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第二部『アナベル・パニック』
バプテスト・アナベルは永遠にーその①
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大樹寺雫は目の前に聳え立つ国会議事堂を目の当たりにする。国会議事堂は19世紀に建てられた由緒ある建物であり、第日本帝国とその後の日本国時代はこの建物を中心に議会が進んでおり、それは23世紀の世においても変わらない。
雫が国会議事堂の中央玄関にまで足を踏み出そうとすると、背後から車が停まる音が聞こえた。どうやら、車から降りて来たのは四人の刑事達らしい。刑事たちは全員が険しい目付きで雫を睨んでいた。
雫はゆっくりと背後を振り向き、招かれざる客人たちに挨拶をした。
「こんにちは、わたしの名前はもう知っていると思うけれど、一応話しておくね、わたしの名前は大樹寺雫。職業は高校生と教祖。最も最近は教祖稼業ばかりしているけれど……」
雫は無礼なる侵入者たちに目を細めて、
「それで、あなた達は誰なの?いや、男だけは知ってる。中村孝太郎さんだよね。わたしの計画を何度も潰した忌まわしい人物……鮮明に記憶に残ってるよ」
雫は自身の卵形の頭の端をトントンと人差し指で突く。その様子だけを見れば、単なる可愛いらしい女子高生のように思えたかもしれない。何せ、彼女はカルト教団の教祖らしかねないセーラー服だ。
事実を知らない人が見れば、単なる可愛らしい女子高生に思えたかもしれない。
雫は可愛らしい動作をやめてから、孝太郎の方を無表情で睨む。
「わたしも名乗ったんだから、あなた達も名乗るが流儀だよね?名前を教えてくれないかな」
雫の言葉共に四人に向かってアナベル人形が向かって行くが、孝太郎はそのアナベル人形に向かって『破壊』の右手を振う事によって仲間達に訪れたであろう最悪の事態を回避した。
雫は口笛を鳴らし、
「流石だね、でも、名前を教えてくれないんじゃ不利なんじゃないかな?」
雫の問いに四人は沈黙で答えた。代わりに、雫は別の事を孝太郎に尋ねた。
「あなた達、車で来たけれど、吉田さんや宮下さんはどうしたのかな?」
「……。その二人なら、ネオ・シブヤの警察署に引き渡し、ついでに毒ガスとラジコンが載った車の置いてある駐車場の場所も教えた。あれだけ暴れたが、岡田武人も吉田稔も毒ガスが漏れるのが怖かったのか、自分たちの車の周辺だけには何もしなかったよ」
「成る程ね、いざとなったら、車をその場で壊して、あの人たちにあの場で死ぬように命令しておくべきだったかな……」
雫の一言に青い髪を束ねた勝気な顔の女性が足を踏み出したが、彼女が雫に向かって行く事態を孝太郎が手で静止させた。
「よし、推理ショーの続きを始めようか、あんたは当初はこんなテロを起こさなくても済む状況だったんだろうな、だが、青山俊一郎失踪事件以降、あんたは追い詰められて、本来だったら、もっと後に実行する筈だった計画をこの場で実行しなければならなくなった」
雫は孝太郎の考えを首肯した。そして、小さな声で「続けて」と呟く。
「追い詰められたあんたは白籠市の支部を利用する事を思い付いた。そして、精神に問題を持っていた岡田武人を利用する事に決めた。精神に異常を持つあの二重人格者なら、操りやすいと吉田かあんたが考えたんだろうな」
「そうだよ。元々計画の中に囚人を利用し、あわゆくば、長年使えるように脳を強力な体に移植させる予定だったんだ。まさか、あんな物があったなんて思いもしなかったけど」
雫は遠い目でトマホーク・コープの置き土産の事を思い出す。
孝太郎は肩を上げて話を続けていく。
「そして、あんたは囚人の暴動を隠蓑にビッグ・トーキョーに毒ガスを巻く予定だった。だが、そこに障害が現れた。白籠署と俺たちだろ?予想外に早く囚人を片付けられたあんたはオレを拉致しようと考えた。それで、わざと疑問を持たせ、支部のビルで吉田稔にオレの事を吹き込ませて、捕らえさせた。違うか?」
雫はここで初めて首を横に振る。
「ううん、それだけは予想外だった。あなたが拉致されるのはわたしにとっても不測の事態だったよ」
