魔法刑事たちの事件簿R(リターンズ)

アンジェロ岩井

文字の大きさ
上 下
33 / 365
外伝・少年と雷神編

私の腕の中の雷神ーその⑥

しおりを挟む
「ぼくはエルウィン・ヨーゼフ二世じゃあないからね、部下のみを働かせて、自分は部屋で侍女相手に癇癪を起こすような子供じゃあないんだ。ぼくは前で戦うッ!そしてこの与えられた魔法でこの街に蔓延る外来の敵を駆逐する。それが、ぼくに与えられた使命だからねッ!」
浩輔はそう叫んで、大勢のコーサ・ノストラの戦闘員たちを前に笑ってみせる。
その笑みは「お前らなんて、すぐに皆殺しにできるんだぜ」とでも言わんばかりの不敵な笑みであった。
浩輔の駆逐発言と笑みにプライドを傷つけられたのが、マフィアとして現在、第一線で活躍している戦闘員たちであった。
だが、リーダーのリック・ジアンカーナはタバコをふかして、浩輔を見つめるばかり。
浩輔は別の人格が出ていない時の彼がこんなに冷静沈着な人物だったとは知らなかった。
だが、周りのコーサ・ノストラの兵士たちの反応は浩輔の予想通りだ。
浩輔は人が死なない程度の電気を放出するように調節する。
そして、コーサ・ノストラの戦闘員が車の外の浩輔に結集して立ち向かって来た時に、浩輔は両手の掌を広げて、雷を放出する。
電磁砲とも言うべき雷撃が黒い服の男たちを包み込む。
後には、電撃を受けてピクピクと体を動かす男たちの姿だけが残された。
傷顔スカーフェイスの男やその相棒もまさか、こんな短時間で自分たちが倒れされてしまうとは考えもしなかっただろう。
両腕を微かに動かそうと、懸命に腕を伸ばそうとしている。
リック・ジアンカーナはその様子を見て、怒るどころかパチパチと手を叩く。
「流石だね、中学生にしては強い魔法を使うじゃあないか」
「お褒めに預かり光栄だなぁ、なら、その褒美として一つ欲しいものがあるんだけれど」
「何だね?言ってみたまえ」
「あなたの名前を教えてほしいなァァァァァ~!!!ぼくの中学校をめちゃくちゃにした男の名前くらいは知っておきたいんだよォォォォォォォ~!!」
浩輔は言葉を放つのと同時に、雷の球をも同時に放つ。
男は両手を広げて、念力を放出して、雷の球を近くのアスファルトの中に投げ込む。
アスファルトの下で雷の音が響き渡る。
爆発したかのような気もする。浩輔は失敗を確信して舌を打つ。
「惜しいな、あの球が当たられば、あなたは確実に天国に行ったんだが……いや、地獄かな?まあ、いいさ、地獄に行けば、殺した人に謝れるからさァァァァァ~!」
浩輔は再び両手から雷の球を放っていく。
合わせて三発の球。だが、リックは念力で方向を変えて、雷の方向をいく。
リックは口元を「へ」の字に歪めて、
「坊や、もう辞めたらどうだ?お前は女の子だろ?そうでなければ、
浩輔の理性はこの瞬間に完全に吹き飛んでしまったと言っても良いだろう。
リック・ジアンカーナがどうやって、自分の恥ずかしい写真を入手したのかは浩輔の知る由の無い所だが、問題は敵対するコーサ・ノストラのリーダーが自分のトラウマをくすぐるような写真を「持っている」と言う事実の方が重要なのだ。
浩輔は今度は雷の球ではなく、二筋の雷を放出する。
だが、今度の雷撃もリックの念力によって歪まされてしまい、リックには当たらずに、別の方向に向かって飛んでいく。
浩輔の放った雷はアスファルトを揺らし、軽い地震を起こしたような気がした。
浩輔が赤い目で相手を睨みつけている間も、リックはニヤニヤと笑うばかり。
浩輔は目の前の異常者の軍人気取りの目的が自分を挑発して、自尊心を揺らがせて、冷静さを消し去ろうと言う目論見だったと言う事を悟っていたが、それでも「過去」が邪魔する。
負け組だった過去。恥ずかしい写真を撮られて、おもちゃにされていた日々。
苦痛と悲痛の相次ぐ日常。
