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ファースト・ミッション編

地下水道に激震走るーその⑥

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白犬美穂は武器が無くなった事によって、ホラー映画でも聞いたことの無い絶叫を孝太郎に聞かせた。いや、下手をすれば地上の人間にも聞こえたかもしれない、それくらいの大きな声だった。
美穂は孝太郎を親の仇でも見るかのような激しい形相で睨み付けながら、
「ちくしょうゥゥゥゥ~!!!!何でだよ!?何で、こんな目にばっかり遭うんだッ!武人を助けたいだけなのに……」
白犬美穂はひとしきり孝太郎を睨みつけた後に、大きな声でワンワンと鳴き始めた。
それから、低い声で、自身と恋人の岡田武人の身の上話を始めていく。
「あたしと武人は孤児だった……孤児院に引き取られて育ったんだ。けれどね、孤児院の生活は辛くて……あたしと武人は10歳の時に孤児院を飛び出したんだ。そして、ヤクザの下働きとして暮らしていったんだ」
捜査資料には書いていなかった情報だ。孝太郎は入念に覚えておく事にした。
「それからね、あたしと武人はヤクザの組織の中でドンドン出世していったんだ。だけれどね、組は3年前に一気に崩壊していったんだよ。お前らのグループと警察のせいでッ!」
勝子は再び孝太郎を怒鳴りつけた。その目には涙すら溜まっていた。
「いいかい、その後の刈谷組は悲惨だったよ。バイカーにはこき使われるし、それが終わったら、阿里耶さんの跡を継いでいた弟二人が逮捕されたり、死んだりするし、宇宙究明学会と繋がりがあるとか言われて、事務所のあちこちに家宅捜索に入られて、組は追い詰められていったんだよ。その中で武人は必死に組を取り戻そうと……魔法と腕で独自に百目竜との麻薬取り引きのルートを確保したんよッ!そして、刈谷組を別の組として独立させ、東海林会という組を白籠市に作り上げたんよッ!」
嬉しげ気に話す美穂の声は朗らかで少女が見るアニメに出てくる小さな女の子のキャラのようだった。
孝太郎がそんな事を考えていると、美穂は再び表情を曇らせて、
「けどね、そんな中で竜堂寺との抗争が起こり、そこで美穂がオレを庇って死んじまったんだよ」
ここで変化が起きる。再びあの独特の異常者本来の顔に戻っていく。
そう、岡田武人本来の言葉に戻っていったのだ。
「あの忌々しい戦争で美穂が死んだんだッ!そして、警察の捜査でオレらの組は壊滅寸前……」
それから、頬を好調させ、人差し指をブルブルと震えさせながら、孝太郎に向かって突き付ける。
「美穂はオレを夫にしてくれると言ったッ!それが嬉しかったッ!その時に誓ったッ!それからは絶対に警察には入らないとッ!まだまだこの日本には永久に刑務所に入って、責任を取らないといけねー奴はこの日本にはいっぱいいっぱいいるんだッ!」
武人は歯を剥き出しにして孝太郎に向かって叫ぶ。
孝太郎は冷ややかな視線でそれを見つめてから、
「そいつは誰だ?」
「まず、共和国大統領の竹部だよッ!あいつの対暴力団法で、幾つの取り引きが潰されたかッ!あの最高殺人者の命令で、何人の仲間が警察に逮捕されたかッ!オレは考えるだけで、怒りで胸が震える」
武人がその後は竹部を筆頭に暴力団対策に乗り出したビッグ・トーキョーの中央の警察組織の長官や幹部、竜堂寺組長の竜堂寺清太郎、更には自分や姉の名前まで入っていたのは苦笑しかない。
そもそも、こんな無茶苦茶な理論がまかり通ってしまえば、日本という国は法治国家ではなくなってしまうだろう。
感情だけに支配された無法者国家になってしまう。
他にも、『最高殺人者』という単語からしておかしかった。
そんな言葉は法律の何処に無いし、それを言うのなら『最高責任者』という言葉だろうと孝太郎は突っ込みたかった。
また、この言葉を東海林会の流した麻薬や武器で苦しめられている人々が聞けば、怒りに震えてしまうだろう。
その無茶苦茶で支離滅裂な言葉に一番当てはまるのは貴様らだろう、と指を刺すに違いない。
巨大警備会社、トマーホーク・コープと組んで、東海林会が白籠市に与えた影響は悪影響という言葉では片付けられない。
要するに、この男は弱いのだ。弱い故にかつて死んだ筈の恋人が未だに自身の体に現れ、戦闘を代行しようと試みるのだ。
弱い故に自分自身の過失や罪を認めたくなくて、他の人物にそれを擦りつけようとしていたのだ。
孝太郎は項垂れるヤクザの組長に強烈なストレートを喰らわせる。
岡田武人は頬を抑えて、その場にのたうち回る。どうやら、強く殴り過ぎたらしい。
「そいつはお前が白籠市の人々に与えた痛みだ。覚えておいた方がいい……」
岡田武人は信じられないという表情で殴られた頬を抑えながら、孝太郎を見つめていた。
どうやら、今までの相手はこれで説得できたらしい。
だが、目の前の男は自分の境遇に同情するばかりか、代わりに拳を与えたのだ。
武人は悲観した気持ちを押し殺して、再び地震を起こそうと、右手を開く。
だが、それよりも前に孝太郎が地面を蹴り、右手の破壊の魔法で地震を破壊してから、再び武人を殴った。殴られた衝撃で、水道に落ちる一歩手前にまでいったが、水道には落ちない。孝太郎にその右手をしっかりと捉えられていたから……。
孝太郎は歯を食いしばりながら、
「死なせはしない。お前を必ず法廷で裁くからな」
孝太郎は引っ張り上げてから、岡田武人に手錠を掛けた。
「チクショー。悪いのはオレじゃあない……悪いのは大統領だッ!警察の人間だッ!」
「そうか、そう思うんだったら、そう主張しておけ、法廷でな……オレにとってはそんな事はどうでもいい。ただ、司法に携わる人間は全員が全員、あんたを指差すだろうぜ」
その言葉に反論できなくなったのか、武人は言葉を失い、項垂れてしまう。
気力の無くなった武人に孝太郎を手錠をかけて連行して行く。
エレベーターを登り、屋敷の門を抜けて、岡田武人と東海林会の屋敷の周りを包囲する応援のパトカーに孝太郎は岡田武人を引き渡す。
乗っていた警官は孝太郎に向かって敬礼をしてから、岡田武人をパトカーに乗せて、白籠署に連れて行く。
孝太郎はその様子を眺めていると、
「孝ちゃん!お疲れ様!!」
背後から姉が抱きしめていた事に気がつく。
「姉貴か……?ああ、何とかやってやったよ!」
その言葉に更に抱擁が激しくなっていく。
「お疲れ様……孝ちゃん……今日は孝ちゃんの好きな物を作ってあげるわ!家に行くわよ!」
「アハハ、まあ、お手柔らかに頼むよ」
事件解決後に姉の絵里子が来ると、いつも食べきれない程のご馳走を作ってくれる事を思い出し、孝太郎は頬をポリポリとかく。
あの量を食べ切れるだろうか、そんな事を考えながら、孝太郎はせめて今日中に食べ切れるように援軍を頼もうと、丸渕眼鏡をかけた可愛らしい計算係と勝気な突撃隊長の姿を待機する警官の中から探す。二人は手を振って孝太郎を出迎えた。孝太郎と絵里子は二人に手を振り返して、二人の元に向かって行く。
天も東海林会の壊滅を祝っていたのだろうか。相変わらずの眩しい日本晴れで日本列島を照らしていた。
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