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トマホーク・ターヴェラント編
双子座の惨劇ーその②
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笑い声を鎮めると、額から血を流して倒れている男を抱き抱えている、ポニーテールの気の強そうな女の顔を覗き込む。
男はしたり顔で笑い、
「さあてと、加藤さん。きみからはお金を徴収しておかないとね、ぼくに命を預けたいんだろ?ならば、そのお金を出してよ」
女性のように美しい青年は利き腕ではない方の手で、相手に金銭を要求する。
撃ち殺された男の彼女と思われる茶髪のポニーテールの女は憎悪の火を瞳に浮かべ、恋人を殺した男を睨み付ける。
「早くしてよ。ぼくや姉さんはきみにお金を納めた時は一度も遅れなかったじゃないか?また、それでもキミはぼくと姉さんを苦しめたけどねッ!」
男のピストルの銃口が女性に向けられた時に、孝太郎は思わず叫んでしまう。
「分かったよ。ぼくだって人を殺したくないしね。あなたに免じて、この女の命はしばらく預かっておくよ」
男の言葉に孝太郎は無意識のうちに視線を逸らしている事に気がつく。
自分ともあろうものが怖いのだろうか。孝太郎はそう自分に問い掛けるが、返ってくるのは心臓の慟哭だけ。
孝太郎の両肩が強張る。気が付けば、孝太郎は自身の首筋に冷たい水のようなものが流れている事を感じ取った。
と、孝太郎の緊張を感じ取ったのだろうか、男がクスクスと笑い出し、
「アハハハ、可愛いなぁ~お巡りさんは……ぼくが怖いんでしょ?そうだよね?」
孝太郎は返答の代わりに美男子から顔を背ける。
「あっ、やっぱりそうなんだね。お巡りさんでも怖いんだッ!アハハハハハハハ~!!ハッハッハハハハハハ~!」
青年の男の高揚感が頂点に達した時だ。車内にアナウンスが流れる。
アナウンスの声が聞こえる。アナウンスの声は大きなソプラノ声で、恐らく、アナウンスを流している女性が歌えば、それこそ天使の歌声に聞こえるかもしれない。
だが、女性が発したのは天使の歌声ではなく、悪魔の宣告であった。
「ご搭乗の皆様、この度は古き良き時代の列車をご利用いただき誠にありがとうございます。つきましては、皆様にお伝えしたい事がございます。この列車はたった今、わたしと弟がハイジャック致しました。ですが、皆様がおかしな事をお考えにならなければ、皆様は途中の白籠駅で解放致しますわ。ですが、妙な事をすればーー」
スピーカーの向こうで銃声が鳴り響く。あまりにも明確な銃声のために観客たちはパニックを引き起こしてしまっていた。
それでも、席を立とうとしないのは、自分たちの座る列車をテロリストの仲間が見張っているからだろう。
と、そんな乗客のパニックを事前に予知していたのだろう。ハイジャックの女は可愛らしく笑って、
「ウフフフ、ご安心を。これは最悪の場合のケースにしか起こり得ない事でございますから、ですが、完全な身の安全は保証しかねすまので、どうかご存分に注意をなさってくださいね」
アナウンスの終了と同時に、車両の共犯者の男が銃を屋根に向かって発砲する。
「さてと、お客様……お客様の中に凄腕の魔法師はいらっしゃいませんか?おられたのでしたら、MCMを装着させますので、私に正直に申し上げて下さいね。正直に仰って下されれば、私が身の安全を保証致しますので」
男は小さな腕輪をジャラジャラと鳴らしながら、口元を歪めていた。
恐らく、最初から魔法師を封じ込める算段だったのだろう。
孝太郎は男が自身の背後に背を向けた時の事を備えて、いつでも自分の魔法を使用できるようにしよう、と考えた。
「この列車ハイジャック事件は、日本共和国の安全を揺るがしかねない重大事件であり、犯人が我々の白籠駅を目標に進んでいると言う事から、白籠署を本拠地とする事でよろしいですか?」
と、野々原警察署長に尋ねたのは共和国警察庁のトップを務める梶浦康彦。
梶浦は寡黙な男であり、滅多な事では激昂したり、興奮したりしない性格で知られていたが、この時ばかりは例外であり、彼の額から大量の冷や汗が滝のように流れ出ていた。