孝太郎は思わぬ発言に肩を落とす。
「……そうだったのか、気を削がれたな、まぁ、いい。次にあんたのビルの爆破事件……。あれはあんたの自作自演だ。大衆というのはヒロインとヒーローが好きな物だ。あんたはオレとの茶会の合間に千一色の本部に電話を掛けたんだろ?爆弾を送り付けるように……」
雫は黙って答えない。孝太郎は沈黙が「イエス」の意味だと解釈して推理を続けていく。
「そして、悲劇のヒロインを演出したあんたはその夜に毒ガステロを実行する事にした」
「そして、またもやあなた達に阻まれて、わたしは他の信者達を捨てて、この場にいる。当たっているよ。それで……推理が分かったのはいいけれど、わたしをどうやって逮捕するつもりなのかな?」
雫は百体程のアナベル人形を作り出し、孝太郎達に向かって投げ出していく。
孝太郎は地面から無尽蔵に吐き出されていくアナベル人形を魔法と銃で破壊していくが、キリがない。
孝太郎は自分に向かって来る人形の対処をしつつ、他のメンバー達に向かう人形も処理をしなくてはならなかった。
孝太郎は急いで『破壊』の右手を振るう。右手を宙に向かって振う事で空中を飛んでいるアナベル人形を五体程破壊させる事はできるが、埋め尽くすように現れたのでは限界がある。
他の仲間達は自分たちの魔法や或いは銃を使って防いだりしているらしいが、いずれ限界が来るに違いない。
孝太郎は必死に右手を宙に振りながら、目の前のアナベル人形を消していく。
人形の隙間から大樹寺雫の姿が見えた際に、孝太郎はその隙間から一点突破を図ろうとするが、目の前の人形が急に笑い声を発し、孝太郎は思わずに唇を震わせてしまう。と、その瞬間に孝太郎に隙ができてしまう。隙を狙って孝太郎の顔に一体のアナベル人形が取り付く。
孝太郎は慌てて自身の顔に右手を振るい、アナベル人形を破壊した。
だが、張り付いたアナベル人形に続くように他の人形も孝太郎を狙う。
孝太郎は闇雲に右手を振るっていく。「火事場の馬鹿力」とでも言うのだろうか、あちこちに右手を使ったために自分たちを守る人形の数は大幅に減少していた。残る数は十五体くらいだろうか。
そのうちの一体が姉を狙う。だが、寸前のところで聡子が武器保存から日本刀を取り出し、姉を狙っていた人形を斬り付けた。
聡子の手によって斬られた人形は力を失って地面に落ちていく。
雫が国会議事堂の中央玄関にまで足を踏み出そうとすると、背後から車が停まる音が聞こえた。どうやら、車から降りて来たのは四人の刑事達らしい。刑事たちは全員が険しい目付きで雫を睨んでいた。
雫はゆっくりと背後を振り向き、招かれざる客人たちに挨拶をした。
「こんにちは、わたしの名前はもう知っていると思うけれど、一応話しておくね、わたしの名前は大樹寺雫。職業は高校生と教祖。最も最近は教祖稼業ばかりしているけれど……」
雫は無礼なる侵入者たちに目を細めて、
「それで、あなた達は誰なの?いや、男だけは知ってる。中村孝太郎さんだよね。わたしの計画を何度も潰した忌まわしい人物……鮮明に記憶に残ってるよ」
雫は自身の卵形の頭の端をトントンと人差し指で突く。その様子だけを見れば、単なる可愛いらしい女子高生のように思えたかもしれない。何せ、彼女はカルト教団の教祖らしかねないセーラー服だ。
事実を知らない人が見れば、単なる可愛らしい女子高生に思えたかもしれない。
雫は可愛らしい動作をやめてから、孝太郎の方を無表情で睨む。
「わたしも名乗ったんだから、あなた達も名乗るが流儀だよね?名前を教えてくれないかな」
雫の言葉共に四人に向かってアナベル人形が向かって行くが、孝太郎はそのアナベル人形に向かって『破壊』の右手を振う事によって仲間達に訪れたであろう最悪の事態を回避した。
雫は口笛を鳴らし、
「流石だね、でも、名前を教えてくれないんじゃ不利なんじゃないかな?」
雫の問いに四人は沈黙で答えた。代わりに、雫は別の事を孝太郎に尋ねた。
「あなた達、車で来たけれど、吉田さんや宮下さんはどうしたのかな?」
「……。その二人なら、ネオ・シブヤの警察署に引き渡し、ついでに毒ガスとラジコンが載った車の置いてある駐車場の場所も教えた。あれだけ暴れたが、岡田武人も吉田稔も毒ガスが漏れるのが怖かったのか、自分たちの車の周辺だけには何もしなかったよ」
