魔法刑事たちの事件簿R(リターンズ)

アンジェロ岩井

文字の大きさ
上 下
80 / 365
第二部『アナベル・パニック』

バプテスト・アナベルは永遠にーその①

しおりを挟む
大樹寺雫は目の前に聳え立つ国会議事堂を目の当たりにする。国会議事堂は19世紀に建てられた由緒ある建物であり、第日本帝国とその後の日本国時代はこの建物を中心に議会が進んでおり、それは23世紀の世においても変わらない。
雫が国会議事堂の中央玄関にまで足を踏み出そうとすると、背後から車が停まる音が聞こえた。どうやら、車から降りて来たのは四人の刑事達らしい。刑事たちは全員が険しい目付きで雫を睨んでいた。
雫はゆっくりと背後を振り向き、招かれざる客人たちに挨拶をした。
「こんにちは、わたしの名前はもう知っていると思うけれど、一応話しておくね、わたしの名前は大樹寺雫。職業は高校生と教祖。最も最近は教祖稼業ばかりしているけれど……」
雫は無礼なる侵入者たちに目を細めて、
「それで、あなた達は誰なの?いや、男だけは知ってる。中村孝太郎さんだよね。わたしの計画を何度も潰した忌まわしい人物……鮮明に記憶に残ってるよ」
雫は自身の卵形の頭の端をトントンと人差し指で突く。その様子だけを見れば、単なる可愛いらしい女子高生のように思えたかもしれない。何せ、彼女はカルト教団の教祖らしかねないセーラー服だ。
事実を知らない人が見れば、単なる可愛らしい女子高生に思えたかもしれない。
雫は可愛らしい動作をやめてから、孝太郎の方を無表情で睨む。
「わたしも名乗ったんだから、あなた達も名乗るが流儀だよね?名前を教えてくれないかな」
雫の言葉共に四人に向かってアナベル人形が向かって行くが、孝太郎はそのアナベル人形に向かって『破壊』の右手を振う事によって仲間達に訪れたであろう最悪の事態を回避した。
雫は口笛を鳴らし、
「流石だね、でも、名前を教えてくれないんじゃ不利なんじゃないかな?」
雫の問いに四人は沈黙で答えた。代わりに、雫は別の事を孝太郎に尋ねた。
「あなた達、車で来たけれど、吉田さんや宮下さんはどうしたのかな?」
「……。その二人なら、ネオ・シブヤの警察署に引き渡し、ついでに毒ガスとラジコンが載った車の置いてある駐車場の場所も教えた。あれだけ暴れたが、岡田武人も吉田稔も毒ガスが漏れるのが怖かったのか、自分たちの車の周辺だけには何もしなかったよ」
「成る程ね、いざとなったら、車をその場で壊して、かな……」
雫の一言に青い髪を束ねた勝気な顔の女性が足を踏み出したが、彼女が雫に向かって行く事態を孝太郎が手で静止させた。
「よし、推理ショーの続きを始めようか、あんたは当初はこんなテロを起こさなくても済む状況だったんだろうな、だが、青山俊一郎失踪事件以降、あんたは追い詰められて、本来だったら、もっと後に実行する筈だった計画をこの場で実行しなければならなくなった」
雫は孝太郎の考えを首肯した。そして、小さな声で「続けて」と呟く。
「追い詰められたあんたは白籠市の支部を利用する事を思い付いた。そして、精神に問題を持っていた岡田武人を利用する事に決めた。精神に異常を持つあの二重人格者なら、操りやすいと吉田かあんたが考えたんだろうな」
「そうだよ。元々計画の中に囚人を利用し、あわゆくば、長年使えるように脳を強力な体に移植させる予定だったんだ。まさか、あんな物があったなんて思いもしなかったけど」
雫は遠い目でトマホーク・コープの置き土産の事を思い出す。
孝太郎は肩を上げて話を続けていく。
「そして、あんたは囚人の暴動を隠蓑にビッグ・トーキョーに毒ガスを巻く予定だった。だが、そこに障害が現れた。白籠署と俺たちだろ?予想外に早く囚人を片付けられたあんたはオレを拉致しようと考えた。それで、わざと疑問を持たせ、支部のビルで吉田稔にオレの事を吹き込ませて、捕らえさせた。違うか?」
雫はここで初めて首を横に振る。
「ううん、それだけは予想外だった。あなたが拉致されるのはわたしにとっても不測の事態だったよ」
孝太郎は思わぬ発言に肩を落とす。
「……そうだったのか、気を削がれたな、まぁ、いい。次にあんたのビルの爆破事件……。あれはあんたの自作自演だ。大衆というのはヒロインとヒーローが好きな物だ。あんたはオレとの茶会の合間に千一色の本部に電話を掛けたんだろ?……」
雫は黙って答えない。孝太郎は沈黙が「イエス」の意味だと解釈して推理を続けていく。
「そして、悲劇のヒロインを演出したあんたはその夜に毒ガステロを実行する事にした」
「そして、またもやあなた達に阻まれて、わたしは他の信者達を捨てて、この場にいる。当たっているよ。それで……推理が分かったのはいいけれど、わたしをどうやって逮捕するつもりなのかな?」
雫は百体程のアナベル人形を作り出し、孝太郎達に向かって投げ出していく。
孝太郎は地面から無尽蔵に吐き出されていくアナベル人形を魔法と銃で破壊していくが、キリがない。
孝太郎は自分に向かって来る人形の対処をしつつ、他のメンバー達に向かう人形も処理をしなくてはならなかった。
孝太郎は急いで『破壊』の右手を振るう。右手を宙に向かって振う事で空中を飛んでいるアナベル人形を五体程破壊させる事はできるが、埋め尽くすように現れたのでは限界がある。
他の仲間達は自分たちの魔法や或いは銃を使って防いだりしているらしいが、いずれ限界が来るに違いない。
孝太郎は必死に右手を宙に振りながら、目の前のアナベル人形を消していく。
人形の隙間から大樹寺雫の姿が見えた際に、孝太郎はその隙間から一点突破を図ろうとするが、目の前の人形が急に笑い声を発し、孝太郎は思わずに唇を震わせてしまう。と、その瞬間に孝太郎に隙ができてしまう。隙を狙って孝太郎の顔に一体のアナベル人形が取り付く。
孝太郎は慌てて自身の顔に右手を振るい、アナベル人形を破壊した。
だが、張り付いたアナベル人形に続くように他の人形も孝太郎を狙う。
孝太郎は闇雲に右手を振るっていく。「火事場の馬鹿力」とでも言うのだろうか、あちこちに右手を使ったために自分たちを守る人形の数は大幅に減少していた。残る数は十五体くらいだろうか。
そのうちの一体が姉を狙う。だが、寸前のところで聡子が武器保存ウェポン・セーブから日本刀を取り出し、姉を狙っていた人形を斬り付けた。
聡子の手によって斬られた人形は力を失って地面に落ちていく。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