野々原は目を凝らして、再び梶浦の手を見つめる。
よく見れば、手汗の数も尋常ではない。それだけ、今回の事件の解決には意欲的なのであろう。
梶浦は簡素な白籠署の会議室の中央に置かれたホワイトボードを強く叩く。
「あり得ないのは、このガキどもだッ!なんで、こんなガキどもが電車をハイジャックできる程の大量の武器を備えている!?」
梶浦の言葉に会議に参加していた警察の重役たちの顔が沈む。
静寂と沈黙の支配する空気の中で、それを打ち破ろうとしたのは、梶浦康彦の隣に座っていた、野々原署長であった。
「僭越ながら、申し上げますと、この列車の中には別件を追っていたある人物が乗り合わせておりまして、彼にかけるのが良いかと思います」
「バカなッ!」
梶浦は一蹴した。
「どこの世界にたった一人の警官にこの国の安全を任せる人間がいる!?この事件で、問題なのは、犯人の思い上がった子供が、伊勢皇国におわせられる天皇陛下を人質にする可能性も捨てきれんと言う事だッ!竹部大統領が死んでも、国民の喪失はそこまで深くはならんだろうが、もし、陛下をテロで亡くしてしまえば、国民の喪失は計り知れんものになるだろうッ!」
「仰る通りです。ですから、陛下の身が危うくなる前に、決着を付けるのですよ。梶浦長官……あなたは三年前に宇宙究明学会がこの国をひっくり返そうとした事件を覚えていますか?」
梶浦は首肯した。三年前の事件は日本の犯罪史に残る出来事だ。忘れるわけがないだろう。横に座る梶浦の顔が無言でそう告げていた。
梶浦が納得した顔を浮かべているのと同時に、野々原はにんまりとした顔で、
「ならば、ご安心なさい。三年前の狂った教祖の野望を打ち砕いたのも、今列車に乗り合わせている警察官なのですから」
野々原が勝ち誇った笑顔を浮かべていると、大きな爆発音が聞こえた。
梶浦が爆発音の原因を大声で問う。梶浦の号令が放たれるのと同時に、一人の警察官が会議室の扉を空けて、
「た、た、た、大変です!署が襲撃されましたッ!」
『襲撃』と言う言葉に全員が席を立つ。
そして、一斉に報告に訪れた警察官に視線が注がれた。
警察官は貝の口のように重い口をようやく開けて、しみどろの声で状況を報告し始めた。
男はしたり顔で笑い、
「さあてと、加藤さん。きみからはお金を徴収しておかないとね、ぼくに命を預けたいんだろ?ならば、そのお金を出してよ」
女性のように美しい青年は利き腕ではない方の手で、相手に金銭を要求する。
撃ち殺された男の彼女と思われる茶髪のポニーテールの女は憎悪の火を瞳に浮かべ、恋人を殺した男を睨み付ける。
「早くしてよ。ぼくや姉さんはきみにお金を納めた時は一度も遅れなかったじゃないか?また、それでもキミはぼくと姉さんを苦しめたけどねッ!」
男のピストルの銃口が女性に向けられた時に、孝太郎は思わず叫んでしまう。
「分かったよ。ぼくだって人を殺したくないしね。あなたに免じて、この女の命はしばらく預かっておくよ」
男の言葉に孝太郎は無意識のうちに視線を逸らしている事に気がつく。
自分ともあろうものが怖いのだろうか。孝太郎はそう自分に問い掛けるが、返ってくるのは心臓の慟哭だけ。
孝太郎の両肩が強張る。気が付けば、孝太郎は自身の首筋に冷たい水のようなものが流れている事を感じ取った。
と、孝太郎の緊張を感じ取ったのだろうか、男がクスクスと笑い出し、
「アハハハ、可愛いなぁ~お巡りさんは……ぼくが怖いんでしょ?そうだよね?」
孝太郎は返答の代わりに美男子から顔を背ける。
「あっ、やっぱりそうなんだね。お巡りさんでも怖いんだッ!アハハハハハハハ~!!ハッハッハハハハハハ~!」
青年の男の高揚感が頂点に達した時だ。車内にアナウンスが流れる。
アナウンスの声が聞こえる。アナウンスの声は大きなソプラノ声で、恐らく、アナウンスを流している女性が歌えば、それこそ天使の歌声に聞こえるかもしれない。
だが、女性が発したのは天使の歌声ではなく、悪魔の宣告であった。
