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トマホーク・ターヴェラント編
白籠ナイトメアーその⑧
しおりを挟む短い銃声の音が鳴り響く。それも、一定時間の間ずっと。聡子の銃撃は目の前の扉を守る社員たちの多くを戦闘不能に追い込んでいたらしい。全員が足を押さえて倒れていく。その様を見て、特殊アーマーに覆われた警官はトマホーク・コープの社員たちが倒れる様を見て、救急車の手配を指示する。聡子は遠慮はいらないとばかりに、スコーピオンの銃口を震える手でビームライフルを構える社員に向けて、
「とっとと監獄に入りな、ベイビー 」
と、冷たい声で言い放つ。聡子の放ったスコーピオンの攻撃は突破の引き金となったらしい。
聡子の銃声を合図に多くの警官隊が支社に乗り込んでいく。多数の警察官の突入する様にトマホーク・コープの社員たちは足を背後に向けて後退していく。警官たちはトマホーク・コープ支社の扉を開けると、銃やビームライフル、レーザーガンを構えてロビーの人間達に警告の言葉を発す。
「我々は白籠署ならびにビッグ・トーキョーから派遣された警察庁直々の応援部隊だッ!このビルに我々の仲間を拉致したという近隣の住民からの通報があった件とこの白籠市を突然襲った機械どもの出所の二件の用事で強制捜査に立ち入らせてもらう!」
特殊アーマーに身を包んだ本庁からの応援と思われる男が手元から現れたパネルを操作して、裁判所令状を空中に表示して、この件の正当性を主張する。裁判所令状には逆らえないと見たのか、手を上げていく受付の人間達。そして、トマホーク・コープの日本支社の社員達。唯一の例外は本国から派遣された社員であろうか、彼らはまだ銃を向けて抵抗の意思を示す。
「上等じゃんかよ」
聡子は階段を守る社員たちに向けてスコーピオンの銃口を向けた。
冬の風が肌を刺す。この寒さは天然物らしい。まるで、北極か南極にいるかのような寒い気温だ。孝太郎は23世紀にもなって、天候を制御できないものかと科学技術を恨んだのだが、教科書にも載っている通りに例の反民主主義運動の件や魔法技術の促進にばかり目を向けていた点を考えて、仕方がないと思い苦笑する。
だが、孝太郎の笑いは相手の不興を買ったのだろう。ジョニー・タリスマンは孝太郎の赤銅色の頬を強く叩く。
叩かれた衝動で孝太郎はよろめいてしまったが、直ぐに姿勢を戻す。孝太郎にとってあのビンタは毒だったとも言えよう。
ジョニーは揺れ動く孝太郎の額に銃を突きつけて、引き金を引く真似をする。そうする事で、孝太郎が怖がると思い込んでいるのだろう。だが、孝太郎が眉一つ動かさない事実から、この動きは適正ではないと判断したらしい。
ジョニーは今度は孝太郎の背後に周り、この大きな屋上の中心になすかの地上絵の如く大きく描かれているヘリコプター停止のマークの側にまで進むように指示を出す。孝太郎は指示を受けて進む。ヘリコプター停止のマークの前にまで着いた時に、上空からプロペラの大きな音が聞こえてくる。孝太郎が注意して上空を眺めると、最初はおぼろげに見える位置、次に少しだけハッキリと見える位置と段々と孝太郎やジョニーのような地上にて待機している社員たちとの距離を縮めていく。孝太郎はヘリマークの元に向かって来るのはユニオン帝国の使うような大きなカーゴヘリだと理解した。
大きなカーゴヘリはヘリコプター停止マークの場所に丁寧に着地。それから、扉が開き、中から絹のネクタイを締めた大柄な男が姿を現す。
ジョニーはその男が現れるなり、大きく頭を下げる。
他に付いて来た社員たちも同様に頭を下げていた事から、孝太郎は目の前の大柄の太った男こそがトマホーク・コープ日本支社の支社長、ハリー・S・トマスだと確信を持った。
