上 下
67 / 365
第二部『アナベル・パニック』

トーキョー・アタックーその④

しおりを挟む
白犬美穂は斧を肩まで持ち上げて、それから相手に向かって真っ直線に振り下ろす。淳一は上段から放たれた斧の攻撃を日本刀を盾にして防ぐ。彼の顔には余裕の表情こそないが、焦っている様子もない。美穂は危機感を感じて、より一層斧を強く振るう。すると、淳一と美穂の前の空間が裂けた。淳一は冷や汗を垂らして、ひび割れたアスファルトを蹴って背後へと後退する。どうやら、目の前の女は相当に恐ろしい能力を持っているらしい。淳一が刀を持つ手に震えを感じていた時に背後の味方が追い討ちを加えた。
「気を付けろ!岡田武人のもう一人の人格の扱う魔法の特徴は武器で斬った空間に穴を開ける能力なんだッ!」
淳一はそんなのありかよと心の中でツッコミを入れて、目の前の男の体の中に潜む男と相手をする事にした。
淳一は目の前の男を注意深く相手を警戒しておく。美穂はもう一度先程、同様の攻撃を繰り返す。淳一は背後に足を動かして、美穂の斬撃と空間を削り取る攻撃を同時に防ぐ。
淳一が例の魔法付きの攻撃を繰り出そうとした瞬間に相手に向かって刀を防ぐ事によって最悪の事態を回避する。
そして、刃物同士による近接戦闘ではなく、自身の魔法を利用した遠距離戦闘に切り替える事を決意した。淳一は左手を手刀の形にして、空を切る。
その瞬間に見えない斬撃が美穂のひだりの頬を襲う。先程、岡田武人であった時の戦闘により、一度右の頬から血を流している事から、これで彼女(もしくは彼は)両方の頬から血を流した事になる。
白犬美穂は体を震えさせて両手の拳を握り締めて叫ぶ。
「よくもッ!よくもッ!わたしの武人の体に傷を付けたねッ?許さないよッ!許さないッ!」
美穂は闇雲に斧を振り回して、次々と亜空間を生み出していく。
淳一は後退りをして、彼女との距離を詰めていくだけ、それも遠距離から手刀で見えない刃を作り出し、彼女に向かってそれを放つだけ。これで体力を削っていこうと淳一は考えたが、そうは問屋が卸さなかったらしい。淳一は全身で大きな揺れを感じた。到底、我慢できずに膝を突くと、目の前に噂に聞いたような柄の悪そうな男が立っていた。
「テメェ、よくも美穂をいじめてくれやがったな、テメェはじっくりと可愛がってやるぜ」
岡田武人の人格が戻ったらしい。斧が手元と地面に転がっていない事から、彼は武器保存ウェポン・セーブにしまったのだろう。武人は地震を発生させられる拳を淳一に見せた。
「これでお前の頭をかち割ったらどうなるんだろうな?え?」
武人は地震を発生させる拳を淳一に見せて、顔に薄ら笑いを浮かべていた。
あの笑いからするに、自分の頭に限定して地震を起こさせるらしい。その際に起こる衝撃がどんなものなのかは想像もしたくない。淳一は冷や汗をかいて地面を下がっていく。
「待てよ、オレの女を怖い目に遭わせて、五体満足で帰れると思うのか?」
淳一の顔に恐怖の色が浮かぶ。一歩一歩距離を詰めてくる武人の足音が今の淳一には破滅をもたらす悪魔の使いの足音に思えて仕方がない。淳一は横の警官たちを眺める。全員が全員岡田武人の攻撃を恐れているらしい。淳一は最後の最後まで抵抗してやろうと、距離を詰めてくる武人に向かって刀を構えた、まさにその時だ。銃の乾いた音が響く。岡田武人が腹を押さえてひび割れた黒色のコンクリートの上に倒れた。痛みを訴える声が聞こえてくる。
慌てて、淳一が警察官たちの中を見渡すと、そこには銃口から白い煙を立たせている年老いた警察官の姿を目撃した。危機を感じて発砲したのは孝太郎ではない。孝太郎はパトカーのドアに倒れかかっていた。銃を放った男の姿を改めて淳一は確認した。壮年の男であり、白籠署殺人課のベテラン刑事、小田切士郎であった。
士郎は銃を構えたまま呆然と立ち尽くしていた。やがて、全てを悟ったらしく、拳銃を無言で懐にしまいなおす。
士郎は震える手でタバコを持って、落ち着きを得るためにタバコを吸う。淳一は勇気ある行動を取った士郎に無言で頭を下げた。士郎は片手で静止してタバコの続きを吸い始めた。
淳一は不穏な空気に包まれている仲間たちに発破をかけた。この機会に商店を占領しているギャング共を制圧しようと。
パトカーにもたれかかっていた孝太郎も淳一の行動に同意したらしい。白籠市のアンタッチャブルのメンバーと集まった警察署の仲間たちに号令をかけて、大型商店に突っ込む。
先程の銃撃戦でショックを受けた様子の小田切士郎ですら混じって自分たちの立て篭もる大型の商店に迫り込む警察側とは異なり、自分たちのボス、岡田武人を撃たれてしまったと勘付いた、商店に籠る“脱獄囚”達はパニックを引き起こしていた。
金子などは勝ち目がないと考えたのだろう、店を捨てて裏口から逃げ出して行く。あまり強くない魔法を持つ魔法師たちも金子に続いて、裏口へと向かう。銃や魔法の腕に自信のある人間は正面から押し寄せる警察官たちの数に怯えながら、銃を構えた。
だが、彼らが引き金を引くよりも前に、ウィンドーガラスを割って警察たちの銃弾が彼らの脚を撃っていたために、殆どの人間がその場で脚から血を流して戦闘不能に陥ってしまう。唯一、この事態を店の商品棚に隠れて難を凌いだ山口裕作は得意の魔法狂人たちの演奏会クレイジー・コンサートを使用して、大型の実体化した音符を飛ばして、迫りくる警察官たちを跳ね除けていたが、その音符が孝太郎の右手によって『破壊』されてしまうと、裕作の魔法も意味がなくなってしまい、逮捕されるその瞬間に至るまで、裕作は音符を作り続けたが、無駄な抵抗だったらしく、孝太郎により手錠を嵌められてもう一度拘置所に向かう事になってしまう。
孝太郎や他の警察官たちが銃を構えて店の中を確認する。どうやら、この店の中に隠れている人間はもういないらしい。
孝太郎が安心して、道路に戻ると、そこには死亡した岡田武人の死体をワゴン車に詰め込む黒色のスーツを着た男たちの姿が目撃できた。
孝太郎は慌ててワゴン車の元に駆け寄ったが、男たちがワゴン車に引っ込んで、岡田武人の死体を回収する方が早かったらしく、彼らの車は走り去ってしまう。
孝太郎は細い目でワゴン車を見つめた。この事件はこの件だけでは終わらないと。この続きがあるのだと。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

