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首都内乱編

究明党、決起せよ

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二人が肩を落としながら、職員室を退出すると、背後から彼ら2人の肩に手を置かれたのを確認した。二人が背後を振り返ると、そこには相変わらずの屈託のない顔を浮かべた阿久津孝弘とその恋人の火野陽子が立っていた。孝弘は顔にからかうような軽い笑みを浮かべて、
「お前ら怒られたんだって?授業中に余計なお喋りをしたって」
歯を見せて笑う孝弘から浩輔は不機嫌な顔を浮かべて顔を逸らしてしまう。
孝弘は頭をかきながら、
「そう、怒るなよ。何があったのか、やっぱり気になっちまうんじゃん」
孝弘の言い訳にも浩輔は頬をプクッと膨らませて顔を背けたままだ。孝弘が呆れたような溜息を吐く。
「悪かったよ。お前が落ち込んでいる時に聞いちまってよ」
と、ここで淳太が孝弘に叱られた理由を耳打ちをする。淳太の言葉によると、彼が落ち込んでいるのは、先生に酷く叱られたかららしい。その際にこの前に映画を観に行ったことを咎められたらしい。
「ほら、この前の昼休みの時間に、浩輔くんがクラスの中で、ぼくらで時代劇の映画観に行ったの話してたでしょ?その時の事を大声で話してたものだから、それを咎められて、不機嫌なんだよ」
淳太の言葉が聞こえていたのか、浩輔は少しだけ大きな声で教師の悪口を呟く。
「大体、あんなに怒らなくてもいいじゃないか……ぼくだってそりゃあ、休みの日には映画くらい行くよ!大体、娯楽のチャンバラ映画観るのの何が悪いんだよ……」
頬を膨らませている浩輔の肩を孝弘は強く叩く。
「大体、いつまでもくよくよしてるなんて、お前らしくないぞ!そうだッ!今日は帰りにアイスでも買って帰ろう!遠慮するなよ!今日はオレが奢ってやるよ!」
浩輔はプクッと頬を膨らませながらも、顔を赤くして、
「……。ありがとう」
浩輔はそう言って、足を教室に向ける。淳太も浩輔に続いて教室に戻って行く。
元の教室に向かう二人を見届けながら、孝弘は陽子の方に向き直り、もう帰るぞと目配せして教室に戻って行く。
始業開始のチャイムが学校の中に鳴り響く。





浩輔は窓の外の景色を眺める。夕陽が落ちていくのを見つめ、今日の授業とホームルームが終わった事を確認し、うーんと唸って背を伸ばす。浩輔が軽くストレッチをしていると、鞄の中の携帯端末が鳴っている事に気付く。
浩輔が携帯端末を確認すると、そこには自身の保護者である桃屋総一郎からのメールが届いていた。浩輔がメールを開くと、そこには保護者からのメールが届いていた。保護者にして顧問弁護士からのメールはごく個人的な内容と組に関する内容の二つが書かれていた。
「……。そもそも、ぼくにどうしろって言うのさ、ぼくの雷の魔法がまだ必要なのかな?そもそも、松中聡って人はーー」
「松中さんがどうかしたの?」
自分の独り言と被ってしまった言葉に驚き、浩輔は携帯を落としそうになるくらい慌ててしまう。
やっとの思いで、携帯端末が地面に落ちる事を防いだ浩輔は大きく溜息を吐いてから、背後からいきなり声を掛けてきた友人に抗議の言葉を浴びせた。
「い、い、いや、何でもないよ!とにかく、今日に限っては何でもないから、うん、ちょっと、刈谷家の問題で……」
浩輔の慌てふためく態度が返って不自然になってしまったのだろう。淳太は唇の下に人差し指を当てて、兄譲りの優れた尋問術を応用しようとしていた。
「ははーん、すると昼間の例の宗教団体の教祖だね?これはスクープのような予感がしますなぁ~」
「や、やめてよ!『刑事コロンボ』を気取りたい気分も分かるけれど、これはすっごくデリケートな問題なんだからッ!」
顔を真っ赤にして叫ぶ、浩輔の目の前に淳太は人差し指を突き出し、
「違うよ。浩輔くん……ぼくは『古畑任三郎』の方が好きなんだ」
浩輔は見当違いな反論に肩をすくめ、
「それで何回目のリメイク作品が好きなの?」
淳太は腰に手を当てて、胸を張りながら自信満々な声で答えた。
「決まっているでしょ!一番最近のリメイクに決まってるじゃあない!」
「……。すると、五十五回目のリメイク作品なの?」
浩輔の質問に淳太は笑顔で答えた。
「それで、話しは戻るけれど、やっぱりその松中聡さんが不正をしているのは本当なの?」
淳太は真っ直ぐな瞳で浩輔を眺めていた。浩輔はハァと溜息を吐き、もう一度肩を落としてから答えた。
「勿論、そうでなかったら、昨日の晩にあんなに驚きはしなかったよ」
「成る程ね、キミが今日の朝にあんなに動揺していた理由も分かる気がするな」
淳太は刑事ドラマの主人公を支える相棒らしく、一人で首を縦に動かして納得の動作を見せていた。
「それで、今晩どうするつもりなの?」
「会ってみるよ。彼と話をつけてみる」
浩輔は組長らしい毅然とした態度で言ってのけた。その時に浩輔の口から出た言葉は重くて、そして冷静だった。