トマス支社長は社員たちに大きく手を振ってから、孝太郎に向き直る。
「キミかね?我々トマホーク・コープの目にかけた組織を次々と潰すように指示を出したのは?」
トマスの問い掛けを孝太郎は首肯する。
「イエス。その通りさ、あんたの手駒たちを次々と潰して、ついにはトマホーク・コープの支社長が直々に出なくちゃあならない状況を作り上げたのは、確実にこのおれだ。間違いないな」
孝太郎は一切悪びれない態度で言う。孝太郎は目の前の男が怒るかと思ったが、この態度に機嫌を害したのはジョニーの方だった。ジョニーはもう一度孝太郎の頬を強く叩く。
孝太郎は叩かれた衝撃で、屋上の地面に叩きつけられそうになるが、背後に控えた仲間たちに支えられて地面に打ち付けられる事は避けられたが、どうやら体を人の手によって拘束されてしまったと言う最悪の状況には違いない。
孝太郎は堪らずに歯軋りする。目の前のトマスを睨み付けてもみたが、結果は変わらずに、無礼な態度を取ったとジョニーの反感を買って、殴られるばかり。
孝太郎は決意した。絶対にこのクソどもを刑務所に送り込んでやろうと。
揺るぎない闘志を秘めた瞳に怯えたのだろう。怒りに任せて孝太郎を殴るジョニーに向かってトマスは処刑命令を下す。
ジョニーは孝太郎を拘束している社員たちに孝太郎の腕と足を押さえて逃さないようにしろと指示を出し、愛銃と称する金色のモーゼル銃を取り出す。
古代エジプトの秘宝のようにキラキラと光り輝く銃は孝太郎の心臓を狙う。
孝太郎は闘志を込めた瞳を下げる事なく、ジョニーとトマスの二名を睨み続けた。その気迫に気後れし、引き金を引きそびれたのが二人の命運を分けたと言っても良いだろう。気が付いた時には、扉が破られ、扉からは銃を構えた警官たちが現れていた。
トマスは声を失い、ジョニーは孝太郎に向けていた銃口を目的を失い深海を彷徨い動くフライングダッチマン号のように右往左往させていた。
孝太郎はそれを好機とし、自身を捕らえていた社員の腹に蹴りを入れて、難を逃れた。
孝太郎は特殊アーマーを着込んだ社員たちから拳銃を受け取り、その銃口をジョニーとハリスの二名に向ける。
ジョニーは下唇を悔しそうに噛み、ハリスは生唾を飲み込む。どうやら、二人とも逃れられない状況だと言うのは理解しているらしい。
だが、ジョニーは下唇を噛むのをやめて、次に銃を握っていない左手を屋上で武器を構えていた警官たちに向ける。
孝太郎は静止の言葉を叫んだが、間に合わなかったらしい。ジョニーの左手から緑色の念波のようなものが放たれたかと思うと、次の瞬間には屋上で武器を構えていた警官たちが4つの体に分かれて倒れていた。恐らく、体を細切れにされては防ぎようがないだろう。
孝太郎は哀れな仲間たちに向かって、哀悼の意思を示してから、怒りで手を震わせて銃を向けた。
「お前に一つだけ尋ねる。お前の魔法はなんだ?おれの推測が正しければ、お前の使う魔法は『分裂』魔法の筈だな?物体を分裂させて、相手を倒す特大級の魔法……それがお前の魔法さ」
得意そうに鼻を鳴らすジョニーは共産国の独裁者のように大きく手を叩いて、孝太郎の推測を褒め称えた。
「その通りだ。それが、おれの魔法だよ。この魔法とおれの銃があれば、この状況からでも逆転は可能な筈だろ?」
孝太郎は黙っていた答えない。ただ、得意そうに口元の端を吊り上げるジョニーとそのジョニーの陰に隠れて、口元を歪ませるトマスの二名を憎悪の炎で燃やしかねない程、睨み付けていた。
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