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番外編『血吸い姫現代版!現代のクライン王国にカーラたちの子孫が現れた!』
現代であっても仕置きを緩めることはありませんわ!
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前書き
皆様、あけましておめでとうございます。本日は元旦だということもあり、今回は前回の分も含めて仕置きシーンを中心に書かせていただきました。
今回は時間の都合で一本だけということになりますが、こだわりは強く、書かせていただいたということでお目溢しをいただければ幸いです。
クライン王国の王都は中世の暗黒時代とは異なり、今や不夜城と呼ばれるほどの光が存在して多くの人々が夜でも行き交うほどの大都会となっている。
かつては郊外と呼ばれた場所も開発が進んでマンションやらアパートやらが立ち並んでいる。公園やスーパーなど生活にとって必要な場所も出来上がったこともあって今や郊外とは呼ばれていない。
ただ、その周りを囲む州と名付けられている場所は別だ。王都に暮らす人々の中でも静かさを求める人たちは王都よりも静かで尚且つ住宅の値段も落ちるということもあり、王都やその周辺と比べて住む人が少ない周辺の州に別荘を築いてそこで暮らしていた。
クライン王国の名門校聖・チャールズ学園にて絶大な権力を誇る男子生徒の父親たちも周りの州に巨大な別荘を持っていた。その中でも有力者同士は週末に寄り集まって宴会を行うことが一種のステータスとなっていた。
「ハハッ、やはり外でのバーベーキューは最高だな!」
ヒューゴに対して嫌がらせを行った男子生徒の父親であり、クライン王国のとある地方においては絶大な力を誇る写真カンパニーの社長であるマーロンは肉ばかりを焼いた串をバーベーキュー台の上で豪快に焼きながら周りに集まった仲間たちに向かってそう呼び掛けていく。
「その通り、流石はあんた。肉の焼き方の美味さは他の奴らの比じゃないよ」
おべっかを使ったのは父親のパートナーである小太りの女性であった。彼女はパーマを当て、豹柄のワンピースを着ており、その体型と合わさってどこか恐ろしげな例えるのならば暴力団の女房のような雰囲気を醸し出していた。
「ハハッ、聖・チャールズの腰抜けどももパパみたいに豪快な性格をしていればいいのに」
と、彼の息子が同意の意思を示した。
「ハハッ、前の学校ではお前やりすぎたもんなぁ。ったく、貧乏人どもが大袈裟に騒ぎやがって」
「本当、貧乏人というのは相手にするだけ無駄ですよ。こっちが勝手に冥界王の元へ行ったガキのためにちょっと金を多めに払ってやれば今度は刑事だなんてほざきますもん。全く、貧乏人というのはいつまでも纏わりついてくる蠅みたいなやつらだわ」
身勝手極まりない発言に同意の言葉を示したのはハワード議員とツーカーの仲であり、この生徒の友人でもあるミレットという女性であった。
中年に差し掛かった酷く醜い女性で、無理をしてスーツを着ていたが、かえってそれが中年太りを増長させているように思えた。
「流石はミレット女史だッ!いうことが違うなッ!」
「オホホッ、その通りでもありますけれど」
他の人が聞けば少しも面白いとは思わない冗談を聞いて彼らは大きな声で笑っていく。カーラは物陰でその言葉を聞きながら怒りで下唇から血を滲ませていた。
彼ら彼女らの身勝手な行動のために一体何人が自分の意思とは無関係に冥界王の元へと突き落とされてしまったというのだろうか。
やはりあそこでバーベキューを行なっている面々は害虫だ。この後に遅れてやってくる校長ともども生かしておいては人間社会そのものが正常に機能しないだろう。
そう考えたカーラは母親の勤務先である病院から密かに盗み出した毒キノコの毒を混入したシャンパンを両手に抱えながらバーバーキュー大会へと足を踏み入れていく。
「こんにちは。おたくの息子さんにお呼ばれして本日は招かせていただきましたわ」
「そうなのか?ゴルグ?」
「いいや、おれ呼んだ覚えはないけど……」
父親からゴルグと呼ばれた青年はそこで言葉を切った。突然現れたカーラの美しさに目を奪われたらしい。今のカーラの姿とはいえば袖の付いた青色のロングドレスである。
おまけに淑女らしく長い髪を髪紐で綺麗に整え、化粧まで施している。両手には白手袋までも身に付けている。ゴルグは鼻の下を伸ばしながら両親に向かって言った。
「そういえば、こいつを招いた覚えがあるぜ」
「そうか、そうか」
ゴルグの言葉に不愉快な面々がドッと音を立てて、大きな声で笑っていく。
「マジかよ、ゴルグ、お前いつ彼女できたんだ?」
「おれにも分けろよ、そいつ」
それまで肉に齧り付いていた二人の醜い顔立ちの男が顔を覗かせた。男たちの名前はそれぞれリッチー、タックといった。二人ともあの手洗いでの凄惨な現場に加害者として居合わせ、その後は鬱憤晴らしにヒューゴを虐めていた人物である。忘れるはずがない。すぐにでも仕留めてやりたい衝動をカーラは笑顔で押し殺し、反対に二人が喜ぶようなことを言ってのけた。
「あら、では、この後は三人で遊びませんか?ゴルグさんのお部屋にでも向かって」
その言葉を聞いた二人は両手を上げて自身の喜び具合を露わにしていく。
まさか、自分たちのこうした行動が冥界王の元へと旅立つ順番を早めてしまうとも知らず、己の本能のままだけに行動してしまったことが生み出した結果なのだ。
だが、今更気が付いたとしても遅い。その悔いは冥界王の裁きの場で行うことになるだろう。
カーラはキノコの毒が入ったシャンパンをバーベキューを楽しむ性格の悪い者たちが集まるパーティー会場へと差し入れていく。これでいい。カーラが差し入れたシャンパンはマーロンがもっとも好むシャンパンであり、マーロンは間違いなくこの後に宴会の酒として差し入れたシャンパンを用いるだろう。これで彼らは片付いたも同然だ。
助けを求めようにも静けさを求める土地ということもあり、人や車もこの辺りは滅多に通らない。辺りの電波はギークの手によって撹乱されている。毒を飲んだ後に携帯端末で助けを呼ぶことは不可能だろう。恐らく毒キノコから生成された強力な毒が入ったシャンパンを飲んで苦しんで冥界王の元へと旅立つだろう。
当然それだけの準備を練りながらもイレギュラーが発生する場合も想像しているので、そうなった場合の処理は今物陰に隠れてノートパソコンを叩きながら妨害工作を行なっているギークの出番となっている。
