魔法刑事たちの事件簿R(リターンズ)

アンジェロ岩井

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トマホーク・ターヴェラント編

白籠ナイトメアーその⑤

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孝太郎は背後に爆発音のようなものを聞き、見てみたい衝動に駆られて振り返る。と、そこにはトマホーク・コープの殺人機械に付加されている熱線により飴細工のように溶けた壁。
孝太郎は溶けた壁の姿を見てそっと胸を撫で下ろす。危なかった。あと少し遅れていてれば、自身もあの壁のように熱戦中で溶かされていたと。
孝太郎は今の自分の位置を再確認する。孝太郎が隠れている場所は先程までジョニー・タリスマンや殺人機械たちが大手を振って歩いていた大通りの端に存在する路地だ。普段はこんな場所には隠れないのだが、追われているとあればこんな場所でも贅沢は言っていられないだろう。
孝太郎はそう自分に言い聞かせて、隠れていたコンクリートの壁から熱線によって溶けた表通りに面した壁の方に向かって首を突き出す。
身を路地の壁に隠しているために、人間相手ならば騙せるだろうが、機械に至っては難しいかもしれない。
孝太郎がそんな考察をして、表通りを見渡していると、目の前に黒い影が浮上して、自身の真上に位置を固定していた。孝太郎は円盤を見上げながら、考える。あれは自身を狙う円盤の姿だと。
孝太郎は慌てて、路地の奥に向かって駆け出す。孝太郎が右足を路地の更に奥に向かって踏み出した時に狙っていたのは熱線を放つ砲塔。
光がないのにキラリと光ったように感じさせられる鋼鉄の筒は孝太郎の頭上を狙う。サーモグラフィーが孝太郎の熱と体温を的確に把握しているために間違いはないだろう。殺人機械は自らの中に設置された筒から熱線を放つ。
孝太郎は唇を噛み締めて、コンクリートの地面を勢いよく蹴り上げて、路地裏の中に飛び込んで行く。
命がけの大ジャンプは功を奏したらしい。孝太郎の体は五体満足で小さな壁に覆われた路地の中に入っていた。
孝太郎は再び足を別の場所に向ける。あの機械の弱点は拳銃で銃を放つ以上の攻撃やまた銃以上の威力を持つ武器。
孝太郎は推測を働かせて目的の場所に向かって駆け出して行く。殺人機械に追われる孝太郎が考えたのは敵の手で敵の首を絞めさせる行為。つまり、トマホーク・コープ日本支社で武器を手に入れる事であった。




