魔法刑事たちの事件簿R(リターンズ)

アンジェロ岩井

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トマホーク・ターヴェラント編

白籠ナイトメアーその⑥

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孝太郎はオフィス街に聳え立つ巨大なビルを眺める。大きく聳え立つビルは白銀の城と言ってもあながち間違いではないだろう。孝太郎はグッと拳を握り締めて、正面の大きなガラス扉に向かって足を向けたが、
「動くな、ここを何処だと思っている」
と、いつの間にか背後に立っていた社員たちに銃を向けられていた。銃口は孝太郎を真っ直ぐに狙っている。恐らく、これでは逃げようもあるまい。
孝太郎はその社員たちに加えて、背後に先程の殺人円盤が迫っている事も把握した。熱線の砲口が孝太郎を狙う。孝太郎は悔やむ。あの時に自身の魔法で倒せなかった事を。だからこそ、孝太郎は騒動の大元であると考えるトマホーク・コープ日本支社に足を向けたのだ。孝太郎は唇を噛み締めて両手を上げる。降伏の姿勢。警察官として最も恥ずべき姿。そんな思いが孝太郎の脳裏を駆け巡る。だが、今はそんな事は言ってられない。
男がビームライフルの銃口で孝太郎の尻を突く。
孝太郎は不快感に眉をしかめながら、両手を上げ続けた。
トマホーク・コープの名前であるトマホークミサイルが描かれたキャップ帽を被った男は孝太郎の尻ポケットを探っていく。ゴソゴソと背後で探す音が聞こえる。孝太郎が妙な感触に包まれていると、男は孝太郎の胸ポケットを探る。
どうやら、懐に武器を隠していないのかを探っているらしい。孝太郎は侮蔑の視線を送ったが、目の前の男には効果がないらしい。
男は調べ終えると、孝太郎の懐から手を離し、トマホーク・コープの中へと連れて行く。
複数の男に殺人円盤。今の所は迂闊に行動しない方が良いだろう。孝太郎には鋼鉄の将軍ジェネラル・オブ・スティールがあり、それで社員たちの攻撃を防ぐのが賢明だと判断したのだが、このままトマホーク・コープの本社の中で暴れる事が騒動に収集をつけられると踏んだのだ。
孝太郎はビームライフルの先端に突きつけられながら、トマホーク・コープの本社に足を踏み入れた。
成る程、一応は大会社を冠するだけあって、ロビーは一流企業のそれだ。
大きなフロントに可憐な受付嬢。来客用のためのウォーターサーバー。待ち合わせのために使用されると思われるフロントの前に設置された大型の茶色のソファー。
ビームライフルを突きつけられた孝太郎の姿を見て、茶髪のアジア人女性は流石に体を硬らせていたが、キャップ帽の男が彼女の耳元で何やら囁くと、彼女は安心したらしく、肩の力を抜く。
孝太郎はその姿を見て、どうやらこの事態を把握していない社員がいる事を悟った。どうやら、この日本国始まって以来の有事を理解しているのは本社から派遣された社員以外には今、キャップ帽と革のジャケットを着た戦闘員の男たち以外は把握していないらしい。
孝太郎は社員の一人が受付嬢に用件を告げ終えるのを黙って見終えると、男の一人にエレベーターに乗るように指示を下される。孝太郎は腕を上げてフロントの近くに存在する仰々しい黒色の扉に近付く。
派手な装飾の施された扉は一見すると壮大で、扉はこの会社の社長の見栄っ張りな性格を表しているのかもしれない。
と、ここで来着の音が鳴り響く。孝太郎は先程同様にビームライフルを突き付けられて、エレベーターに乗り込む。
エレベーターはぐんぐんと植物のように真っ直ぐと上空に進んでいき、やがて支配者の支配する空間に着いたことを示す音を響かせた。