「成る程ね、いざとなったら、車をその場で壊して、あの人たちにあの場で死ぬように命令しておくべきだったかな……」
雫の一言に青い髪を束ねた勝気な顔の女性が足を踏み出したが、彼女が雫に向かって行く事態を孝太郎が手で静止させた。
「よし、推理ショーの続きを始めようか、あんたは当初はこんなテロを起こさなくても済む状況だったんだろうな、だが、青山俊一郎失踪事件以降、あんたは追い詰められて、本来だったら、もっと後に実行する筈だった計画をこの場で実行しなければならなくなった」
雫は孝太郎の考えを首肯した。そして、小さな声で「続けて」と呟く。
「追い詰められたあんたは白籠市の支部を利用する事を思い付いた。そして、精神に問題を持っていた岡田武人を利用する事に決めた。精神に異常を持つあの二重人格者なら、操りやすいと吉田かあんたが考えたんだろうな」
「そうだよ。元々計画の中に囚人を利用し、あわゆくば、長年使えるように脳を強力な体に移植させる予定だったんだ。まさか、あんな物があったなんて思いもしなかったけど」
雫は遠い目でトマホーク・コープの置き土産の事を思い出す。
孝太郎は肩を上げて話を続けていく。
「そして、あんたは囚人の暴動を隠蓑にビッグ・トーキョーに毒ガスを巻く予定だった。だが、そこに障害が現れた。白籠署と俺たちだろ?予想外に早く囚人を片付けられたあんたはオレを拉致しようと考えた。それで、わざと疑問を持たせ、支部のビルで吉田稔にオレの事を吹き込ませて、捕らえさせた。違うか?」
雫はここで初めて首を横に振る。
「ううん、それだけは予想外だった。あなたが拉致されるのはわたしにとっても不測の事態だったよ」
孝太郎は思わぬ発言に肩を落とす。
「……そうだったのか、気を削がれたな、まぁ、いい。次にあんたのビルの爆破事件……。あれはあんたの自作自演だ。大衆というのはヒロインとヒーローが好きな物だ。あんたはオレとの茶会の合間に千一色の本部に電話を掛けたんだろ?爆弾を送り付けるように……」
雫は黙って答えない。孝太郎は沈黙が「イエス」の意味だと解釈して推理を続けていく。
「そして、悲劇のヒロインを演出したあんたはその夜に毒ガステロを実行する事にした」
「そして、またもやあなた達に阻まれて、わたしは他の信者達を捨てて、この場にいる。当たっているよ。それで……推理が分かったのはいいけれど、わたしをどうやって逮捕するつもりなのかな?」
雫は百体程のアナベル人形を作り出し、孝太郎達に向かって投げ出していく。
孝太郎は地面から無尽蔵に吐き出されていくアナベル人形を魔法と銃で破壊していくが、キリがない。
孝太郎は自分に向かって来る人形の対処をしつつ、他のメンバー達に向かう人形も処理をしなくてはならなかった。
孝太郎は急いで『破壊』の右手を振るう。右手を宙に向かって振う事で空中を飛んでいるアナベル人形を五体程破壊させる事はできるが、埋め尽くすように現れたのでは限界がある。
他の仲間達は自分たちの魔法や或いは銃を使って防いだりしているらしいが、いずれ限界が来るに違いない。
孝太郎は必死に右手を宙に振りながら、目の前のアナベル人形を消していく。
人形の隙間から大樹寺雫の姿が見えた際に、孝太郎はその隙間から一点突破を図ろうとするが、目の前の人形が急に笑い声を発し、孝太郎は思わずに唇を震わせてしまう。と、その瞬間に孝太郎に隙ができてしまう。隙を狙って孝太郎の顔に一体のアナベル人形が取り付く。
孝太郎は慌てて自身の顔に右手を振るい、アナベル人形を破壊した。
だが、張り付いたアナベル人形に続くように他の人形も孝太郎を狙う。
孝太郎は闇雲に右手を振るっていく。「火事場の馬鹿力」とでも言うのだろうか、あちこちに右手を使ったために自分たちを守る人形の数は大幅に減少していた。残る数は十五体くらいだろうか。
そのうちの一体が姉を狙う。だが、寸前のところで聡子が武器保存から日本刀を取り出し、姉を狙っていた人形を斬り付けた。
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