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第四章『この私が狼の牙をへし折ってご覧にいれますわ』

予想外の手を使ってこられましたわ

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酒場の開店時間まではまだ時間がある。ギルドマスターはその空いた時間を活用して姪であり自身の後継者候補でもあるヴァイオレットに対して表稼業である酒場の経営について一対一で指南を行なっていた。
今日の予定は酒の場所についてだ。バーカウンターの下に置いてある酒は一見乱雑に置いているように見えて、実は計算して置かれている。
どこの位置に何があり、どれとどれを組み合わせれば適切な酒が生まれるのかということを計算しているから覚えるのには苦労するのだ。
実際ヴァイオレットもカウンターの下に並べられた酒の覚え方に四苦八苦していた。

頭を抱えながら唸り声を上げていた時に扉を叩く音が聞こえた。
ギルドマスターが己の得物を携えながら警戒の準備を行なっていると、扉の向こうからは荒い息が混じっているせいか、いつもよりも低いカーラの声が聞こえた。
いつもならば穏やかな口調が乱れている様子から察するに緊急を要することがあるらしい。
ギルドマスターは観念してゆっくりと扉を開き、切羽詰まった様子のカーラを出迎えたのであった。

「どうしたんだい?カーラ?」

いつもならば絶対に見せないような苦しそうな顔と声を見てギルドマスターは思わず心配の声を掛けた。
しかし、カーラはその言葉には答えなかった。返答の代わりにハァハァと犬のように荒い息を吐いているだけだ。
力なく扉にもたれかかり、息を整えている姿にはこちらが苦しくなるほどであった。

その様子から察するに、彼女がギルドに来るまでは全力で走ってきたらしい。仲間や他の人からすれば優雅な令嬢という印象が根付いたカーラという人間を顧みれば絶対に取ることがないような愚かな行動である。
それだけのことをしたのだから余程の事情があったのだろう。ギルドマスターはヴァイオレットのために行う予定であった表稼業の修行を中止し、代わりに蜂蜜酒を注いでカーラに渡すことにした。

駆け付け一杯というわけではないが、やはり喉を潤すには酒が一番だ。
カーラはギルドマスターがバーカウンターの上に置いた一杯を一気に飲み干し、服の袖で乱暴に口を拭うというこれまたカーラには似つかわしくない乱暴な方法で口を綺麗にすると、途切れ途切れに話し始めた。

今現在も焦りのために肩で息をしているカーラによれば自分と親しい距離にあった個人的な友人が裏切ったマルリアことフレアによって誘拐されてしまったのだという。
フレアは身代金を要求しない代わりにカーラ自身が一人で郊外にある林に来るように指示を出したのだという。

だが、その目的は明らかだ。郊外の林に来たところを伏兵を使って仕留めるつもりなのだろう。卑劣なフレアならば門閥貴族に権利として与えられている私兵を使って仕掛けてくるに違いない。

カーラのこうした一連の推理はいつもより冷静さを欠いているように思われたが、かといってわざわざ指摘するようなおかしい点があるわけでもない。
論理としては成り立っているし、推理の中に矛盾点なども見受けられない。
ギルドマスター納得するより他になかった。その上でバーカウンターの上から身を乗り出し、カーラへと顔を近付けていく。

「それで、オレは何をすればいいんだい?」

「お力をお貸しいただきとう存じますわ。ヒューゴさん、ギークさん、ゲイシーさん……とにかく一人でも多くの腕が立つ駆除人の方々を集めてくださいな」

「その後はどうするんだい?」

「その方々に私の後をついてくるように指示を出してくださいませ。私があの狂犬の牙を迷うことなく折れるように」

カーラの両目に力強い光を帯びていく。有無を言わせぬ一言と獲物を狙う野獣のように鋭い眼光を前にして流石のギルドマスターも思わず両足を竦ませた。

だが、駆除人ギルドを任せられるだけのことはあり、ギルドマスターはすぐに正気を取り戻し、ヴァイオレットに繋ぎを入れるように指示を出していく。
こうして、カーラの一言による決闘の準備は着実に進んでいったのであった。














