魔法刑事たちの事件簿R(リターンズ)

アンジェロ岩井

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ファースト・ミッション編

拳銃と麻薬とーその②

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「それでは、今日から君もまた警察官だよ。階級は前同様に巡査だけれど、いいかね?」
波越警部はそう言って、孝太郎に警察官としての証である、警察手帳を差し出す。
孝太郎はそれを古代ヴィクトリア王朝時代のエリザベス女王に仕える宮廷従者のように恭しく受け取った。
そして、もう一度改めて頭を下げてから、
「ありがとうございます。波越警部……3年の間が空いたのにも関わらずに、自分をもう一度警察官として復帰させてくれるとは……誠に光栄であります」
孝太郎は少し大袈裟過ぎたかもしれないと、心の中で自分を責めていたが、どうやらその反省はしなくても良さそうだと直感した。
何故ならば、目の前の波越警部自身が温厚な笑みを浮かべて立っていたのだから。
「いやいや、きみの活躍は3年たった今でも伝説となっているからね。警察学校にいる連中なんて、きみの活躍を聞くたびに、目を光らせているくらいだよ」
その言葉に孝太郎は照れるばかりであったが、隣にいた白籠市のアンタッチャブルのリーダーにして、実の姉である折原絵里子が得意げな顔を浮かべていたのだから、自分が伝説となっているのも悪いものではない、と孝太郎は思った。
その後は思い出話に花が咲いた。中でも波越警部が気に入っていた話題は宇宙究明学会を完膚なきまでに壊滅させたあの事件であった。
そして、思い出話も尽きかけた頃に絵里子が孝太郎の右腕を引っ張り、
「さあ、孝ちゃん!行くわよ!今回あなたの意見を聞きたい事件は山程あるんだからッ!」
孝太郎は絵里子に連れられながら、波越警部に精一杯の愛想笑いを浮かべながら部屋を退出した。



絵里子に連れて行かれた先は懐かしの白籠市のアンタッチャブルこと白籠署公安部の部屋だった。
赤い色の扉を開く。
たった四人だけの犯罪追跡チーム。
孝太郎のかつての職場。警察官としての自分を最も誇れた場所。
そこに戻ってきた事を孝太郎は実感した。
と、孝太郎が過去の思い出に浸っていると、
「孝太郎さん!ようやく戻ってきたのかよ!寂しかったぜ~アタシャ、あんたがいない間、寂しくて深海の底でダイオウイカの足でも齧っているような、しんみりとした気分を味わってたよぉ~」
聡子だ、石井聡子。白籠市のアンタッチャブルの武闘派にして、孝太郎が見つけ出した「腐っていない林檎」
その彼女が自分の胸元に抱き付いている。ここ3年で大幅に増えた胸に孝太郎が赤い顔を浮かべていると、
「ダメだよ、聡子ちゃん……孝太郎さんが困っているじゃない。メッ、だよ」
丸渕眼鏡をかけた白籠市のアンタッチャブルの計算係が小さい子でも宥めるかのような口調で聡子に注意を促していた。
「頼むよぉ~明美ィ~頼むから、あたしをそんな小さい子でも宥めるかのような口調で言うのやめてくれよぉ~」
「ダメです、あなたを見ていると、うちの落ち着きのない2歳の娘たちを思い出してならないんだもの」
孝太郎は明美の発した「2歳の娘たち」という言葉が引っ掛かった。
自分が寝ている間に何があったのだろう。そんな事を考えていると、考えが顔に浮かんでしまったのだろう。
明美がからかうようなニコニコとした笑顔で、
「そうそう、孝太郎さん、知らないんでしたよね、あたしとうとう結婚したんですよ!牛谷さんと!」
彼女の説明によると、孝太郎が石川葵の凶刃に倒れてから、丁度一年後にかつての婚約者である牛谷千鶴夫と結ばれたのだと言う。
そして、その直後に女の子の双子を授かったのだという。
聡子曰く明美が産休と育休でいなかった時期は二人だけでとても寂しかったらしい。復帰した後はベビーシッターに子供のことを頼んでいるらしい。
ベビーシッターを務めていると言う女性はアルバイトの女性だと言う事しか分からなかったが、孝太郎にとってはあまり重要ではない情報だったので、それ以上は不要であった。
孝太郎はその話を聞いて、ただ一言おめでとうとだけ告げた。
明美はその言葉を聞くなり、ありがとうございます、と地獄に落ちた堕天使でさえもとろけてしまうような甘い声でお礼の言葉を述べた。
孝太郎は明美の変化を知ると、微笑ましくもなったが、同時に耐えがたい不安にも襲われ、善意からの警告を発した。
遅過ぎたかもしれない、という指摘を覚悟の上で、
「お前はまだこんな職業に就いていたいと思うのか?かなり、危険な仕事だ、特に今この街では東海林会なる新興ヤクザが幅を利かせているんだ、お前にはもう家族が……」
「引退なんてする気はありませんよ!」
明美は迷いのない口調で発した。
「そりゃあ、あたしだって不安ですよ……だけれど、この職業はあたしの一生の仕事にするって決めたんですッ!」
孝太郎はその明美の決心を聞いて、それまでの緊張を緩め、明美に向かって右手を差し出す。
「なら、これからも頼む……だけれど、最前線で戦うのは他のメンバーに任せてくれ、あまり過酷な戦いに巻き込みたくないからな」
「勿論ですよ!」
明美はそう言って孝太郎の右手を強く握り返す。
孝太郎はこの時にかつての『白籠市のアンタッチャブル』が再起動したのを明確に感じた。
青い髪の勝気な女刑事。気弱だけれど誰よりも数字に強い計算係。そして、リーダーにして最愛の家族である姉。
最後に自分自身。ようやく完成した。欠けていたジクソーパズルのピースが初めてハマったような感触だ。
「じゃあさ、全員が揃ったところで作戦会議を始めようぜッ!議題は東海林会とトマーホーク・コープの悪事の摘発だッ!アイツらを絶対に逮捕してやるんだッ!」
聡子はそう言って扉近くの自身の机の上に懐から取り出した一枚の紙を置く。
「これを見てくれ」
聡子の指摘にこの部屋にいた全員の視線が何やら情報の書かれた用紙に注目される。
「こいつが何かって?こいつは竜堂寺組の東日本の勢力の奴らが発見した、東海林会のヤクと武器のデータだよ。その横に街の地図が書いてあるだろ?」
聡子の意見に全員が首を縦に動かす。
「そして、街の地図のあちこちにペケマークが付いてあるだろ?」
聡子の言う通りに、白籠市の街のあちこち、特に人通りの少ない場所にペケマークが付いてある。
「これはな、過去に麻薬や密造銃或いは輸入した外国製の銃が売買されていると思われている場所だ、情報の出所ならば間違いねーぜ、東海林会にウチの系列の組に買収された奴がいるんだが、そいつが流した情報だからな、んで、そいつから更に詳しい情報を聞くとな……」
聡子はかつて、坂山弁護士が監禁されていた古き良きアメリカの街を再現したゴーストタウンを人差し指でコツコツと指差す。
「ここに間違いねーらしいぜ、スパイの情報が正しけりゃあな」
聡子は汚れ一つのない歯を見せてニヤニヤと笑う。
孝太郎はその様子を見て、自分も笑いかけてみせた。
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