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第五章『例え、激闘が起ころうとも、旋風が巻き起ころうとも、この私が竜となり、虎となり、全てをお守り致しますわ』
「さようなら」も言わずに旅立つことをお許しくださいませ
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「ちくしょう。どうすればお嬢様を助けられるんだ」
その日クイントンは一気に飲み干したグラスを勢いよく机の上に叩き付けながら周りを囲んでいた駆除人仲間たちに向かって叫んでいた。
クイントンの言葉によって何人かの駆除人仲間たちが白い目を向ける。
当然である。彼ら彼女らの中では既にカーラとレキシーは居ないものとして扱われてしまっているからだ。
少し冷たい態度になってしまうかもしれないが、二人は仮にも駆除人。自分たちに課せられた掟のことはよく知っているはずなのだ。それ故にわざわざ危険を冒してまで助けが来ないであろうということも察しているはずだからだ。
本来であるのならばギルドマスターの手によって粛清されるところを口が信用できるということや獄内で拷問が行われていないということを理由にわざわざ生かしてもらっているので、執行の当日まで生き延びられているのだ。
それらの事実を踏まえれば十分長生きした方ではないか。
駆除人仲間たちはそうした事情も知らずにやけ酒を行なっているクイントンになど構うこともなくギルドマスターから貰った報酬を使ってギルドの中で好きに飲み食いを行っていた。
当のクイントンはといえばグラスを片手に薄情な駆除人仲間たちを睨んでいたのだが、やがて自分一人の力ではどうにもならぬことを察し、大きな溜息を吐いたのである。
頬杖をつき、片手でグラスを遊びながら考えていく。本来であるのならばクイントン本人が二人を牢屋から助けて出してやりたかった。
その上で執事としてではなく、一人の男としてカーラに愛の告白を捧げたかったのだ。
必ず訪れるであろう告白時には昔クイントンが読んだ古い騎士道を描いた小説の一話から気に入った台詞を引用する予定となっていた。
引用する予定となっていた台詞というのは小説の中に登場する騎士はたった一人で悪の魔王に囚われた姫を救い出した時に発した『オレはキミが好きだ』という単純ではあるが直喩的で回りくどい言い回しなど感じられない魅力的な言葉である。
だが、今の自分にそんな台詞が言えるはずもなかった。
小説に登場する騎士のように囚われたお姫様を牢屋から助けだそうにも手段が見当たらないのだし、万が一見張りの兵士などに見つかれことがあればカーラを守るどころか足を引っ張ってしまうことになりかねないというのが主だった原因であった。
クイントンに関しては駆除を行うための技術を持ち合わせていない。それ故当然得物というものも存在しない。それ故に彼はいつも駆除業において引き込み役や偵察役を行うことになっており、戦闘を経験したことは今の今まで一度も存在しなかったのだ。
そうした理由もあったからか、こうして勤め先を抜け出し、ギルドの中で酒を飲む以外の道が存在しなかったのだ。
クイントンが美味くもない酒をお代わりしようと懐から取り出した剥き出しの銀貨数枚を机の上に置き、ギルドマスターに呼び掛けようとした時だ。
「邪魔をさせてもらいますよ」
と、聞き慣れない声が聞こえた。クイントンが背後を振り返ると、そこには短い茶色の髪を整えた人当たりの良さそうな青年が立っていた。
青年は椅子の上に腰を掛けると、どこか警戒している視線を向けるギルドマスターを他所に太陽のような明るい朗らかな笑みを浮かべながら人差し指を掲げて注文を行う。
「『ブラッディ・プリンセス』をもらおうかな」
『ブラッディ・プリンセス』という単語を聞いたギルドマスターはバーカウンターを立ち、側に立っていた姪のヴァイオレットに酒を注がせると男の側へと回った。
男の腕を引っ張り、背後にある自身の応接室へと引き寄せようとした時だ。
男はそれを断り、口元に意味深な笑みを携えながら言った。
「いいえ、そんなことをしてもらわなくても結構です。今この場にはあなたのお仲間しかいないはずでしょう?王都の駆除人ギルドのマスターさん」
「……お前さん何者だね?」
「これは失礼致しました。私の名前はエドマンド、エドマンド・プランタジネット。かつて同じ土地をクライン王家より何百年も前に治めていた一族の末裔です。そして私はレキシーさんの故郷における駆除人ギルドのギルドマスターでもあります」
エドマンドはそういうと緊張しているのか、少し顔を赤らめているヴァイオレットへと人の良さそうな笑みを向けていく。
「お嬢さんとも何度かお会い致しましたよ。確か、私のもとで何度か悪党を仕掛けられたことをよく覚えていますよ」
ヴァイオレットはその言葉を聞いた時にエドマンドが裏で仕切る土地を訪れ、依頼を受けて何人かの悪党を仕掛けたことを思い出した。
それらの悪というのは葬式ごっこという悪質な遊びを行い、相手を追い込んだ三人組の男たち、身勝手な理由で友人を殺しつつも父親が当時その地を治めていたティーダー家の役人であったことから無罪となった青年。頭が悪いという理由から罪のない女性を徹底的に凌辱し、追い込んだ身勝手な男たちなどである。
いずれも人違いや理不尽な動機から発生した依頼ではなかったので、ヴァイオレットは安心して依頼を遂行できたことを覚えている。
ただその時依頼の仲介を行ったエドマンドはどこかおどおどしい青年であったのに対し、今のエドマンドは自信に満ち溢れておりまるで別人のように見えた。
この時ヴァイオレットの心の中には妙な想いが浮かんでいく。
それはエドマンドが王都進出の野望に囚われ、混乱に乗じて乗っ取りに現れたのではないのかという疑念である。
今の自信に満ち溢れたエドマンドならばそんなことを考えていてもおかしくはない。
叔父が警戒するような目を向けていたのも乗っ取りを模索する男を見張っていたということならば納得がいく。
ならば、とヴァイオレットは叔父のように警戒の目を向けていたが、エドマンドは大きな声を上げて笑うばかりであった。
「何がおかしい?」
ギルドマスターが目を細め低い声で問い掛ける。
エドマンドがその問い掛けに対して返答を行ったのは無限に続くかと思われた長い大笑いを止め、それによって生じた涙を手で拭いとった後であった。
「いやぁ、失敬。お二人さんから発せられる警戒心が強いもんだからね」
「警戒するのも当然だろうが、こんな時期だからな」
ギルドマスターは語気を強めながら言った。
「フフ、そう警戒しなさんな。オレは別に王都を乗っ取りにきたわけでもない。国王陛下からその地位を奪い取ろうとしているわけでもないんだから。第一、今おれたちが抗争を行えば得をするのは門閥貴族ですよ」
エドマンドの口振りから察するに王都の駆除人ギルドがこれまでどのような敵と戦ってきたのかを把握しているらしい。
