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第二部『アナベル・パニック』

トーキョー・アタックーその14

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吉田稔は目の前の女を睨み付けた。真紀に新しい武器を出す様に目配せする。だが、真紀は頭を横に振る。稔は悔しげに地団駄を踏む。と、ここで岡田武人が動き出す。彼は機械の脚を動かし、屋上の奥へと逃げ込んだ絵里子に向かって殺人光線を発射する砲口を向ける。
絵里子は砲口を向けられるのと同時に、即座にレーザーガンを作り出し、レーザーを殺人機械に向ける。だが、岡田武人の意思を持つ殺人機械はその意図を見破ってか、車の陰に隠れて難を逃れた。
「危ない、危ない……このままじゃオレの新たな体がぶっ壊れてしまう所だったな……」
そう言って機械の体は横の吉田稔に向く。稔は機械の言葉を首肯する。
「勿論だ、いくらユニオン帝国の最新鋭の体と言えどもレーザーに耐えられる物質では作られていないからな、あれには注意をした方がいい」
稔は剣先で奥からレーザーを撃ち込まんとする絵里子を差す。
機械は刀の先から認識AIを移行し、再び稔に向ける。稔は満足げに笑ってみせた。
「だが、あいつはオレが始末する。お前はまず持って最大の安全を……」
「いいや、あんたに安全は来ねぇ」
二人の人間と一体の機械が背後を振り向く。そこには軽機関銃スコーピオンを構えた小柄の青い髪の女性が立っていた。
「明美を随分といじめてくれたみたーじゃねーか、今からそのお礼参はたっぷりとさせてもらうぜ」
小柄な女はそう言って唇の周りを舐め回す。
その様子に危機を感じたのは吉田稔だった。稔は一旦は懐にしまった三体の式神を青い髪の女に向かわせた。
これで勝負は決まった筈だった。稔は勝利の確信を得て、大きく口元の右端を吊り上げた。だが、次の瞬間には彼の勝利の確信は青ざめた顔に変貌してしまう。何故ならば、その女は稔が向かわせた全ての式神をスコーピオンで蜂の巣にしていたのだから。
「こんなもんにみんな苦戦してたのかよぉ~絵里子さん!あんたももう少し戦闘センスを磨いたらどうだい!?」
チームの武闘派が発した大きな声に絵里子は口を尖らせて返事を返す。
「うるさい!余計なお世話よ!それと、あたしには構わないから、孝ちゃんを解放してあげて!」
青い髪の女性は拳を宙に振り上げて叫ぶ。
「勿論サ!あんたの囚われのダルダニャンは勇敢な三銃士が救出してあげますよぉ~」
青い紙の勝気な顔の女性は殺人機械に無数とも言える銃弾を浴びせてから、中間で唖然としていた丸渕眼鏡の女性の手を取り、囚われの孝太郎の元に向かって行く。稔はこの状況を危機に感じたに違いない。即座に式神を孝太郎から離し、自身の懐に戻す。
白籠市のアンタッチャブルの四人に前後から挟まれたバプテスト・アナベル教の幹部達はどうしようもない危機に陥っていた。
稔は冷や汗の流れる喉を開け、
「どういう事なんだよ……どうして、あの女が復帰してやがる!?オレはかなり強くぶん殴ったつもりだぞ!」
「悪いけれど、あなたの攻撃なんて蚊に刺されたようにしか思えないわよ!あたしが思うに、あの子は……聡子は……いや、京子はあなた達を倒す機会をずっーと伺ってたんじゃないかしら?」
絵里子の指摘に稔は頭の中で目の前の女が自分たちを最初から挟み撃ちにするように目論んでいたのかと考え始めた。
そして、この瞬間に二人と三人の間に備わっていた均衡は音を立てて崩れていく。彼らに重く傾いていた筈の天秤が白籠市のアンタッチャブルの面々に傾いていったのだ。
武人は激昂し、レーザー光線を奥に向かって手当たり次第に発射していくが、どうも当たりはしない。車こそ壊れていき、黒煙を上げていくが、肝心の人影は見えない。追い詰められた武人がこの駐車場を丸ごと破壊しようかと悩んでいると、突如彼の体を光の光線が貫く。
一筋の光線は機械の電子心臓を破壊し、同時に動かしていた機械の全てを壊した。ここに、殺人機械、岡田武人の機能は永久に停止した。人形のタカアシガニの形をした機械はもうゼンマイの切れたおもちゃのように動かなくなってしまったのだった。
稔と真紀が岡田武人の機能停止に意識を奪われていると、背後から音が聞こえた。稔が慌てて背後を振り返ると、そこには例の刑事、中村孝太郎と石井聡子の二人が現れた。
稔は前方に慌てて亀裂を作り、そこから土砂と土塊を放出しようとするが、二つの攻撃は孝太郎の右手から放出される『破壊』によってかき消されてしまう。
「ならば、これはどうだッ!」
稔は懐から最後の式神を取り出し、孝太郎に向かわせた。孝太郎は迫り来る人の形をした紙に向かって右手を振るう。
孝太郎の右手によって魔法と紙の存在自体を壊されてしまった稔は堪らずに後退りをする。
稔は孝太郎の油断を誘うために、顔をワザと和やかにし、両手を下ろして、手錠を掛けさせようと言う風に見せかけた。
だが、実際は右手は日本刀の塚を触っていた。この状態ならば、稔は直ぐに抜刀できる自信があった。稔はサンタクロースのような柔和な笑顔を浮かべ、
「悪かったよ。刑事さん……オレの負けだ。良いから、早くオレに手錠を掛けてくれ」
だが、孝太郎は足を止めたままである。孝太郎は眉一つ動かす事なく言った。
「一つ言っておく、お前のような汚らわしいドブネズミの抵抗をやめさせるために、オレが手を出したりはしない。聡子ッ!いや、京子ッ!」
その言葉と共に孝太郎の背後に控えていた京子が武器保存ウェポン・セーブから取り出した日本刀を抜く。
と、同時に稔は即座に右手で日本刀を抜いたが、居合の技術なら聡子の方が上だったらしい。稔の刀は聡子の刀によって弾き飛ばされてしまい、アスファルトのコンクリートの上を転がっていく。
「うわァァァァァァァァァァ~!!」
稔は堪らずに絶叫した。
孝太郎は恐怖に駆られて尻餅を付く稔の顔を覗き込む。そして、表情を崩す事なく言った。
「お前を逮捕する。それでいいな?」
稔は首を何度も頷かせる。そして、大人しく稔の指示に従い手錠を掛けられていく。
「さてと、後はあんたの処遇だが」
孝太郎は仏頂面を浮かべた教団幹部の宮下真紀を見つめる。険しい目。あくまでも敵対者を見る視線。だが、真紀は特に不快感を示さずに言った。
「分かりました。あなたの指示に従います。それでよろしいでしょうか?」
真紀の言葉を孝太郎は首肯する。
「作戦は失敗しました。この上は大人しく、警察に連行されましょう。ただし、我がご主人様マイ・マイスターの居場所を吐く気はありません」
真紀は驚くほど堂々と言ってのけたのだった。
ここに、日本史上最悪のテロ作戦は阻止された事になった。
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