いつか日本人(ぼく)が地球を救う

多比良栄一
SF
この小説にはある仕掛けがある。 読者はこの物語を読み進めると、この作品自体に仕掛けられた「前代未聞」のアイデアを知ることになる。 それは日本のアニメやマンガへ注がれるオマージュ。 2次創作ではない、ある種の入れ子構造になったメタ・フィクション。 誰もがきいたことがある人物による、誰もみたことがない物語がいま幕を開ける。 すべてのアニメファンに告ぐ!! 。隠された謎を見抜けるか!!。 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------ 25世紀後半 地球を襲った亜獣と呼ばれる怪獣たちに、デミリアンと呼ばれる生命体に搭乗して戦う日本人少年ヤマトタケル。なぜか日本人にしか操縦ができないこの兵器に乗る者には、同時に、人類を滅ぼすと言われる「四解文書」と呼ばれる極秘文書も受け継がされた。 もしこれを人々が知れば、世界は「憤怒」し、「恐怖」し、「絶望」し、そして「発狂」する。 かつてそれを聞いた法皇がショック死したほどの四つの「真理」。 世界でたった一人、人類を救えも、滅ぼしもできる、両方の力を手に入れた日本人少年ヤマトタケル。 彼は、世界100億人全員から、救いを求められ、忌み嫌われ、そして恐れられる存在になった。 だが彼には使命があった。たとえ人類の半分の人々を犠牲にしても残り11体の亜獣を殲滅すること、そして「四解文書」の謎を誰にも知られずに永遠に葬ることだった。

老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜

二階堂吉乃
ファンタジー
 瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。  白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。  後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。  人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話7話。