大方裏の伝手を頼って、故郷の街でこれまでの情報を仕入れてきたのだろう。抜け目のない人物だ。
改めてギルドマスターがエドマンドを睨んでいると、叔父とは対照的に話を聞いて警戒心を解いていたヴァイオレットが無邪気に問い掛けた。
「じゃあ、何の目的で?」
「引き抜きですよ。カーラとレキシーさんをしばらくうちで預かろうと思いましてね」
「お嬢様を!?」
予想外の言葉を聞いてクイントンは半ば反射的に椅子の上から立ち上がっていた。そのまま鬼気迫る表情でエドマンドに迫っていくが、エドマンドは意に返す様子も見せていない。
ただ、静かな表情でクイントンを冷笑しているだけだ。
自分を嘲笑っているかのようなエドマンドの顔を見たクイントンは怒りを抑え切れなくなり、そのまま掴み掛かろうとした。
そこでようやく不味いと判断したのか、エドマンドは慌てて言葉を返した。
「お待ちなさいな。これは私の独断で行うことではないんですよ。もちろん腕利きの駆除人は私も欲しいですが、それ以上にフィン陛下がお二方を逃したいと思っていらっしゃておりましてね。その任を私が引き受けたんですよ」
エドマンドの言い分に全員が納得がいったらしい。要するにカーラとレキシーを欲しがるエドマンドと二人を処刑の手から逃がしたいフィンの思惑とが一致したというのが今回の真相であったのだ。
国王の協力すら得ているエドマンドが王都の駆除人ギルドに接触を図ってきた理由は現地において協力を得るためだろう。そうした方が計画が円滑に進むだろうと踏んでのものである。
抜け目のない人物だ。ギルドマスターが感心したようにエドマンドを見つめていると、エドマンドは何かを思い出したらしく、手をポンと叩いて椅子の上から立ち上がったのであった。
「おっと、そうだ。どんな理由があれども腕利きの駆除人を失うのは大きいでしょう。ですので代わりの人物を置いていきますよ」
エドマンドが両手を叩いたかと思うと、ギルドと外界とを繋ぐ扉が開かれ、眩いばかりの美少年が現れた。
「紹介致しましょう。我がギルド随一の腕前を誇る駆除人、ギークです」
「ギークです。みなさんお久しぶりです」
眠りかけの人物が思わず両目を開けて凝視したくなるほどの美少年から発せられたソプラノ歌手のように綺麗な声に駆除人ギルドが騒ぎ始めていく。ギークといえば以前フレアの一件で顔を見られてしまい王都を去ってしまったはずだ。
その間に何をしていたのかは誰もわからなかったが、まさかレキシーの故郷へと流れ着き、エドマンドのお抱えになっていたとは思いもしなかった。
王都を仕切るギルドマスターとしてもギークが戻ってきてくれるというのならばこれ程までに心強いことはない。
エドマンドが提示した交換条件としては破格のものであるといってもいいだろう。
ギルドマスターはギークの顔を見た瞬間にそれまでの警戒を引っ込め、改めて駆除人仲間へと紹介を行なっていく。
その光景にエドマンドは拍子抜けしたような顔を浮かべていた。
「なんだ。ギークはみんなと知り合いだったのか」
エドマンドは意外そうな顔を浮かべて言った。
「逆に知らなかったんですか?」
背後からクイントンが問い掛ける。
「えぇ、彼はあまり自分の過去については語りませんでしたからね。それは私ですら例外ではありませんでしたよ」
そういえばクイントンはギークの過去について何も知らなかったことを改めて思い起こさせられたのだ。
赤い色をした蒸留酒が入ったワイングラスを片手にかつての仲間たちと交流を深めるギークを見つめながら改めて彼の過去を知りたいとクイントンは感じたが、本人が語りたがらないものを無理に聞き出すわけにはいかない。
結局彼の過去については誰も分からないままなのだろう。
クイントンがギークのことについて考えながらポカーンとしていると、エドマンド本人に肩を揺らされていたことに気がつく。
クイントンが慌てて振り返ると、そこには不安そうにこちらを見つめるヴァイオレットの姿が見えた。
「あの、クイントンさんお話聞いてました?」
「は、話?」
慌てた様子のクイントンに三人とも失望を隠せなかったらしい。
全員が鉛のような重い溜息を吐いていた。
それでもエドマンドは笑みを絶やすことなくその場に居合わせた全員を代表して何を話していたのかを教えた。
「アイラ・クリストフを処刑場の前へと連れ出すという計画ですよ。聞いていなかったんですか?」
そんな話は初耳だ。クイントンが改めて二人のギルドマスターに問い掛けると、二人は呆れた顔を浮かべながらもクイントンが聞き逃した部分に対する丁寧な説明を行なっていくのであった。
話によれば処刑当日の日は多くの人間が問い掛けることからカーラとレキシーを逃すにはこうした群衆を利用するための囮が必要なのだという。
エドマンドは計画を進めていく中で、その囮中にカーラがギルドマスターに冥界王の下賜品として頼んだという依頼を絡ませることを思い付いたのだ。
エドマンドの計画としてはアイラを処刑台の上に登らせ、カーラとお別れのキスなどをさせた隙を突いて針で突き刺して始末するというものとなっていた。
その際に生じた混乱や空白を利用して駆除人たちが二人を引っ張り、街の外に待っている故郷行きの馬車へと二人を連れ込み、脱出するというものだ。
ここで重要となるのがクイントンの存在である。クイントンが上手くアイラを唆して処刑場へと連れて行かなくてはならいのだ。
些か荷が重く感じられたが、愛する人を逃すためならば特段苦に感じることはなかった。
牢屋の中にどうやって針を差し入れするか、という問題や縛られた両手をどうやって解くのかという問題は他の仲間たちに任せればいいのだ。
自分は与えられた任務をこなすだけでいいのだ。
クイントンは気合いを入れるためギルドマスターに新たな注文を入れ、カーラが好きだった蜂蜜酒を飲み干していく。
身分を剥奪されながらも令嬢だという空気を醸し出していたカーラに相応しいあっさりとした上品な酒であった。
クイントンは蜂蜜酒が出すその美味さに酔いしれていく。今酔いによって理性が吹き消したこの瞬間だけはクイントンは騎士道小説に登場する騎士のような心地になっていた。
クイントンからすれば今の自分まさしく騎士そのものであった。
少なくともカーラを見殺しにしたり、秘密裏に始末するという意見は消え去った。そこに関しては安堵するべきだ。
クイントンは笑みを溢しながら酒を啜っていく。
「お願いします!国王陛下!レキシー先生とカーラを解放してやってください!!」
城の前でまたしても番兵に向かって懇願を行う人々の姿が窓の外から見えた。
レキシーとカーラの両名が捕えられてからというものの、ほぼ毎日のようにこうして助命を願う人々が訪れている。
いずれも市井に住まう人々ばかりだ。
フィンも本音を言えば思い人であるカーラとその母親であるレキシーの二人を無罪にしてやりたかった。
だが、本音としてはともかく、表向きは国王である。それ故に害虫駆除人という金ずくで人を冥界王の元へと送るような人物を許すわけにはいかないのだ。
