魔法刑事たちの事件簿R(リターンズ)

アンジェロ岩井

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外伝・少年と雷神編

負け組倶楽部(ザ・イレギュラーズ)ーその⑤

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村本雄一にとって、自分自身の人生は満ち溢れたものだった。暖かで裕福な家庭。友達に恵まれた学校生活。優秀な学業。そして、何よりも楽しい哀れなキツネ狩りいじめ
それだけで、十分だった。それはたった一日で潰れてしまった。たった二人の愚かな人間のために。
村本は先程、周りを囲んでいた警察官たちに向かって何か叫んでいる犯人の姿を見た。
机の下に潜りながら、無事に帰れるだろうか、と考えていると、突然戦争が始まったとも思われるような凄まじい音が聞こえ、次に青いニット帽の男が教室に向かって入ってきた。
青いニット帽の男は銃を突きつけ、無言で自分達を脅す。
その目には確かに明らかに喋れば殺す、と言う意志があった。
村本は思いっきり叫んでやろう、と考えていると、教室に銃弾が飛び交う。
どうやら、先程侵入してきた男を狙っているらしい。
村本は机の下で銃を撃った人物を恨んだ。
村本が銃弾と青いニット帽の男に震えた時間は永遠のように思われた。
だが、何事にも終わりというものは訪れるものだ。
青いニット帽の男は自分達の教室から立ち去り、銃弾は止んだ。
村本は辺りを見渡し、改めて安全を確認すると、近くに隠れていた自分にとっての、小川宏子の頭を引っ張って、自分の元へと近付け、
「いいか、お前が囮になれッ!お前が囮になれば、おれは助かるんだぞ!」
宏子はその言葉に動揺を隠せないようだ。目の隅に僅かに驚愕の色が浮かんでいる。
だが、村元の知った事ではない。村本は今度は小川の頬を引っ叩く。
小川は全てを悟った修行僧のような表情を浮かべてから、囮になる旨を伝えた。
村本はその様子を見て、感謝の言葉を使うどころか、ふんと鼻を鳴らし、
「初めから、そう言えよ。バカ」
と、映画の悪役のような鋭い目つきで宏子を睨み、再び頬を叩く。
小川宏子は観念したらしく、震える足を必死に立てて、教室の扉を開く。
村本は小川宏子が自分のために命を捧げるのは当然の事だと思っているし、これからもそうだろう。
何せ、自分は大病院の院長の一人息子。向こうは他に二人の弟と妹を掲げる小さな医療機器メーカーの工場の娘。
例えるのなら、身分は戦国時代の足軽と大将程も違うのだ。
戦国の合戦において、足軽は当然、大将のために命を投げ出すだろう。
それは、現代日本においても当てはまるに違いない。
だからこそ、村本は自分の行動は正しい事だと信じて疑わなかった。



小川宏子は教室に出るなり、自分と同じくこの中学校の生徒の証であるセーラー服を着ている少女が、同じく学校の生徒の印である学ランを着た男子生徒が人質に取られている事に気が付く。
宏子は何とかこの状況を自分達の代わりに戦いを代行してくれている後輩たち(宏子は中学3年生)のためにも、自分が役に立ちたいと切実に願った。
どうせ、死ぬのならば、誰かの役に立ちたいと願って何が悪いのだろう。
宏子は恐怖の感情を押し殺して、青いニット帽の男に向かって行く。
忍足で向かっている事と、男が何か別の事に夢中になっている事が幸いしたのだろう。
宏子は驚愕の表情を隠しきれない陽子の前を通り抜け、銃乱射事件の犯人が手に持った軍用サブマシンガンを撃つよりも前に、男の前に近付き、体当たりを喰らわせた。
効果は十分だった。男は体当たりの衝撃を受けて、その場に尻餅を付いてしまう。
男に捕まっていた、阿久津孝弘はこのチャンスを逃さないとばかりに、自分の魔法である小さな近衛兵団リトル・ナイツを動かし、男の眼の近くをレイピアで刺すように指示を下す。
小柄の兵隊は大きな主人の命令に従い、目を傷付けずに、目の下を大きく突き刺した。
男が絶叫する。
「ちくしょうッ!ちくしょうッ!テメェら、全員おれの魔法で皆殺しにしてやるッ!」
「いいや、殺されるのはテメーだッ!全隊ッ!進軍ッ!男の指を全て突き刺せッ!」
青いニット帽の男は自身の水魔法を発動させようとするが、それよりも前に眼の近くを突き刺した小さな兵隊たちは腕を素早く移動し、男の指を一本一本突き刺していく。
男は絶叫を上げて、その場で手を抑えようとするが、抑えられない。
一本一本の指に傷が付き、動かす事ができないから……。
孝弘はその様子を少しばかり哀れんだが、そうも言ってはいられない。
悠然とした態度で、うずくまる青いニット帽の男を見下ろしながら、
「治してもらいたかったら、そこで待っときな、直ぐに来るからよ。警察の車がな……」
男は「警察」という言葉を聞き、今度は泣き始めた。
これで一件落着という所か、孝弘が淳太を誘って校庭の方に行こうかと、誘うと、
「ダメだよ!ぼくらがここに来るまでに登ってきた階段を使って、降りるんだッ!校庭に行くのはそこから……」
その時だった。爆発音が聞こえ、周りの教室から悲鳴が聞こえる。
淳太が虚ろな表情で、向こう側の階段を眺めていた。
そう、もう一人の犯人が上がってきたいたのだ。どうやら、刈谷浩輔は取り逃してしまったらしい。
男は両手を左右に広げると、念力で教室に手榴弾を投げ込んで、こちらに近づいて来る。
と、ここで他の教室の人間も異常事態に気が付いたのだろう。
次々と教室を出ていく。が、黒シャツに黒ジーンズの男は次は武器保存ウェポン・セーブからアサルトライフルを取り出して、逃げ出す生徒を撃っていく。
まさに地獄絵図だ。青いニット帽を確保するために、外に出て、その光景を眺めていたメンバーはそう思った。
とうとう、自分達の近くの教室にまで男は迫る。
と、ここで一人の人間が教室から飛び出す。村本雄一だ。
宏子を囮にして、その場から逃れようとした、村本雄一は恐怖のために、教室から逃れようとしたのだろう。
だが、男には通じない。男はアサルトライフルの照準を村本に向け、発射した。
村本は蜂の巣になっていく。
そして、銃口は4人のいた方角に向けられる。
死を覚悟して、全員は目を瞑るが、青いニット帽を被った男が悲鳴を上げた事から、男の目的は自分達の始末にあったのではないと考えた。
4人が恐る恐る視線を黒のシャツにジーンズの男に向けると、男はハァと溜息を吐いて、
「あの薬物中毒者ジャンキーの始末は終わったか、申し遅れた。おれの名前はジャック・ゴードン。ユニオン帝国海兵隊第三部隊所属の曹長だ」
リックと名乗った男は四人に向かって深々と頭を下げた。
四人は堪らずに顔を見合わせた。
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