孝太郎は数人の男たちと殺人円盤に囲まれながら、世界最大の警備会社の最上階に足を踏み出す。
足には靴の上からでも分かるような心地の良いクッション。壁には白と金を基調とした高貴な壁紙。所々に絵画が描かれており、その全てがモダンアートなのは支社長か或いは本来の社長の趣味なのかもしれない。
孝太郎が男たちに連れられながら、社長室に入室する。
男たちとは社長はもう少しで帰ってくると告げ、殺人円盤と共に部屋を出て行く。
そして、入れ替わる形で現れたのは忌まわしき男、ジョニー・タリスマン。
ジョニーは自身にリボルバーの銃口を向けて、
「あんたは確か、孝太郎だったな?コウタロウ・ナカムラ。オレを追い詰めた男がこんなありきたりな名前だったとは少し残念だったぜ」
「それは申し訳ないな、どうやって調べたのかは知らんが、お前がどんな事をやらかそうが、オレたち警察は貴様らのような組織には負けない。日本を甘く見るなよ」
孝太郎の声には力が篭っていた。ジョニーは真剣な顔付きの孝太郎を見て、口元を吊り上げて、
「いいねぇ~オレはそう言う祖国愛に満ち溢れた奴は好きだぜ」
「ご期待に添えられて、光栄だな。どうでもいいが、オレをどうしてこんな部屋にまで連れて来た?」
ジョニーは鼻を鳴らし、
「支社長があんたに用があるってよ。直にコーサ・ノストラを葬り、あんたらの手に引き渡した雷小僧も連れてくるらしいぜ。ウチの社員と我々の協力者で今はあいつを捕らえようとして……」
ジョニーの胸ポケットにバイブ音が鳴り響く。ジョニーは慌てて携帯端末を取り上げて、通話に出る。
通話の内容はジョニーの慌てふためく反応で、彼らにとって良くない内容である事は容易に把握できた。ジョニーは電話を切り終えると、歯を食いしばりながら、震える手で孝太郎にリボルバーを向ける。
「貴様……貴様は仲間たちに何を吹き込んだ?」
「何の話だ?オレはずっと単独行動をしていた筈だがな……」
「惚けるなッ!じゃあ何故、市内に多数存在していた筈の我々の兵器が跡形もなく消えていたのだ!?」
孝太郎は肩をすくめて、
「さぁな、お前たちの兵器に欠陥があったんだろう?それよりも街中の兵器が壊れてしまったのなら、今この会社に存在する機械だけでも揃えた方がいいんじゃないのか?」
孝太郎の指摘にジョニーは怒り狂ってしまい、携帯端末を目の前に叩き付け、革靴で踏み潰す。
ジョニーは右手の掌を孝太郎に向けて放つ。孝太郎はジョニーの攻撃の前に自身の右手の掌を振るい、ジョニーの魔法を『破壊』したためにこの部屋に被害は出ていない。
ジョニーはもう一度同じ攻撃を繰り返すがどうやら結果は同じらしい。孝太郎の右手に全て打ち消されてしまう。
ジョニーは自身の判断の誤りを認めて、レーザーガンを武器保存ウェポン・セーブから取り出し、レーザーガンの銃口を向ける。
孝太郎は待っていましたとばかりに、右手を振るい、ジョニーとの空間を詰めていき、最終的にジョニーの目の前にまで到達すると、ジョニーの手からレーザーガンを奪い取る。
ジョニーは一瞬息を呑んだが、即座に異空間から別の武器を取り出し、レーザーガンを孝太郎に向けて発射した。
殺人光線は孝太郎の右手によって彼の体に直撃するよりも先に『破壊』されてしまったが、レーザーの発射音は響いたのだろう。入り口で待機していたと思われる兵士たちと殺人円盤が部屋に突入する。
孝太郎はまずレーザーガンで殺人円盤に発射した。円盤はレーザーを受けたダメージから全身から灰色の線を放出して地面に落ちていく。どうやら、円盤を動かすための機能は停止したらしい。
孝太郎は言葉を失ったと思われる社員たちにレーザーガンの銃口を向けた。
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