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ファースト・ミッション編

地下水道に激震走るーその⑤

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チャールズ・ホイットマンに、いや、岡田武人に激震が走る。
その理由は、何度も何度も弾丸を体に打ち込んでも、彼の肉体に届く前に弾かれてしまうという目を擦っても逆立ちしても覆す事のできない現象を目の当たりにしているからだ。
と、その瞬間に岡田武人の頭に誰かが語りかけてきた。それは女の声だった。
『ねえ、しっかりしなよッ!武人ッ!』
激励する女に武人は申し訳が立たずに、詫びの言葉を入れるばかり。
だが、弱気な武人とは正反対に女の方は語気を強めて武人を責め立てるように強く口調で、
『しっかりしなよッ!あんなボリ公が何だって言うんだい!?あたしにッ!あいつはきっと始末してやるよッ!』
その言葉に武人は母親の仲介で喧嘩を止める小学生のような絶対的な安心感を得た。幼少期から、自身の肉体にこの女は大抵の事は何でも解決してしまうのだ。それこそ、自分には想像もできない魔法を使用して。
武人は女に全てを委ねる事にした。
その瞬間に、岡田武人の意識はこの世から消失した。



白籠市のアンタッチャブルの参謀のこと中村孝太郎は相手の異変に気が付くのに相応の時間を有した自分を責めていた。
いくらでも気付くチャンスはあった筈だ。彼の歩き方が妙にたり、或いはその言葉に女性らしい言葉が混じっていたり、とにかく変だと、別人のようだと気付くチャンスは幾らでもあった筈だ。
だが、自分が気付いたのは自分の武器が惨めにも相手の斧の餌食になってからだった。
斧は孝太郎の拳銃を破壊して、そのまま体を真っ二つに斬り落とそうとしていた。
そのため、孝太郎は思いっきり相手の腹を蹴って、自らも少し振り向けば、すぐに古式の水道を激流が走る姿が見える距離にまで到達している事に気が付いていた。
これ以上、背後に詰めれば、孝太郎が激流に飲み込まれてしまうだろう。
下手をすれば、何日も地下で行方不明という事態にもなりかねない。
無論、孝太郎は最悪の場合、そうなる事も計算に入れていた。少なくとも、前に迫っている男の持っている斧の餌食になる事は確実だったからだ。
孝太郎は目の前の男の持つ伐採用の斧がとても無い凶器にとって変わっている事に気が付いたのは、相手の正体を知るよりも早かった。
恐らく、男の持つ魔法は『処刑人の鎮魂歌エクスキューショナー・レクイエム』だろう。
先程、AK47を放棄して、その斧で斬りかかって来た時にそう彼自身で叫んでいたから、名前については間違いがないだろう。
だが、魔法自身は孝太郎の推測でしかない。それでも、孝太郎には自信を持って言えた。
それは、何でも斬る魔法だろう。単純シンプルだが恐ろしい。まさに処刑人という名前が相応しいかも魔法かもしれない。
彼の持つ斧に斬れないものはないだろう。黒曜石も鉄もレンガも空間も何もかも斧で斬り落としてしまう。
そう、空間さえも。孝太郎の魔法は『破壊』であり、勿論、空間を破壊するのだが、それは一時凌ぎでしかない。
本当は相手の魔法の効果ごと破壊してしまうのが一番手っ取り早く、願わくば、そのまま逮捕に持ち込んでしまうのが賢明と言えるだろう。
だが、処刑人の鎮魂歌エクスキューショナー・レクイエムは相手が任意でその空間を閉めなければ、そのまま削られた空間は持続するのだ。
孝太郎は削られた空間の断片のようなものを確認した。
中は何も見えない。真っ暗だ。削り取った空間の先には案外、何も無いのかもしれない。最も、空間だの次元だのという高尚な話はその手の専門家に任せたい。それより、もっと恐ろしいのは目の前の男の正体だ。孝太郎が出した結論としては二重人格。
推論に推論を重ね、もはや勘と言っても差し支えないかもしれないが、それ以外に良い考えが思い浮かばない。
かつて、ユニオン帝国がアメリカ合衆国と呼ばれていた時代に二十四の人格を持つ男が存在していたらしいので、この前の男が二重人格だとしても違和感はない。
その、もう一つの人格が今の孝太郎にとっての最大の脅威であった。
彼はいや、何でもするのだ。元の人格のためならば、人殺しでも、何でも。
今も孝太郎の頭上に斧を振り落としたくてうずうずしていそうだ。
斧を片手でブンブンと振り回している。
「異常者めッ!」
と、孝太郎は思わず叫んでしまう。斧を持った狂気じみた笑顔を浮かべたはニコニコとした笑顔で孝太郎に向かって来る。
孝太郎は二進も三進もにっちもさっちもいかない状況とは今のような状況のような事を言うのだろうと、内心苦笑した。
だが、飛び込むしかない。無敵の斧に挑む策はこれしかないのだ。
孝太郎は武器保存ウェポン・セーブから6連発のリボルバー拳銃を取り出して、斧女の心臓に向かって発砲する。
斧女は相変わらずのにこやかな笑顔で、弾を斧で削り取る。恐らく、孝太郎が心臓か頭に狙いを定めるのを予測していたのだろう。
まるで、サバンナの動物のような動体視力であったが、生憎と舌を巻いている暇はない。
孝太郎は今度は二回続けて銃を撃つ。
一発目は女の斧の餌食になってしまったが、二発目は違う。完全に撃ち抜いていた。斧女の右手を……。
長い黒色の髪を垂らした女が絹を裂くような悲鳴を上げる。
孝太郎は拳銃を向けて女に向かって説明してやる。
「お前の狂気と強さには見習うべきものがあるが、盲目的になり過ぎだ。お前はおれが頭か心臓か、或いは生かして連行するつもりなら、脚か肩を狙うと踏んだんだろ?だが……」
「だが、腕を狙うとは予想外だった?そう言いたいんでしょ?」
声こそ、岡田武人の野太い声であったが、口調はまるで全然知らない女の声そのものであった。
「お前ッ!武人を殺そうとしているなッ!?お前なんかに殺させるものかァァァァァァァ~!!!!」
岡田武人の体をは奇声に近い大声を上げて、武器保存ウェポン・セーブからピストルを取り出す。黒色の装飾の無いシンプルなオート拳銃だった。
それをめちゃくちゃに乱射するが、孝太郎には当たらない。
目の前にいるのに当たらない。女いや、白犬勝子にとってこれ程悔しい事はないだろう。
自身の愛する男を守るために、こんなにも腕を奮っているというのに。
勝子は腹立ち紛れにオート拳銃を孝太郎に投げ付ける。孝太郎はその拳銃を右に交わして避ける。オート拳銃はそのまま地面を滑って水道に流れていく。
「賭けはオレの勝ちだったようだ……」
孝太郎は目の前で打ちひしがれている女に向かって拳銃を突き付けた。
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