「これでも喰らいやがれえェェェェ~!!」
石井聡子は巨大な機械に向かってバズーカ砲を放つ。思わず耳を防いでしまいたくなるような轟音が聡子の耳を襲った直後にタカアシガニのような形をした怪物は音を立てて崩れていく。
強力な武器ならばトマホーク・コープの頑丈は武器にも効果はあるらしい。
聡子が二発目のバズーカをこの辺りを歩く最後の機械に向かって放とうとした時だ。聡子がバズーカを発射するよりも前に巨大なロボットの砲塔が狙う。聡子が息を飲んだ時だ。一筋の熱線が殺人機械を襲う。熱線のために機械は動力を失ってしまったらしい。音を立てて大きな機械は地面に倒れていく。聡子はその場を離れて、思わず表通りの建物の陰に身を隠す。
建物の陰から身を乗り出して、先程の場所を眺めていると、どうやらあの機械は建物を巻き込まなかったらしい。
機械は道路を壊したものの、周辺のマンションやら家屋には被害を出していない。それは、真横に倒れていったのが大きいらしい。
聡子は建物の陰に隠れながらホッと溜息を吐く。そして、建物の陰に隠れる事なく、通路でこの惨事を眺めていた二人の仲間たちに称賛の言葉を贈る。
賞賛の言葉を贈られた仲間たちはバッチリとしたウィンクで彼女の賞賛に答える。
と、ここで通路に聳えていた二人の仲間の片割れである丸渕眼鏡の女性は頬をまだら色に染め上げて、もう一人の髪の長い美人を睨み付けていた。
丸渕眼鏡の数学オタクとも言える女性は目を細めて、
「そんな事をしている場合じゃないでしょう!この間にもあの機械どもは街の人々の平和と安全を脅かしているんですよ!わたし達の使命は何でした?」
「市民の平和と安全を守る事……」
長髪の美人は困ってしまったらしく、視線を背けて読経するような小さな声で呟くように答えた。
「そうですよね!それなのに、聡子ちゃんと……ふざけている場合ですか!?ビッグ・トーキョーの方から応援が来るまで、あたし達で持ち堪えてないといけないんですよ!無線連絡では緊急事態なので、ヤクザの手も借りてるみたいですけれども、それを差し引いても人数はただでさえ少ないんです!もう少し自重してください!」
思わぬ剣幕と予想以上に多くまくしとられるトークに流石の黒髪の女性も困惑してしまったらしく、視線を地面の間で右往左往させている。
これには流石の石井聡子も見かねてしまったらしく、コンクリート建ての建物の陰から出てきて、二人の間に割って入った。
「まーまーここは落ち着いていこうよ。幸にして、『ロボコップ』のバートンが復活のために使ったサイボーグみてーな奴はぶっ壊したんだからさぁ~」
聡子はこれで女性の剣幕が治ると踏んだのだろうが、それは逆効果だったらしく、彼女は普段の穏健な様子からは想像も出来ない程に怒っており、彼女の言い争う相手が聡子に変わっただけだったらしい。
「大体、あなたがあんなふざけた口調であいつらを倒すからいけないのよ!今のあたしの頭はパトカーのサイレンみたいに真っ赤なのに、あなたは自分をマーフィー刑事と思い込んだのかどうかは知らないけれど、よりにもよって『ロボコップ』に例えるなんて……これは遊びじゃないのよ!今回の事件は数学の世界で例えると、円周率を31兆まで数えられた人がいたとか、モーデル予想を発見できたとか、それくらいの大きなビッグニュースなのよ!そもそも日本で外国勢力による明確な外患罪と内乱罪が同時に行われた恐るべき事態というのは犯罪史上でも例が少なく、本来だったら……」
聡子があまりの剣幕と訳の分からない数学界を用いた比喩に苦しんでいると、タイミングよく、大通りの向こうから一人の日本刀を携えた刑事が現れた。馬面で高身長であるために聡子は直ぐに署内で馬面巨人とあだ名される柿谷淳一であると直ぐに理解した。
彼は大きく手を左右に振って現れた。
「おい、お前らァァァァァ~!!!暇そうだったら、市内の方にもアリみてーにわんさかと現れたクソッタレのタカアシガニどもをなんとかしてくれよぉ~!オレの魔法であいつらの急所を切るのも限界が来ててよぉ~」
淳一は膝を抑えて、荒い息を吐きながら三人の間に向かって来る間に全ての事を話し終えていた。
「まあ、落ち着けよ。アントマンみてーにそんなに足を走らせなくても、あたし達はここに居るからさ」
「分かったわ。それよりも感謝をするのはあなただわ、機械に覆われているのに、よく署の中心にまで来てくれたわ」
宥める役を聡子が、用件に答える役目を絵里子が担う事によって、あの数学オタクの女性の説教から逃れられたらしい。
日本屈指の数字バカにして、白籠市のアンタッチャブルの計算係は不満そうに頬を膨らませていた。
聡子はそんな明美の姿を見て、不安になり、慰めの言葉をかける。
「大丈夫だって、今のところは機械はあたしらのよう警察官以外を襲ってはいないらしいし、民間の施設が襲われたっていう情報も入ってねー。だから、あんたの子供は大丈夫だって、それにあたし、さっき浩輔くんからメールで聞いたんだけれど、児童施設に部下のヤクザ達を派遣したらしいよ。だから、今のところは大丈夫さ」
聡子の言葉に明美は少しだけ落ち着きを取り戻したらしい。先程の騒動でずれた眼鏡を細い人差し指で掛け直す。
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