日本が日露戦争後大陸利権を売却していたら? ~ノートが繋ぐ歴史改変~

うみ
SF
ロシアと戦争がはじまる。 突如、現代日本の少年のノートにこのような落書きが成された。少年はいたずらと思いつつ、ノートに冗談で返信を書き込むと、また相手から書き込みが成される。 なんとノートに書き込んだ人物は日露戦争中だということだったのだ! ずっと冗談と思っている少年は、日露戦争の経緯を書き込んだ結果、相手から今後の日本について助言を求められる。こうして少年による思わぬ歴史改変がはじまったのだった。 ※地名、話し方など全て現代基準で記載しています。違和感があることと思いますが、なるべく分かりやすくをテーマとしているため、ご了承ください。 ※この小説はなろうとカクヨムへも投稿しております。

散々利用されてから勇者パーティーを追い出された…が、元勇者パーティーは僕の本当の能力を知らない。

アノマロカリス
ファンタジー
僕こと…ディスト・ランゼウスは、経験値を倍増させてパーティーの成長を急成長させるスキルを持っていた。 それにあやかった剣士ディランは、僕と共にパーティーを集めて成長して行き…数々の魔王軍の配下を討伐して行き、なんと勇者の称号を得る事になった。 するとディランは、勇者の称号を得てからというもの…態度が横柄になり、更にはパーティーメンバー達も調子付いて行った。 それからと言うもの、調子付いた勇者ディランとパーティーメンバー達は、レベルの上がらないサポート役の僕を邪険にし始めていき… 遂には、役立たずは不要と言って僕を追い出したのだった。 ……とまぁ、ここまでは良くある話。 僕が抜けた勇者ディランとパーティーメンバー達は、その後も活躍し続けていき… 遂には、大魔王ドゥルガディスが収める魔大陸を攻略すると言う話になっていた。 「おやおや…もう魔大陸に上陸すると言う話になったのか、ならば…そろそろ僕の本来のスキルを発動するとしますか!」 それから数日後に、ディランとパーティーメンバー達が魔大陸に侵攻し始めたという話を聞いた。 なので、それと同時に…僕の本来のスキルを発動すると…? 2月11日にHOTランキング男性向けで1位になりました。 皆様お陰です、有り難う御座います。

最前線攻略に疲れた俺は、新作VRMMOを最弱職業で楽しむことにした

水の入ったペットボトル
SF
 これまであらゆるMMOを最前線攻略してきたが、もう俺(大川優磨)はこの遊び方に満足してしまった。いや、もう楽しいとすら思えない。 ゲームは楽しむためにするものだと思い出した俺は、新作VRMMOを最弱職業『テイマー』で始めることに。 βテストでは最弱職業だと言われていたテイマーだが、主人公の活躍によって評価が上がっていく?  そんな周りの評価など関係なしに、今日も主人公は楽しむことに全力を出す。  この作品は「カクヨム」様、「小説家になろう」様にも掲載しています。

戦いに行ったはずの騎士様は、女騎士を連れて帰ってきました。

新野乃花(大舟)
恋愛
健気にカサルの帰りを待ち続けていた、彼の婚約者のルミア。しかし帰還の日にカサルの隣にいたのは、同じ騎士であるミーナだった。親し気な様子をアピールしてくるミーナに加え、カサルもまた満更でもないような様子を見せ、ついにカサルはルミアに婚約破棄を告げてしまう。これで騎士としての真実の愛を手にすることができたと豪語するカサルであったものの、彼はその後すぐにあるきっかけから今夜破棄を大きく後悔することとなり…。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

Shadow★Man~変態イケメン御曹司に溺愛(ストーカー)されました~

美保馨
恋愛
ある日突然、澪は金持ちの美男子・藤堂千鶴に見染められる。しかしこの男は変態で異常なストーカーであった。澪はド変態イケメン金持ち千鶴に翻弄される日々を送る。『誰か平凡な日々を私に返して頂戴!』 ★変態美男子の『千鶴』と  バイオレンスな『澪』が送る  愛と笑いの物語!  ドタバタラブ?コメディー  ギャグ50%シリアス50%の比率  でお送り致します。 ※他社サイトで2007年に執筆開始いたしました。 ※感想をくださったら、飛び跳ねて喜び感涙いたします。 ※2007年当時に執筆した作品かつ著者が10代の頃に執筆した物のため、黒歴史感満載です。 改行等の修正は施しましたが、内容自体に手を加えていません。 2007年12月16日 執筆開始 2015年12月9日 復活(後にすぐまた休止) 2022年6月28日 アルファポリス様にて転用 ※実は別名義で「雪村 里帆」としてドギツイ裏有の小説をアルファポリス様で執筆しております。 現在の私の活動はこちらでご覧ください(閲覧注意ですw)。

処理中です...