フィンは複雑な思いを抱えながら窓から見える人々から目を離し、背中を向けて長い城の廊下を歩いていく。
エドマンドと名乗る男が宮廷を訪れてから既に三日以上の時間が過ぎている。その間にも表には公表できない脱出の計画は念入りに進められてはいるが、毎日熱心に門の前へと嘆願に訪れる市民たちとは対照的に門閥貴族からの二人に対する呪詛の声は日に日に強くなる一方であった。
特に追求する門閥貴族たちの先端に立っていたのは自らもカーラによって両親と兄、それから二人の婚約者を奪われたエミリー・リバリー男爵夫人である。
彼女は貴族たちをまとめ上げ、すぐにでも刑を執行するようにフィンに向かって要請していた。
曰く罪状は明白であり、多くの人々を冥界王の元へと送っていたという確固たる証拠が存在していることからこれ以上刑を待つ必要性がないというのがエミリーたちの主張であった。
中には従来の刑ではなく、古代の時代で用いられていたとされる凶悪な刑罰を用いての執行を主張する声さえ上がっていた。
また、市民の中においても駆除人たちによって行われる私的な制裁をよしとしない人物からはこのような過激な表現が用いられることもあった。
このことを大臣たちに相談しても意見は大きく割れてしまい、フィンとしては頭を悩ませるばかりであった。
今は玉座の間の近くにある簡素な私室で別の政務を行なっていたのだが、どこか身が入らない。
国王がこんなことではいけない。政務に支障が出ては困るのは国民だ。フィンは必死になって事件のことを頭から振り払おうとしたが、どう努力してもそれは不可能であった。
考えれば考えるほど事件のことやカーラのことが尾を引いてしまうのだ。
カーラ・プラフティー。幼い頃から憧れていた令嬢の名前が頭の中で渦巻いていく。
フィンは頭の中でカーラが助かってもらいたいとひたすらに願うことしかできなかった。
同時に彼は国王でありながらも想い人を助けることができないという自己嫌悪に陥っていくのであった。
国王としての宿命が己を縛る枷になっているのだ。
フィンは何も言えず黙って机を叩き続けた。我儘が通らずに癇癪を起こし続ける子どものように一人罪のない机にあたることでしか憂さを晴らせなかったのだ。
自身の気が向くまま机を叩き続けていたフィンであったが、突然の来客を受けて中断せざるを得なかった。
フィンが世話役のメイドかと思い入室の許可を与えると、入ってきたのは貴族の令嬢に相応しい金色の髪を靡かせ、豪勢なドレスに身を包み、首元には青色の宝石が飾られた首飾りを付けたホワインセアム公爵家の令嬢アイラであった。
アイラは貴族の令嬢らしく両裾を掴みながら丁寧な一礼をフィンに向かって行う。
貴族の令嬢として国王へと捧げる儀礼を終えると頭を上げてフィンに向き直っていく。
「陛下、私本日は許可をいただきたくて参りましたの」
「許可だと?」
「えぇ、私害虫駆除人カーラの執行を見届けたいんですの。それも生の場所……すなわち処刑台の前でずっーと見つめていたいんですのよ、お分かりでして?」
予想外の言葉であった。フィンは信じられないと言わんばかりに両目を見開いてアイラを見つめていたが、アイラはクスリとも笑わない。
社交界においてレディには微笑が必要だとされるが、今のアイラはそれすら浮かべていない。
真剣な表情のままじっとフィンを見つめていた。
どうやら本気でカーラの刑に立ち会うつもりでいるらしい。
フィンとしてはそのような屈辱的な真似にカーラを立ち合わせたくはなかった。
それにこの提案が秘密裏に進めている脱出計画の支障になってしまっても困る。
それ故にこのまま断るつもりでいた。
だが、アイラの目が予想よりも真剣であることやこの時フィンの脳裏にある提案が思いついたことからこの要求を受け入れることにした。
フィンがアイラの条件を認める代わりに提示した要求というのはアイラ自身の説得によってカーラとレキシーに対する刑罰を従来のままにしてもらいたいという嘆願であった。
アイラはフィンによる取り引きを受け入れ、カーラとレキシーに対する罰を現在のままにするということを受け入れた。
少なくともこれで厳罰論に関しては沈静化するだろう。
後は処刑が行われる日がいつになるのかということだ。
なるべく引き伸ばすつもりではいるが、それでも近いうちに刑が下されることは間違いない。
だが、まだ刑を下させるつもりはない。そのためには様々な理由をつけて刑を遅らせなければならないのだ。
フィンはまたしても奔走していく。多くの苦労を背負うことになったが、それでも愛する人のことを思えばなんともないことであった。
裁判を長引かせようと働きかけたり、カーラたちと共に捉えられたミアたちに対して先に罰を下させるように努力したりしていたことがその例であったが、現実というものは時として非常なものである。
こうしたフィンの苦労も虚しく、処刑の日取りと時間は決まった。
処刑の日取りは裁判官による判断のもと一週間後、午後3時であった。
余談ではあるが、後の世に伝わるホワインセアム家の記録によればこの処刑の報を聞かされた際にアイラは口元に怪しげな笑みを浮かべながら、
「あら、おやつの時間じゃない」
と、何気ない調子で呟いたらしい。
長らくこの言葉には深い意味があるとされてきたが、後世の研究者によればこの発言にはカーラの処刑を見ながらおやつを摘む予定であり、そのことを示唆したものであると語られている。
そのことを裏付けるように当時アイラに侍従していた男の記録から当時処刑台へとおやつとお茶をバスケットに入れて持ち込もうとしたという記録が見つかっている。
いずれにしろアイラがこの処刑を娯楽目的で観に行ったことは確かであった。
無論このような後世の人物からの評価など今を生きるクイントンからすれば知ったことではなかった。
彼にとって大事なことは計画が成功するか否かであった。
侍従として屋敷の中に潜り込み、アイラを唆して処刑台の上に登らせる。
ヴァイオレットなどの顔が割れていない駆除人を遣わして針を渡し、縄抜けの術を教えさせる。
後はアイラが王都の中央に設置された巨大な首吊り台の上に上手く登ってくれるかどうかだ。問題はそこに掛かっている。
急に気まぐれを起こして登らないなどと言われてしまっては計画も立ち行かなくなってしまう。
気掛かりはそこにあったが、これに関してはクイントン自らの手で解決する予定であった。
もしアイラが登らなかった場合クイントンは懐の中へと忍ばせた短剣を使って背後からアイラを襲うつもりでいた。その間に事前の打ち合わせをしていた仲間たちがカーラとレキシーを助けてくれるだろう。
これまでは駆除人たちの手助けばかりであったが、そうすることでいよいよ自分も駆除人の仲間となれるのだ。
そしてその後は名実ともに駆除人たちの本当の仲間として扱われる。
悪いことなど一つもない。クイントンは笑ってさえいた。
しかし彼にとって幸運であったのか不運であったのかアイラは唆されるままに処刑台の上へと登っていく。