ギークならばどのような事態が起こったとしても迅速かつ的確な処置を施すことが可能だと見込んでの抜擢だ。
仮に今回の駆除が失敗したとしても万が一の際にはギークのノートパソコンから先ほどの会話を録音したものを大手出版社へと送信する手筈となっている。
邪な考えを浮かべていたカーラは三人に見られないように密かに口元を歪めた。三人が馬鹿のような笑い声を上げながらカーラを先導していく。カーラが招かれた先というのはこの三人の両親のうち誰に所有している別荘であることは間違いあるまい。
赤煉瓦が積まれた豪華な三階建ての一軒家である。
だが、誰の持ち家であるのかなどということはどうでもいいことだ。今のカーラには関係がない。今の自分にとって大切であるのはドレスの袖の下に仕込んでいる針で三人を冥界王の元へと旅立たせるというそれだけであった。
カーラが心の中で計画の遂行順を組み立てていると、三人が大きな声を上げながらカーラを手招いていく。
玄関を潜り、玄関マットの上でヒールの汚れを拭うと、三人は玄関のすぐ近くにある台所へと手招いていく。
普通のデートコースとして選ばれたのならば絶対に避けるようなコースだ。三人がいよいよ本性を隠そうともせずに舌舐めずりを行いながら台所の椅子の上に腰を掛けたカーラの前へと赤ワインの入った上等なグラスを差し出す。
「どうだい?酒を飲んだことはあるかい?」
「いいえ、うちは母が厳しくて……飲むことができませんでしたわ」
「そっか、でもこれを機会に飲んでみなよ。天国にでも登るような気持ちになれるぜ」
先ほど父親からゴルグと呼ばれた少年がカメレオンのように舌を伸ばし、下唇を舐め回しながら言った。
もう本性を隠そうともしないらしい。ここまできたのならばどんな鈍い人物でも酒の中に何を仕込んでいるのかということが分かる。
おまけにゴルグや二人の取り巻きたちはカーラが酒を飲もうとする姿をニヤニヤと眺めているばかりである。
彼らが日常的に酒やその中に仕込んだ何かしらの怪しげなもので女性を危険な目に遭わせてきたということは容易に想像がつく。もしカーラが仮にこの酒を飲んでしまえば三人に対する仕置きやその他の制裁が不可能になってしまうことは目に見えている。それだけは避けなくてはならないことだ。
そのためカーラは別の方法を考え付いた。椅子の上から立ち上がると、酒を飲もうとする自分をニヤニヤと見つめていたゴルグの頬に手を当てて、自身の顔を近付けていく。
「ねぇ、お酒もよろしいですけれど、私はゴルグさんと他のことがしとうございますの。よろしければお酒なしでできませんか?」
熱を帯びた表情、そして敢えて自身の体を接近させることでゴルグという男の本能を刺激させたのである。
結果としてこの作戦は大成功に終わった。ゴルグは気色の悪い声を上げながらカーラの手を強引に握り締めると、階段を駆け上がって三階へと向かっていく。
それからカーラの手を離し、彼自身の部屋だと思われる別荘の角部屋へと押し込んだのである。
ゴルグの後から取り巻きであるリッチーとタックの両名が部屋の中に入ってきた。同時にゴルグが服のポケットから鍵を取り出し、二人に向かって放り投げた。
「鍵を閉めろ、おれは今から楽しむんだからよぉ」
二人はニヤニヤと笑いながら部屋の鍵を締めた。ゴルグが自身の部屋の鍵が閉まるのを確認して床の上で尻餅をついているカーラに向かって飛び掛かっていく。
だが、襲うために飛び掛かるのではない。自身の悍ましい欲望を満たすためにカーラに覆い被さろうとするために飛び掛かるのである。
ゴルグはいつも両親の力を背景に襲っていた哀れな生贄たちと同様に今回もこのまま上手くいくものだとばかり思っていた。
だが、結果は彼にとって予想外のものへと終わってしまうことになった。
カーラは獣のような男が自身の元へと覆い被さろうとする寸前でゴルグの喉頭を針で突き刺したのである。
突然のことにゴルグは悲鳴を上げようとしたものの、喉頭を潰されてしまったことによって声を上げることもできない。
そのため地面の上でのたうち回るより他になかった。
リーダー格であるゴルグの哀れな姿を見たリッチーとタックの両名は慌てて部屋から逃げ出そうとしたが、カーラがそれを許さない。部屋の鍵を回そうとしていたリッチーの延髄に向かって針を打ち込んだ。
延髄は人体の急所である。それも人体の循環と呼吸を司る急所中の急所なのだ。更には頭部を支える大事な骨でもあった。もしこの場所に万が一のことが引き起これば人体に異常が発生することは明らかである。
針を受けたリッチーは唸り声を上げながら地面の上へと倒れ込む。それでもしばらくの間は苦しんでいたらしい。倒れる寸前まで扉に触れ、木製の扉を爪で引っ掻いていた。
だが、それでも限界はきたのか、やがてその音も聞こえなくなっていく。
卑劣なリッチーという男は今冥界王の元へと旅立ったのである。
仲間の悲惨な最期を見て恐れ慄いたのは同じく取り巻きであるタックであった。
タックは思わず手で目の前の惨状を覆い隠していたが、それでも時間が経つにつれて怒りの感情が湧き起こってきたに違いない。懐に忍ばせていたと思われる十徳ナイフを取り出してカーラへと飛び掛かっていく。
だが、タックのナイフというのは武術の素養も何もないチンピラが乱暴に振り回すものと大して変わらなかった。いや、チンピラのナイフそのものであったといってもいい。
目標もなく無茶苦茶に振り回すナイフなどカーラには何も怖くなかった。冷静になればハッキリと見極めることができるのだ。やがてナイフの手が緩んだところで右足でタックの顎を勢いよく蹴り飛ばした。
ヒールの踵というのは思った以上の重心である。そのようなものが顎に喰らわされれば溜まったものではない。
タックは悲鳴を上げながら地面の上に倒れ込む。カーラはその上へと覆い被さり、タックの額に向かって針を振り下ろそうとした。
「ま、待ってくれ!」
「あら、どうかしまして?」
カーラは電球の光に反射されて怪しげな光を放つ針を片手に問い掛けた。
「と、取引をしよう……金だッ!金を払うッ!お前が雇われた値段の倍以上の値段を払おうッ!」
「何を勘違いなされているのか理解に苦しみますけれども私はお金目的であなたの命を狙っているわけではありませんの」
「ま、待てよ!おれには……いいや、おれにもあいつにも未来があるんだよッ!」
「未来?」
「そうだよッ!冥界王の元へ行った人間なんかよりも今を生きるオレたちには輝かしい未来が待ってるんだッ!その未来を奪う権利なんてお前にはなーー」
