魔法刑事たちの事件簿R(リターンズ)

アンジェロ岩井

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第二部『アナベル・パニック』

トーキョー・アタックーその①

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吉田稔から、MCMの解除キーを手に入れて、地震の力を取り戻した岡田武人にすれば、精神病院の医師や看護師達を制圧する事など造作もない事だった。彼は自身の力で地面に半ば強制的に伏せさせた医師と思われる男のポケットからMCMの解除キーと病室の鍵を手に入れて、比較的意識がハッキリとしている人間を仲間に引き入れて、病院を抜け出す。途中に追跡の手が伸びたのだが、武人の地震の前にはなす術もなく破れ去っていく。
難を逃れた武人は途中の道で農家の人間を脅して彼らの車を奪い取り、十五人程の仲間達と白籠市へと向かう。
自身を捕らえたあの刑事、中村孝太郎へと復讐するために。





「ええ、我がご主人様マイ・マイスター。計画は全て順調です。岡田武人は計画に乗り、白籠市に向かっています。あの街で五日ぶりに騒動が起こるんですよ。ビッグ・トーキョーの警察庁やら警視庁の人間どもは奴らの対応に追われるでしょうね。その隙に我々が大統領官邸を目指して、毒ガスを撒き散らす。完璧な計画ですね」
『違うわ、訂正なさい』
予想外の言葉に稔は戦慄してしまう。何か不味い事でも言ったのかと危惧していると、実が言い訳じみた言葉を口に出そうとした時だ。雫が先程の内容を告げた。
『これは救済計画よ。わたし達は偽りの教えに捕らえられて、苦しむ人々を天国に送ってあげるために、この作戦を実行したの。私利私欲のために国内で核爆弾を使用しようとした昌原とは違うの。分かった?」
稔は謝罪の言葉を口にする。と、ここで敬愛する教祖からの電話は途切れた。
稔は教祖の面倒臭さこそあるものの、この日本をひっくり返すための計画には大いに胸が躍った。





岡田武人は同じ精神病院出身の十五名の部下に囲まれて、楽しそうに銃を放っていく。銃は途中で制圧に訪れたパトカーに乗った警察官たちから奪い取ったものだ。警察官を脅して、彼らの武器保存ウェポン・セーブから拳銃や散弾銃、レーザーガンなどを奪い取る。
お陰で、彼の異空間の武器庫は武器で満たされていた。
武器を使い街の中心街を占領して、警察を待つ。武人はその間に近くの大型の商店から酒コーナーから奪い取ったバーボンやスコッチに酔っていた。勝利の美酒とも言える余韻が彼の飲酒を勧めていく。
だが、不思議な事に酒を飲んでも彼は酔い潰れる様子は見せない。彼の酒に対する姿勢が強いわけではない。それは、彼が精神病院から連れ出した魔法師の一人、金子由重のおかげだった。
彼の扱える魔法は武器保存ウェポン・セーブなどの誰でも扱えるような魔法を除けば、どれだけ酒を飲んでも酔い潰れない酔い殺しアルコール・キラーの効果によるものだった。
お陰で、武人はどれだけ洋酒を飲んでも酔い潰れないのだ。
武人が十五本目のスコッチの瓶を開けた時だ。ようやく、彼らが占領する商店の周りを警察達が取り囲む。
武人は待ったました言わんばかりに頰を弛緩して、口元の酒を拭って、武器保存ウェポン・セーブから、散弾銃を取り出して、彼らの乗ってきたパトカーに向かって商店から発砲する。
白籠署のパトカーに散弾銃の弾が直撃して、危機を感じた警官達は商店の手前に停められたパトカーから離れていく。
武人はその様子を見て、口元を更に深く口元を歪めて、
「さぁ、カーニバルの始まりだぜェェ~!!!野郎ども撃ちまくれェェェェ~!!!街のクソッタレのポリ公どもを『俺たちに明日はない』のボニーとクライドみてーに蜂の巣にしてやれェェェェ~!!」
武人の言葉に「野郎ども」が同調して、彼ら自身の異空間の武器庫から、武器を取り出して取り囲む警官達に向かって銃を撃っていく。
「見てくれよぉ~武人ッ!この街の警官どもは腑抜け揃いだッ!全員が全員クリスマスの日の子豚みてーに尻尾巻いて逃げ帰ってやがるぜッ!」
「こんな腑抜けの腰抜けどもにオレらが捕まって、あんな所にぶち込まれたと思うと、腹が立つよなッ!」
精神病院の服を着た男が言うと説得力があるなと、武人は感心しながら聞いていた。と、ここで背後で拳銃を構えていた頭頂部の禿頭が目立つ男が何やら呼び掛けている。
武人は目の前の警官隊の相手を部下に任せて、奥の方へと向かう。
武人は奥で目を見張る。何故なら、そこには大量の服が並べられていたから。
武人は堪らずに歓声を上げる。そして、彼は服のコーナーから革のジャケットと黒のシャツと黒色のジーンズを見つけると、直ぐにその場で精神病院の院服を脱ぎ捨てて着替え直す。
それ相応の格好に着替え直した武人はこのコーナーを見つけた部下にも着替える権利を与えた。
部下は大喜びで服を替えていく。禿頭の男が選んだ服はよく分からないアルファベットの並んだ薄緑色のシャツに青色のジーンズだった。武人は禿頭の男に礼を言ってから、もう一度、自分たちの籠る商店を包囲する警察官達に戦いを挑む。
脱獄のためにただでさえ戦った武人のテンションが似合いの服を手に入れたと言う気持ちが加わり、更に昂っていく。
武人は周りを取り囲む警官達に銃を放っていく。警官たちは周りのパトカーから煙が上がっている事を確認して、慌ててその場から下がっていく。夜の街を駆け出していく警官たちを見て、武人はもう一度弛緩する。
どうやら、孝太郎の到着まで退屈しなくて済むらしい。武人は逃げる警官たちを目にして、思わず唇を舐め回す。




「信じられねぇよ!頭がイカれてるッ!岡田武人って言うのは頭のネジが全部抜けているような本当の狂人だッ!そうだろう孝太郎さん!?」
目の前に広がる銃殺死体を目にした聡子は思わずそう叫んでしまう。孝太郎もその様子を見て、堪らずに眉を顰め、明美に至っては泣いてしまっている。それ程衝撃的な光景だったのだ。ここまで、味方が撃ち殺されている光景が広がっていると言うのは。
孝太郎は誰よりも大きな声で聡子の質問に答えた。いや、この場合は「商店に篭る武人に聞こえるようにワザと大きな声で言った」と表現した方が正しいのかもしれない。
ともかく、孝太郎は叫んだ。
「ああそうだなッ!岡田武人って言うのは、腐った犬の糞よりも臭い奴だッ!あの野郎が普通の人間だって言うなら、ラインハルト・ハイドリヒはマザーテレサの如き聖人に数えられちまうぜッ!」
孝太郎の比喩表現の混じった言葉が功を奏したのか、大型商店から頬をまだら色に紅潮させた岡田武人が散弾銃を構えて現れた。
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