昼間だというのにあまり日が刺さない郊外の林は昔から市井の人々からは薄気味悪がられていた場所であった。
市井の人々からの評判でさえ悪いというのに、門閥貴族からすれば林は唾棄すべき場所であり、呪いが生み出される穢らわしい土地であったといってもいい。

過激な貴族の中には今すぐにでも林を切り拓いてどこか邸宅がなくて困っている貴族の邸宅を建てるべきだと主張する者さえいた。ネオドラビア教が幅を利かせていた頃にはこの地を丸ごと教団に寄進するべきだという意見もあったほどだ。

だが、それらの意見を阻まれてきたのはこの林に住まう鹿などを狙う貴族たちの意向であった。伐採や開拓などを行えば当然鹿たちは消えてなくなってしまう。
それ故にどんなに不気味な噂が流れていたとしても反対せざるを得なかったのだ。

では、どうして林の中は昼間であっても夜中のようになってしまうのだろうか。
その理由として王宮抱えの学者は天まで高く伸びた針葉樹や広葉樹が陽の光が地に注いでいくのを阻止しているからだ、と述べている。
そんな論理的な根拠があるにしろ、ここが不気味であるのには変わらない。まるで、足を踏み入れればその地に食べられてしまうかのような恐ろしさが常に付き纏っている。
フレアは適当な木の枝を折りながらそんなことを考えていた。

懐かしい。この木の枝を鋭く尖らせよく自分は害虫を駆除したものだ。
だが、今となっては自分が駆除される側の立場にいる。皮肉なものだ。
フレアが木の枝を相手に一人微笑んでいると、自身の真下で意識を失って倒れているアメリアが唸り声を上げていた。
アメリアの両手は後ろに回され、その両手は縄できつく締め上げられている。

アメリアへの拘束を行ったのはフレア自らである。害虫駆除人として貴族や大商人の屋敷などに忍び込んだ際に見張りを縛り上げていたのでこうしたことは手慣れたものである。
アメリアには強い衝撃を与えておいたので当分の間は目を覚まさないだろう。
だが、目を覚したとしてもそれはそれで面白い。
というのも、友人であるカーラが目の前で始末させられてしまう光景を彼女に見せることになるからだ。

もし、友人のカーラが駆除を行うような場面を見てしまった場合はアメリアはどんな反応を示してくれるのだろうか。
フレアが下衆な考えに悶え喜び、身を震わせていた時にカーラがようやく到着した。
フレアはゆっくりと振り向き、カーラに向かって貴族令嬢に相応しい冷笑を浮かべながら挑発の言葉を口にする。

「あら、カーラ。あの手紙の指示に従って一人で来てくれたのね。嬉しいわ」

「アメリアはどこ?」

カーラはフレアの皮肉めいた労いの言葉などには耳を貸すことなく、両目を広げ、目を血走らせながらフレアに向かって問い掛ける。
フレアは答えなかった。代わりに自身の真下を指差す。フレアの真下、地面の上には拘束されたアメリアが横たわっていた。
友人の哀れな姿を見て冷静さを失ったカーラに対してフレアはどこまでも冷静であった。

「危害を加えたりしたの?」

カーラは袖の下の仕込んでいた針をフレアに向かって突き付けながら問い掛ける。

「さぁ、どうかしら?」

フレアは敢えて言葉を濁した。そうすることでカーラが我を忘れて飛び出すのを狙ったのだ。
そして、飛び出したところに向かって自身が新たに取得した技能を用いてカーラを葬る算段であったのだ。
だが、流石は腕利きの駆除人。ぐっと飛び出したいところを押し留め、針を突き付けるだけに留めていた。
フレアはその姿を見て、もう話すことはないのだという判断を下した。

