魔法刑事たちの事件簿R(リターンズ)

アンジェロ岩井

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トマホーク・ターヴェラント編

白籠ナイトメアーその⑦

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ジョニーは孝太郎がレーザーガンを発射するよりも前にレーザーガンを孝太郎に向けて引き金を引く。
と、同時に孝太郎もジョニーに向かってレーザーガンを放つ。
殺人光線同士がかち合い、空中で消滅したので、被害を被る事は無かったが、その隙を利用して、孝太郎たちはレーザーガンの銃口を出入り口を防ぐ、警備の男たちに向けて、堂々と退出した。
孝太郎は社長室を抜け出て、エレベーターの元へと辿り着く。孝太郎は慌てる事なくすぐ近くの階のボタンを押す。
案の定、エレベーターは直ぐに来た。孝太郎はパニックを起こして一階やそれに近い階を連打しなかった自分に感謝しつつ、再びエレベーターの中に乗り込む。
孝太郎はすぐ下の階に到達すると、近くの適当な倉庫と思われる部屋に隠れて難を凌ぐ。
非常用の階段を伝って来たと思われる男たちは孝太郎も同じように階段を使って逃げたと思い込んだらしい。孝太郎が多数の資材に囲まれて、溜息を吐いていると、扉が開く音が聞こえた。
孝太郎は近くにあったダンボールの中に身を隠して、息を殺して侵入者の足音に耳を済ませた。革靴の音が鳴り響く。
どうやら、入って来たのはこの会社の社員らしい。用事を済ませているのだろうか。その時だ、不意に隠れていたダンボールの扉が開かれて、孝太郎の体が露見した。
孝太郎が目を見開いて、ダンボールを開けた男を確認する。ガッチリとした体。自信満々な顔。間違いがない。ジョニー・タリスマン。
孝太郎は震える声で相手に尋ねた。
「驚いたな、どうしてオレの手を見破った?」
「おいおい、刑事さんよぉ~あんな小学生でも分かるようなマヌケな手段に引っかかるのは『ホーム・アローン』に出てくるようなバカな泥棒くらいだぜ。部下達にはエレベーターや階段ではなく、この階に隠れた可能性が高いから、お前らは追いかけた振りをして、その場に待機しろとあの時に命令を出したんだ」
ジョニーはダンボールの中で息を潜ませていた孝太郎の額にレーザーガンを突き付け、大きな声で言う。
「よく聞けよ。クソッタレ。テメェのせいで、円盤だけじゃあなくて、本社から預かった殆どの機械がダメになっちまったんだ。そのせいで、残りの兵器はこの会社の地下に残っているだけなんだ。泣けてこねぇか?」
「オレはトマホーク・コープの社員じゃあねえからな。あんたの会社の社員だったら、給料がカットされると泣くかもしれんが……」
ここで、ジョニーが眉間にシワを寄せて孝太郎の頬を殴る。
孝太郎は派手に倒れたい所だったが、狭いダンボールの中に体を固定しているために、その行動は不可能らしい。
代わりに、孝太郎は口の周りを左手で拭き、ジョニーに向かって目を光らせた。
「何だよ?その目は……薄気味悪いガキだ。もっと拷問したい所だけどな。お前のような薄気味悪いガキは屋上で殺した方が後世のためになるからな」
「後世のため?笑わせんな。『お前らのような悪党共が街を我が物顔で歩くため』だろ?」
孝太郎の物言いが堪忍袋の尾を切れさせたのだろう。ジョニーはダンボールの中から孝太郎を無理矢理引き摺り出して、再び強く頬を叩く。
口から血を流す孝太郎に対し、ジョニーは配慮するどころか、反対に孝太郎の髪を強く持ち上げて、自身の顔元にまで引き寄せた。
「何様のつもりだよ?ローンレンジャーにでもなったつもりか?それとも、スーパーマンを気取ってんのか?え?」
孝太郎は掠れた声で答えた。
「どっちでもないね。オレはバットマンのファンでね。特に『ダークナイト』シリーズが好きなんだ。これで満足か?」
ジョニーは舌を打ち、今度は膝で孝太郎を蹴り上げた。
「クソガキが……テメェ絶対に後悔させてやる」
ジョニーは孝太郎の髪を乱暴に持ち上げて、倉庫を出て行く。





石井聡子は愛銃のスコーピオンの手入れをしてから、改めてトマホーク・コープのビルを眺める。
ここに孝太郎はいる筈なのだ。発端は機械の頭目。つまり、すべての機械に繋がっている機械を倒した時に分かった。
中心機械が倒し、街を我が物顔で歩く機械が全て停止したのを見計らって、警察署に連絡が寄せられて、孝太郎らしき男性が複数の男に引き寄せられて、連れて行かれるのをオフィス街の住人が目撃したらしい。孝太郎は何かを悟ったように大人しく連れて行かれていたらしい。
聡子はその通報内容はデマだと信じたかったが、彼の事だ何か考えているに違いないと言い聞かせてここに向かって来たのだ。
そして、聡子は目の前の状況を見て、孝太郎が捕らえられている事を確信した。
いや、目の前に例のタカアシガニの形をした機械、熱線とレーザーを備えた殺人円盤、武装した社員達が並んでいれば誰でも分かるだろう。
聡子は背後に控える仲間達を見つめる。白籠署の署員達に、ビッグ・トーキョーからの応援。
その数は目の前のトマホーク・コープの社員と機械たちを併せた数の二倍。
百人だ。まさに軽い戦争だなと聡子は汗をかく。
汗をかきながらも、聡子は目の前の扉を守る兵士や機械たちに敵愾心を向けて叫ぶ。
「テメェら人の国に来といて、更に人質を捕まえるのが趣味かよ!情けねぇな!お陰であたいらがプライベート・ライアンよろしく市街地でドンパチしなけりゃあなんねーんだぞ。わかっのか?えッ!?」
聡子のドスの効いた言葉に人間の社員たちは足を竦めていた。何人かは大きく肩を震わせている様を見せていた。
聡子は演説の成果を再認識して、改めて声を強めて話を続けた。
「よいかッ!テメェらがウチのチームの参謀を傷つけりゃあ、あたいが容赦しねーぞ!」
社員の何人かは完全に怯えている。足をガタガタと震わせて、迎え撃つのを躊躇っている様子がよく見える。
聡子がスコーピオンの銃口を構えて、慌てた社員の一人がこちらに向かって射撃を行ったのが決定打となり、トマホーク・コープ日本支社の玄関を囲んでいた警察官並びに突入部隊が支社の扉に突っ込んで行く。
たちまちのうちにオフィス街を舞台に銃撃戦が展開された。日本においてこれ程激しい銃撃戦は前例にない。
聡子は身を震わせながら、突入部隊の盾に身を隠して、銃撃戦に耳を澄ます。
と、ここでレーザーガンやビームライフルが発射される際の独特の音が聞こえた。日本の警察のやり方でトマホーク・コープの機械類が壊れていく様が今の聡子には愉快に思われた。
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