郎にも今の所は犯人が分からないのだろうと推測した。
すると、自分たちの部屋の扉が開き、制服を着た警察官が血相を変え、部屋の中に入って来て、
「大変です!繁華街で刈谷組所属の暴力団員の男が殺されましたッ!」
刈谷組所属と言う言葉に全員が顔を見合わせる。と、同時に聡子の上着のポケットから電子音が鳴り響く。
聡子は慌てた様子で端末を開く。孝太郎は警察官に扉の前に待機するように指示を出し、聡子が電話の向こうの相手との会話が終わるのを待った。
聡子が電話を切り終えると、険しい顔付きを震わせながら、
「大変だよ。孝太郎さん戦争が始まるぜ、この白籠市を舞台にした新たな戦争がな……」
聡子の台詞に孝太郎の顔が青ざめる。
「相手は誰だ?白籠市の暗黒街を牛耳る刈谷組に今更、対抗できる組織なんて……」
聡子は声を恐怖の音色で震わせながら、
「敵はヤクザ同士とは限らねぇよ……究明党の信者だよ。究明党のクルタ服を着た頭のおかしな連中が刈谷組の事務所の一室に単身で銃を振り回して、何人もの組員を殺したんだってよ。当然、代行を務める村上晴信は大激怒……」
「ヤクザとしての皆目が立たない……そう言う事か?」
孝太郎は腕を組みながら、見下ろす形で額を左手で抑える彼女に問う。
「刈谷組と究明党の過激派との抗争は何がなんでも阻止しなけりゃあならん。刈谷組が壊滅した後の事はどんな組織が後釜に座るか分からんからな」
孝太郎の言葉には重みがある。長年、この街の地下組織と対峙してきた彼だからこそ分かるのだろう。
聡子は黙って携帯端末の友人の名前を押そうとするが、その手を孝太郎が止める。聡子が不思議そうな視線を向けるも、孝太郎は首を横に振るばかり。
孝太郎は鬼を見るかのような険しい目で見つめる聡子に自分の考えを話す。
「奴らにとっての隙を突いてやるんだ。究明党の過激派は刈谷組の殲滅に全てを注ぎ込もうとしているから、オレ達に刺客を差し向ける余裕はないだろう。そこを突く」
孝太郎の言葉に聡子はようやく、ニンマリとした笑顔を浮かべ、
「成る程、奴らの居場所を突く気なんだな?」
「その通り、松中聡をブタ箱に送り込む。あの野郎にはお袋同様に臭い飯を食ってもらう羽目になるな」
孝太郎は自分の決意を口にすると、一目散に扉に向かって行く。
松中聡は部下の報告を聞き、鼻を高くしていた。自分たちの支援を断った刈谷組に痛い一撃を喰らわせてやったのだ。聡は自分にとっての有利な報告を聞くと、絶対王政時代の国王になったような気分になるのだ。いや、この調子で究明党の力を増していくと、いずれは自分がこの国の「王」になれるのだ。国会を牛耳り、皇居を国王宮殿に換え、絶対的な力を振るう。父親や母親でさえ成し遂げられたなかった野望が現実味を帯びてきているのだ。
聡は刈谷組から拉致してきたヤクザの構成員を椅子の上で胡座をかきながら、見つめている。
「さて、刈谷組の急所は他にいくつある?教えてもらおうか」
爽やかな声。聞く人によれば、好感を持つような美しい声。だが、今の刈谷組の構成員の男にはそれさえも悪魔の響きに聞こえてならない。
「……。ヤクザを舐めるんじゃねぇよ。ガキが……一度交わした兄弟杯を裏切れるもんか」
「……。そうか、ならば、もうお前に用はない。この者を宇宙に返せ!」
聡の一言により、周りで待機をしていた信者達が構成員の首に縄を掛けた。薄暗い部屋の中で構成員は喘ぎ声を上げ、地面に横たわる。
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