タックが最後の言葉を言い終えることはなかった。なぜならばそれよりも前にカーラが男の額に向かって針を打ち込んだからである。
最後は未だに地面の上で痛みに苦しんでいるゴルグという男の処分である。ゴルグという男はあまりにもこの世に対して害悪をばら撒きすぎた。そのため針を打ち込んで終わりということにはしたくない。
カーラは悩んだ末に部屋の窓の側までゴルグを引き摺り、そのまま窓から窓の外へと強引にゴルグの体を放り投げたのである。
口頭が潰れているため悲鳴など出るはずがない。ゴルグは暗闇の中に消えていき、その後は姿が見えなくなった。
カーラは最後に窓から夜の闇が広がる外の景色を一望してから、残る二人の脈が止まっているのを確認し、落ちていた鍵を拾うと、その場を後にした。
カーラはこの時初めて駆除を手掛けていたが、まるで体がそのことを覚えているかのようにすんなりと事が運んだのである。
後の処理はキノコの毒を仕込んだシャンパンと二人の仲間がしてくれるだろう。
残るカーラの仕事はその場から逃げ出すことだけだった。
残るグループの処分が行われたのはちょうどカーラが別荘から抜け出たのと同じ頃であった。
「ゴルグのやつ遅いな」
先ほどカーラが差し入れたシャンパンを入れたグラスを片手に持ったマーロンが呟いた。
「そうですわ。このままだと乾杯もできないじゃない」
ゴルグの取り巻きの一人であるミレットが不満気に両頬を膨らませていく。
「まぁまぁ、たまには子供たち抜きでもやりましょうよ」
と、マーロンのパートナーがミレットを諌めた。その目的は一刻も早くシャンパンを楽しむことであった。
「そうですわね。では、私たちの栄光に」
「乾杯!!」
シャンパンを携えたパーティーに参加した面々が声を揃えて叫んだ。そして直後順番に酒を飲み干していく。
最初は何も異変を感じなかった。だが、次第に喉に違和感を感じるようになっていったのだ。
そう、まるで焼けた鉄の箸でも口に突っ込まれているかのような感触が三人を襲っていったのだ。
「く、苦しい……」
今この状況においてはミレットのハワード議員とのコネなどなんの役にも立たない。
「た、助けて……」
小太りの女性は手を伸ばしながら助けを求めていく。しかしその手を握り締めようとする者はいない。世の中には『天に唾を吐けばその唾はおのずと己の元へと返っていく』という諺があるように己がしてきたことの因果は回ってくるようになっているのだ。彼女はその年までそのことを知る由がなかった。
「お、おれを助けろ……おれは社長だぞォォォォ~!!!」
マーロンが大きな声を上げて吠えていく。その声は自分で聞く分には野犬の鳴き声のように遠くにまで轟いていたはずであった。
だが、喉が焼かれているため現実にはか細い声として出ていくのみであった。
この三人ばかりではない。シャンパンを口にしたパーティー参加者全員が毒を喰らう羽目となってしまった。
中には有名大学を卒業して大手塾を経営する教育者といった実力者もいたが悉くが毒の前に倒れてしまう結果となってしまった。
唯一の生き残りはバーベキューパーティーの準備役に徹していた派手なワンピースを着た大手塾経営者の社長夫人であった。
とっくの昔に40を過ぎた歳の割には似合わない服装であるし、そうした己の美的センスのなさを周りからは白い目で見られていることにも気が付かず、肩書きを鼻にかけて周りに威張り散らすような人物であったが、今ばかりは威張り散らしてもいられないようだ。
彼女は腰を抜かしながらもポケットの中に忍ばせていた携帯端末で助けを呼ぼうと画策していた。
だが、携帯端末をいくら操作しようとしても電話は繋がらなかった。
「も、もう耐えられないッ!」
彼女はその場から逃げ出そうとしたが、それは闇夜に潜んでパーティーを監視していたギークが許さなかった。
ギークは逃げ出そうとしている彼女の横で懐に忍ばせていたピアノ線を取り出していく。そしてピアノ線を握り締めたまま背後へと忍び寄ると、そのまま首元にピアノ線を掛けていく。
「ひっ、あ、あんたは!?」
「あなたは別の事件の時、息子さんがとっくみあいでストレスを発散させたって言ったよね?なら、ぼくにもストレスを発散させてよ」
ギークはそのままピアノ線を力強く引っ張り上げていく。しばらくは無言で締め続けていたが、ゴキッと鈍い音が聞こえたのを機に、ギークはピアノ線を切り離したのであった。
ギークは冥界王の元へと旅立ったのを見て、そのままノートパソコンが置いてある場所へと戻っていく。
残るはヒューゴの番である。パーティーに遅れて現れる校長を彼の剣で始末してもらわなくてはならない。それまでは警察を近づけさせるわけにはいかないのだ。
ギークは再び闇の中に身を潜めると、ノートパソコンから妨害電波を発し続けたのである。
その校長が州の道路に現れたのはギークが仕置きを終えてから約15分が経過してからのことであった。
そのまま仕事を終えてから合流する手筈となっていたので車を急いで走らせていた。深夜の上に人目もない田舎道であるということを利用して校長は法定速度を大幅に超えたスピードで車を走らせていた。彼の中にはもう安全も道徳もなかった。彼の頭の中に存在していたのは有力者とのパーティーに遅れてはならないという一点だけであった。
その時だ。ふと目の前に誰かが飛び出してきたのだ。普通であるのならば車を止めるところであるが、校長は構うことなくアクセルを踏んで跳ね飛ばそうとした。
だが、上手くいかず結局車は衝撃を受けて横道に逸れてしまうことになった。
校長は頭を抱えながら車のドアを開けた。
「な、なんだ。ワシはこれからスミス氏のパーティーに行く途中だというのに」
「おや、人の命よりパーティーの方が大事だっていうんですか?」
暗がりの中から声が聞こえてきた。校長が振り返ると、そこに立っていたのはヒューゴであった。
「ひゅ、ヒューゴッ!貴様ッ!」
「驚くことはありませんよ。校長先生の車の前に空のベビーカーを投げただけなんですから」
ヒューゴは車道の真ん中で大破している空のベビーカーを人差し指で示しながら言った。その表情は明らかに校長を嘲るものであった。
それを見た校長は激昂して掴みかかっていく。なぜヒューゴがここにいるのかなどということは校長にとっては最早どうでもいいことであった。
問題は生徒に過ぎないヒューゴが校長である自分を揶揄ったという一点のみであったのだ。このまま説教を喰らわせてやろう。