それらの事がフラッシュバックして、浩輔は見事に相手の手中の中にはまっていたのだ。
何度も何度も浩輔は目の前のトラウマ再生機に向かって雷撃を放つが、その度に雷は念力によって歪められて、アスファルトなどに落ちていく。
拉致があかないと判断し、浩輔は拳を振り上げて、向かっていくものの、なす術もなく相手にねじ伏せられてしまう。
リックは歯磨き粉のコマーシャルにでも採用されそうな真っ白な歯を見せて笑いながら、
「やはり、あの写真を入手しておいて、成功だったようだな、あの写真はマニアに人気の写真でな、入手するのには苦労したんだ。インターネットや電子機器の発達したこの23世紀において、写真になる程、人気なんだな、キミは」
浩輔は顔が赤くなっていた事に気がつく。
あいつらは自分自身のストレス解消と団結力と友情の向上のためだけではなく、小遣い稼ぎのために自分を変態たちに売り飛ばしたのだ。
そんな事を考えるのと同時に、浩輔はいてもたってもいられなくなり、リックの頭に頭痛を喰らわせて、ねじ伏せられた状態から脱出する。
「ハァハァ、ぼくは変態のおもちゃでもなければ、あいつらのストレス解消の道具でも無いッ!ぼくは刈谷組の組長刈谷浩輔だァァァァァァァ~!!」
浩輔の雷が放出される。リックは素早く雷を念力で別の方向に逸らそうとしたが、浩輔の雷は目と鼻の先だ。
これでは、少しばかり念力がそれで自分の体に当たってしまうかもしれない。
だが、当たるよりもマシだと判断して、念力を放出させて、雷を滑らせていく。
だが、この行動ばかりは予想外だった。
刈谷浩輔が雷撃を防いでいる自分に向かって拳を放ってくると言う変えようの無い事実ばかりは。
浩輔の右手の拳がリックの頬に直撃する。
リックはその場で倒れてしまい、雷撃が直撃してしまう。
リックは雷の制裁を浴びる中で自分自身が、他のメンバーと同じルートを辿ってしまったと言う事を悟った。
「……お前を仕留めるまでに、かなりの時間がかかったが、もう終わりだな?お前はぼくが必ず警察に引き渡す……死んだ学校のみんなの分の仇も討ってやるんだ」
浩輔の言葉には重みがあった。




「一斉検挙となるとはね、お手柄だねぇ~そうだ、きみの名前は?」
と、尋ねたのは白籠署の波越警部。波越警部は住民の通報を受けて逮捕に向かったのだが、まさかコーサ・ノストラの人間の一斉検挙だったとは知らなかったために、ひどく饒舌に尚且つフレンドリーな態度で目の前の少年に応対していた。
「刈谷浩輔です」
「刈谷……?もしかしてきみは……?」
「ええ、刈谷阿里耶の弟です。安心してください。第二の刈谷組はかつての刈谷組や東海林会、そしてコーサ・ノストラのような非道な組織にならないと約束します。刈谷組は生まれ変わるんです。ぼくの手によって」
少年はそう言って背中を向けて去っていく。
波越警部は知る由もなかった。少年がかつての弱さを振り落として、コーサ・ノストラのボスの顔を殴ると共に、かつての自分自身のトラウマとも手を切った事を。
そして、背中を背けて歩いてる少年の顔がこれ以上無いほどの笑顔で満たされていた事も。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~

橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。 記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。 これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語 ※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります

処理中です...