二階建ての建物に相当する大きな階段を悠々とした表情でアイラは登っていた。
その補助として黒色の覆面を被った執行人たちが剣を掲げたままアイラを背中から押していく。
階段の上には首元に縄を掛けられたカーラとレキシーの姿が見えた。
クイントンは処刑台の前でそんな哀れな姿を見守ることしかできなかった。
クイントンが胸をドキドキとさせながら処刑台の上を見上げていた時だ。
「ねぇ、クイントン、いよいよ人面獣心の最期が来たわね」
と、背後から声が聞こえてきた。声がした方向を向くと、そこにはかつて仕えていたエミリーの姿が見えた。
「お、お嬢様……」
明らかに動揺した顔を浮かべていたが、エミリーはクイントンの心境などは考えることもせずに黙って処刑台の上へと登り詰めるカーラの姿を見つめていたのである。
エミリーは胸を弾ませていたのだ。自分の両親と兄を永遠に自分の手から奪い取った人面獣心の最期が訪れる時を……。
だが、肝心のカーラはといえばとっくの昔にそんな期待を裏切るかのように縄の先端を解き、縄を緩めていつでも腕を離すことができる状態にあった。
いつも通り袖の下に針を仕込んでいる。これで好きな時に針を相手に突き立てられる。
あとは時機を待つだけだ。アイラが直前まで近付き、油断するという瞬間を待たなくてはならない。
カーラは駆除人たちとしての心境を胸に抱きながらアイラを待っていた。
もちろんアイラはそんなカーラの思惑など知るはずがない。
俯いていたカーラの顔を顎を自身の白い雪のような指を使って強制的に得意げな顔を浮かべている自分の目線へと合わせたのであった。
「無様な姿ねぇ、カーラ」
「あら、この首飾りもなかなかよろしいものでしてよ」
嫌味に皮肉で返してみたのだが、アイラには通じていなかったらしい。
アイラは余裕を含んだ笑みを浮かべながら今度は両顎を白くて細い右手の指で強く握り締めたのである。
「あらあら、まだ強がりを言っているのね。もうすぐ冥界王の元に送られるというのに」
「強がりじゃありませんわ。事実でしてよ」
「何が事実よ、あなたはこれから冥界王の元へと送られるというのに強がりばかり。私は知ってるのよ、処刑人の手で縄の首を切り落とされれば情けなくベソをかきながら惨めな状態になるんだって」
アイラはまたしてもクスクスと笑う。おかしくてたまらないという笑い方だ。
「あら、あなたこそ大丈夫でして?私は害虫駆除人でしてよ。そのような人物と二人きりだなんて……万が一のことがあったらどうなさるおつもりですの?」
「万が一のこと?あんたは縛られている上に釣られている。手なんて出るわけないじゃない!ここは世界でもっとも安全な場所だといってもいいのよ」
「……忠告は致しましたわよ」
その言葉がアイラの両耳に届いていくのと同時にアイラの額に裁縫針が突き立てられていた。
「えっ?」
アイラは自身の身に起きたことが理解できず、咄嗟に疑問視を世界に向かって投げかけたのだが、結果としてその言葉が彼女の人生において最期の言葉へと成り果てたのであった。
魂を失ったアイラの体は重力の法則に逆らうことができず、地面の上へと倒れ込む。
カーラはそれから素早く首元の縄を外し、目の前に起きた出来事が信じられず唖然としていた処刑人の手から絞首台の縄を切り離すための剣を奪い取り、レキシーの両手を縛っていた縄を外したのである。
それからレキシーに剣を渡したかと思うと処刑台の上から駆け降りていく。
ここまで処刑台の前に集まっていた人々は突然の出来事が信じられずに唖然としていたのだが、誰かが大きな声で、
「あ、アイラ様がやられたァァァァァ~!!!」
と、叫んだことでようやく正気を取り戻したらしい。
周りに集まった人々はカーラ達を捕らえようと躍起になっていたのだが、カーラの手に針が、レキシーの手に剣が握られていることから容易に止められることもなかった。
また、人々の心境としてもカーラとレキシーの両名を捕らえたくはなかったという思いが強かった。
カーラやレキシーが手を下したのは名もない市井の人々というのは常に門閥貴族や悪党たちの専横に苦しめられているような存在だ。そうした人々に理不尽な目に遭わされ、泣きを見たことは一度や二度では済まされない。
こうした横暴な人々に対して罰を与えた害虫駆除人に同情の念を抱いていくのも無理はなかった。
ましてやカーラとレキシーがどれほど自分たちからすれば良い存在であったのかは人々が一番よく分かっている。
そうした所以もあり、二人は道を開いた状態で容易に郊外の端に停まっていた馬車へと向かうことができたのだ。
「お二人さん!さぁ、早く早く乗った!乗った!」
エドマンドの号令により、二人は慌ただしく馬車の中へと乗り込んでいく。
馬車はそれから風を思い起こさせるような速さで郊外を後にしたのである。
以後クライン王国においてレキシーとカーラという二人の血が繋がらない親子の姿は公式の記録からは確認されていない。
後年世間一般にて広く呼称されるようになる名誉革命と呼ばれる革命運動によって王政改革が行われて、俗にいう門閥貴族たちによる専制政治が崩壊した際に公式の記録が国民たちによって開示されたが、王国の正式記録の中に害虫駆除人の記載は残っていなかった。
これは害虫駆除人と呼ばれる闇の職業を歴代の王たちが認めてこなかったことを表すものであった。
だが、後に賢王と呼称されることになるフィン王の時代に一度だけ害虫駆除人と疑われる二人の女性が処刑台に登らされたことだけが公式の文章には記されていた。
だが、当人たちによる自白が残っていないことや状況証拠しか残っていなかったことからその人物に関する容疑は冤罪であったという見方が昨今は強まっている。
ただ、この二人に被せられた罪がどうであるにしろ、門閥貴族の専制に苦しめられていた当時の庶民たちにとって自分たちへの恨みを晴らしてくれる害虫駆除人の存在は精神的な主柱となっていたに違いない。
当時の庶民たちの暮らしを記したとされる『クライン王国王都回想録』という文献からはこのような一文が見つかっている。
『この世には二種類の虫がいる。一つは人の世を潤す益虫。もう一つは人の生き血を吸い、害を与える害虫。二種類の虫とは申せませど、今の世を探しても出てくるのは害虫ばかり。人々は虫に刺され夜も眠れやしねぇ。
そんな人の世に蔓延る虫どもを駆除してくれよう害虫退治の専門家。ご安心なせぇ、益虫は絶対に殺しやしませんので』
こうした庶民の鬱憤を表すような記録は当時の庶民生活を表す一文として現在クライン国国立博物館において現代語訳が付いたものが飾られている。
だが、忘れてはならないのは害虫駆除人という存在を裏付ける決定的な資料が残っていないことだ。
あとがき
投稿が遅れてしまい誠に申し訳ありませんでした。
というのも今回で全体の最終回ということになりますので、気合を入れて書かせていただきました。
無論このままで終わらせるつもりもありません。もう一話エピローグと呼ばれる話を挟んで全ての事象に決着を付けた後で完結させたいと考えております。