そう思っていた矢先のことだ。自身の胸元に鋭くて形の良い刃物、すなわち長剣が突き刺さっていることに気が付いた。
「ひゅ、ヒューゴ。き、貴様……」
「何を驚いてるんです?これはじゃれあい。遊びの範疇です。もっともこんなことになった原因というのはあんたの家庭に問題があったんでしょうがね」
「ふ、ふざけ……」
校長はそのままヒューゴの胸元に掴み掛かろうとしたが、ヒューゴがそれを避けたことによってそのまま地面の上へと倒れ込んでしまう。
ヒューゴは無言で倒れた校長の脈を確認すると、黙ってその場を立ち去っていく。
既に校長に対する仕置きは終えた。後はまだ妨害工作に従事しているギークに声を掛けてこの場を立ち去るだけである。
ヒューゴは小走りでギークの元へと駆けていった。
「お客さん、飲み過ぎですよ」
場末の酒場のマスターは常連客である女医のレキシーに対して飲み過ぎを窘めたが、レキシーは聞く耳を持たない。
酒で顔を赤くしながらお代わりを要求している。いくら医師で金を持っているといってもここまで飲み過ぎると心配になってくる。それ故に厳しく窘めるのだが、彼女は聞く耳を持たない。
それどころかもっと強い酒を持ってくるように要求している。
やむを得ずマスターはレキシーの職業を持ち出して差し止めることを考え付いた。
「お客さん、医者でしょ?ならそんなに酒を飲んだら駄目なはずなのは知ってますよね」
「わかってるって、でも今日くらいは呑まずにはいられないのよぉ~!」
レキシーが荒れている理由は一つだ。どうやら病院内での出世競争にまた乗り遅れてしまったらしい。
今度こそ局を束ねる役職へと昇進できるはずであり、院長からも約束されていた。だが、急遽その役職に国立医師会とコネがある医師が入ってくることになり、奪われてしまうことになったのだ。
気持ちは痛いほどわかる。せっかく昇進が望める絶好の機会であったというのに知りもしない医者に役職を奪われてしまうなど悔しくて堪らなかったはずだ。
だからこそこうして酒で憂さを晴らしているのだろう。
わざわざ病院からの帰りだということもあり、今のレキシーの姿は地味な黒色のワンピース姿で到底医師には見えそうにない。
どこにでもいるような普通の中年女性である。マスターが哀れそうな目でレキシーを見つめていると、レキシーは両目から涙を溢しながらマスターへと愚痴を吐き捨てていく。
「ちくしょー。どいつもこいつもあたしを色眼鏡で見てやがるッ!何でも屋の娘だから、パートナーが居ないからって馬鹿にしやがってッ!こんちくしょうッ!」
レキシーはグラスを叩きながらそう吐き捨てると、強めの酒を氷ごと飲み干していく。
怒っている牛よりも赤くなってしまったレキシーは舌をもつれさせながら自身の話を始めていく。
「だいたいなんだよッ!あのクソ男ッ!次の助教の地位っていうのはあたしに決まってたのにさぁ、急遽トラブルが起きたからってどこぞの馬の骨とも知らないような奴に助教の地位を与えるなんてどうかしてるよッ!」
レキシーの話に出てきた『クソ男』という単語は十中八九院長のことを指して示す言葉だろう。普段ならばバーでも落ち着いて酒を飲み、穏やかに話すはずのレキシーがここまで怒っているということからその鬱憤がいかに溜まっているのかということがよく分かる。
レキシーは更に強い酒を飲み、呂律の回らない舌で涙を流しながら愚痴を吐いていく。
「ったく、娘に申し訳ないよ。こんな情けないことになっちゃってさ……」
「じゃあ、そろそろ酒はやめたらどうだい?あんたの娘さんはあんたのそんな姿が一番見たくないと思ってるよ」
「そうしようかね」
意外であった。レキシーにとって酒を止める一番のストッパーは娘の存在であったのだ。マスターが小さく溜息を吐いた。寂しげにバーを去っていくレキシーの背中がその日はやけに寂しく見えた。
酒で顔を赤く染めたレキシーはその後なんとかタクシーを呼び止め、後部座席に倒れるように乗り込むと、もつれた舌で自宅の場所を運転手へと告げる。
正直にいえばタクシーに乗り込めたのも奇跡に近かったが、そこから歩いて扉のインターホンを鳴らして娘を呼び出せたのも奇跡に近いものだった。
レキシーは慌てて扉を開けた娘の肩を借りながら自身の寝室へと向かっていったのだが、その時に娘の手に何か固いものが入っていることを悟った。
いや、固いものという抽象的な表現は似つかわしくない。正確にいえばそれは針だった。娘がコスプレとやらで衣装を必要とする時に使用する裁縫針だ。
酔いが一瞬で冷めた。なぜ、そんなものが服の袖の中に入っているのだろうか。
レキシーは何か嫌な予感がした。妙な針のせいか、その日は体の中に大量のアルコールが摂取された状況であるにも関わらず、なかなか眠ることができなかった。それでも人間の体というものは不思議なものでいつの間にか夢の世界へと旅立ち、翌日は娘が作るパンケーキの匂いで目を覚ました。
ベッドから体を起こしながらふと思い返していく。
パンケーキとサラダ、そしてハムエッグは休みの日に娘が自分のために作ってくれる得意料理である。その味は自身が保証する。それ程までの味わいであったのだが、今日の味はどこか迷いを感じているように思われた。レキシーが味の変化についての疑問を問い掛けると、カーラは首を横に振るばかりであった。
だが、怪しげな態度から察するに見るからに明らかであった。それを見るに知らぬ存ぜぬを貫き通すつもりであるらしい。昨夜の針についても聞こうとしたところだ。突然テレビからニュースが流れてきた。
ニュースの内容は娘が通う聖・チャールズ学園の生徒とその親、更に親と懇意にしていた校長が二日ほど前に何者かの襲撃を受けて冥界王の元へと旅立ったというものだ。
テレビの報道によればそのうち男子生徒二名の死因は針で延髄や額といった急所を貫かれての死因であるそうだ。針、それから急所という単語を聞いてレキシーは自分の母親から聞いた言葉を思い返していく。
それは自身にとって直接の先祖であるカーラという人物が暗殺技として使っていたものと同じであるのだ。その先祖と同じ名前を引き継ぐ娘がそれを使ったという可能性もある。
だが、娘にはテレビで報じられた事件を起こす動機が思い付かない。同じ学園には通っていたが、それだけで接点などは確認できていない。
だが、もし娘が害虫駆除人もしくはその見習いであるのならば話は別だ。それだけで動機としては十分に成り立つ。
そこまで考えたところでレキシーはかつて何でも屋を営んでいた母親と共に害虫駆除人の稼業を行っていたことを思い返していく。
