魔法刑事たちの事件簿R(リターンズ)

アンジェロ岩井

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トマホーク・ターヴェラント編

双子座の惨劇ーその⑤

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トマホーク・コープ支社長ハリー・S・トマスは白籠署上空に位置する巨大な土色のカーゴヘリでこれまでの状況を尋ねていた。
「白籠署の襲撃は思うようにいかないと?」
「ええ、支社長。少々厄介ですが、警察の人間どもの抵抗も激しく……」
眼鏡の秘書の男のしみどもろな声に苛ついたのか、ハリーは自身の目の前に用意された簡素なスチールの机に人差し指を立ててトントンというリズムを刻む。
眼鏡の男は自身の上司が苛立っている事をその様子と雰囲気で感じ取っていたが、どうしようもないと唇を噛み締める。
と、その様子がトマス支社長の気に障ったのだろう。高慢なる支社長はリズムを刻むのをやめて、机を大きく叩き、自身のミスを棚に上げて被害者面を浮かべている男に向かって人差し指を指す。
「貴様ッ!何を自分だけが被害者だと言わんような目を浮かべているッ!えッ!?」
トマスのなじる言葉に秘書の男は首を震わせながら横に振る事しかできない。
だが、その行動が更に不評を買ったらしい。トマスは座っていたスチールの椅子から立ち上がり、スーツ姿の部下に詰め寄る。
「この野郎……どこまでワシをコケにすれば気が済むんだ!?」
「わ、私はそんな……」
声を震わせる秘書の姿を見てトマスはある考えを思い付く。
作戦を実行するために、トマスは秘書の男を掴んでいた手を離して、座っていた席へと戻る振りをする。
男が胸を撫で下ろしていた時だ。トマスは着ていた緑色の背広の内ポケットから黒塗りのオート拳銃を取り出し、男に向かって引き金を引く。
銃声の音がヘリの中に響き渡る。男が額から血を流して倒れる中、トマスは白目を剥いて倒れ込む男の姿を見て、邪悪な微笑を浮かべてヘリの運転手に白籠署の入り口の近くにまで高度を下げるように指示を出す。
ヘリの運転手はトマスがオート拳銃を持っている事と上司である事の二つを恐れて、トマスの指示に従う。
トマスはコンクリートの地面とヘリが触れ合うギリギリの地点で先程自身が射殺したばかりの男を突き落とす。
そして、ヘリは再び空中に戻っていく。




