魔法刑事たちの事件簿R(リターンズ)

アンジェロ岩井

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首都内乱編

白骨起動団の襲撃

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中村孝太郎は白骨起動団と聴衆の野次を割って入ってから、三日ばかりは無事であった。だが、三日目になり、彼は帰宅途中に人の気配を感じるようになった。孝太郎が夜の道で気配が気になり、背後を振り向くと、そこには誰もいない。まるで、吹き飛ばした燃え跡の灰のように消え去ってしまったのだ。孝太郎がいたたまれない思いのままに、自宅へと向かうと、再び背後から気配を感じた。もう一度振り返ってはみたが、結果は同じだった。孝太郎は諦めて四階建ての集合住宅の中の自分の部屋に戻る。孝太郎は慌てて部屋の扉を閉め、部屋の中で用心に備えた。万一の時に応援を呼ぶために、携帯端末を使えるように備えていると、突如扉を力強く叩く音が聞こえた。扉の向こうから野太い声が聞こえてくる。
「貴様だな、我々白骨起動団の支持する日本結集党の神聖なる演説を邪魔した人間を庇った刑事というのはッ!?」
「そうだが、何か問題でもあるのか?お前達は一般人に向かって暴力を振るおうとした……だから、オレがあんたらを止めるのは至極当然だと思うんだがな」
孝太郎は扉の前のが出している大きな声と同じくらい大きな声で言葉を返す。だが、扉の前のチンピラはそんな事では怯まなかったらしい。彼は孝太郎が出した声よりも大きな声を出して、弾劾の言葉を浴びせた。
「どうやら、貴様には反省の気持ちがないようだな?」
扉の前の男は『大統領の陰謀』ごっこがしたいらしい。だが、弾劾を喰らった本人としては身に覚えが無いので、別段困る事はない。が、それでも言い返さなければ面倒になると考え、孝太郎は平静を保ちながら相手の質問を質問で返す。
「悪いが、オレにはお前らに弾劾される筋合いはないな、一般市民に暴力を振るおうとする奴をどうして、邪魔しなけりゃあならないんだ?」
「……。減らず口をッ!これでも喰らうがいいッ!」
言葉と共に扉の前に何かが炸裂するような大きな音が響き渡っていく。いくらそれ程高くない集合住宅の扉とは言え、棒切れを当てたくらいではピクリとも扉が動かないのは子供でも分かる理論だ。同様に、何か固い物を投げた程度でも同様の理論が通るだろう。だが、今回ばかりは例外が通ったらしい。白骨起動団に所属している男が投げたと思われる筒状の兵器は孝太郎の家の扉を破壊し、部屋の中に白い煙を蔓延させた。火事が発生した時のように、モクモクと上がっていく煙は孝太郎の視神経と鼻を麻痺させた。
孝太郎が咳き込んでる隙に、扉を破って骨の仮面を付けた男が棒切れを持って襲い掛かってきた。孝太郎は右手を使用し、『破壊』の魔法が出るように金色の光を見せると、煙そのものを破壊した。
目の前の煙を取っ払った孝太郎は棒切れを振り回す男の右腕を受け止め、そのまま彼の右腕を捻り上げた。
孝太郎の予想外の反撃に勇敢なる侍を気取る男は降伏の意思を孝太郎に示す。
孝太郎は背中を軽く蹴ってから、地面に男を倒させて、腕を拘束しながら、携帯端末で応援を呼ぶ。
応援の警察官の手によって、白骨起動団の男は手錠を掛けられる事になったが、孝太郎の顔は未だに不機嫌な顔付きそのものだった。
彼からすれば、彼の放った筒状の制圧兵器の手によって、玄関の扉が壊された事と、そのせいで靴が飛び散った事が主な原因だった。おまけに玄関の扉が壊されたために、扉が新しく備え付けられるまでの間はこの部屋で休息を取るができない。それが、彼の主な不興の理由だった。彼はその後に自宅の管理人に事情を説明し、扉の修理代は扉を破った団員の金から出すと軽い説明を終えてから、事情聴取のために署に向かう。
孝太郎は署内での事情聴取を終えると、自宅の惨状を思い出し、警察署内で夜を明かす事にした。署の廊下に設置されたソファーの上で毛布をかけて眠るのも悪くは無さそうだと考えていると、彼の体に疲れが波のように押し寄せ、彼は安眠を貪った。
翌日に孝太郎が目を覚ますと、いきなり署の前に居た事を思い出す。孝太郎はそれからゆっくりと昨晩の事を思い出す。
昨晩の騒動のために、自宅で眠れなかった事を思い返していると、携帯端末の着信音が鳴り響く。着信の相手は管理人の男性らしい。孝太郎は管理人の男から、扉の修理は今日中に終わると告げ、逮捕された男の住所を尋ねる。孝太郎は昨晩の事情聴取の際に、彼からちゃんと金を貰う事を約束していたために、彼の連絡先を教えた。
管理人の男は何度も感謝の言葉を吐いてから、端末を切った。
孝太郎はホーム画面の現れた端末に表示された時間を確認する。時間としては出勤時間までは二時間あった。孝太郎が何をしようかと悩んでいると、腹の虫が鳴っている事に気付く。
孝太郎はスーツの懐に財布が入っている事を確認してから、署を出て食料品を買いに出掛けるが、署の前に例の侍たちがたむろをしている事に気が付き、孝太郎は署の前の自称侍達に犯罪者を見るかのような白い目を向けた。
白い目を向けられたサムライはビクッと肩を震わせる。だが、骨の面に顔を覆った侍達は勇気を振り絞り、声を上げた。
「我々は白骨起動団の者だ。これで、貴君も思い知ったであろう!貴様が今後同様の処置を行えば、昨日と同じ事をするぞ!」
孝太郎はその言葉を聞いても、怯える様子は見せない。相変わらずの侮蔑の視線を送り続けながら、
「そうか、お前らにも忠告をしておくがな、あんな馬鹿げた維新ごっこなんてやっていると、そのうちに自分の人生を棒に振る事になるぞ、余計な罪でしょっ引かれないうちに早く、神楽坂の元に帰って、オレの忠告を受け入れた方がいいぞ」
孝太郎はポケットに手を入れたまま黙って相手を見下ろしている。歴戦の猛者をこの場で敵に回すのは不味いと判断したのだろう。呆気に取られ、呆然と孝太郎を見上げている男の肩を小突き、男達二人はその場を立ち去って行く。孝太郎は惨めに逃げ帰っていく二人のサムライを見つめて、鼻を鳴らす。
(奴らのどこが、サムライなんだ?真のサムライは敵に背後を見せないものじゃあないのか?あれでは、サムライどころか、馬畜生にも劣るぜ……)
孝太郎は時代劇の主人公のような事を言ったと感じた瞬間に照れ臭くなって、首の後ろをかいた。
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