どうやら先祖カーラの業というのは随分と重いものであるらしい。
レキシーは苦笑した。
皆様、あけましておめでとうございます。本日は元旦だということもあり、今回は前回の分も含めて仕置きシーンを中心に書かせていただきました。
今回は時間の都合で一本だけということになりますが、こだわりは強く、書かせていただいたということでお目溢しをいただければ幸いです。
クライン王国の王都は中世の暗黒時代とは異なり、今や不夜城と呼ばれるほどの光が存在して多くの人々が夜でも行き交うほどの大都会となっている。
かつては郊外と呼ばれた場所も開発が進んでマンションやらアパートやらが立ち並んでいる。公園やスーパーなど生活にとって必要な場所も出来上がったこともあって今や郊外とは呼ばれていない。
ただ、その周りを囲む州と名付けられている場所は別だ。王都に暮らす人々の中でも静かさを求める人たちは王都よりも静かで尚且つ住宅の値段も落ちるということもあり、王都やその周辺と比べて住む人が少ない周辺の州に別荘を築いてそこで暮らしていた。
クライン王国の名門校聖・チャールズ学園にて絶大な権力を誇る男子生徒の父親たちも周りの州に巨大な別荘を持っていた。その中でも有力者同士は週末に寄り集まって宴会を行うことが一種のステータスとなっていた。
「ハハッ、やはり外でのバーベーキューは最高だな!」
ヒューゴに対して嫌がらせを行った男子生徒の父親であり、クライン王国のとある地方においては絶大な力を誇る写真カンパニーの社長であるマーロンは肉ばかりを焼いた串をバーベーキュー台の上で豪快に焼きながら周りに集まった仲間たちに向かってそう呼び掛けていく。
「その通り、流石はあんた。肉の焼き方の美味さは他の奴らの比じゃないよ」
おべっかを使ったのは父親のパートナーである小太りの女性であった。彼女はパーマを当て、豹柄のワンピースを着ており、その体型と合わさってどこか恐ろしげな例えるのならば暴力団の女房のような雰囲気を醸し出していた。
「ハハッ、聖・チャールズの腰抜けどももパパみたいに豪快な性格をしていればいいのに」
と、彼の息子が同意の意思を示した。
「ハハッ、前の学校ではお前やりすぎたもんなぁ。ったく、貧乏人どもが大袈裟に騒ぎやがって」
「本当、貧乏人というのは相手にするだけ無駄ですよ。こっちが勝手に冥界王の元へ行ったガキのためにちょっと金を多めに払ってやれば今度は刑事だなんてほざきますもん。全く、貧乏人というのはいつまでも纏わりついてくる蠅みたいなやつらだわ」
身勝手極まりない発言に同意の言葉を示したのはハワード議員とツーカーの仲であり、この生徒の友人でもあるミレットという女性であった。
中年に差し掛かった酷く醜い女性で、無理をしてスーツを着ていたが、かえってそれが中年太りを増長させているように思えた。
「流石はミレット女史だッ!いうことが違うなッ!」
「オホホッ、その通りでもありますけれど」
他の人が聞けば少しも面白いとは思わない冗談を聞いて彼らは大きな声で笑っていく。カーラは物陰でその言葉を聞きながら怒りで下唇から血を滲ませていた。
彼ら彼女らの身勝手な行動のために一体何人が自分の意思とは無関係に冥界王の元へと突き落とされてしまったというのだろうか。
やはりあそこでバーベキューを行なっている面々は害虫だ。この後に遅れてやってくる校長ともども生かしておいては人間社会そのものが正常に機能しないだろう。
そう考えたカーラは母親の勤務先である病院から密かに盗み出した毒キノコの毒を混入したシャンパンを両手に抱えながらバーバーキュー大会へと足を踏み入れていく。
「こんにちは。おたくの息子さんにお呼ばれして本日は招かせていただきましたわ」
「そうなのか?ゴルグ?」
「いいや、おれ呼んだ覚えはないけど……」
父親からゴルグと呼ばれた青年はそこで言葉を切った。突然現れたカーラの美しさに目を奪われたらしい。今のカーラの姿とはいえば袖の付いた青色のロングドレスである。
おまけに淑女らしく長い髪を髪紐で綺麗に整え、化粧まで施している。両手には白手袋までも身に付けている。ゴルグは鼻の下を伸ばしながら両親に向かって言った。
「そういえば、こいつを招いた覚えがあるぜ」
「そうか、そうか」
ゴルグの言葉に不愉快な面々がドッと音を立てて、大きな声で笑っていく。
「マジかよ、ゴルグ、お前いつ彼女できたんだ?」
「おれにも分けろよ、そいつ」
それまで肉に齧り付いていた二人の醜い顔立ちの男が顔を覗かせた。男たちの名前はそれぞれリッチー、タックといった。二人ともあの手洗いでの凄惨な現場に加害者として居合わせ、その後は鬱憤晴らしにヒューゴを虐めていた人物である。忘れるはずがない。すぐにでも仕留めてやりたい衝動をカーラは笑顔で押し殺し、反対に二人が喜ぶようなことを言ってのけた。
「あら、では、この後は三人で遊びませんか?ゴルグさんのお部屋にでも向かって」
その言葉を聞いた二人は両手を上げて自身の喜び具合を露わにしていく。
まさか、自分たちのこうした行動が冥界王の元へと旅立つ順番を早めてしまうとも知らず、己の本能のままだけに行動してしまったことが生み出した結果なのだ。
だが、今更気が付いたとしても遅い。その悔いは冥界王の裁きの場で行うことになるだろう。
カーラはキノコの毒が入ったシャンパンをバーベキューを楽しむ性格の悪い者たちが集まるパーティー会場へと差し入れていく。これでいい。カーラが差し入れたシャンパンはマーロンがもっとも好むシャンパンであり、マーロンは間違いなくこの後に宴会の酒として差し入れたシャンパンを用いるだろう。これで彼らは片付いたも同然だ。
助けを求めようにも静けさを求める土地ということもあり、人や車もこの辺りは滅多に通らない。辺りの電波はギークの手によって撹乱されている。毒を飲んだ後に携帯端末で助けを呼ぶことは不可能だろう。恐らく毒キノコから生成された強力な毒が入ったシャンパンを飲んで苦しんで冥界王の元へと旅立つだろう。
当然それだけの準備を練りながらもイレギュラーが発生する場合も想像しているので、そうなった場合の処理は今物陰に隠れてノートパソコンを叩きながら妨害工作を行なっているギークの出番となっている。
ギークならばどのような事態が起こったとしても迅速かつ的確な処置を施すことが可能だと見込んでの抜擢だ。
仮に今回の駆除が失敗したとしても万が一の際にはギークのノートパソコンから先ほどの会話を録音したものを大手出版社へと送信する手筈となっている。