アルビオン王国宙軍士官物語(クリフエッジシリーズ合本版)

愛山雄町
SF
 ハヤカワ文庫さんのSF好きにお勧め! ■■■  人類が宇宙に進出して約五千年後、地球より数千光年離れた銀河系ペルセウス腕を舞台に、後に“クリフエッジ(崖っぷち)”と呼ばれることになるアルビオン王国軍士官クリフォード・カスバート・コリングウッドの物語。 ■■■  宇宙暦4500年代、銀河系ペルセウス腕には四つの政治勢力、「アルビオン王国」、「ゾンファ共和国」、「スヴァローグ帝国」、「自由星系国家連合」が割拠していた。  アルビオン王国は領土的野心の強いゾンファ共和国とスヴァローグ帝国と戦い続けている。  4512年、アルビオン王国に一人の英雄が登場した。  その名はクリフォード・カスバート・コリングウッド。  彼は柔軟な思考と確固たる信念の持ち主で、敵国の野望を打ち砕いていく。 ■■■  小説家になろうで「クリフエッジシリーズ」として投稿している作品を合本版として、こちらでも投稿することにしました。 ■■■ 小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+でも投稿しております。

Live or Die?

阿弥陀乃トンマージ
SF
 人類が本格的に地球から宇宙に進出するようになってから、すっかり星間飛行も宇宙旅行も当たり前になった時代……。地球に住む1人の青年、タスマ=ドラキンが大きな夢を抱いて、宇宙に飛び出そうとしていた!……密航で。  タスマが潜り込んだ船には何故か三人組の女の子たちの姿が……可愛らしい女の子たちかと思えば、この女の子たち、どうやら一癖も二癖もあるようで……?  銀河をまたにかけた新感覚一大スペクタクル、ここに開演!

―異質― 激突の編/日本国の〝隊〟 その異世界を掻き回す重金奏――

EPIC
SF
日本国の戦闘団、護衛隊群、そして戦闘機と飛行場基地。続々異世界へ―― とある別の歴史を歩んだ世界。 その世界の日本には、日本軍とも自衛隊とも似て非なる、〝日本国隊〟という名の有事組織が存在した。 第二次世界大戦以降も幾度もの戦いを潜り抜けて来た〝日本国隊〟は、異質な未知の世界を新たな戦いの場とする事になる―― 大規模な演習の最中に異常現象に巻き込まれ、未知なる世界へと飛ばされてしまった、日本国陸隊の有事官〝制刻 自由(ぜいこく じゆう)〟と、各職種混成の約1個中隊。 そこは、剣と魔法が力の象徴とされ、モンスターが跋扈する世界であった。 そんな世界で手探りでの調査に乗り出した日本国隊。時に異世界の人々と交流し、時に救い、時には脅威となる存在と苛烈な戦いを繰り広げ、潜り抜けて来た。 そんな彼らの元へ、陸隊の戦闘団。海隊の護衛艦船。航空隊の戦闘機から果ては航空基地までもが、続々と転移合流して来る。 そしてそれを狙い図ったかのように、異世界の各地で不穏な動きが見え始める。 果たして日本国隊は、そして異世界はいかなる道をたどるのか。 未知なる地で、日本国隊と、未知なる力が激突する―― 注意事項(1 当お話は第2部となります。ですがここから読み始めても差して支障は無いかと思います、きっと、たぶん、メイビー。 注意事項(2 このお話には、オリジナル及び架空設定を多数含みます。 注意事項(3 部隊単位で続々転移して来る形式の転移物となります。 注意事項(4 主人公を始めとする一部隊員キャラクターが、超常的な行動を取ります。かなりなんでも有りです。 注意事項(5 小説家になろう、カクヨムでも投稿しています。

