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外伝・少年と雷神編

負け組倶楽部(ザ・イレギュラーズ)ーその⑥

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マフィアという言葉が似合う男が、ジュリオ・カヴァリエーレならば、軍人という言葉が似合う女はサラ・ザビアニしかいない、とジャック・ゴードンと名乗った男は考えていた。
彼はこう言う任務の場合は本名を名乗らない方が得策だと言うことを知っていた。そのために、彼は昔の小説に登場する連続殺人鬼が捜査官に名前を尋ねられるシーンで名乗った偽名を名乗ったのだった。彼はアメリカの有名なシシリー系の家系ジアンカーナ家に生まれた事を誇りに感じていた。そして、リックという名前も気に入っていた。
ジアンカーナ家は元々シシリー出身の由緒ある家系であり、本来ならば、マフィアを夢見る筈だったが、幼少期のリック少年は軍人を夢見た。
リックは愛国心に溢れた少年であった。彼は自分の国の皇帝を心の底から尊敬しており、その皇帝のために忠誠を尽くしたいと思うのも、彼を軍に進む道へと進ませた一因とも言えよう。
彼は高校を卒業し、実家の金で大学へと進んだが、退学し、軍人になる事を選んだ。彼はユニオン帝国軍の中で海兵隊を選択し、ザビアニの部隊に所属してから、いくつも戦線を潜り抜け、魔法師としての技術と軍人としての心得を身に付けた。
目標を仕留めるためには、時には非情にならなければならない事も。
役者をも騙す大掛かりな演技をしなければならない事も学んだ。
ゲリラの村を欺くために、彼は行き倒れを演じた。ゲリラとそれを匿っていた村人を皆殺しにするために、彼は自分を薬物中毒者ジャンキーだと思い込んだ。
そうでもしなければ、やり切れなかった。やがて、彼が戦線を除隊して、マフィアの一員となった時の彼の体の中には高潔な軍人であるリック・ジアンカーナと人の死を糧に功績を立てて喜ぶ怪物のリック・ジアンカーナの二人が同居していった。
二人のリック・ジアンカーナに揺れた時に、彼が思い付いた策略は時に応じて、二人の人物を同時に使い分ける事だった。
汚れ仕事は怪物であるリック・ジアンカーナに、普段の業務は高潔な軍人にして、サラの忠実なる臣下であるリック・ジアンカーナに。それぞれ、使い分けた。
今回の学校襲撃にもそれを応用した。リックにとってはそれだけの事だった。
そして、今は高潔な軍人であるリック・ジアンカーナに戻っている。
リックは今の自分が高潔な軍人に戻っている事に気が付き、少しばかり慌てた様子を見せたが、直ぐに切り替えて、言葉を続けた。
「失礼ながら、おれはここで刈谷浩輔を待たせていただこう……奴とは決着を付けれなければ、ならないからな……」
リックはそう言ってズボンの右ポケットから、タバコを取り出し、左ポケットからライターを取り出して、火を点けてタバコを味わった。
どうして、呑気にタバコなんて吸っていられるのだろう。柿谷淳太は思わず眉をひそめた。
彼は警察官である兄のように勇気を振り絞って、声を震え上げて、
「どうして……どうして、そんなに平然としていられるんですか?あなたのせいで、この階の人達は殆ど死んでしまったというのに……」
男の眉が釣り上がる。淳太の質問を不快に感じたらしい。
淳太は勇気を起こして質問を続けた。
「どうして、あなたはそんなに落ち着いていられんですか?どうして、ジムでいい汗をかいた後のトレーナーみたいな、澄ました笑顔を浮かべてられるんですか!?」
最後の言葉が震えた。恐らく、その言葉の端には怒りと恐怖が混じっている。
リック・ジアンカーナは長年の軍事経験から容易に推測する事ができた。
仲間を殺されたゲリラもそんな質問を幾度となく繰り返してきた。
その度に、彼は半ば惰性的にこう返してきた。
「任務だからな、仕方がない」
予想外の一言に、淳太は言葉を失う。
目の前の男は自分でやった事の重さも知らずに、ただ任務だからと言い訳を呟くばかり。
『信念』の二文字が男の心には刻み付いていないという事を淳太は理解した。
淳太は目の前の男の事を自分の中でこう決定付けた。
空っぽの人形だと。任務のためならば、どんな事でもやる中身のない人間。
それが、淳太が目の前のジャック・ゴードンと言う男に定めた印象だった。
淳太は拳を強く握り締め、震えた声で叫ぶ。
「ふざけるなァァァァァァァ~!!」
だが、殴り付けようとした、淳太の右手の拳はジャック・ゴードンの手によって捻られて、その場に叩き付けられてしまう。
ジャック・ゴードンはタバコとライターをその場に落として、武器保存ウェポン・セーブから軍用のオート拳銃を取り出して、その銃口を地面で蹲る淳太に向ける。
「さてと……大分、時間が経ったな、そろそろ警察がこの校舎に侵入してくる頃か……なら、その前に始末しておいた方がいいな……」
「殺せよ」
淳太の言葉にリックの片眉がピクリと動く。
「ぼくを殺せ、ぼくは死んでもしょうがない人間だよ。いじめを黙認して、その罪悪感に耐えられないからって、上っ面だけ整えて、彼の友人になろうとしたんだ……死んで当然の最低の人間だよ。でも、これだけは言っておくッ!」
淳太はリックを激しく睨み付け、
「きっと、刈谷浩輔くんがキミを必ず法の裁きにかけてくれるッ!その時が楽しみだよッ!」
「……そうか」
リックはいつも通りに引き金を引こうとした時だ。
リックの手に電撃が走る。リックは痛みのために、軍用のオート拳銃を地面に落としてしまう。
リックが何事かと自分が来た方向、つまり、背後を振り向くと、
「やめろよ。お前はぼくとの戦闘を放棄して逃げた。そのお前に彼を卑怯者を扱いする資格なんてないさ……」
刈谷浩輔が全身から微量の雷を纏いながら、こちらにゆっくりと向かって来ていた。
「逃げたんじゃあない、このバカが余計な事を喋らないか、確認しに戻っただけさ」
リックはそう言って、浩輔に向かって、再び念動力を放つ。
浩輔もそれに向かって雷撃を放ち、空間を歪める力と雷がぶつかり合い、校舎のあちこちに雷がぶつかっていく。
その様子を見ていた集まっていた浩輔の仲間たちは天井や壁に雷が向かっていく様子を見て、呆気に取られるばかり……。
そんな中で、淳太だけは友人の晴れ舞台を眺めていた。
彼が臆病な少年ではなく、勇敢な騎士へと変貌した様子を。
浩輔は口元を緩めて、
「さあ、勝負を再開しようか」
リック・ジアンカーナ曹長に向かって宣言した。
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