邪な考えを浮かべていたカーラは三人に見られないように密かに口元を歪めた。三人が馬鹿のような笑い声を上げながらカーラを先導していく。カーラが招かれた先というのはこの三人の両親のうち誰に所有している別荘であることは間違いあるまい。
赤煉瓦が積まれた豪華な三階建ての一軒家である。
だが、誰の持ち家であるのかなどということはどうでもいいことだ。今のカーラには関係がない。今の自分にとって大切であるのはドレスの袖の下に仕込んでいる針で三人を冥界王の元へと旅立たせるというそれだけであった。
カーラが心の中で計画の遂行順を組み立てていると、三人が大きな声を上げながらカーラを手招いていく。
玄関を潜り、玄関マットの上でヒールの汚れを拭うと、三人は玄関のすぐ近くにある台所へと手招いていく。
普通のデートコースとして選ばれたのならば絶対に避けるようなコースだ。三人がいよいよ本性を隠そうともせずに舌舐めずりを行いながら台所の椅子の上に腰を掛けたカーラの前へと赤ワインの入った上等なグラスを差し出す。
「どうだい?酒を飲んだことはあるかい?」
「いいえ、うちは母が厳しくて……飲むことができませんでしたわ」
「そっか、でもこれを機会に飲んでみなよ。天国にでも登るような気持ちになれるぜ」
先ほど父親からゴルグと呼ばれた少年がカメレオンのように舌を伸ばし、下唇を舐め回しながら言った。
もう本性を隠そうともしないらしい。ここまできたのならばどんな鈍い人物でも酒の中に何を仕込んでいるのかということが分かる。
おまけにゴルグや二人の取り巻きたちはカーラが酒を飲もうとする姿をニヤニヤと眺めているばかりである。
彼らが日常的に酒やその中に仕込んだ何かしらの怪しげなもので女性を危険な目に遭わせてきたということは容易に想像がつく。もしカーラが仮にこの酒を飲んでしまえば三人に対する仕置きやその他の制裁が不可能になってしまうことは目に見えている。それだけは避けなくてはならないことだ。
そのためカーラは別の方法を考え付いた。椅子の上から立ち上がると、酒を飲もうとする自分をニヤニヤと見つめていたゴルグの頬に手を当てて、自身の顔を近付けていく。
「ねぇ、お酒もよろしいですけれど、私はゴルグさんと他のことがしとうございますの。よろしければお酒なしでできませんか?」
熱を帯びた表情、そして敢えて自身の体を接近させることでゴルグという男の本能を刺激させたのである。
結果としてこの作戦は大成功に終わった。ゴルグは気色の悪い声を上げながらカーラの手を強引に握り締めると、階段を駆け上がって三階へと向かっていく。
それからカーラの手を離し、彼自身の部屋だと思われる別荘の角部屋へと押し込んだのである。
ゴルグの後から取り巻きであるリッチーとタックの両名が部屋の中に入ってきた。同時にゴルグが服のポケットから鍵を取り出し、二人に向かって放り投げた。
「鍵を閉めろ、おれは今から楽しむんだからよぉ」
二人はニヤニヤと笑いながら部屋の鍵を締めた。ゴルグが自身の部屋の鍵が閉まるのを確認して床の上で尻餅をついているカーラに向かって飛び掛かっていく。
だが、襲うために飛び掛かるのではない。自身の悍ましい欲望を満たすためにカーラに覆い被さろうとするために飛び掛かるのである。
ゴルグはいつも両親の力を背景に襲っていた哀れな生贄たちと同様に今回もこのまま上手くいくものだとばかり思っていた。
だが、結果は彼にとって予想外のものへと終わってしまうことになった。
カーラは獣のような男が自身の元へと覆い被さろうとする寸前でゴルグの喉頭を針で突き刺したのである。
突然のことにゴルグは悲鳴を上げようとしたものの、喉頭を潰されてしまったことによって声を上げることもできない。
そのため地面の上でのたうち回るより他になかった。
リーダー格であるゴルグの哀れな姿を見たリッチーとタックの両名は慌てて部屋から逃げ出そうとしたが、カーラがそれを許さない。部屋の鍵を回そうとしていたリッチーの延髄に向かって針を打ち込んだ。
延髄は人体の急所である。それも人体の循環と呼吸を司る急所中の急所なのだ。更には頭部を支える大事な骨でもあった。もしこの場所に万が一のことが引き起これば人体に異常が発生することは明らかである。
針を受けたリッチーは唸り声を上げながら地面の上へと倒れ込む。それでもしばらくの間は苦しんでいたらしい。倒れる寸前まで扉に触れ、木製の扉を爪で引っ掻いていた。
だが、それでも限界はきたのか、やがてその音も聞こえなくなっていく。
卑劣なリッチーという男は今冥界王の元へと旅立ったのである。
仲間の悲惨な最期を見て恐れ慄いたのは同じく取り巻きであるタックであった。
タックは思わず手で目の前の惨状を覆い隠していたが、それでも時間が経つにつれて怒りの感情が湧き起こってきたに違いない。懐に忍ばせていたと思われる十徳ナイフを取り出してカーラへと飛び掛かっていく。
だが、タックのナイフというのは武術の素養も何もないチンピラが乱暴に振り回すものと大して変わらなかった。いや、チンピラのナイフそのものであったといってもいい。
目標もなく無茶苦茶に振り回すナイフなどカーラには何も怖くなかった。冷静になればハッキリと見極めることができるのだ。やがてナイフの手が緩んだところで右足でタックの顎を勢いよく蹴り飛ばした。
ヒールの踵というのは思った以上の重心である。そのようなものが顎に喰らわされれば溜まったものではない。
タックは悲鳴を上げながら地面の上に倒れ込む。カーラはその上へと覆い被さり、タックの額に向かって針を振り下ろそうとした。
「ま、待ってくれ!」
「あら、どうかしまして?」
カーラは電球の光に反射されて怪しげな光を放つ針を片手に問い掛けた。
「と、取引をしよう……金だッ!金を払うッ!お前が雇われた値段の倍以上の値段を払おうッ!」
「何を勘違いなされているのか理解に苦しみますけれども私はお金目的であなたの命を狙っているわけではありませんの」
「ま、待てよ!おれには……いいや、おれにもあいつにも未来があるんだよッ!」
「未来?」
「そうだよッ!冥界王の元へ行った人間なんかよりも今を生きるオレたちには輝かしい未来が待ってるんだッ!その未来を奪う権利なんてお前にはなーー」
タックが最後の言葉を言い終えることはなかった。なぜならばそれよりも前にカーラが男の額に向かって針を打ち込んだからである。