刈谷一家の一件な大きな日本建築式の豪邸の一室。贅を尽くした和風の庭に面した廊下の側にある客間の一室でその会談は開かれた。来客側の人数は究明党側の人間は三名。相対する刈谷組の参列者も三名と、同じ数だった。
だが、究明党側の客が教祖の松中聡以外は無名な一般信者であったのに対し、刈谷組は別の部屋に組員を用意しているのに加え、腕利きの魔法師と名高い組長が加わっている。交渉が決裂したとしても、彼らが勝つのは目に見えている。
そもそも、今回の会談は党首が昼間のうちに組の電話に組長と直に話して、話し合いを進めたいと言う物だったのだ。
セッティングに時間は掛かったが、この会談にこぎ着けたことを松中聡は後悔していなかった。
だが、目の前に座る組長はやんわりとした態度で自身の交渉を突っぱねていたために、彼は不利な状況であると知りながら、強気な態度に出ていたのだ。
「成る程、昨晩も我々を追い返した末に、ここまで無礼を働くとは……刈谷組は我々を敵に回してやっていけると思っているのか?」
目の前の長椅子に腰掛ける黒色のクルタ服を着た青年は目の前の自分より少しだけ年下の少年に怒りと憎しみで溢れた言葉を投げかけた。
「……。お言葉ですが、刈谷組は兄たちが支配していた時代とは異なります。兄やぼくが実権を握っていなかった一時代の頃ならば、話は違っていたでしょうが、ぼくが実権を握った今ならば、話は別です。どうか、お引き取りを……」
目の前の青年は何万匹もの苦虫を噛み潰しながら、目の前に用意された机を勢いよく叩く。
「……。後悔するぞ、必ず白籠市の暗黒街に穴を開けてやる」
「あなたは自分を門閥貴族のような絶対的な存在か何かかと勘違いしてらっしゃるようですから、教えておきますが、裏社会の人間に権威や神威なんてものが通じない事はあなたが一番ご存知の筈でしょう?」
「知った口を聞くなよ。我々の恐ろしさを分かってもそんな事が言えるのかな?」
「……。あなたの仰る脅し文句はかつて、コーザ・ノストラが街を手に入れようとした際に、我々に発した脅し文句と同じだ」
松中聡はその言葉に言葉を失ったが、それも一時の事であった。聡は強く机を叩くと、
「舐めるなよ!我々の要求を突っぱねるとどうなるのかを教えてやるッ!」
聡は席を立ち上がり、同席していた子分を連れ去って、部屋を出ていく。
浩輔は毅然とした態度のまま、松中聡と究明党の幹部が退出するのを見届けていた。そして、心の中で確信していた。
これから、あの宗教団体の残党とは対決する運命さだめにかあるのだと。
浩輔は晴信と総一郎に警戒を強めるように指示を出す。
自身も万一の事態に備え、いつでも魔法を放てるように考えていた。
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