話を終えたのならばいつまでも睨み合っていては仕方がない。フレアはこれを好機とばかりに自身が懐に入れていた新たな得物を取り出す。それは飾りのない鞘と鍔のない柄を持つ小型の短剣であった。
フレアは短剣を握ったかと思うと、今度は駆除人時代から得物として使用していた刃物を仕込んだ一歩の花を取り出す。これによってフレアの得物は二本となった。

何を考えているのだろうか。カーラには理解できなかったが、駆除人としての本能が嫌な予感を告げていた。
あの二つの得物を見てフレアは何か恐ろしいことをしでかすのだという予感がした。
針を構えながら攻撃に備えていた時だ。フレアの背後から木々が揺れる音が聞こえた。
ガサガサという大きな音だ。風が鳴った時に聞こえるような自然が気まぐれで起こすような音などではない。人が起こさなければ鳴らないような大きな音だ。

やはり、彼女は自身の推測通りに伏兵を仕込んでいたのだ。カーラが危惧していると木の陰から刃物を持った男が現れた。
鎧や兜で身を固めている他に右手に大きな槍を、左手に巨大な四角形の盾を構えている。
盾や鎧には貴族の私兵であることを示す紋章が記されている。
花の蕾が満開に開く姿を描いた派手な紋章だ。

現れた兵士は最初こそ一人であったが、やがて次々に木の陰から兵士たちが姿を現していき、最後には十人という大所帯になった。
やはり決闘の介添人としては多過ぎる。
このことから一対一の戦いなどというものはやはり真っ赤な嘘であったということを理解した。本当はこの場で自分を確実に仕留めるつもりであらかじめ伏兵を忍ばせていたのだろう。

なんとも卑劣なやり方だ。カーラは怒りに震えていく。歯をギリギリと軋ませ、目の前から迫り来る私兵たちの対処法を思案していく。
カーラが鎧において人体の構造上覆えない箇所があることを思い返し、その箇所へと針を打ち込めばいいのだ。
いささか数が多いような気するが、もう少しすれば仲間たちがこの戦いに加わることになっている。

この時背後を確認したい衝動に駆られたが、そんなことをすればフレアに援軍のことを悟られてしまう。
そのことだけは避けなくてはならないのだ。
カーラを戦うのだという己の確固たる決意を持って私兵と対峙していこうとした時だ。

「お辞めなさいッ!」

と、主人であるフレアの声が轟いていく。

この声には私兵もカーラも驚いて互いに動きを止めてしまう。
カーラも私兵も何が起こったのか理解できないという顔でフレアの方を見つめていたが、フレアはすっかりと立腹した様子で私兵を睨んでいた。

力強い光を帯びた両目に射抜かれ、すっかりと萎縮した様子の兵士に向かってフレアは武器を構えながら言った。

「誰が勝手に出て来ていいと言いました?お陰で私の新しい技を披露しようと思っていたというのに、すっかりとその気がなくなってしまったわ」

「も、申し訳ありません」

兵士は両肩を強張らせながら必死になって頭を下げていた。
しかし、フレアは不機嫌なままだ。兵士は誠意を示すために慌てて槍と盾を下ろし、その上兜まで外して謝罪の言葉を述べたが、フレアはそれを許さなかった。
わざわざ兵士の近くにまで現れると、兜を蹴り飛ばし、そのついでと言わんばかりに顔を思いっきり蹴ったのだ。
兵士からすればいかに相手が大貴族であったとしても顔を蹴られるなど屈辱極まりないだろう。

兵士はたちまち忠誠心も騎士の誇りも忘れて怒りに頭を支配されることになった。彼は槍を握り締めたかと思うと、迷うことなくフレアへと襲い掛かっていく。
だが、流石は元駆除人。兵士の槍をあっさりと掻い潜り、首元にまで近寄ると、首元に刃物を当てたのだ。