最後は未だに地面の上で痛みに苦しんでいるゴルグという男の処分である。ゴルグという男はあまりにもこの世に対して害悪をばら撒きすぎた。そのため針を打ち込んで終わりということにはしたくない。
カーラは悩んだ末に部屋の窓の側までゴルグを引き摺り、そのまま窓から窓の外へと強引にゴルグの体を放り投げたのである。
口頭が潰れているため悲鳴など出るはずがない。ゴルグは暗闇の中に消えていき、その後は姿が見えなくなった。
カーラは最後に窓から夜の闇が広がる外の景色を一望してから、残る二人の脈が止まっているのを確認し、落ちていた鍵を拾うと、その場を後にした。
カーラはこの時初めて駆除を手掛けていたが、まるで体がそのことを覚えているかのようにすんなりと事が運んだのである。
後の処理はキノコの毒を仕込んだシャンパンと二人の仲間がしてくれるだろう。
残るカーラの仕事はその場から逃げ出すことだけだった。
残るグループの処分が行われたのはちょうどカーラが別荘から抜け出たのと同じ頃であった。
「ゴルグのやつ遅いな」
先ほどカーラが差し入れたシャンパンを入れたグラスを片手に持ったマーロンが呟いた。
「そうですわ。このままだと乾杯もできないじゃない」
ゴルグの取り巻きの一人であるミレットが不満気に両頬を膨らませていく。
「まぁまぁ、たまには子供たち抜きでもやりましょうよ」
と、マーロンのパートナーがミレットを諌めた。その目的は一刻も早くシャンパンを楽しむことであった。
「そうですわね。では、私たちの栄光に」
「乾杯!!」
シャンパンを携えたパーティーに参加した面々が声を揃えて叫んだ。そして直後順番に酒を飲み干していく。
最初は何も異変を感じなかった。だが、次第に喉に違和感を感じるようになっていったのだ。
そう、まるで焼けた鉄の箸でも口に突っ込まれているかのような感触が三人を襲っていったのだ。
「く、苦しい……」
今この状況においてはミレットのハワード議員とのコネなどなんの役にも立たない。
「た、助けて……」
小太りの女性は手を伸ばしながら助けを求めていく。しかしその手を握り締めようとする者はいない。世の中には『天に唾を吐けばその唾はおのずと己の元へと返っていく』という諺があるように己がしてきたことの因果は回ってくるようになっているのだ。彼女はその年までそのことを知る由がなかった。
「お、おれを助けろ……おれは社長だぞォォォォ~!!!」
マーロンが大きな声を上げて吠えていく。その声は自分で聞く分には野犬の鳴き声のように遠くにまで轟いていたはずであった。
だが、喉が焼かれているため現実にはか細い声として出ていくのみであった。
この三人ばかりではない。シャンパンを口にしたパーティー参加者全員が毒を喰らう羽目となってしまった。
中には有名大学を卒業して大手塾を経営する教育者といった実力者もいたが悉くが毒の前に倒れてしまう結果となってしまった。
唯一の生き残りはバーベキューパーティーの準備役に徹していた派手なワンピースを着た大手塾経営者の社長夫人であった。
とっくの昔に40を過ぎた歳の割には似合わない服装であるし、そうした己の美的センスのなさを周りからは白い目で見られていることにも気が付かず、肩書きを鼻にかけて周りに威張り散らすような人物であったが、今ばかりは威張り散らしてもいられないようだ。
彼女は腰を抜かしながらもポケットの中に忍ばせていた携帯端末で助けを呼ぼうと画策していた。
だが、携帯端末をいくら操作しようとしても電話は繋がらなかった。
「も、もう耐えられないッ!」
彼女はその場から逃げ出そうとしたが、それは闇夜に潜んでパーティーを監視していたギークが許さなかった。
ギークは逃げ出そうとしている彼女の横で懐に忍ばせていたピアノ線を取り出していく。そしてピアノ線を握り締めたまま背後へと忍び寄ると、そのまま首元にピアノ線を掛けていく。
「ひっ、あ、あんたは!?」
「あなたは別の事件の時、息子さんがとっくみあいでストレスを発散させたって言ったよね?なら、ぼくにもストレスを発散させてよ」
ギークはそのままピアノ線を力強く引っ張り上げていく。しばらくは無言で締め続けていたが、ゴキッと鈍い音が聞こえたのを機に、ギークはピアノ線を切り離したのであった。
ギークは冥界王の元へと旅立ったのを見て、そのままノートパソコンが置いてある場所へと戻っていく。
残るはヒューゴの番である。パーティーに遅れて現れる校長を彼の剣で始末してもらわなくてはならない。それまでは警察を近づけさせるわけにはいかないのだ。
ギークは再び闇の中に身を潜めると、ノートパソコンから妨害電波を発し続けたのである。
その校長が州の道路に現れたのはギークが仕置きを終えてから約15分が経過してからのことであった。
そのまま仕事を終えてから合流する手筈となっていたので車を急いで走らせていた。深夜の上に人目もない田舎道であるということを利用して校長は法定速度を大幅に超えたスピードで車を走らせていた。彼の中にはもう安全も道徳もなかった。彼の頭の中に存在していたのは有力者とのパーティーに遅れてはならないという一点だけであった。
その時だ。ふと目の前に誰かが飛び出してきたのだ。普通であるのならば車を止めるところであるが、校長は構うことなくアクセルを踏んで跳ね飛ばそうとした。
だが、上手くいかず結局車は衝撃を受けて横道に逸れてしまうことになった。
校長は頭を抱えながら車のドアを開けた。
「な、なんだ。ワシはこれからスミス氏のパーティーに行く途中だというのに」
「おや、人の命よりパーティーの方が大事だっていうんですか?」
暗がりの中から声が聞こえてきた。校長が振り返ると、そこに立っていたのはヒューゴであった。
「ひゅ、ヒューゴッ!貴様ッ!」
「驚くことはありませんよ。校長先生の車の前に空のベビーカーを投げただけなんですから」
ヒューゴは車道の真ん中で大破している空のベビーカーを人差し指で示しながら言った。その表情は明らかに校長を嘲るものであった。
それを見た校長は激昂して掴みかかっていく。なぜヒューゴがここにいるのかなどということは校長にとっては最早どうでもいいことであった。
問題は生徒に過ぎないヒューゴが校長である自分を揶揄ったという一点のみであったのだ。このまま説教を喰らわせてやろう。
そう思っていた矢先のことだ。自身の胸元に鋭くて形の良い刃物、すなわち長剣が突き刺さっていることに気が付いた。
「ひゅ、ヒューゴ。き、貴様……」
「何を驚いてるんです?これはじゃれあい。遊びの範疇です。もっともこんなことになった原因というのはあんたの家庭に問題があったんでしょうがね」