「ご搭乗の皆様、この度は古き良き時代の列車をご利用いただき誠にありがとうございます。つきましては、皆様にお伝えしたい事がございます。この列車はたった今、わたしと弟がハイジャック致しました。ですが、皆様がおかしな事をお考えにならなければ、皆様は途中の白籠駅で解放致しますわ。ですが、妙な事をすればーー」
スピーカーの向こうで銃声が鳴り響く。あまりにも明確な銃声のために観客たちはパニックを引き起こしてしまっていた。
それでも、席を立とうとしないのは、自分たちの座る列車をテロリストの仲間が見張っているからだろう。
と、そんな乗客のパニックを事前に予知していたのだろう。ハイジャックの女は可愛らしく笑って、
「ウフフフ、ご安心を。これは最悪の場合のケースにしか起こり得ない事でございますから、ですが、完全な身の安全は保証しかねすまので、どうかご存分に注意をなさってくださいね」
アナウンスの終了と同時に、車両の共犯者の男が銃を屋根に向かって発砲する。
「さてと、お客様……お客様の中に凄腕の魔法師はいらっしゃいませんか?おられたのでしたら、MCMを装着させますので、私に正直に申し上げて下さいね。正直に仰って下されれば、私が身の安全を保証致しますので」
男は小さな腕輪をジャラジャラと鳴らしながら、口元を歪めていた。
恐らく、最初から魔法師を封じ込める算段だったのだろう。
孝太郎は男が自身の背後に背を向けた時の事を備えて、いつでも自分の魔法を使用できるようにしよう、と考えた。
「この列車ハイジャック事件は、日本共和国の安全を揺るがしかねない重大事件であり、犯人が我々の白籠駅を目標に進んでいると言う事から、白籠署を本拠地とする事でよろしいですか?」
と、野々原警察署長に尋ねたのは共和国警察庁のトップを務める梶浦康彦。
梶浦は寡黙な男であり、滅多な事では激昂したり、興奮したりしない性格で知られていたが、この時ばかりは例外であり、彼の額から大量の冷や汗が滝のように流れ出ていた。
野々原は目を凝らして、再び梶浦の手を見つめる。
よく見れば、手汗の数も尋常ではない。それだけ、今回の事件の解決には意欲的なのであろう。
梶浦は簡素な白籠署の会議室の中央に置かれたホワイトボードを強く叩く。
「あり得ないのは、このガキどもだッ!なんで、こんなガキどもが電車をハイジャックできる程の大量の武器を備えている!?」
梶浦の言葉に会議に参加していた警察の重役たちの顔が沈む。
静寂と沈黙の支配する空気の中で、それを打ち破ろうとしたのは、梶浦康彦の隣に座っていた、野々原署長であった。
「僭越ながら、申し上げますと、この列車の中には別件を追っていたある人物が乗り合わせておりまして、彼にかけるのが良いかと思います」
「バカなッ!」
梶浦は一蹴した。
「どこの世界にたった一人の警官にこの国の安全を任せる人間がいる!?この事件で、問題なのは、犯人の思い上がった子供が、伊勢皇国におわせられる天皇陛下を人質にする可能性も捨てきれんと言う事だッ!竹部大統領が死んでも、国民の喪失はそこまで深くはならんだろうが、もし、陛下をテロで亡くしてしまえば、国民の喪失は計り知れんものになるだろうッ!」
「仰る通りです。ですから、陛下の身が危うくなる前に、決着を付けるのですよ。梶浦長官……あなたは三年前に宇宙究明学会がこの国をひっくり返そうとした事件を覚えていますか?」
梶浦は首肯した。三年前の事件は日本の犯罪史に残る出来事だ。忘れるわけがないだろう。横に座る梶浦の顔が無言でそう告げていた。
梶浦が納得した顔を浮かべているのと同時に、野々原はにんまりとした顔で、
「ならば、ご安心なさい。三年前の狂った教祖の野望を打ち砕いたのも、今列車に乗り合わせている警察官なのですから」
野々原が勝ち誇った笑顔を浮かべていると、大きな爆発音が聞こえた。
梶浦が爆発音の原因を大声で問う。梶浦の号令が放たれるのと同時に、一人の警察官が会議室の扉を空けて、
「た、た、た、大変です!署が襲撃されましたッ!」
『襲撃』と言う言葉に全員が席を立つ。
そして、一斉に報告に訪れた警察官に視線が注がれた。
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