兵士は最後の言葉を述べる暇すら与えられずにその場に倒れることになった。
フレアは刃物を抜くと、いやらしい笑みを浮かべながらカーラに向かって言った。

「次はあなたよ」

余程自分が貴族になれたことが嬉しいらしい。そうでなければ何度も使い古した古典的な言葉を発するはずがないのだ。
カーラは冷笑を浮かべながらフレアの貴族令嬢めいた挑発の言葉を聞き流したのだが、そのことが却ってフレアを刺激することになってしまったらしい。
フレアは気に入らんと言わんばかりに口元を歪め、カーラに向かってナイフを突き付けた。

「何よ、何を黙っているの?」

カーラは答えない。林の中一帯に聞こえるような大きな声である。聞こえていないはずがない。
フレアはその瞬間に理解した。カーラは敢えてその言葉を無視しているのだ。フレアは怒りに震え、直ちに私兵たちにカーラへと襲い掛かるようにという指示を飛ばす。

フレアの指示を受け、その場にいた兵士たち全員がカーラに向かって剣を振りかぶっていく。
その時になってようやくカーラの背後に潜んでいた仲間の駆除人たちが姿を現す。

レキシー、ヒューゴ、ギーク、ゲイシーといった名うての駆除人たち十人ばかりが武器を振り上げながらカーラの背後にあった木の陰から現れたのだ。
私兵たちは困惑したものの、彼ら彼女らと剣や槍で応戦を行う。
私兵たちには驕りがあった。盾や鎧で防備を固めていること、それに一流の兵士として普段から鍛錬を行なっていること。これらの理由から兵士たちは負けるはずがないと判断していた。

だが、兵士たちの勝手な予想は大いに狂う羽目になった。
彼ら彼女らは鎧の繋ぎ目を正確に狙い、兵士たちを次々と仕留めていったのである。
カーラも自ら参戦して首元の繋ぎ目に対して針を打ち込んだ。
兵士は短い悲鳴を上げて倒れ込む。地面の上へと真っ直ぐに崩れ落ちていく姿からは助からないということが明白だ。

次々と兵士たちが倒れていくという状況にあるにも関わらず、フレアは慌てる様子を一つも見せていない。
それどころか、これが狙いだと言わんばかりに意味深な笑みを浮かべている。
そして全ての兵士を倒し終えた後には拍手さえしてみせたのだ。

「いやぁ、お見事、お見事、まさか武装した兵士をあんな簡単に倒してしまうなんてね。流石は駆除人ギルドの皆さんだわ」

演技で強がって見せているのだろうか。いや、到底そうは見えない。
フレアは自分にとっての切り札である兵士たちが倒れていたというのに相変わらず花のような美しい笑みを浮かべながら口元に冷笑を浮かべている。
何が目的なのだろうか。カーラがフレアを見つめていた時だ。

背後から悲鳴が聞こえた。悲鳴を発したのはゲイシーである。
慌てて振り返ると、彼は仲間であるはずの男に襲われていたのだ。
寸前のところで攻撃を防ぎ、斬り伏せたからいいようなものをあと少し遅ければ確実に仕留められていた。

しかし、襲われていたのはゲイシーばかりではなかった。レキシーやヒューゴ、ギークなども平等に襲われていたのだ。
一体何があったのだろうか。カーラは一瞬考え込んだが、すぐに頭の中で結論をまとめ上げてフレアを睨む。

カーラがフレアを見つめた瞬間に彼女は勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。
最初から計算尽くであったのだ。
恐らく彼女の狙いは二段重ねの大掃除というところだろう。
元々この計画はアルフレンジャー家の令嬢誘拐事件の報復として考えついたものなのだろう。

だが、計画を進めていくにつれて彼女の中で二重三重の恐るべき計画が仕上がっていったのだ。
それはアメリアという自分にとっての身近な人物を拐かすことで自分を誘い出して始末するというものだ。
もちろん、一人でも片を付けることはできたのだろうが、安全対策の意味も込めて私兵を伏兵として用いることにしたのだろう。