投稿は恐らく翌日の深夜かもしくは翌日の朝となる他、エピローグということですので今話よりも大幅に文字数が少なくなってしまうことが見込まれますが、最後までお付き合いいただければ幸いです。
その日クイントンは一気に飲み干したグラスを勢いよく机の上に叩き付けながら周りを囲んでいた駆除人仲間たちに向かって叫んでいた。
クイントンの言葉によって何人かの駆除人仲間たちが白い目を向ける。
当然である。彼ら彼女らの中では既にカーラとレキシーは居ないものとして扱われてしまっているからだ。
少し冷たい態度になってしまうかもしれないが、二人は仮にも駆除人。自分たちに課せられた掟のことはよく知っているはずなのだ。それ故にわざわざ危険を冒してまで助けが来ないであろうということも察しているはずだからだ。
本来であるのならばギルドマスターの手によって粛清されるところを口が信用できるということや獄内で拷問が行われていないということを理由にわざわざ生かしてもらっているので、執行の当日まで生き延びられているのだ。
それらの事実を踏まえれば十分長生きした方ではないか。
駆除人仲間たちはそうした事情も知らずにやけ酒を行なっているクイントンになど構うこともなくギルドマスターから貰った報酬を使ってギルドの中で好きに飲み食いを行っていた。
当のクイントンはといえばグラスを片手に薄情な駆除人仲間たちを睨んでいたのだが、やがて自分一人の力ではどうにもならぬことを察し、大きな溜息を吐いたのである。
頬杖をつき、片手でグラスを遊びながら考えていく。本来であるのならばクイントン本人が二人を牢屋から助けて出してやりたかった。
その上で執事としてではなく、一人の男としてカーラに愛の告白を捧げたかったのだ。
必ず訪れるであろう告白時には昔クイントンが読んだ古い騎士道を描いた小説の一話から気に入った台詞を引用する予定となっていた。
引用する予定となっていた台詞というのは小説の中に登場する騎士はたった一人で悪の魔王に囚われた姫を救い出した時に発した『オレはキミが好きだ』という単純ではあるが直喩的で回りくどい言い回しなど感じられない魅力的な言葉である。
だが、今の自分にそんな台詞が言えるはずもなかった。
小説に登場する騎士のように囚われたお姫様を牢屋から助けだそうにも手段が見当たらないのだし、万が一見張りの兵士などに見つかれことがあればカーラを守るどころか足を引っ張ってしまうことになりかねないというのが主だった原因であった。
クイントンに関しては駆除を行うための技術を持ち合わせていない。それ故当然得物というものも存在しない。それ故に彼はいつも駆除業において引き込み役や偵察役を行うことになっており、戦闘を経験したことは今の今まで一度も存在しなかったのだ。
そうした理由もあったからか、こうして勤め先を抜け出し、ギルドの中で酒を飲む以外の道が存在しなかったのだ。
クイントンが美味くもない酒をお代わりしようと懐から取り出した剥き出しの銀貨数枚を机の上に置き、ギルドマスターに呼び掛けようとした時だ。
「邪魔をさせてもらいますよ」
と、聞き慣れない声が聞こえた。クイントンが背後を振り返ると、そこには短い茶色の髪を整えた人当たりの良さそうな青年が立っていた。
青年は椅子の上に腰を掛けると、どこか警戒している視線を向けるギルドマスターを他所に太陽のような明るい朗らかな笑みを浮かべながら人差し指を掲げて注文を行う。
「『ブラッディ・プリンセス』をもらおうかな」
『ブラッディ・プリンセス』という単語を聞いたギルドマスターはバーカウンターを立ち、側に立っていた姪のヴァイオレットに酒を注がせると男の側へと回った。
男の腕を引っ張り、背後にある自身の応接室へと引き寄せようとした時だ。
男はそれを断り、口元に意味深な笑みを携えながら言った。
「いいえ、そんなことをしてもらわなくても結構です。今この場にはあなたのお仲間しかいないはずでしょう?王都の駆除人ギルドのマスターさん」
「……お前さん何者だね?」
「これは失礼致しました。私の名前はエドマンド、エドマンド・プランタジネット。かつて同じ土地をクライン王家より何百年も前に治めていた一族の末裔です。そして私はレキシーさんの故郷における駆除人ギルドのギルドマスターでもあります」
エドマンドはそういうと緊張しているのか、少し顔を赤らめているヴァイオレットへと人の良さそうな笑みを向けていく。
「お嬢さんとも何度かお会い致しましたよ。確か、私のもとで何度か悪党を仕掛けられたことをよく覚えていますよ」
ヴァイオレットはその言葉を聞いた時にエドマンドが裏で仕切る土地を訪れ、依頼を受けて何人かの悪党を仕掛けたことを思い出した。
それらの悪というのは葬式ごっこという悪質な遊びを行い、相手を追い込んだ三人組の男たち、身勝手な理由で友人を殺しつつも父親が当時その地を治めていたティーダー家の役人であったことから無罪となった青年。頭が悪いという理由から罪のない女性を徹底的に凌辱し、追い込んだ身勝手な男たちなどである。
いずれも人違いや理不尽な動機から発生した依頼ではなかったので、ヴァイオレットは安心して依頼を遂行できたことを覚えている。
ただその時依頼の仲介を行ったエドマンドはどこかおどおどしい青年であったのに対し、今のエドマンドは自信に満ち溢れておりまるで別人のように見えた。
この時ヴァイオレットの心の中には妙な想いが浮かんでいく。
それはエドマンドが王都進出の野望に囚われ、混乱に乗じて乗っ取りに現れたのではないのかという疑念である。
今の自信に満ち溢れたエドマンドならばそんなことを考えていてもおかしくはない。
叔父が警戒するような目を向けていたのも乗っ取りを模索する男を見張っていたということならば納得がいく。
ならば、とヴァイオレットは叔父のように警戒の目を向けていたが、エドマンドは大きな声を上げて笑うばかりであった。
「何がおかしい?」
ギルドマスターが目を細め低い声で問い掛ける。
エドマンドがその問い掛けに対して返答を行ったのは無限に続くかと思われた長い大笑いを止め、それによって生じた涙を手で拭いとった後であった。
「いやぁ、失敬。お二人さんから発せられる警戒心が強いもんだからね」
「警戒するのも当然だろうが、こんな時期だからな」
ギルドマスターは語気を強めながら言った。
「フフ、そう警戒しなさんな。オレは別に王都を乗っ取りにきたわけでもない。国王陛下からその地位を奪い取ろうとしているわけでもないんだから。第一、今おれたちが抗争を行えば得をするのは門閥貴族ですよ」
エドマンドの口振りから察するに王都の駆除人ギルドがこれまでどのような敵と戦ってきたのかを把握しているらしい。
大方裏の伝手を頼って、故郷の街でこれまでの情報を仕入れてきたのだろう。抜け目のない人物だ。
改めてギルドマスターがエドマンドを睨んでいると、叔父とは対照的に話を聞いて警戒心を解いていたヴァイオレットが無邪気に問い掛けた。
