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第二部『アナベル・パニック』

トーキョー・アタックーその②

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岡田武人は眉根を寄せて、孝太郎に向かって大きな声で尋ね返す。
「久しぶりだなぁ!クソ真面目なお坊ちゃん警官さんよぉ~オレの不在中にこの街で大暴れだって?感謝してるぜ、トマホーク・コープのトマスのクソジジイをむしょの中に放り込んだ事をよぉ~」
虫歯によって欠けた歯を剥き出しにして、叫ぶ武人に向かって孝太郎も負けないくらいの大きな声で叫び返す。
「感謝される程の事はしてないぜェ~!逮捕の時になぁ、面白い話を耳に挟んだから、その事をお前に一字一句残らず話してやるよ!お前らは時期が来たら、トマス支社長に消される予定だったんぜ!トマホーク・コープによる日本進出のためになァァ~!!」
武人はその言葉に気を悪くしたのだろう、孝太郎に向かって無言で銃を撃ち込む。武人の散弾を自身の魔法ーー鋼鉄の将軍ジェネラル・オブ・スティールによって弾き返す。
武人は舌を打ち、今度は孝太郎の他の仲間たちに向かって銃を撃ち込む。
だが、孝太郎が慌てて銃口の向く方向に向かった事により、武人が銃口の向きを構え直した際に一瞬の隙が生じた事と白籠市のアンタッチャブルのメンバーが周りのいち早く散り散りになったと言う二つの幸運が重なった事により、武人の散弾は近くの街路樹を粉々に済む事だけで済んだ。
武人は興奮によって昂った息を整えてから、もう一度孝太郎に向かって狙いを定める。
孝太郎はその隙に武器保存ウェポン・セーブから、黒塗りのリボルバーを取り出して、武人の右足を狙って撃つ。が、弾は武人の足を掠めただけで終わる。武人はお気に入りのズボンに銃弾が掠めて、傷を付けた事に腹が立ったのだろうか。彼は弾を詰め直した散弾銃を近くのコンクリートに向かって放つ。予想外の大きさの音に全員の動きが止まった事を確認して、店の奥へと引っ込む。
どうやら、この先に彼が現れる暇はなさそうだ。
孝太郎は構えていたリボルバーを斜め下に下ろす。小さな溜息を吐いた後に、周りに仲間がやって来て取り囲む。
「お疲れ様だな、孝太郎さん!あのイカレ野郎があんたにどう対処するのかを楽しみにしていたけれど、見ていてとっても格好良かったよ!『ローンレンジャー』みてーだったぜ!」
「ローンレンジャーか……」
孝太郎は聡子の一言によって、自身が開拓時代のアメリカで白馬を駆っている姿を思い返す。いや、自分と姉はアメリカ先住民の血を受け継いでいるから、どちらかと言えばローンレンジャーの相棒のトントが近いかもしれない。
そんな事を考えていると、商店から別の男たちが姿を現して、拳銃や散弾銃の銃口を向けていた。
孝太郎は慌てて商店に篭る悪党たちに向かって威嚇射撃を行う。真夜中の空に銃の音が鳴り響く。




「冗談じゃあねえぞ!なんで、オレが逃げなけりゃあいけないんだッ!おい、金子ォ!もっとおかわりを持ってこい!」
武人は酒コーナーで相変わらずスコッチとバーボンをあおっていた。一度のみならず二度も彼に逃げ足を引かせた事に武人は戦慄していた。瓶を持つ手がプルプルと震えている事に気が付く。
もしや、恐怖を感じてしまっているのではないかと武人は気に病む。
武人の心中を察したのだろう。金子はとばっちりが来ない事を期待して、震える手で武人にバーボンを渡す。
武人がバーボンの瓶の蓋を開けようとすると、ここで彼が吉田稔から渡された黒色の携帯端末の着信音が鳴り響く。武人は不機嫌な声で電話の主に応じた。
『おい、岡田……どういう事だ?オレの指示よりも、脱獄させた囚人の数が少ないぞ、端末からネットニュースを覗いてみたら、書かれている情報じゃあたったの十五人じゃあないかッ!こうなったら、部下をそちらに何人か遣す。一時間ほどだ。耐えられるか?」
武人は余計なお世話だと怒鳴り付けたい気持ちを押さえつけて、相手に言葉を返す。
「これからやる所だよ!脱獄した時には飯を食ったなかったもんでね!そのうちに軍隊を作りかねない程の大きな人数で、ビッグ・トーキョーを恐怖の街に変えてやるよ!」
武人はそう言って啖呵を切った事に後悔はしていない。だからこそ、あの刑事たちを排除しなければならないと自身に言い聞かせて、もう一度散弾銃を携えて店の外へと向かう。気のせいか、パトカーのサイレンの音も先程より多くなっていた。武人は孝太郎が応援を呼んだと判断して、怒る気持ちを抑えて向かって行く。




「国家の犬どもめッ!これでも喰らいやがれッ!」
武人の手下の一人が怒りに任せて手製の火炎瓶を殴り付けた。
火炎瓶は予想外に警察の動揺を誘ったらしく、彼らは慌てて水を扱える魔法師を火炎瓶のかかった方向に向かわせて、消火に当たっていた。火が小さくなったタイミングで手下が銃をその魔法師に撃ち込む。
だが、端正な赤銅色の肌を持つ男の手によって彼の銃弾は弾かれてしまう。
男は地団駄を踏んで、孝太郎を睨み付けた。次に男は拳銃を持ち替えて、右手から火炎を作り上げ、それを警官たちに向かって放出した。
だが、その炎さえも孝太郎の右手によってかき消されてしまう。いや、「かき消された」と言うよりは「無理矢理砕かれてしまった」と言う表現の方が正しいかもしれない。ともかく、彼にとっては耐えがたい屈辱であった。彼は歯を強く噛んで、玉砕を覚悟で拳銃を構えて商店の向かい側の道路に前線基地を構える警官たちに向かって行く。
自身の誇る無敵の炎をパトカーの上から警官たちに向かって放出しようとした時だ、例の赤銅色の肌を持つ美男子が目の前に現れて、またしても炎を打ち消してしまう。そして、自分自身の右頬を強く叩かれて地面に体を投げ出されてしまう。地面から重い腰を上げて立ち上がろうとする男の手に銀色の手錠が嵌められた。男は地面から見上げて、手錠を嵌めた相手を確認する。
なんと、自分自身に手錠を掛けたのは年若い青色の髪の長い女だった。女は唇を右に吊り上げて、
「これでご用だな?良かったなぁ~記念すべき事だぜ。お前が逮捕者第一号になったんだからな」
男は手錠を掛けられて、パトカーの側に隠れるように言われて、指示に従う。逃げ出す手もあったが、その場で撃ち殺されては意味がないと判断して、武人の“元”配下の男は項垂れてパトカーの側に隠れていた。
そして、戦いが終わるのを待っていた。男は修行をしている最中の僧はこんな気持ちなのかと考えながら、星一つ見えない都会の夜空を眺めた。
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