この時にフレアは自分が素直に一人で来るとは考えなかったのだろう。
二人組の刺客やエドガー、マグシー戦にも同行した彼女のことだからそのことは十分に理解していたに違いない。
そのため彼女は予めかつての仲間たちに接触し、貴族の地位か、高額な金銭か、或いは自身の美貌を用いて味方に引き入れたのだ。

その上で決闘の場所に自分を呼んだのだろう。自分がフレアによって誘惑されて道を外れた駆除人仲間も引き連れてくるということを見越して。
その上で、伏兵を張っていたのは自分を欺くためと内通している駆除人仲間たちの準備運動を兼ねてのことだろう。
誰かが知恵を出してのことか、はたまたフレア本人が自らの頭で考え抜いたことかはわからないが、なんにせよカーラはいっぱい食わされてしまったということになる。

問題はこの先をどう切り抜けるかだ。カーラは針を構えながら裏切り者の駆除人が剣を構えながらこちらへと向かってくる姿が見えた。
目と鼻の先に迫った瞬間にカーラは針を突き出し、剣が当たるのを防いだ。
そして、その勢いのまま得物を進めていき、お互いにすれ違っていく。
しばらくの間、両者はすれ違った時の構えのまま動かなかった。

このまま永遠の時間が過ぎてしまうのかというほどの長い沈黙が続いた。
その沈黙を破ったのは他でもないフレアだ。フレアは唐突に令嬢として相応しい上品な笑みを浮かべながらカーラへと向き合う。

「ウフフ、あなたはこれで終わりだと思っているのでしょうけれど、違うわ。これが始まりなのよ」

納得がいく。これが小手調べということならば自分が怪我を負っていないことも納得だ。
フレアは意味深な笑みを浮かべ続けていた。その笑みの中に何が含まれているのかはカーラには不明だ。

だが、何らかの意図があって笑い続けているのだろう。
カーラが理解できずにいたところにゲイシーが躍り出た。
ゲイシーは二人の裏切り者を斬り伏せてカーラの前へと立ち塞がり、フレアの元へと向かっていく。

「退いて、ゲイシーさん」

フレアは二つの刃物を突き付けながら警告の言葉を発した。
だが、ゲイシーはフレアの言葉など無視して足を前へと進めていく。
その剣でフレアを一刀両断にするつもりだ。カーラの思いは当たっていた。ゲイシーにはフレアを叩き斬れるという自信があったのだ。

自身の剣にフレアは付いていけない。そんな思いがあったのだ。先ほど倒したフレアの私兵たちのような思い上がりが……。

ゲイシーが剣を両手で構えながらフレアを襲おうとしたのだが、フレアはその際にもう片方の剣を空中に放り投げたのである。突然のことに目を丸くするゲイシーであったが、それこそがフレアの狙いであった。
フレアはゲイシーが宙に向かって飛んでいった剣に夢中になっている隙を利用して、その胸元へと得物を突き立てのである。

ゲイシーは刃物が突き刺さったままであるにも関わらず、その場から退散しようとしていたが、空中から飛んできたもう一つのナイフがゲイシーの退却を阻んだ。
もう一つのナイフは宙の上から背中に突き刺さり、彼を転倒せしめたのであった。
フレアはゲイシーに突き刺さっていた刃物を抜くと、カーラに向かって得意げな顔を浮かべて言い放った。

「どう?これが私が新たに身に付けた暗殺術よ。手玉の術というらしいのよ」

手玉の術。聞いたことがある。ここから東の果てにおいて使われている暗殺術であり、二本の刃物をまるで遊戯に使う遊びの玉のように自由自在に扱うことから名付けられた技だ。
東の果てにある国でしか用いられないと聞いたが、どうして彼女が扱えるのだろうか。

カーラそのことについてもう少し長く考えていたかったが、真上から飛んでくる刃物を見て、慌てて背後へと下がっていく。どうやらそんなことを考えている暇はなかったらしい。
目の前には花に偽装した得物を振り回すフレアの姿が見えた。

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