「じゃあ、何の目的で?」
「引き抜きですよ。カーラとレキシーさんをしばらくうちで預かろうと思いましてね」
「お嬢様を!?」
予想外の言葉を聞いてクイントンは半ば反射的に椅子の上から立ち上がっていた。そのまま鬼気迫る表情でエドマンドに迫っていくが、エドマンドは意に返す様子も見せていない。
ただ、静かな表情でクイントンを冷笑しているだけだ。
自分を嘲笑っているかのようなエドマンドの顔を見たクイントンは怒りを抑え切れなくなり、そのまま掴み掛かろうとした。
そこでようやく不味いと判断したのか、エドマンドは慌てて言葉を返した。
「お待ちなさいな。これは私の独断で行うことではないんですよ。もちろん腕利きの駆除人は私も欲しいですが、それ以上にフィン陛下がお二方を逃したいと思っていらっしゃておりましてね。その任を私が引き受けたんですよ」
エドマンドの言い分に全員が納得がいったらしい。要するにカーラとレキシーを欲しがるエドマンドと二人を処刑の手から逃がしたいフィンの思惑とが一致したというのが今回の真相であったのだ。
国王の協力すら得ているエドマンドが王都の駆除人ギルドに接触を図ってきた理由は現地において協力を得るためだろう。そうした方が計画が円滑に進むだろうと踏んでのものである。
抜け目のない人物だ。ギルドマスターが感心したようにエドマンドを見つめていると、エドマンドは何かを思い出したらしく、手をポンと叩いて椅子の上から立ち上がったのであった。
「おっと、そうだ。どんな理由があれども腕利きの駆除人を失うのは大きいでしょう。ですので代わりの人物を置いていきますよ」
エドマンドが両手を叩いたかと思うと、ギルドと外界とを繋ぐ扉が開かれ、眩いばかりの美少年が現れた。
「紹介致しましょう。我がギルド随一の腕前を誇る駆除人、ギークです」
「ギークです。みなさんお久しぶりです」
眠りかけの人物が思わず両目を開けて凝視したくなるほどの美少年から発せられたソプラノ歌手のように綺麗な声に駆除人ギルドが騒ぎ始めていく。ギークといえば以前フレアの一件で顔を見られてしまい王都を去ってしまったはずだ。
その間に何をしていたのかは誰もわからなかったが、まさかレキシーの故郷へと流れ着き、エドマンドのお抱えになっていたとは思いもしなかった。
王都を仕切るギルドマスターとしてもギークが戻ってきてくれるというのならばこれ程までに心強いことはない。
エドマンドが提示した交換条件としては破格のものであるといってもいいだろう。
ギルドマスターはギークの顔を見た瞬間にそれまでの警戒を引っ込め、改めて駆除人仲間へと紹介を行なっていく。
その光景にエドマンドは拍子抜けしたような顔を浮かべていた。
「なんだ。ギークはみんなと知り合いだったのか」
エドマンドは意外そうな顔を浮かべて言った。
「逆に知らなかったんですか?」
背後からクイントンが問い掛ける。
「えぇ、彼はあまり自分の過去については語りませんでしたからね。それは私ですら例外ではありませんでしたよ」
そういえばクイントンはギークの過去について何も知らなかったことを改めて思い起こさせられたのだ。
赤い色をした蒸留酒が入ったワイングラスを片手にかつての仲間たちと交流を深めるギークを見つめながら改めて彼の過去を知りたいとクイントンは感じたが、本人が語りたがらないものを無理に聞き出すわけにはいかない。
結局彼の過去については誰も分からないままなのだろう。
クイントンがギークのことについて考えながらポカーンとしていると、エドマンド本人に肩を揺らされていたことに気がつく。
クイントンが慌てて振り返ると、そこには不安そうにこちらを見つめるヴァイオレットの姿が見えた。
「あの、クイントンさんお話聞いてました?」
「は、話?」
慌てた様子のクイントンに三人とも失望を隠せなかったらしい。
全員が鉛のような重い溜息を吐いていた。
それでもエドマンドは笑みを絶やすことなくその場に居合わせた全員を代表して何を話していたのかを教えた。
「アイラ・クリストフを処刑場の前へと連れ出すという計画ですよ。聞いていなかったんですか?」
そんな話は初耳だ。クイントンが改めて二人のギルドマスターに問い掛けると、二人は呆れた顔を浮かべながらもクイントンが聞き逃した部分に対する丁寧な説明を行なっていくのであった。
話によれば処刑当日の日は多くの人間が問い掛けることからカーラとレキシーを逃すにはこうした群衆を利用するための囮が必要なのだという。
エドマンドは計画を進めていく中で、その囮中にカーラがギルドマスターに冥界王の下賜品として頼んだという依頼を絡ませることを思い付いたのだ。
エドマンドの計画としてはアイラを処刑台の上に登らせ、カーラとお別れのキスなどをさせた隙を突いて針で突き刺して始末するというものとなっていた。
その際に生じた混乱や空白を利用して駆除人たちが二人を引っ張り、街の外に待っている故郷行きの馬車へと二人を連れ込み、脱出するというものだ。
ここで重要となるのがクイントンの存在である。クイントンが上手くアイラを唆して処刑場へと連れて行かなくてはならいのだ。
些か荷が重く感じられたが、愛する人を逃すためならば特段苦に感じることはなかった。
牢屋の中にどうやって針を差し入れするか、という問題や縛られた両手をどうやって解くのかという問題は他の仲間たちに任せればいいのだ。
自分は与えられた任務をこなすだけでいいのだ。
クイントンは気合いを入れるためギルドマスターに新たな注文を入れ、カーラが好きだった蜂蜜酒を飲み干していく。
身分を剥奪されながらも令嬢だという空気を醸し出していたカーラに相応しいあっさりとした上品な酒であった。
クイントンは蜂蜜酒が出すその美味さに酔いしれていく。今酔いによって理性が吹き消したこの瞬間だけはクイントンは騎士道小説に登場する騎士のような心地になっていた。
クイントンからすれば今の自分まさしく騎士そのものであった。
少なくともカーラを見殺しにしたり、秘密裏に始末するという意見は消え去った。そこに関しては安堵するべきだ。
クイントンは笑みを溢しながら酒を啜っていく。
「お願いします!国王陛下!レキシー先生とカーラを解放してやってください!!」
城の前でまたしても番兵に向かって懇願を行う人々の姿が窓の外から見えた。
レキシーとカーラの両名が捕えられてからというものの、ほぼ毎日のようにこうして助命を願う人々が訪れている。
いずれも市井に住まう人々ばかりだ。
フィンも本音を言えば思い人であるカーラとその母親であるレキシーの二人を無罪にしてやりたかった。
だが、本音としてはともかく、表向きは国王である。それ故に害虫駆除人という金ずくで人を冥界王の元へと送るような人物を許すわけにはいかないのだ。
フィンは複雑な思いを抱えながら窓から見える人々から目を離し、背中を向けて長い城の廊下を歩いていく。