「イカレ野郎めッ!」
白籠署の前で前線を張る石井聡子は目の前に降ってきた死体を確認して、憤慨していた。
「本当にね。狂ってるとしか思えないわ、あの正体不明のヘリは何がしたいのかしら?」
聡子の側に立って、同じように哀れな死体を目撃していた、絵里子は襲撃者の正体を殆ど予測していたが、証拠がないためにそう呟いたが、白籠市のアンタッチャブルの突撃隊長はそれが不快だったらしい。彼女は眉を潜めながら、絵里子に向かって叫ぶ。
「おいおい、まどろっこしいなぁ~ハッキリと言えよ。トマホーク・コープの軍用ヘリだと、あいつらが耐えかねて後日行われる筈の強制捜査の前に仕掛けてきたんだとな?ハッキリ言えねーなら、アタイが上層部に言ってやるよ!」
「落ち着きなさいッ!」
絵里子は叫んだ。
「わたし達は刑事よ。証拠が無い人をそんなにハッキリと断罪するような言葉を言っちゃあダメじゃない」
聡子はブスッと頬を膨らます。
「分かったよ。あんたには負けた。けれど、この死体を早く署の死体安置室に運ぼーぜ、この人の死因を確かめてーからな」
聡子の言葉に弱々しく震える倉本明美が答えた。
「あ、あの恐らく、大体の死因なんですけれど、よーく額を見れば、銃で撃ち抜かれたように見えるんです。額から血が滝にように溢れてます。しかも、この死体はあのカーゴヘリとわたし達の今いる場所とそう遠くない場所から落とされたんじゃないでしょうか?」
「成る程、一理あるわね」
したり顔で頷くのは絵里子。聡子は目を輝かせて明美を褒め称えていた。
「まあ、ともかく早く来てもらおうや、あたしは自分の端末で運んでもらうように要請するから」
聡子は懐から携帯端末を取り出し、署に待機中の波越警部に連絡を入れ、死体安置係の人間を呼ぶように言った。
聡子が大きい声で話していたために、側に立っていた二人にも会話の内容がよく聞こえていた。
数十分後に安置係の人間がやって来て、死体を玄関の前から運び出し、安置室へと運んでいく。
安置係の人間たちが慌てた様子で玄関をくぐっていく様子を眺めてから、三人も署に戻ろうときたが、その時に車の轟音が聞こえた。
聡子は直ぐ様自身の魔法敵全滅エナミー・アナミッションを使用して、轟音のした方向を振り向く。
聡子は同時に武器保存ウェポン・セーブからスコーピオンを取り出して、ジープに向かって撃っていく。
ジープの人間も撃ち返して来たので、聡子は明美にも防御魔法を使って、絵里子と自分を守るように指示を出す。
聡子は防御魔法を使い、絵里子の前に立つ明美の姿を眺めてから、署に向かって来るジープに向かって行く。
ジープが署と道路の前に差し掛かる駐車場の所で、すれ違い際に飛び上がり、立って射撃を続けていた軍服姿の男達の脚に向かって撃ち尽くす。
男達は悲鳴を上げて、ジープの荷台に倒れていくが、唯一一人の長い金髪の女性のみが聡子の銃撃を回避したらしい。
パープルヘアーのモデルのように美しい女性は聡子が空中から地面に落下する際に一発の銃声を放つ。
銃は聡子の体のどこにも当たらずに、左肩を掠めただけで済んだが、荷台の美しき女性は今度は聡子には目も暮れずに署の方へと向かって行く。
聡子はそれに気が付いて、自分を無視して過ぎて行くジープに向かってスコーピオンを放つが、効果はないらしい。
スコーピオンの銃声は虚しくジープの荷台で跳ねるばかりだった。
聡子がようやく署の前に辿り着くと、そこでは美しきパープルヘアーの女軍人と白籠市のアンタッチャブルのリーダーが大きな争いを繰り広げている所だった。
聡子は忌々しい紫髪が絵里子と戦いを繰り広げる中で、紫髪の女が絵里子から飛び去ったタイミングを見計らってスコーピオンを放ったが、女の体には掠りもせずに弾丸がコンクリートの地面を荒らすのみであった。
紫髪の女は聡子の姿を発見すると、丁寧に頭を下げ、
「初めまして、わたくしトマホーク・コープ所属の第四警備隊長を務めさせていただいております。アンナ・スチュアートと申します。あなた様ですね?先程、わたくし達の乗るジープに銃撃を仕掛けたのは?」
「そうだよ?大体なんだその気持ち悪い喋り方は悪党なら、悪党らしい喋り方をしろっつーの」
「恐れながら申し上げます。我がスチュアート家は代々様々な家に良い執事・メイドを送り込んできた名門の家でございまして、この喋り方は実家の教育のためなのでございます。お気に障ったのなら、どうかご容赦の程を」
「チッ、面倒くせーな」
聡子は舌を打つ。
「つきましては、あなた様方の処分なのですが、わたくしが決めても良いとの支社長のご判断でございまして……どうか面倒ではございますが、あの世に逝っていただけないでしょうか?」
アンナは左手を銀色のオーラに包ませながら言った。
そして、次の瞬間に何が来るのかと身構えていた聡子を巨大な針が襲う。
聡子は慌てて左側に避けて、針を避けた。いくつもの村なるアームの先に針があった。その巨大な蛇のようなアームの先の剣の針を眺めながら聡子は冷や汗を垂らす。
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