Dragon maze~Wild in Blood 2~

まりの
SF
シリーズ二作目。Wild in Bloodの続編。あれから三年。突然A・Hの肌に現れる翼の生えた蛇の印。それは理想郷への免罪符なのか……暗号、悲劇、謎のメッセージ、箱舟から出た竜とは? 主人公をネコのA・Hカイに交代し、ここに新しい神話が始まる。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

空想科学小説-蘇り転生の魔王、絶滅寸前の魔族を救う!

shiba
SF
プログラマーの田中一郎はデバッグ中に意識を失い死亡する。死因は強制的に転生させられた事、享年35歳のおっさんである。しかし、目覚めると、やたらと豪奢なベッドの上で…… そこで彼は300年前に勇者と相打ちになった魔王である事を思い出す。今や魔族は風前の灯、生存圏はダンジョンのみ、かつての友や配下も討ち死にしてしまっている現状。 ”世界は一つではない”と知った彼は転移ゲートを設置し、地球から異世界に輸入した様々な物品と知識で、天狼の娘や吸血鬼の令嬢、貴族の悪役令嬢(予定)たちと共に魔族勢力の巻き返しを図る! ※小説家になろう様でも掲載しております。

毒素擬人化小説『ウミヘビのスープ』 〜十の賢者と百の猛毒が、寄生菌バイオハザード鎮圧を目指すSFファンタジー活劇〜 

天海二色
SF
 西暦2320年、世界は寄生菌『珊瑚』がもたらす不治の病、『珊瑚症』に蝕まれていた。  珊瑚症に罹患した者はステージの進行と共に異形となり凶暴化し、生物災害【バイオハザード】を各地で引き起こす。  その珊瑚症の感染者が引き起こす生物災害を鎮める切り札は、毒素を宿す有毒人種《ウミヘビ》。  彼らは一人につき一つの毒素を持つ。  医師モーズは、その《ウミヘビ》を管理する研究所に奇縁によって入所する事となった。  彼はそこで《ウミヘビ》の手を借り、生物災害鎮圧及び珊瑚症の治療薬を探究することになる。  これはモーズが、治療薬『テリアカ』を作るまでの物語である。  ……そして個性豊か過ぎるウミヘビと、同僚となる癖の強いクスシに振り回される物語でもある。 ※《ウミヘビ》は毒劇や危険物、元素を擬人化した男子になります ※研究所に所属している職員《クスシヘビ》は全員モデルとなる化学者がいます ※この小説は国家資格である『毒劇物取扱責任者』を覚える為に考えた話なので、日本の法律や規約を世界観に採用していたりします。 参考文献 松井奈美子 一発合格! 毒物劇物取扱者試験テキスト&問題集 船山信次  史上最強カラー図解 毒の科学 毒と人間のかかわり 齋藤勝裕  毒の科学 身近にある毒から人間がつくりだした化学物質まで 鈴木勉   毒と薬 (大人のための図鑑) 特別展「毒」 公式図録 くられ、姫川たけお 毒物ずかん: キュートであぶない毒キャラの世界へ ジェームス・M・ラッセル著 森 寛敏監修 118元素全百科 その他広辞苑、Wikipediaなど

自衛隊のロボット乗りは大変です。~頑張れ若年陸曹~

ハの字
SF
日比野 比乃(ヒビノ ヒノ)。国土防衛組織、陸上自衛隊第三師団“機士科”所属の三等陸曹、齢十七歳。 自衛隊最年少の人型機動兵器「AMW」乗りであり、通称「狂ってる師団」の期待株。そして、同僚(変人)達から愛されるマスコット的な存在……とはいかないのが、今日の世界情勢であった。 多発する重武装テロ、過激な市民団体による暴動、挙げ句の果てには正体不明の敵まで出現。 びっくり人間と言っても差し支えがない愉快なチームメンバー。 行く先々で知り合うことになる、立場も個性も豊か過ぎる友人達。 これらの対処に追われる毎日に、果たして終わりは来るのだろうか……日比野三曹の奮闘が始まる。 ▼「小説家になろう」と同時掲載です。改稿を終えたものから更新する予定です。 ▼人型ロボットが活躍する話です。実在する団体・企業・軍事・政治・世界情勢その他もろもろとはまったく関係ありません、御了承下さい。

処理中です...