エドマンドと名乗る男が宮廷を訪れてから既に三日以上の時間が過ぎている。その間にも表には公表できない脱出の計画は念入りに進められてはいるが、毎日熱心に門の前へと嘆願に訪れる市民たちとは対照的に門閥貴族からの二人に対する呪詛の声は日に日に強くなる一方であった。
特に追求する門閥貴族たちの先端に立っていたのは自らもカーラによって両親と兄、それから二人の婚約者を奪われたエミリー・リバリー男爵夫人である。
彼女は貴族たちをまとめ上げ、すぐにでも刑を執行するようにフィンに向かって要請していた。
曰く罪状は明白であり、多くの人々を冥界王の元へと送っていたという確固たる証拠が存在していることからこれ以上刑を待つ必要性がないというのがエミリーたちの主張であった。
中には従来の刑ではなく、古代の時代で用いられていたとされる凶悪な刑罰を用いての執行を主張する声さえ上がっていた。
また、市民の中においても駆除人たちによって行われる私的な制裁をよしとしない人物からはこのような過激な表現が用いられることもあった。
このことを大臣たちに相談しても意見は大きく割れてしまい、フィンとしては頭を悩ませるばかりであった。
今は玉座の間の近くにある簡素な私室で別の政務を行なっていたのだが、どこか身が入らない。
国王がこんなことではいけない。政務に支障が出ては困るのは国民だ。フィンは必死になって事件のことを頭から振り払おうとしたが、どう努力してもそれは不可能であった。
考えれば考えるほど事件のことやカーラのことが尾を引いてしまうのだ。
カーラ・プラフティー。幼い頃から憧れていた令嬢の名前が頭の中で渦巻いていく。
フィンは頭の中でカーラが助かってもらいたいとひたすらに願うことしかできなかった。
同時に彼は国王でありながらも想い人を助けることができないという自己嫌悪に陥っていくのであった。
国王としての宿命が己を縛る枷になっているのだ。
フィンは何も言えず黙って机を叩き続けた。我儘が通らずに癇癪を起こし続ける子どものように一人罪のない机にあたることでしか憂さを晴らせなかったのだ。
自身の気が向くまま机を叩き続けていたフィンであったが、突然の来客を受けて中断せざるを得なかった。
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アイラは貴族の令嬢らしく両裾を掴みながら丁寧な一礼をフィンに向かって行う。
貴族の令嬢として国王へと捧げる儀礼を終えると頭を上げてフィンに向き直っていく。
「陛下、私本日は許可をいただきたくて参りましたの」
「許可だと?」
「えぇ、私害虫駆除人カーラの執行を見届けたいんですの。それも生の場所……すなわち処刑台の前でずっーと見つめていたいんですのよ、お分かりでして?」
予想外の言葉であった。フィンは信じられないと言わんばかりに両目を見開いてアイラを見つめていたが、アイラはクスリとも笑わない。
社交界においてレディには微笑が必要だとされるが、今のアイラはそれすら浮かべていない。
真剣な表情のままじっとフィンを見つめていた。
どうやら本気でカーラの刑に立ち会うつもりでいるらしい。
フィンとしてはそのような屈辱的な真似にカーラを立ち合わせたくはなかった。
それにこの提案が秘密裏に進めている脱出計画の支障になってしまっても困る。
それ故にこのまま断るつもりでいた。
だが、アイラの目が予想よりも真剣であることやこの時フィンの脳裏にある提案が思いついたことからこの要求を受け入れることにした。
フィンがアイラの条件を認める代わりに提示した要求というのはアイラ自身の説得によってカーラとレキシーに対する刑罰を従来のままにしてもらいたいという嘆願であった。
アイラはフィンによる取り引きを受け入れ、カーラとレキシーに対する罰を現在のままにするということを受け入れた。
少なくともこれで厳罰論に関しては沈静化するだろう。
後は処刑が行われる日がいつになるのかということだ。
なるべく引き伸ばすつもりではいるが、それでも近いうちに刑が下されることは間違いない。
だが、まだ刑を下させるつもりはない。そのためには様々な理由をつけて刑を遅らせなければならないのだ。
フィンはまたしても奔走していく。多くの苦労を背負うことになったが、それでも愛する人のことを思えばなんともないことであった。
裁判を長引かせようと働きかけたり、カーラたちと共に捉えられたミアたちに対して先に罰を下させるように努力したりしていたことがその例であったが、現実というものは時として非常なものである。
こうしたフィンの苦労も虚しく、処刑の日取りと時間は決まった。
処刑の日取りは裁判官による判断のもと一週間後、午後3時であった。
余談ではあるが、後の世に伝わるホワインセアム家の記録によればこの処刑の報を聞かされた際にアイラは口元に怪しげな笑みを浮かべながら、
「あら、おやつの時間じゃない」
と、何気ない調子で呟いたらしい。
長らくこの言葉には深い意味があるとされてきたが、後世の研究者によればこの発言にはカーラの処刑を見ながらおやつを摘む予定であり、そのことを示唆したものであると語られている。
そのことを裏付けるように当時アイラに侍従していた男の記録から当時処刑台へとおやつとお茶をバスケットに入れて持ち込もうとしたという記録が見つかっている。
いずれにしろアイラがこの処刑を娯楽目的で観に行ったことは確かであった。
無論このような後世の人物からの評価など今を生きるクイントンからすれば知ったことではなかった。
彼にとって大事なことは計画が成功するか否かであった。
侍従として屋敷の中に潜り込み、アイラを唆して処刑台の上に登らせる。
ヴァイオレットなどの顔が割れていない駆除人を遣わして針を渡し、縄抜けの術を教えさせる。
後はアイラが王都の中央に設置された巨大な首吊り台の上に上手く登ってくれるかどうかだ。問題はそこに掛かっている。
急に気まぐれを起こして登らないなどと言われてしまっては計画も立ち行かなくなってしまう。
気掛かりはそこにあったが、これに関してはクイントン自らの手で解決する予定であった。
もしアイラが登らなかった場合クイントンは懐の中へと忍ばせた短剣を使って背後からアイラを襲うつもりでいた。その間に事前の打ち合わせをしていた仲間たちがカーラとレキシーを助けてくれるだろう。
これまでは駆除人たちの手助けばかりであったが、そうすることでいよいよ自分も駆除人の仲間となれるのだ。
そしてその後は名実ともに駆除人たちの本当の仲間として扱われる。
悪いことなど一つもない。クイントンは笑ってさえいた。
しかし彼にとって幸運であったのか不運であったのかアイラは唆されるままに処刑台の上へと登っていく。
二階建ての建物に相当する大きな階段を悠々とした表情でアイラは登っていた。
その補助として黒色の覆面を被った執行人たちが剣を掲げたままアイラを背中から押していく。
階段の上には首元に縄を掛けられたカーラとレキシーの姿が見えた。
クイントンは処刑台の前でそんな哀れな姿を見守ることしかできなかった。
