魔法刑事たちの事件簿R(リターンズ)

アンジェロ岩井

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外伝・少年と雷神編

負け組倶楽部(ザ・イレギュラーズ)ーその③

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「事件は白籠市中学校で発生しました!白籠中学は公立中学校の一つで……」
橙色のスーツを着たアナウンサーがテレビカメラの前で現場の緊迫した様子を必死に発信していた。アナウンサーの必死さがテレビを観ている視聴者にも伝わりそうな程だ。
それだけに、白籠署の殺人課の刑事、柿谷淳一は心配でたまらない。
白籠中学には自分には弟が通っているのだ。最愛の家族が通っているからこそ、淳一は一刻も早く駆け付けたい。
だが、特殊部隊のみでは片付けられそうにないと判断した、3年前の横須賀基地の占領事件ならば、ともかく、今回の事件では関東全域の警察官が動員される事はないだろう。
柿谷淳一は歯をギリギリと鳴らしながら、署のタイルの床を足でドシドシと鳴らす。
と、その様子が尺に触ったのだろうか。殺人課の小田切士郎刑事が淳一の肩を叩いて、
「辞めないか」
と、注意を促した。
淳一はキッと小田切を睨み付けてから、
「お言葉ですが、小田切さんはオレに苛立ちから出るこの癖を辞めろと?」
「そうだ、横須賀基地占領事件の時ならば、ともかく、今回は我々の出番は無いだろう。きっと、特殊部隊が何とか……」
「何とかだって!?スティーブン・パドックが学校を襲っているって言うのに、黙ってろと!?畜生ッ!」
「言葉が過ぎるぞ!少しは控えろ!」
「黙ってられますかよ!」
淳一は反撃を試みた。
「言っておきますがねッ!犯人の正体も使っている武器も分かっていると言うのに、何で、突撃しないんですか!?あんな奴ら、とっと撃ち殺してしまえばいいでしょうがッ!」
「黙れと言っているが、分からんのかッ!」
小田切は近くにあった机を叩く。ようやく大人くしなった淳一は重い口を開いて、
「分かりましたよ。動機や目的が分からないから、交渉するんでしょ?けれど、そんなもの……」
「オレだって無意味に思うがな、それが法律で定められているんだったら、仕方がないだろ?」
重い空気が殺人課の部屋全体を包み込む。
その時だった。扉が破られて、新米の若い刑事が入ってきた。
「たった今ですね!犯人グループから連絡がありましたッ!目的は麻薬です!犯人側は麻薬を要求して、学校を占領したと思われます!」
犯人の目的が分かり、ざわめき始めていた殺人課の部屋を『麻薬』と言う言葉により、再び沈黙が襲う。
淳一は一刻も早く、現場に向かいたかった。一応は殺人事件なのだから、自分達にも招集が掛からねければ、おかしいだろうと考えながら。




 

「オレらの要求はたった一つ!麻薬だッ!警察で応酬してる東海林会の麻薬を寄越しやがれ!!要求が聞き入れられない場合は、ガキどもをまた一人殺していくと思え!!!」
麻薬を欲する二人組の男は空中に向かって、アサルトライフルを乱射する。
周りをマスコミのヘリや警察のヘリが動く。と、ヘリの音に苛立ったのか、二人組の男のうちの一人が、学校の窓から空中に向かって銃を発砲する。
それに合わせて、マスコミか警察のヘリが慌てて空中へと上がっていく。
その様子を見て、アサルトライフルを乱射した青色のニット帽を被り、緑色のパーカーを羽織った男は高笑いして、
「オレらに逆らえば、ガキどもだけじゃなくて、お前らも皆殺しにするぞ!」
ニット帽の男は校庭に集まっている警察官たちに向かって叫ぶ。
「いいか、テメェらにも伝えとく!テメェら警察がヤクを持ってこねーと、ガキどもの死体を窓から放り投げるぞ!!」
男は今度は校庭に向かってアサルトライフルを乱射する。
二人組の男は高笑いをしながら、警察を嘲笑していた。




「全員無事だったのは良かったよ……これも何かの縁だと思うよ」
浩輔の言葉に淳太、孝弘、陽子の三人が頷く。
「そこでね、提案があるんだけれど……」
「提案?」
淳太の問いに浩輔は自分の考えを述べる。
全て喋り終えた所で、孝弘は思わず肩を震わせる。
「無茶だ。そんな事をすれば、オレらが殺されちまう……」
「ダメなんて、誰が決めたのさ?警察の救援は待っていられない……ぼくらの手でやるんだよ!ボクらの手で、この学校を……いや、この白籠市を守るんだッ!」
浩輔は拳を握り締めて、力の籠もった声で演説する。
その演説に感化されたのか。それとも、罪滅ぼしのためなのだろうか。柿谷淳太が賛同のの言葉を述べた。
「いいよ。あいつらを倒そう!なら、きっとあいつらの動きを予知できる筈だから……」
「ありがとう、ボクだって魔法と勇気を振り絞って、戦うよ!そのためにあの検査を受けたたんだもん!」
やがて、孝弘が頬をかきながら、
「しょうがないな、オレの魔法も使うよ。機関銃マシンガンに勝てるのかどうかは分からないけれど、オレだって魔法は使えるんだッ!何とかしてみせるさッ!」
「わ、わたしも!」
火野陽子が声を上げる。
「わたしだって、一応魔法は使えるし、その魔法で、何かをメモするのには役に立つ筈……」
「ありがとう、孝弘くん、陽子ちゃん……じゃあ、『思い立ったが、吉日』だよ!早速行こうよ!」
浩輔は三人に指示を出して、教室を出た、学校に現れた不届き者を片付けるために……。




「おい、本当か!?この教室から、三人出て行ったと言うのは!?」
学校の窓から出て、警察の動きを見張っている、青いニット帽の男の相棒である、黒いシャツに黒のジーンズを履いた頬に二つの傷を抱えた男は禿頭の男子中学生の胸元を掴んで尋ねる。
「あ、あ……本当だよ。刈谷浩輔に柿谷淳太、阿久津孝弘、火野陽子……それが出て行った奴の名前だよ」
「そうか、ありがとうな、じゃあ責任取って死のうな?」
『死のうな』と言う言葉に禿頭の男の顔が凍り付く。あれだけ情報を喋ったのだ。殺される筈はないとタカを括っていた。
だが、それは勘違いだったらしい。禿頭の男は全身をブルブルと震わせる。
その様子が感に触ったらしい。全身を黒の服に身を包んだ男は教室の木で作られた床の上に禿頭の男を放り投げて、アサルトライフルで蜂の巣にして撃ち殺した。
それから、武器保存ウェポン・セーブから手榴弾を取り出して、教室の中に放り投げる。
教室の一室が消し飛び、瞬く間にかつての教室は地獄へと豹変した。
男はその様子を見て、満足気に笑った。
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