「ふ、ふざけ……」
校長はそのままヒューゴの胸元に掴み掛かろうとしたが、ヒューゴがそれを避けたことによってそのまま地面の上へと倒れ込んでしまう。
ヒューゴは無言で倒れた校長の脈を確認すると、黙ってその場を立ち去っていく。
既に校長に対する仕置きは終えた。後はまだ妨害工作に従事しているギークに声を掛けてこの場を立ち去るだけである。
ヒューゴは小走りでギークの元へと駆けていった。
「お客さん、飲み過ぎですよ」
場末の酒場のマスターは常連客である女医のレキシーに対して飲み過ぎを窘めたが、レキシーは聞く耳を持たない。
酒で顔を赤くしながらお代わりを要求している。いくら医師で金を持っているといってもここまで飲み過ぎると心配になってくる。それ故に厳しく窘めるのだが、彼女は聞く耳を持たない。
それどころかもっと強い酒を持ってくるように要求している。
やむを得ずマスターはレキシーの職業を持ち出して差し止めることを考え付いた。
「お客さん、医者でしょ?ならそんなに酒を飲んだら駄目なはずなのは知ってますよね」
「わかってるって、でも今日くらいは呑まずにはいられないのよぉ~!」
レキシーが荒れている理由は一つだ。どうやら病院内での出世競争にまた乗り遅れてしまったらしい。
今度こそ局を束ねる役職へと昇進できるはずであり、院長からも約束されていた。だが、急遽その役職に国立医師会とコネがある医師が入ってくることになり、奪われてしまうことになったのだ。
気持ちは痛いほどわかる。せっかく昇進が望める絶好の機会であったというのに知りもしない医者に役職を奪われてしまうなど悔しくて堪らなかったはずだ。
だからこそこうして酒で憂さを晴らしているのだろう。
わざわざ病院からの帰りだということもあり、今のレキシーの姿は地味な黒色のワンピース姿で到底医師には見えそうにない。
どこにでもいるような普通の中年女性である。マスターが哀れそうな目でレキシーを見つめていると、レキシーは両目から涙を溢しながらマスターへと愚痴を吐き捨てていく。
「ちくしょー。どいつもこいつもあたしを色眼鏡で見てやがるッ!何でも屋の娘だから、パートナーが居ないからって馬鹿にしやがってッ!こんちくしょうッ!」
レキシーはグラスを叩きながらそう吐き捨てると、強めの酒を氷ごと飲み干していく。
怒っている牛よりも赤くなってしまったレキシーは舌をもつれさせながら自身の話を始めていく。
「だいたいなんだよッ!あのクソ男ッ!次の助教の地位っていうのはあたしに決まってたのにさぁ、急遽トラブルが起きたからってどこぞの馬の骨とも知らないような奴に助教の地位を与えるなんてどうかしてるよッ!」
レキシーの話に出てきた『クソ男』という単語は十中八九院長のことを指して示す言葉だろう。普段ならばバーでも落ち着いて酒を飲み、穏やかに話すはずのレキシーがここまで怒っているということからその鬱憤がいかに溜まっているのかということがよく分かる。
レキシーは更に強い酒を飲み、呂律の回らない舌で涙を流しながら愚痴を吐いていく。
「ったく、娘に申し訳ないよ。こんな情けないことになっちゃってさ……」
「じゃあ、そろそろ酒はやめたらどうだい?あんたの娘さんはあんたのそんな姿が一番見たくないと思ってるよ」
「そうしようかね」
意外であった。レキシーにとって酒を止める一番のストッパーは娘の存在であったのだ。マスターが小さく溜息を吐いた。寂しげにバーを去っていくレキシーの背中がその日はやけに寂しく見えた。
酒で顔を赤く染めたレキシーはその後なんとかタクシーを呼び止め、後部座席に倒れるように乗り込むと、もつれた舌で自宅の場所を運転手へと告げる。
正直にいえばタクシーに乗り込めたのも奇跡に近かったが、そこから歩いて扉のインターホンを鳴らして娘を呼び出せたのも奇跡に近いものだった。
レキシーは慌てて扉を開けた娘の肩を借りながら自身の寝室へと向かっていったのだが、その時に娘の手に何か固いものが入っていることを悟った。
いや、固いものという抽象的な表現は似つかわしくない。正確にいえばそれは針だった。娘がコスプレとやらで衣装を必要とする時に使用する裁縫針だ。
酔いが一瞬で冷めた。なぜ、そんなものが服の袖の中に入っているのだろうか。
レキシーは何か嫌な予感がした。妙な針のせいか、その日は体の中に大量のアルコールが摂取された状況であるにも関わらず、なかなか眠ることができなかった。それでも人間の体というものは不思議なものでいつの間にか夢の世界へと旅立ち、翌日は娘が作るパンケーキの匂いで目を覚ました。
ベッドから体を起こしながらふと思い返していく。
パンケーキとサラダ、そしてハムエッグは休みの日に娘が自分のために作ってくれる得意料理である。その味は自身が保証する。それ程までの味わいであったのだが、今日の味はどこか迷いを感じているように思われた。レキシーが味の変化についての疑問を問い掛けると、カーラは首を横に振るばかりであった。
だが、怪しげな態度から察するに見るからに明らかであった。それを見るに知らぬ存ぜぬを貫き通すつもりであるらしい。昨夜の針についても聞こうとしたところだ。突然テレビからニュースが流れてきた。
ニュースの内容は娘が通う聖・チャールズ学園の生徒とその親、更に親と懇意にしていた校長が二日ほど前に何者かの襲撃を受けて冥界王の元へと旅立ったというものだ。
テレビの報道によればそのうち男子生徒二名の死因は針で延髄や額といった急所を貫かれての死因であるそうだ。針、それから急所という単語を聞いてレキシーは自分の母親から聞いた言葉を思い返していく。
それは自身にとって直接の先祖であるカーラという人物が暗殺技として使っていたものと同じであるのだ。その先祖と同じ名前を引き継ぐ娘がそれを使ったという可能性もある。
だが、娘にはテレビで報じられた事件を起こす動機が思い付かない。同じ学園には通っていたが、それだけで接点などは確認できていない。
だが、もし娘が害虫駆除人もしくはその見習いであるのならば話は別だ。それだけで動機としては十分に成り立つ。
そこまで考えたところでレキシーはかつて何でも屋を営んでいた母親と共に害虫駆除人の稼業を行っていたことを思い返していく。
どうやら先祖カーラの業というのは随分と重いものであるらしい。
レキシーは苦笑した。
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