クイントンが胸をドキドキとさせながら処刑台の上を見上げていた時だ。
「ねぇ、クイントン、いよいよ人面獣心の最期が来たわね」
と、背後から声が聞こえてきた。声がした方向を向くと、そこにはかつて仕えていたエミリーの姿が見えた。
「お、お嬢様……」
明らかに動揺した顔を浮かべていたが、エミリーはクイントンの心境などは考えることもせずに黙って処刑台の上へと登り詰めるカーラの姿を見つめていたのである。
エミリーは胸を弾ませていたのだ。自分の両親と兄を永遠に自分の手から奪い取った人面獣心の最期が訪れる時を……。
だが、肝心のカーラはといえばとっくの昔にそんな期待を裏切るかのように縄の先端を解き、縄を緩めていつでも腕を離すことができる状態にあった。
いつも通り袖の下に針を仕込んでいる。これで好きな時に針を相手に突き立てられる。
あとは時機を待つだけだ。アイラが直前まで近付き、油断するという瞬間を待たなくてはならない。
カーラは駆除人たちとしての心境を胸に抱きながらアイラを待っていた。
もちろんアイラはそんなカーラの思惑など知るはずがない。
俯いていたカーラの顔を顎を自身の白い雪のような指を使って強制的に得意げな顔を浮かべている自分の目線へと合わせたのであった。
「無様な姿ねぇ、カーラ」
「あら、この首飾りもなかなかよろしいものでしてよ」
嫌味に皮肉で返してみたのだが、アイラには通じていなかったらしい。
アイラは余裕を含んだ笑みを浮かべながら今度は両顎を白くて細い右手の指で強く握り締めたのである。
「あらあら、まだ強がりを言っているのね。もうすぐ冥界王の元に送られるというのに」
「強がりじゃありませんわ。事実でしてよ」
「何が事実よ、あなたはこれから冥界王の元へと送られるというのに強がりばかり。私は知ってるのよ、処刑人の手で縄の首を切り落とされれば情けなくベソをかきながら惨めな状態になるんだって」
アイラはまたしてもクスクスと笑う。おかしくてたまらないという笑い方だ。
「あら、あなたこそ大丈夫でして?私は害虫駆除人でしてよ。そのような人物と二人きりだなんて……万が一のことがあったらどうなさるおつもりですの?」
「万が一のこと?あんたは縛られている上に釣られている。手なんて出るわけないじゃない!ここは世界でもっとも安全な場所だといってもいいのよ」
「……忠告は致しましたわよ」
その言葉がアイラの両耳に届いていくのと同時にアイラの額に裁縫針が突き立てられていた。
「えっ?」
アイラは自身の身に起きたことが理解できず、咄嗟に疑問視を世界に向かって投げかけたのだが、結果としてその言葉が彼女の人生において最期の言葉へと成り果てたのであった。
魂を失ったアイラの体は重力の法則に逆らうことができず、地面の上へと倒れ込む。
カーラはそれから素早く首元の縄を外し、目の前に起きた出来事が信じられず唖然としていた処刑人の手から絞首台の縄を切り離すための剣を奪い取り、レキシーの両手を縛っていた縄を外したのである。
それからレキシーに剣を渡したかと思うと処刑台の上から駆け降りていく。
ここまで処刑台の前に集まっていた人々は突然の出来事が信じられずに唖然としていたのだが、誰かが大きな声で、
「あ、アイラ様がやられたァァァァァ~!!!」
と、叫んだことでようやく正気を取り戻したらしい。
周りに集まった人々はカーラ達を捕らえようと躍起になっていたのだが、カーラの手に針が、レキシーの手に剣が握られていることから容易に止められることもなかった。
また、人々の心境としてもカーラとレキシーの両名を捕らえたくはなかったという思いが強かった。
カーラやレキシーが手を下したのは名もない市井の人々というのは常に門閥貴族や悪党たちの専横に苦しめられているような存在だ。そうした人々に理不尽な目に遭わされ、泣きを見たことは一度や二度では済まされない。
こうした横暴な人々に対して罰を与えた害虫駆除人に同情の念を抱いていくのも無理はなかった。
ましてやカーラとレキシーがどれほど自分たちからすれば良い存在であったのかは人々が一番よく分かっている。
そうした所以もあり、二人は道を開いた状態で容易に郊外の端に停まっていた馬車へと向かうことができたのだ。
「お二人さん!さぁ、早く早く乗った!乗った!」
エドマンドの号令により、二人は慌ただしく馬車の中へと乗り込んでいく。
馬車はそれから風を思い起こさせるような速さで郊外を後にしたのである。
以後クライン王国においてレキシーとカーラという二人の血が繋がらない親子の姿は公式の記録からは確認されていない。
後年世間一般にて広く呼称されるようになる名誉革命と呼ばれる革命運動によって王政改革が行われて、俗にいう門閥貴族たちによる専制政治が崩壊した際に公式の記録が国民たちによって開示されたが、王国の正式記録の中に害虫駆除人の記載は残っていなかった。
これは害虫駆除人と呼ばれる闇の職業を歴代の王たちが認めてこなかったことを表すものであった。
だが、後に賢王と呼称されることになるフィン王の時代に一度だけ害虫駆除人と疑われる二人の女性が処刑台に登らされたことだけが公式の文章には記されていた。
だが、当人たちによる自白が残っていないことや状況証拠しか残っていなかったことからその人物に関する容疑は冤罪であったという見方が昨今は強まっている。
ただ、この二人に被せられた罪がどうであるにしろ、門閥貴族の専制に苦しめられていた当時の庶民たちにとって自分たちへの恨みを晴らしてくれる害虫駆除人の存在は精神的な主柱となっていたに違いない。
当時の庶民たちの暮らしを記したとされる『クライン王国王都回想録』という文献からはこのような一文が見つかっている。
『この世には二種類の虫がいる。一つは人の世を潤す益虫。もう一つは人の生き血を吸い、害を与える害虫。二種類の虫とは申せませど、今の世を探しても出てくるのは害虫ばかり。人々は虫に刺され夜も眠れやしねぇ。
そんな人の世に蔓延る虫どもを駆除してくれよう害虫退治の専門家。ご安心なせぇ、益虫は絶対に殺しやしませんので』
こうした庶民の鬱憤を表すような記録は当時の庶民生活を表す一文として現在クライン国国立博物館において現代語訳が付いたものが飾られている。
だが、忘れてはならないのは害虫駆除人という存在を裏付ける決定的な資料が残っていないことだ。
あとがき
投稿が遅れてしまい誠に申し訳ありませんでした。
というのも今回で全体の最終回ということになりますので、気合を入れて書かせていただきました。
無論このままで終わらせるつもりもありません。もう一話エピローグと呼ばれる話を挟んで全ての事象に決着を付けた後で完結させたいと考えております。
投稿は恐らく翌日の深夜かもしくは翌日の朝となる他、エピローグということですので今話よりも大幅に文字数が少なくなってしまうことが見込まれますが、最後までお付き合いいただければ幸いです。
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