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ファースト・ミッション編

地下水道に激震走る

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岡田武人の心中はここの所穏やかという言葉とは最もかけ離れていた。
最近になって殆どの商売が例の白籠市のアンタッチャブルなるグループに妨害されて上手くいかなくなっているという事や自身の組の中で強い方に分類される桐野浩之が捕まった事も大きい。
また、これ以上の失敗が重なるとトマホーク・コープのハリー・S・トマス支社長からを打ち切られてしまう可能性もある。
だが、それ以上に武人の心を怯えさせたのは次々に証拠を掴み強制捜査に乗り出そうとする警察組織の事だ。
トマス支社長によると、最近の警察は勢いを取り戻して、自分たちの圧力にも屈しなくなったのだという。
更に次のトマスの一言が武人の壊れ切っていた『希望』を完全に打ち砕いていた。
万が一自宅への強制捜査が行われた場合には我々は何の手助けもしないと。
要するに岡田武人ならびに東海林会は初めから使い捨ての存在だったのだ。蜥蜴の尻尾のように。
武人はその時に電話を切り終わるなり、書斎から地下室に潜り込み、一度何も無い狭い部屋に入る。
この部屋は収容所や刑務所のように味気のない部屋であるが、上記に挙げた二つの例と徹底的に違うところは何も無い部屋に突き当たると、最後にはエレベーターに当たる事だ。
武人は自宅に備え付けられたエレベーターに乗り込むと、足を踏みながら長い地底への旅を行う事にした。三十分ばかり落ちていく感覚を味わっていると、頭上のランプが光り、最下層に着いたことを告げていた。
武人は直ぐにエレベーターを降り、地下で精製している麻薬精製工場に乗り込んだ。
武人はそこで麻薬の開発を自重するように命令し、同時に隣の部屋で栽培している人口のアヘンやヘロインの栽培を自重するように命令を下す。
そして、そのまま精製工場を通り抜けて地下水道に潜り込み一人でタバコをふかしながら、落ち着かない様子で足を震わす。
「チクショウッ!オレらを助けられないだとッ!何のためにテメーらに一年の間、あのクソみてーに高い上納金を払ってきたと思ってんだッ!」
武人は地下に広がる巨大な水道を眺めながら叫ぶ。武人の叫び声が轟々と唸る水の中に飲み込まれていく。
武人はいざとなればここに逃げ込んででも警察とトマホーク・コープに復讐してやると誓った。




「問題は正面から攻めるか……それとも奇襲を仕掛けるかだな?」
中村孝太郎は東海林会が白籠市に所有する山のように広い屋敷の見取り図を広げる聡子にそう尋ねる。
「ああ、あのヤローあんな昭和の凶悪犯みてーな面してて、中々用心深いからな、あたしらのみならず、警察組織全員使っても正面から突入するのは難しいからな……」
聡子がうーんと唸ると、全員がお互いに何か良いアイディアはないかと見つめ合っている。
そんな様子に狼狽していたらしく、明美が弱々しい口調で、
「あ、あの……正面から突入するのではなく、囮作戦を実行するのはどうでしょうか?」
「囮?」
絵里子の疑問に明美は弱々しくはいと呟いてから、
「ええ、あたしの作戦はまず、孝太郎さんと聡子ちゃんが正面でヤクザを引き付けて、裏口の方から本隊が屋敷の中に突入するんです、最も孝太郎さんと聡子ちゃんにはすごく危険な目に遭ってもらうかもしれませんが……」
「ダメよ。そんなの!!」
絵里子が金切声を上げる。
「弟をそんな危険な目に遭わせられないわ!!それに聡子だって……」
そんな絵里子を尻目に孝太郎はアハハハと大きな笑い声を上げる。
「面白い、全く面白いよ。面白いっつーのはとっても大事な事なんだぜ、姉貴……パンジージャンプだってスキューバダイビングだってスリルがあるから面白いだろ?それと同じさ、それに明美の事だ、オレ達の背後にちゃんと忍者のように風景に溶け込む伏兵を用意してくれるんだろ?」
明美は首を縦に動かす。その様子を見た孝太郎は唇をニヤリとさせ、
「いいねー!!ウチの計算の天才の言う事なんだ。面倒くせー事は抜きにしてスリルを楽しもうぜッ!」
孝太郎は顔全体が歪んでいる。面白くて仕方がないと言うように。
「アハハハハハハハ、あたしも孝太郎さんの意見に賛成するよ!!捜査っていうのは面白いから、進むんだぜッ!」
そう言った聡子の目は確かに輝いていた。その二人の様子を見て絵里子は溜息を吐いてから、
「仕方がないわね、二人ともちゃんと戻って来れるって約束してくれるんだったら……」
絵里子はモジモジと体をくねらせてから、未だに納得できかねない様子らしく、ブスっとした様子で鼻を膨らませている。
「そうと決まりゃあ、善は急げという奴だぜ、今晩は旨いものでも食いに行くか?明美の金で」
「いいねー!!明日、アタイら命張るんだから、そんくらいの見返りはあって然るべきだと思うぜッ!」
孝太郎と明美の二人の決死隊隊員の意見に押されては倉本明美上官殿も押されるしかなかったのだろう。
苦笑いを浮かべながら、家に三人を招待する事を約束した。




西部劇ホースオペラの映画で悪党と善玉の保安官が決闘を行う際によく雲一つない日本晴れの空が広がっているが、この日はまさにその空が白籠市のみならずに関東全体に広がっていた。
孝太郎さんは昔の人が言うのなら、これは悪を払うために天が用意した舞台装置のようなものだろう。
天照大神の祝福があるのかもしれない。孝太郎はそう思うと武器保存ウェポン・セーブから取り出したオート拳銃の撃鉄を捻る。
そうしていつでも撃てる状態にしておいてから、再び異次元の武器庫に戻しておく。
隣の青髪の女性刑事もスコーピオンやオート拳銃。それに日本刀の整備を行っていた。もし、彼女が仮に忠臣蔵で吉良義央に付いていたら、容易に赤穂浪士、47人は討ち取られていただろう。
そう思わずにはいられない光景だった。それくらい聡子は突撃隊長の役目が似合う女性だった。
スコーピオンの撃鉄を起こしながら、聡子は侍大将を討ち取った足軽のような笑顔で、孝太郎に向かって、
「おはようッ!飯食いました?孝太郎さん?」
「ああ、今朝はベーコンとハムエッグとトースト二枚食った」
孝太郎は懐からタバコを取り出しながら言った。通常ならば、銃撃戦になるかもしれない日の腹の中に食事を残すのは腹を撃たれた際の生存率を下げるらしいから、あまり推奨はされないが、孝太郎にはその心配は皆無と言っても良いだろう。彼はとびきり強力な魔法を持っているし、その上防御に特化した魔法さえあると聞く。
だから、こんな聡子の質問にも簡単に同意できるのだ。
「やっぱり、飯は食うのが一番!!旨い朝飯から朝が始まるんでさー」
古いテレビドラマ『水戸黄門』に出てくるうっかり八兵衛のような口調だなと孝太郎が考えていると、門の前に待機している二人の男女をようやく不審に思ったのだろう。
いかつい顔をしたネクタイ無しのパステルスーツを身に付けた男が6名ほど二人の方に向かって来た。
「テメェら、何者じゃ、おう!?人の家の前で朝からゴチャゴチャと……邪魔臭い奴らじゃ!」
「やかましいッ!テメェらは大人しく帰って親分の機嫌でも取ってやがれッ!」
「なんだとゴルァ!!!!」
最初に話しかけて来たヤクザとは別の青色のスーツの男が聡子に突っかかる。
「おい、アマァァァ!!誰に向かってもの言うとのるか分かってるのか!?」
「ああ、分かってるよッ!クソの中で生まれて、自分よりも弱い奴らを虐めてうさを晴らすクソの中のゴミの掃溜めみてーな連中の事だろ?お前らの事だよ、このボケッ!」
その言葉を聞いて青色のパステルスーツが聡子に右手のストレートを繰り出す。
が、聡子はその拳を冷静な調子で交わして、あまつさえはその拳を持って青色のパステルスーツを投げ飛ばす。
「て、テメェ!?」
投げ飛ばされたヤクザ以外の全員が武器保存ウェポン・セーブから拳銃を取り出す。
「あ、孝太郎さんこれって?」
聡子のワザとらしい問い掛けに孝太郎は口元を緩めて、
「そうだな、……動くなお前たちを逮捕する」
孝太郎は警察手帳を見せて叫ぶ。
「本物の桜田門だ。これに発砲したら、お前たち全員国家の敵だ」
孝太郎の時代劇に出てくる悪代官のような邪悪な笑みと彼の手に持っている手帳にヤクザたちはたじろいでしまう。
「中を見せてもらおうか」
その一言でヤクザ達は屋敷へと戻ろうかという眼をお互いに向け合っている。
孝太郎はそんなヤクザの調子が面白くして仕方がないらしく、更に挑発を続けていく。
「そうだな、お前たちの罪状は銃刀法違反に加えて、公務執行妨害そして、暴行未遂容疑……これくらいかな?」
昔の安っぽいロボットアニメに出てくる悪の天才科学者のような笑顔と先程、孝太郎が述べた罪状の数々はヤクザたちを怯えさせるのに十分過ぎた。
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